魔族転身 ~俺は人間だけど救世主になったので魔王とその娘を救います! 鑑定・剥奪・リメイクの3つのスキルで!~

とら猫の尻尾

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第三幕 7場 カルール村の長い夜

第48話 さようなら。

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「子はいつかは親元から離れていく……それは分かっていたことなのに……」

 母さんは俺のおでこにキスをした。

「ユーマはもしかしたらずっとお母さんのそばにいてくれるかな……なんて」

 母さんは俺をそっと抱きしめた。
 まるでこれが最後とでも言うような雰囲気で……

「ユーマ……あなたのお友だちを返すわ……」

 そう寂しそうな声でつぶやいて、右手で大きく円を描いた。
 すると、地面に光の輪が出現。
 仲間たちの輪郭が浮かび上がり、やがて実体化していった。

「アリシア無事か?」

 俺はアリシアに駆け寄る。
 彼女は自分の体のあちこちを触り、

「ユ、ユーマ!? アタシ戻って来れたのね」
「今までどこへ行っていたんだ?」
「えっと……何もない……光の空間に……」

 それが母さんの言っていた異次元の空間ということだろうか。

「お兄様ぁぁぁ――ッ」
「カ、カリン――」

 カルバス兄妹も無事のようだ。

「ユーマさま……」

 背後から俺は抱きつかれた。
 俺は焦って振り向く。
 そこにいたのはフォクス……ではなく見知らぬ獣耳メイド。
 茶色くて大きな獣耳にフサフサした尻尾。
 見た目は確かにフォクスなのだが抱きつかれてすぐに分かった違和感。
 フォクスの背丈を伸ばして、胸を巨大化させたような……

「フォクス……か?」
「そうです、フォクスです! もうお会いできないかと思いましたぁぁぁー!」
「うわっ、ちょっ、ちょっと待て! 獣耳族は成長が早いとは聞いていたけれど、いくら何でも早すぎだろう?」
 
 耳をぺたんと寝かせて前から抱きつこうとしてきたので慌てて手で制す。
 その手がフォクスのおでこに当たって『あうっ』と言わせてしまう。
 
「魔導士部隊からの攻撃を察知した瞬間、魔人たちを異次元の牢獄に送り込んでいたの。魔人の気配が消えれば攻撃も止むと思ったから……」

 母さんが夜空を見上げながら人ごとのように言った。
 しかし霧が濃いので星も月も見えないはずだ。

「異次元の……牢獄!?」
 
「そこに入っているとね、時間がどんどん加速して、中の生物を早く滅することができるのよ。あっ、でも安心して! まだ初期の段階でこの子達は出てきたから、ほんの2ヶ月ほど年をとったぐらいだから!」

「2ヶ月も入っていたのか!? 何もない空間に?」

 俺は息子として母の不始末に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
 身長が伸びたせいでぱんぱんになったメイド服姿のフォクス。
 胸のボタンがはち切れんばかりに伸びきっている。

「お帰り、フォクス」

 フォクスの頭を撫でると、彼女はフサフサの尻尾をピンの伸ばした。

『ユーマ、この白い霧を何とかしないとー』 
 
 ハリィの声。
 やはりこの霧は魔導士部隊の仕業なのか。
 魔族の力を吸い取るという魔法の霧。

「ユーマ! 索敵魔法よ。アタシたちの存在を感知されたみたい!」 
 
 アリシアが叫んだ。
 次の攻撃が来るに違いない。

「【雷神召喚】!」

 俺は呪文を叫んで右手を天にかざす。
 白い霧に覆われた闇夜を覆い尽くす黒雲。
 青い閃光。
 漆黒の闇の中から雷鳴が轟く。

 霧が渦を巻き、その中心部から黒雲が垣間見える。
 青い閃光。
 雷鳴が轟く。
 回転する黒雲の中心部が開き、巨大な赤い瞳の目が見下ろしている。

「雷神! この忌まわしい白い霧を振り払え!」

 俺は雷神に命令した。

 直後に耳をつんざく衝撃波。
 舞い上がる土埃。

「母さん、バリアを張ってくれ!」

 母さんのバリアは俺達全員を覆った。

 次の瞬間、青い稲妻が空中に乱舞する。
 激しくかき乱された空気は霧を消滅させていく。

 雷神が去った夜空に星明かりが戻っていた。
 
 しかし、星空を見上げて感傷にしたる時間はなかった。魔王の娘を狙った王立魔導士部隊による遠隔攻撃、赤い閃光が北北西の方角から迫っていたのだ。

 赤い閃光は、遥か上空で弧を描きこちらへ進路を変えた。

「母さん、やはり俺の魔力の封印は解いてはくれないのか?」
「ごめんなさい。今はまだ……解けないし、話すことも……」

 母さんは目を逸らし、辛そうな表情を見せた。
 その額には汗がにじんでいる。
 魔法を自由に操れるエルフとはいえ、連続のバリアは魔力の消費が激しいのか。

「分かった いつか、その時がきたらちゃんと話してくれよな!」
「ええ、その時がくれば必ず……」

 母さんはそう言って、両手を上げた。
 俺はその手を下げさせる。

「えっ……?」

 きょとんとした表情で俺を見る母さんは、あどけない少女のようだ。

「【鎖創造】!」

 振り上げた手の指から無数の鎖が出現する。
 それらはドーム型に俺達のいる場所を取り囲み――

「【リメイク】! 鎖創造のスキルとエルフのバリアを併せた新しい術――【鉄壁のドーム】!」

 鎖が緑色に輝き、完全防御のバリアが完成した。
 魔導士部隊による破壊エネルギーはバリアによりすべて弾き返されていく。

「ユーマ、あなた魔法が使えるの!?」

 驚く母さん。

「お母様、ユーマにはアタシの魔力のすべてを譲りました。そして悪魔ルルシェ様によって魔族の救世主になってくれたんです」
「魔族の救世主ですって!?」
「母さんのバリアの魔法も【剥奪】させてもらったよ」
「は、剥奪!? 本当に?」

 母さんは慌てて両手を上げてバリアを形成させた。
 見事に緑色のバリアが構築された。
 あれ?

『ユーマ、エルフの魔法は特殊スキルではないから効かないよー』

 え? そうなの?
 じゃあ……

「ユーマはお母様の魔法を見て、見よう見まねで習得したのね。素敵なことだわ!」

 アリシアが俺の正面に来て、両手を握った。
 俺は……アリシアに褒められると何でもできるような気になってくる。

「アリシア、敵の部隊は北北西の方角にいる。向こうだ!」

 俺はその方角を指さす。
 その指の先には教会の塔が見える。
 
「跳ぶのは久しぶりね! ユーマ、アタシの手を離さないでよ!」

「じゃあ、母さん……行ってきます!」

「そう。もう行ってしまうのね。タロスに合ったらよろしく言っておいて――」





 遙か上空から見下ろす村の風景は――
 家々の明かりもまばらで、ほとんど何も見えなかった。




 母さんの言葉は本気なのか冗談なのか、時々判断に迷うんだ。




 ――さようなら、母さん。




 
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