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第1話 転生者カナデと女神フェアリナの憂鬱
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「どうしてだ……」
息を吐くように心から漏れる声。汗と共に身体から滲み出る焦燥感。
一体、何体の敵を倒したのだろう。どれだけの経験値を手に入れたのだろう。しかし、どんなに大量の討伐報酬を得ようとも、かつて高校生男子であったカナデのキャラクターレベルは、一向に上がる気配がなかった。
「なあ、どうして上がらないんだ?」
緑が生い茂った広い草原の中、黒いツンツン頭のカナデは、鉈を振り回しながら目の前を闊歩する猫型の妖精ケット・シーに問いかける。だが、彼らが答えてくれることはない。
赤い帽子に瞳孔の開いた黄色い眼で、左右の均整のとれた彫の深い顔つきのカナデを見つめ、怪しくギギギギと擬音を発し、橡の木から溢れた樹液のように、だらりと涎を垂らすだけだった。
――まだレベル1のままだぞ?
もちろん、初期レベルだからという理由で、カナデはピクシーやスライム、ケット・シーなどの最弱と呼ばれるモンスターしか相手にしていない。他にも、武器や防具などの装備が所謂初期装備というやつで、木製のナイフに布の服だけだったからという理由もあった。
それでも、どんなRPGであっても、レベル1で始まり、数体から数十体のモンスターを倒せば、容易にレベルアップすることが出来るのが、プレイヤーを楽しませるゲーム性というものだ。
だけれど、カナデが自らの死と引き換えに転生したこの異世界セレスティアラは、夢にまで見たような理想的な生活とは程遠く、挫折と頓挫と絶望へと追いやられた暗澹たる世界だった。
「これじゃあ……」
カナデの腕に力が入る。
「魔法大学はおろか、魔法学校にも入れないじゃないか!」
苛立ちから虚空を切る拳。強烈な風がカナデの周囲を包むが、何一つ満たされることはなく、後に残されたのは、ただ言いようのない空しさだけだった。
伝説の武器も持たない。超絶魔法も使えない。カナデがこの世界で使用出来るのはまだ五体のみ。セレスティアラで地位や名声を得ようとするならば、高難度の魔法の取得は絶対だという。
何故なら、扱える魔法のレベルや魔力の総量によって、世界の序列が決まっている。そして現在、未だレベルの上がっていない彼の順位は、1クラス1。その中でも最底辺のレベル1である。
数字が上になるほど腕が認められ、上位クラスになれば、土地や爵位まで与えられる幸せな生活が保障されているというのに、カナデが属するのは、ワールドカースト最底辺というわけだ。
――本当にどうしてなんだ。
転生するにあたって、何か異常な点がなかったかカナデは思い出そうとする。
――ああ。
よくよく思い出せば、心当たりがあった。そう、おかしな点があったとすれば、異世界転生前のあの忌々しい女との賭けで、およそ運という運を全て使い切ってしまったことだ。だからこそ、今カナデは不幸のどん底に叩き落とされているのだろう。でなければ、レベルなんてすぐに上がって、俺TUEEEが出来たはずなのだから。
「それもこれもあの駄女神のせいだ」
――女神フェアリナ。
透明感のある薄ピンク色の可愛らしいお団子ロングの髪、半月の目に浮かぶルビーのように赤い瞳、そして艶々と潤い下がぷっくり膨らんだ唇で、カナデの未来を決定しようとした女。妖精のような名前や、肌が透き通るほど白く可愛らしい外見とは相反して、中身はどす黒い悪魔のような女だ。いや、彼女が女であるかさえ、怪しいものだ。
「あの悪魔め」
「誰が悪魔よ?!」
噂をすれば、突然、何もない空間から、次元に割れ目を作って女神が飛び出してくる。彼女は薄ピンク色の髪を振り乱し、息を切らしたように、「ハアハア」と声にならない声を漏らしている。おそらく、ただカナデに文句を言うためだけに、慌てて彼女の世界から瞬間移動をしてきたのだろう。
「それに悪魔じゃなくて言うなら小悪魔だし、そもそも私は本物の女よ、女の神よ? 女神様なのよ? ねえ、ねえってば?」
