魔族転身 ~俺は人間だけど救世主になったので魔王とその娘を救います! 鑑定・剥奪・リメイクの3つのスキルで!~

とら猫の尻尾

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第二幕 6場 悪魔と魔族の事情

第40話 安物だけれど

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 俺はまだルルシェに訊きたいことが沢山ある。
 しかし、彼女は急に疲れたような表情に変わり――

「メイビス、我の依り代を運んで来るのじゃ!」

 そう言った途端に、力が抜けたように俺の膝にもたれ掛かってきた。
 俺は彼女の体を支えてやろうとしたが、その手はピシャリと弾かれた。

「おまえは我の心配などしなくて良いのじゃ! 我は元気じゃ!」

「ルルシェ様、どうぞ依り代でございますっ!」

 女占い師メイビスが両手で丁重にハリィネズミの体を運んできた。
 それをルルシェの脇にそっと置く。

「この姿を維持するのは大変なのじゃ。だから、この依り代が必要となる」

 そう言いながら、ルルシェはハリィの体にすうっと吸い込まれるように入っていった。

「げんきげんきー」

 いつものハリィの声。
 聞き比べてみれば、確かに同じ声質だった。
 
「あ、あの……ルルシェ様……私はどのような処分を下されるのでしょうか」

 メイビスが恐る恐るという感じでハリィに声をかけている。
 もはや俺に術をかけていたときの威厳は微塵も感じられない。
 それにしても――

「メイビスは何者なんだ? 悪魔ルルシェのことをなぜ知っていた?」

「はっ、申し遅れました! この度はユーマ様のお立場・・・を知らずに数々の無礼お許し下さい。私、占い師メイビスとは人間界での仮の姿。本当はサキュバスのメイビスでございます。以後お見知りおきを――」

「サ、サキュバスぅぅぅ――!?」
 
 サキュバスとは寝ている男のみだらな行為をして男が死ぬまで精液を吸い尽くす女の悪魔――

「い、いえ……ユーマ様が考えているようなすごいことはしないですから!」

 あれ? なんか俺、顔に出ていた?
 それにしても……

「サキュバスがどうして警備隊に捕まっているんだ? 悪魔なんだろ? 本気を出せばいくら警備隊でも簡単にやっつけられるだろう?」

「これが私のお仕事なんです。留置所にくる犯罪者の記憶を探って真実を洗いざらい白状させる。けっこう良い稼ぎになるんです!」

 と、自慢げに話すメイビス。

「悪魔がお金を稼いでどうするんだ?」

「私の稼ぎはすべて魔王城に仕送りしているのです!」

 ……。

 サキュバスが人間界で稼いだお金は魔王城に送られ、それを魔王の娘アリシアが浪費している……と言うことか? 人間社会の階級制度では考えられないことだ。魔王と悪魔の上下関係はどうなっているんだろうか。なんか気の毒になってきたな。 

 そのとき、ドアの鍵がガチャリと開く音がした。

「おいメイビス、さっきから監視カメラの映像が止まっているのだが、おまえまたやり過ぎて男を再起不能にしたりするんじゃないぞ?」

 警備隊員が呑気な感じで入ってきた。そして俺と目が合うと、不思議そうに首を傾げたと思ったらその場に倒れ込んだ。

「ユーマ様、後のことはこのメイビスに任せてどうぞお帰りください。この男には夜通しかけて良い夢を見せてやりますので!」

 メイビスはじゅるりとよだれを垂らし、濃艶な顔つきになっている。
 俺はごくりと生唾を飲み込んだ。

「いてっ!」

 俺の顔面にハリィが体当たりしてきた。


 *****


「ユーマ殿……突然姿を消し、ようやく戻ってきたと思ったらすぐに出発とは、落ち着きがなさ過ぎるのではござらんか?」
「お兄様の言うとおりです。カリンもそう思います!」
「ユーキちゃま、フォクスは心配していましたですよ?」
「フォクスは嘘つきなのです。ベッドですやすやと寝息をたてていたのです」
「ふにゃーっ!」
「何ですか? やるのですか?」

 馬車の中がやけに騒がしい。
 まだ夜明け前。
 俺たちの馬車は交易都市マリームに架かる大きなゲートをくぐる。

「さあ、いよいよユーマの生まれ故郷、カルール村ね。アタシ、結構楽しみにしていたのよねー、ふわぁ……」

 俺の隣に座っているアリシアがあくびをしながら言った。

 俺がハリィと共に警備隊の留置所の抜け出たとき――
 アリシアは建物の外で待っていた。唯一ハリィの正体が悪魔ルルシェであることを知っていた彼女は、ハリィと共に俺の居場所を突き止め、ずっと待っていたらしい。6時間ぐらい……

「なーんにもない小さな村だぞ? 期待してもなーんにないからな!」
「いいの。ユーマのお母様にいろいろと訊きたいことがあるのだから」
『ボクもたのしみー』

 この声は首飾りに擬態したハリィ。
 その正体が悪魔ルルシェであることは俺とアリシアしか知らない。

「あっ、そうだ……ほら、これ……」

 俺は雑貨店で買ってきた紙袋をアリシアに渡した。
 
「なになに、アリシアお嬢様、何をいただいたのですか?」

 後ろで騒いでいたカリンとフォクスが目ざとく勘付いて近寄ってきた。

 アリシアが紙袋を開き、手のひらに乗せたそれは、木彫りのブローチ。母への贈り物を買った雑貨屋で偶然に見つけたそれは、何となくハリィネズミに似た動物の柄が彫られている。

「これを……アタシに?」
「安物で悪いけど、良かったら使ってくれ!」

 実際、1万ギルスで買い物をした残金で買ったものだから、アリシアに突き返されても仕方がないレベルの品物だ。
 
 しかし、メイビスのように日々魔族のために働いて魔王城へ仕送りしている者たちの存在を知った今となっては、この機会に金の価値について説教の一つでもしてやろう。

 そう考えて俺は身構えていたのだが……

「ありがとう……大切に使うわ!」

 アリシアはとても嬉しそうに笑っていた。
 カリンとフォクスも『いいなー、いいなー』と二人して声をかけている。

 いや、だから……それ、安物なんだよ?
 
 なぜか悪いことをしたような気分になる俺だった。
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