魔族転身 ~俺は人間だけど救世主になったので魔王とその娘を救います! 鑑定・剥奪・リメイクの3つのスキルで!~

とら猫の尻尾

文字の大きさ
11 / 56
第一幕 2場 別離と決意

第11話 もう一つの方法

しおりを挟む
 次に目を覚ました時には、玉座の間の祭壇上には魔王とアリシア、バラチン、そして黒装束の男達の他に、鼻の長い魔人だけが残っていた。

「長年医療に携わってはおりますが、人間の治療をしたのは今回が初めてですゾウ。貴重な体験をしましたゾウ」

 長い鼻の魔人は顔が異様に大きく首は見えない。大きな耳をぱたぱたさせて興奮気味に話しかけてきた。うん、この人はあれだ……父が残してくれた異世界動物図鑑で何度も眺めていた象に似ている。不思議なことに魔獣や魔人は異世界の動物をモチーフに創られていることが多いのだ。

「さすがは魔王軍一の名医エレファンね! 人間を初見で治療できるなんて素敵なことだわ。後で報奨金を振り込んでおくからねっ!」

 アリシアがエレファンの毛の生えていない頭に手を置くと、大きな耳を更に激しくぱたぱたさせて、長い鼻を上に向けて霧状のものを吹き出した。
 まるでクシャミが降りかかったような感じで気持ち悪い。顔に付いた鼻水のような水滴を袖で拭いている俺を見て、アリシアが楽しそうに笑っている。

「それは消毒ですゾウ。治療のアフターサービスですゾウ」
「これが消毒? 鼻水が?」
「エレファンの言うことは間違い無いわ! 良かったわねユーマ」

 何が良かったのかは分からないけれど……自分の体のあちこちを触ってみるとあながち嘘ではないようだ。バラチンとの決闘で傷付いていた体中の傷がすっかり良くなっていた。 


 *****

「さて、ユーマよ。此度の一件は魔族の王として褒美を与えるに相応しい活躍と考えておるのだが――」

 俺はアリシアの指示で魔王の前に片膝を付いて、右手を胸に当てて視線を落としている。彼女曰く、これは魔族の王に対する敬服の姿勢らしい。

「お前は所詮人間だ。今すぐ城から出て行くが良い。我が領土より出るまでは魔王軍はお前を襲わない。それが儂からお前に与える褒美と心得よ」
「はあーっ!?」
「お、お父様、それでは話が違いすぎます! ユーマは……この人間はアタシが悪魔ルルシェに願って召喚された救世主なのですよ?」
「お嬢様、魔王をあまり困らせるものではありません。所詮人間ごときを殺さず逃がしてやるということ自体が魔王の温情なのであります故に――」

 執事服のバラチンは、蔑むような目で俺を睨んでいる。くそっ!

 それにしても、戦闘時の魔王は玉座の間を振るわすほどの轟音と共に言葉を発していたけれど、平常時は普通にしゃべることができるらしい。顔は強面で、身長は4メートルを超える巨体の迫力は相変わらずではあるが。その魔王が俺を魔王城から逃がしてくれようとしているらしい。

「しかし……お父様がご病気なことは人間に知られてしまいました。近々、人間の総攻撃が予想されます。そうなると魔王城は陥落、お父様は人間に殺されてしまいます……」

 うん。確かにアリシアはミュータスさん達が玉座の間に攻め入った直後に、魔王の病気のことをしゃべっていた。

「だからこそ、ユーマの救世主としての力が必要なのです。アタシの魔力とユーマの魔力を掛け合わせた特殊スキルによって――」
「ちょ、ちょっと待って! 俺には魔力なんてないから!」
「……へ!?」
「俺はただの農民の子。生まれつき魔力なんて存在しないし、武器の扱い方だって何にも知らない」
「……だって、あなたは悪魔ルルシェに救世主として選ばれた人。確かにアタシも魔人ではなく人間であるあなたを見た時には驚いたけれど……それも悪魔ルルシェの見立てに間違いはないはずよ? それをあなたは……ユーマは自ら否定するというの?」

 アリシアは悲しそうな目で俺を見つめている。魔力の源である角を差し出して手に入れた救世主という存在。それが人間の俺と知った時の彼女の落胆は相当のものだっただろう。それを彼女は乗り越え、俺に期待をかけている……ということか。

 でも……

「我が魔王よ、お嬢様は苦しんでおられます。それもこれも、すべてはこの人間が元凶故に……苦しみの元はすぐに取り除いてしまいましょうぞ!」
「これ以上はユーマに手出しはさせませんよ、バラチン!」

 アリシアがバラチンから庇う位置に立った。
 後ろ手に三日月型に湾曲した片手剣を隠して。

「待て!」

 魔王が手の平を向けて制止した。

「さてユーマよ、お前はどうする? 返答次第ではこの場でお前の首を落とすことになるのだが――」
「待ってお父様! 先程の討議で提案された方法がもう一つあったはずですが」
「いや、それは……その……アリシア……」

 俺が気絶している間に何か話し合いがもたれていたらしい。
 俺の首を落とすとか物騒なことを言い始めた魔王の気勢が、アリシアの一言でがれていく。

「ユーマ、アタシはあなたを手放したくはないの!」

 なぜかアリシアはうつむき加減で俺の前に立つ。
 そして、俺の手をぎゅっと握った。

「アタシたち、結婚しましょう!」

 アリシアは真剣な表情で、俺にそう言った。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...