魔族転身 ~俺は人間だけど救世主になったので魔王とその娘を救います! 鑑定・剥奪・リメイクの3つのスキルで!~

とら猫の尻尾

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第一幕 1場 出会い

第6話 た す け て

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「ワシはこの女を捕まえておくから、オマエさんはこの剣を構えていろ!」

 メガネの中年男ホルスが俺に短剣を渡してきた。農民の子である俺は剣なんて持ったことがないので戸惑うが、皆が頑張っているのに俺だけ無様な格好を晒すわけにはいかない。

 俺は短剣の切っ先を魔王の娘アリシアに向けて構えた。
 すると、彼女は口を僅かに動かして何かを言っている。
 良く聞き取れないが、首元のハリィが再びそわそわし始めている。

 祭壇がぐらっと揺れた。

 地震かと思ったが、すぐに収まる。

『我が娘に手を触れるな、愚かな人間どもよ!』

 地響きのようなうなり声とともに、その言葉が俺の脳に直接届いた。
 窓のない空間に風が起こり、ちりや埃が乱れ狂う。
 祭壇の奥、玉座から魔王が立ち上がっていた。

「ミュータス! 魔王軍の追撃部隊が攻めてきたぁぁぁ、援護を頼む――!」

 最悪のタイミングで、入口を守っていた小太りリックが叫んでいる。
 
 娘を人質にとられ怒り狂う魔王と、部屋に侵入して来る魔王軍追撃部隊の様子を交互に見て、俺は軽いパニック状態に陥った。

 しかし、そんな時でもミュータスさんは動じることなく――

「ジャン! リックの援護に行ってくれ!」
「了解! んじゃ、魔王の首をきっちり獲ってくれよな、リーダー!」

 落ち着いた口調で巨漢ジャンに指示を送った。
 ジャンは斧を右肩に担ぎ、左手には両刃剣を構え、階段を飛ぶような勢いで降りていった。
 ミュータスさんは振り向きもせず魔王に歩み寄る。それはジャンに対する全幅の信頼を意味している。

「魔王よ、お前にも娘を思う親心があるならば、抵抗するな!」

『なに!?』

 再び空気が振動する。脳に直接届く魔王の声。

「お前が大人しく私の剣にやられれば、娘の命までは奪わないと約束しよう」

 玉座の間のあらゆる物体が細かく振動し始める。
 魔王が歯ぎしりをしているのだ。
 耳が痛い。

 そのとき――

「お父様! 人間の言うことは嘘ばかり。そのような提案を受けては――うッ!」
「やかましい、静かにしないか!」

 ホルスはアリシアを縛っている縄をさらにぎゅっと締め上げる。
 アリシアは苦しい表情を見せるが、次の瞬間、ホルスの腕に噛み付いた。

「いてててててて、放しやがれ! この雌ブタがぁぁぁーッ!!」

 ホルスはもう一方の腕を大きく振り上げ、アリシアの頭頂部に生えた2本の角の間を拳でガツンと力一杯に殴った。

「がは――ッ!!」

 アリシアは口を開けたまま項垂れた。

『分かった! それ以上娘に指一本触れるではないぞ!』

 轟音とともに、魔王の意志が俺らの頭に届いた。
 魔王は玉座に座り、目を閉じる。

「魔族は皆殺しにするに決まってるじゃん。リーダーも調子良いこというぜ……」

 ホルスは笑った。

 ミュータスさんは振り返ることなく左手の拳を小さく上げ、合図を送ってきた。
 それはホルスに向けての『よくやったぞ』の合図。

 背後からでも分かる。

 ミュータスさんは今――わらっている――



 祭壇の下では、巨漢じゃんと小太り体型のリックが、魔王軍の追撃部隊を次々に倒している。そして、ミュータスさんは魔王まであと数歩の距離。魔王は娘のアリシアを人質にとられて大人しく目を閉じたままだ。

 ミュータスさんが聖剣を振り上げる。

 ああ……これで長く続いた人類対魔王軍の戦いに終止符が打たれるんだ。

 俺はこの歴史的瞬間に立ち会えて幸せだ。 

 その時――見なければ全てがうまくいったはずだった……

 けれど……俺は見てしまったんだ。

 魔王の娘アリシアの目からぽろぽろと涙があふれている。
 それは頬を伝わり、アゴにたまり、床にぽたぽたと落ちている。

 俺は目をこすり、頭を振る。

 こいつは魔族。
 人間じゃない。
 要らない存在――
 
 アリシアはゆっくり俺の方を見上げる。

 や、やめろ……

 見るんじゃない……

 しかし、アリシアの群青色の瞳は――

 俺に向けられている。
 ハリィにではなく、俺にだ。

 やがてピンク色の唇がゆっくりと動く――




『 た ・ す ・ け ・ て 』




 その瞬間。



 張り詰めていた俺の心から何かが弾け跳んだ気がした――
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