魔族転身 ~俺は人間だけど救世主になったので魔王とその娘を救います! 鑑定・剥奪・リメイクの3つのスキルで!~

とら猫の尻尾

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第二幕 6場 悪魔と魔族の事情

第39話 ハリィの正体

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 ナイフの切っ先は石畳の路面に火花を散らした。
 キッカの頭を擦るようにナイフの軌道は逸れていた。
 
『どうした? 最後の一人、やらぬのか?』

 悪魔の声。

 俺は……
 何をしている?

『今さら最後の一人を見逃して何になるのじゃ。それ、やれっ!』

 今さら……? 
 最後の一人……?

 振り向くと薄暗く狭い路地に転がる死体。
 路面に飛び散る赤い液体。
 
 突然の吐き気に襲われる。
 俺は反射的にキッカを離し、路面にうつぶして嘔吐する。

『あーあ、逃げられちゃった。あれはおまえが一番殺したかった子じゃないのかい?』

 俺が殺したかった?
 俺はそこまでは望んでいなかったぞ!

『いや、これはおまえの意志じゃ。おまえは自分の富を搾取され怒った。怒りの感情の行き着く先は殺意じゃ。だから我の力を手にしたおまえは殺すことを望んだのじゃ』

 俺は――
 人を殺してしまった。

 自らの意志で――
 人を殺した。

 恐怖と絶望と失望と悲しみと。
 様々な感情が土石流の如く俺の心に流れ込んでくる。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁ――――!!」


 俺は血糊の付いた手で耳を覆い、天に向かって慟哭した。
 
『あんた、面白いわね!』

 それでも悪魔の声は俺に届いている。

『我の声が聞こえるけれど、我の思い通りには動かない。うふふ……面白い、面白いわ! おまえに決めた。おまえをあの子の元に送り届けよう!』

 いやだいやだいやだ。
 何も聞きたくない。
 何も考えたくはない。

『でもその前に、おまえの記憶を封印するよ。このままではおまえは壊れてしまいそうだからね……』

 やめろ。
 やめてくれ!
 もうこれ以上俺に関わらないでくれ!

『おや……何なのこの子? 我よりも先に封印された記憶があるではないか。……いや、しかし、そんなはずは……』

 悪魔の様子もおかしくなってきた。
 
『えーい! 全てひっくるめて封印してやるわよぉぉぉーッ!!』

 ――やるわよぉぉぉー

 ――わよぉぉぉー


 ――ぉぉぉー


 ――

 声の残響に重なってガラスが割れる音がした。
 俺は目を開ける。
 二段ベッドの上段と同じ高さにある小さな高窓。
 視界がまだぼやけている。
 目を凝らして見ると、そこにハリィネズミがいた。

「はい、そこまでよっ!」

 ハリィが言った。
 いや、ちがう。この声は……

「ルルシェさま!? ななな、なぜあなたがここに?」

 俺よりも先に反応したのは女占い師メイビスだった。
 それも酷く慌てた様子で。

「なぜハリィから悪魔ルルシェの声が?」

 俺は上体を起こしながら声を上げた。
 メイビスによる体の拘束はすでに解かれていた

 次の瞬間、衝撃的な光景を目にする。
 ハリィの体が高窓からぽたりと床に落下したのだ。
 ぐてっと横たわり、黒い小さな目は開かれたまま動く気配がない。

「ハリィが死んだぁぁぁー!?」
「ええい、うるさい! あれは単なる依り代じゃ。我はここにおる!」

 頭をぽかりと叩かれた。
 見上げると黒い翼を生やした小さな妖精の姿が――

「そ、その声はあのときの悪魔か? お前は悪魔ルルシェだったのか!」 
「おまえが我をおまえと呼ぶな、この人間風情がっ! いや、もうおまえは我と契約を結んだから我が子なんじゃがな……」

 俺の目の前で羽ばたきながら腕を組んで考え込む悪魔ルルシェ。黒いエナメル質のコスチュームを着ている彼女は、手の平に乗りそうなぐらいの小さな女の子の姿をしている。つり気味の大きな目で鼻筋が通った美人顔だ。

 魔王城の俺の部屋で、アリシアと妖精らしきものが話している所を見たことがある。あれは目の錯覚ではなかったということか。と言うことは、アリシアはハリィの正体が悪魔ルルシェであることを知っていたんだ。

「それにしても――」

 ルルシェは怖い顔でメイビスの方を向く。

「メイビス! あなた何てことをしてくれたの!」
「ひぃぃぃ――、申し訳ありませんルルシェ様ぁぁぁ……」

 メイビスは部屋の隅に逃げるように走り、床に両手を付いて頭を下げた。

「我の封印を勝手に解いて、この子に何かあったら魔族の未来は閉ざされたかも知れないのよっ!」
「ははーっ、知らなかったこととは言え、申し訳ありません!」

 俺には話の流れが分からない。
 そんな俺の気持ちを察してか、ルルシェが――

「ユーマ、今の気分はどうじゃ? おまえにとっては封印せねば壊れてしまうほどの過去の記憶。それがこの愚か者の手により解かれてしまったのじゃが……」

 ルルシェはメイビスを一瞥し、ゆっくりとベッドの上に舞い降りる。
 その赤い大きなつり目は俺をまっすぐに見上げている。
 悪魔ルルシェは、俺のことを心配しているようだ。

「一つ聞きたいことがある――」
「ん!? なんじゃ?」

 ルルシェは首を傾げた。

「あの時、俺がキッカを殺さずに逃がしてしまったことで、お前は俺に失望したか?」

 すると、ルルシェは両手を広げて首を振る。

「我が失望したかだと? するわけがなかろう。我は殺戮の道具としておまえを使うつもりだったのじゃが……おまえは我の想像を一段階超えていったのじゃ。おまえは自我を取り戻し、殺さない道を選択した」

「俺が……選択した……」

「そう。おまえの選択じゃ!」

 ルルシェは目を細めて笑った。
 その表情が俺の目にはアリシアの笑顔と重なって見えていた。

「しかし……やはりキッカを逃がしたのは失敗だった。そのせいで俺はここに連行されてしまったのだから!」
「ぷっ!」

 ルルシェは吹き出した。

「ウソを吐くな! そんなことはおもってもないじゃろっ! 嘘つきは悪魔に連れて行かれるそうじゃぞ?」
「もう連れていかれただろう!」
 
 俺と悪魔がにやりと笑う様子を見て、メイビスは呆気にとられていた。
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