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第三幕 8場 目覚めの刻(最終場)

第51話 葛藤

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「きたぞきたぞきだぞぉー、そしてもっとだぁー! 命の最後の一滴まで吾輩によこすのだぁぁぁ――」

 隊長がそう叫ぶと白いローブが青白く輝き始める。
 人の生体エネルギーを魔力に変換する能力ちからで吸い上げているのだ。

 そんなめちゃくちゃなことがあって良いはずがない。
 すなわち奴は――
 『召喚されし者』だ!

 3人組は悲鳴を上げた。
 
 バリアの内側で傍観していたはずの俺は――
 その刹那、彼らに向けて鎖を伸ばしていた。
 巻き付いた鎖により魔法が解かれて3人組は地面に転がる。 

 3人組に駆け寄り鎖を解くと、辛うじて意識はあるようだ。
 リックが薄目を開けて、
 
「ユ……ユーマか……? おまえ……魔族の手下に……ついたのか?」
「すまん。俺は魔族の救世主として呼ばれたんだ」
「おまえが救世主……だって? ははっ……笑わせる……な……」

 そう言って気を失った。

「ぬぬっ! 貴様はよく見ると人間ではないか。なぜ魔族側にいた? そうか、魔族に騙されていたのであるな!? 貴様は吾輩と同じ匂いがする。『召喚されし者』であろう。その能力ちからを我が王国のために使うのだ。さあ、共にあの忌まわしき魔王の娘をたおそうではないか! ガハハハ……」

 隊長はアリシアに向けて杖を向ける。
 アリシアは生き残りの魔導士たちによる波状攻撃を受けていた。
 彼女は立体的で俊敏な動きでそれをかわしている。
 しかし間合いを詰められない状態が続く限り彼女に勝機はない。

「俺にはあんたの方が忌まわしき存在に見えるがな……」

「……なにぃー?」

 隊長はジロリと俺を見る。

「民間人を危険にさらすだけでは飽き足らず、命を奪おうとするあんたは、魔族以下だと言っている。魔族の連中は俺ら人間が思っているような忌むべき存在ではないぞ!」

 これは多くの魔人と関わってきた俺の本心。
 魔人たちは俺たち人間よりもずっと純情できれいな心をもっている。

「そうか、貴様は魔族に毒されて正気ではなくなっているな? ならば貴様が先に死ぬがいい!」

 俺に杖を向ける魔導士部隊の隊長。
 先端から赤い光が放出されるその寸前――
 黒い影が横切って隊長の杖の向きがずれた。

「助太刀するでござる――」

 カルバスの声。
 赤い光の衝撃波は俺から僅かに逸れ、俺は間合いを詰めていく。

「【魔剣ユーマ】ァァァ――!」 

 両手に力がみなぎり、剣が生成されていく――

『ユーマだめだ、逃げてー』

 ハリィの声。
 ハリィは戦闘中に喋ることはほとんどない。
 その彼が俺に指示を出した。
 つまりこれは――

「カルバス、退却だぁぁぁ――!」

「遅いわ!」

 隊長の紫色の唇が歪み――
 体中から赤い光を放射された。

 俺は3人組の上に被さり、【鉄壁のドーム】を発動させた。

 ゼロ距離の破壊エネルギーは強烈だ。
 バリアの中にいる俺たちの体に衝撃が襲いかかる。
 息を吹き返したジョンとリッキー俺にすがり付いてくる。

「ユーマごめんよ、僕が悪かった。だから助けて」
「ユーマ、意地悪をしたことは謝るからオレを助けてくれェー」
 
 震える体で懇願する2人。

 俺は魔族の仲間になった。
 俺は魔族の救世主になったんだ。
 お前らのことなんか……
 もう構わないと決めたのに……
 この状況は一体……

 何なんだ?
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