54 / 56
第三幕 8場 目覚めの刻(最終場)
第54話 口づけ
しおりを挟む「なに?」
タロス兄貴はアリシアを見下ろし、眉根を上げた。
「アタシはルルシェ様から全てを聞いたわ。ユーマは……あんたの仲間の魔力を吸い取る力を『剥奪』して自分のものにした。でも、ユーマは……他人の魔力を吸い取ることを拒んだ。そして自らの生命の源を魔力に変えて戦ったの……」
「なるほど……その結果がこれか。甘いな。出来損ないの考えそうなことだ」
「そうかもしれない。戦士としてはどうしようもなくダメダメな選択……。でも……アタシは好き。こんなに弱くても仲間のために……魔族のために……アタシのために戦って、自らの命を簡単に投げ出そうとする、そんな弱くて弱くて弱くて、どうしようもないユーマが大、大、大、大好き――」
アリシアは俺に抱きついた。
「だから、お願いだから、アタシの生命の源を受けとってよ! ユーマ!」
「フォクスのも受けとってください、お願いです、ユーマさま……」
フォクスも俺の背中から抱きついた。
そこへカリンがふらつきながら戻ってきて、
「カリンの生命の源も差し上げます、好きなだけ吸い取ってください!」
「拙者のも使ってくれ。ユーマ殿は……魔族の救世主ゆえに……死ぬことは許さないのでござる」
カルバスが負傷した脇腹を押さえながら、膝をついて男泣きをしている。
タロス兄貴が見上げる。
俺と目が合った――ような気がした。
俺は一瞬戸惑ったが、兄貴の顔は無表情。
彼はただ夜空を見上げただけなのだろう。
『どうじゃユーマよ。これでもおまえは死を選ぶか?』
悪魔の声。
ルルシェは俺の魂とも直接会話すことができるのか。
『我は悪魔じゃ! 死者とも話ができるが……おまえはまだ死んでおらんぞ』
死んでいない?
だって……魂が体から抜けているし……
『気のせいじゃ馬鹿者! しかし、生命の源が1パーセントを切っておる。もう一刻の猶予もない。この子らのエネルギーを吸い取って生きろ!』
……俺はアリシアの命を削ってまで生きたくはない。
それでは魔導士部隊の隊長と同じになってしまう。
『かぁー、相変わらずおまえは頭が硬すぎるのじゃ! まあ、そんなところが我も気に入ったのだがな。いいかよく聞け! おまえがあの子を想う気持ちと同じく、あの子はおまえを想っておるのじゃ。自分の命を賭けてでもおまえを……ユーマを助けたいと思っておるのじゃ! その気持ちも理解できないほどおまえは馬鹿者なのか? そんな分からず屋は本当に死んじゃえ――ッ』
ルルシェの叫び声が耳に響いた。
その残響が俺の頭の中に何度も何度も浮かんできた。
錯覚ではない。
指が……ぴくりと動く。
全身の感覚が少しずつ戻ってきている。
俺は――
生きていて良いのか?
仲間の生体エネルギーを吸収して――
生き延びて良いのか?
その時、唇に何かが触れた。
暖かくてやわらかい、そして甘美な味わいのある……
心地よい感触。
ずっとこのままでいたい。
そう心の底から願った。
ゆっくり目を開けると、アリシアの顔がぼやけて見えた。
かたく瞑った彼女の左目のまつげが、俺の眉毛に触れてぴくりと振動した。
俺は思いっきり彼女を抱きしめる。
「うっ!?」
アリシアは驚いて唇を離そうとしたが、俺はそれを追いかけて再び唇を重ねる。
しばらく抵抗しようとしていた彼女の肩から力が抜けていくのが分かる。
しばらくしてから、アリシアの方から離れた。
ゼーゼー、ハーハーと苦しそう。
顔も真っ赤だ。
キスの時に息を止めていたのだろう。
「ユ、ユーマが強情だからアタシが強制的に生命力を注ぎ込んであげたんだからねッ。た、ただそれだけだからッ」
「そ、そうか。うん。分かっている」
アリシアにキスをされたと思って俺は舞い上がってしまっていたが、そういうことだったんだな。思い返せば、たしかにそんな感じがした。
「口伝えに生体エネルギーを受け渡しなんて話、聞いたことないのです……」
「カリン、この2人は照れ隠しの為に言っているに過ぎないのでござるよ。察してやるのでござる」
「お兄様こそカリンの気持ちを察してください――うわぁぁぁ……」
カリンはカルバスの胸を拳で叩きながら大泣きし始めた。
まるで小さな女の子が親に駄駄をこねているように。
カルバスは脇腹の怪我を抑えながら苦しそうだ。
なぜカリンは泣いているのだろう。
それに吊られるようにフォクスもオイオイと泣き出した。
女子の考えていることはよく分からないと思った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた
季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】
気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。
手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!?
傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。
罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚!
人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる