Alice in Murder Land

霧島火庵

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戸惑いの国の有栖

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  「あの......。」
有栖は狼狽《ろうばい》するあまり、明らかに怪しいその異国風の少女に声をかけようとするが、途中で理性が戻ってきた。胸の弁護士バッジ...ではなくて事務所のICカードを掴みながら、必死で今の状況を整理してみる。
  まずは所長の南雲さん。あれだけの血を流しているし、いくら血がまだ赤いと言ってももはや助かる望みなどないだろう。しかしわずかな可能性にかけて少しでも早く救急車を呼ばないと。次はあの女の子。彼女は外国人のようだが、一体何者だろうか?そしてなぜこんなところに?いや、疑問ばかりが膨らむがとりあえず後に回そう。二人の状況、そして創作で言うところの「密室」状態の事務所。ナチュラルに考えて、この少女が南雲さんを殺した可能性は高い。脈はあるようだし、起きたら何をしでかすか予測不能。最悪私が二人目の犠牲者になったりして。言葉も通じなさそうだし、110に電話する必要がありそう。
  と有栖はここまで瞬間に導き出した。ここまで気持ちを無理に落ち着かせたのは大学受験以来かな、なんて余裕を見せながら、早速2本の電話をかける。彼女のこの精神力、そして鋭い観察眼は、決して論理的能力に優れた訳ではない有栖のメインウェポンだ。
  一仕事を終えた有栖は再び所長を、しかし今度は体をかがめ、寄り添うように見る。まだかすかに感じる温もりは体温か、それとも気温かという疑問が湧き、そして唐突に涙が堰を切ったようにとめどなく湧いた。職業柄人並み以上に人の死に触れてきた自覚はあるが、やはり身近な人の突然の死は堪える。スーツが塩水でグシャグシャになるのも構わず泣き続けていると、まずはパトカーが、そして間髪を入れず今度は救急車がサイレンを鳴らしながら向かってきた。
  涙でメイクもボロボロだが、それでも残った力を振り絞って事務所から出て2台の車を呼ぶ。警官も救急隊員も駆けつけてきたので、中へと案内。彼らに軽い状況説明をした後は、後からきたもう一台のパトカーに乗って最寄りの警察署へ移動した。車内では運転手役の警察官が優しくいろいろと声をかけてくれたが、頭が真っ白になっていた有栖は生返事を返すばかりで会話の内容など一切理解していなかった。
  多少は気持ちも落ち着いたところで警察署に到着。第一発見者として、そして被害者の「知人」としての形式的な事情聴取が始まる。相手の刑事はどこかで見たことのあるいかつい顔の、いかにも「鬼刑事」っぽい中年男性だが、依然として混乱した頭ではぼんやりとした記憶しか浮かばない。
「はじめまして。私は新宿警察署の刑事をしている辻と申します。......って初めてではないね。覚えている、僕だよ僕!この前の恐喝事件の時の。そうか、亡くなったのは南雲さんか......。辛いかもしれないけれど、君の能力は知っているからね。要点を掴んだ説明をお願いするよ。」
そこからは覚えている限りの説明を始めた。事務所にいつ帰ってきて、発見した時の状況はどうで、そこからどんな行動をして、そうだそうだそもそもなんで出かけたのかの説明も。正直要点もクソもない酷い説明だったと思うが、辻さんは沈痛な面持ちかつ親身に聞いてくれる。それを見たらまた少し心が安らいだ。
「それじゃあこれで終わりだね。現場の捜査はまだまだ続くはずだし大変申し訳ないけれど、平穏な生活に戻れることを祈っているよ。何かあったらまたよろしくね。」
  有栖が警察署を出ると、空はもうオレンジに染まっていた。家路につくが、激動の1日で疲れ切った身体と精神ではもはや家に帰ることすらできない。近くのネットカフェに入るとそのままそこで眠りに就く......。
  翌朝、と言っても午前3時だが、に目を覚ますと、昨晩辻さんから入ったLINEの通知が目に入った。早速アプリを開いて確認すると、
「今日はお疲れ様、そしてありがとう。」
のメッセージ、そして
「要件がある。被疑者の女の子が君との面会を求めているんだが、応じる気はない?あるなら明日の正午にもう一度警察署にきてほしい」
のメッセージ。
  
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