「はいはい」
呆れたようにカナデが空返事をすると、フェアリナは不満そうに頬を膨らます。本来なら女神である彼女には、尊敬や憧れの念を抱いたとしてもおかしくはないのだが、カナデにとってこの女だけは別扱いだった。
「それでその本物の女神様は、僕に最強の力を与えてくれたんじゃなかったのか?」
「うん、あなたとの、約束だったからね」
それだけは当然とでも言わんばかりに、フェアリナは腰に両手をあて、大きく胸を張る。白いウェディングドレスのようなミニドレスから突き出た胸の膨らみや谷間が、彼女の自信を更にアピールしているようだった。
「へー、約束ねえ?」
「何よ? ちゃんと強くなれたでしょ? ね?」
フェアリナの問いに頷くことなく、カナデは更に言葉を続けた。
「フェアリナ。僕の言うことは、何でも聞くんだったよな?」
「聞いたし、ちゃんと聞くわよ。私に勝ち続けたあなたとの約束だもん」
フェアリナは少し恥ずかしそうに顔を背ける。別にエロいことをしたいわけではないが、カナデは意地悪を言おうと思った。
「じゃあそのドレス脱いで」
「ぬ、脱がないわよ!」
早速、顔を赤くした彼女に怒られてしまった。しかし、これはあくまで彼女の本気度を試したお願いだった。そうでなければ、カナデがそんなセクハラ・ド直球なことを言うはずがない。もちろん、かつて高校生だった頃の話だけれども。
「僕との約束破るんだ?」
「約束って……あなた何処まで卑怯なの? あなたみたいに卑劣で陋劣なド変態の言うことなんか約束なんかじゃないわ! それに、こんな純真無垢で可愛い女神様を捕まえて、裸にして辱めるような行為をするだなんて、いくらなんでも神様が許さないんだから」
強気な口調とは反して、何故か涙目のフェアリナ。勝手に色々と妄想しているのだろう。残念ながら、今カナデが欲しいのは、彼女の言葉に嘘がないという信用だけなのに。いや、本当にですよ?
「そもそもさ、そんな心も身体も真っ白なはずの女神様が、まさか賭けごとなんかすると思うか? しかも嬉しそうにさ? 2分の1を外した人間を地獄に突き落とすような残酷非道な真似を? いやー普通しないよなー? だって、純心無垢の穢れを知らない女神様なんだから」
それには「ううっ……」と頭を抱えた様子のフェアリナ。眉をハの字にして、泣きそうな顔をしている彼女は、どこか意地らしくて可愛い。でも、どうして彼女は、あの場で二択の賭けをさせたのか。彼女の反応を見る限り、ただのギャンブル好きか。現実世界と一緒で、ギャンブルに一度染まった人は、なかなか抜け出せないのかなと、カナデは溜め息をついた。
「はいはい。もう、わかったから、早く僕を普通の人間に戻してくれ。僕はね、普通に戦ってどんどん強くなりたいだけなんだ。いくら強くなりすぎたからって、転生初期からレベル1縛りとか、周りにハンデをつけるにも程があるだろう?」
「へっ? ハンデって何、なに? どういうこと? 裸では飽きたらず、私を縛るの? そういうプレイなの?」
「縛りません!」
状況がさっぱり飲み込めない様子のフェアリナ。それにしても被害妄想を拗らせすぎていて、色々と痛い。
「違うって。だからさ、僕のレベルが1から上がらないんだよ。結構な数の敵を倒したのにさ。だから、これはそういう設定ってことだろ? もしくはお前の意地悪か」
「私は意地悪なんてしていないんだから! 絶対よ、絶対! だから縛らないで。痛いのは……やっぱり嫌なのっ」
「はいはい……」
フェアリナは妙なところでプライドが高いようだ。そして他人の話を聞かない女の子だということが良くわかった。女神様とはみんなこうなのだろうか。いや、思い起こせば現実の世界でも、偉い人たちはみんなそうだったなとカナデは苦笑するのだった。
「もう……本当にほんとのことなんだから」
いい加減な返事をしたせいか、彼女は再びムスッと唇を尖らせていた。流石に少し可哀想になり、カナデは彼女の頭のお団子を「よしよし」と軽く撫でてあげる。それで落ち着いたのか、フェアリナの表情は明るいものへと変わった。
「えっと……じゃあ、カナデ君はどのくらいの数のモンスターを倒したの? 4、5匹? ちゃんと最後まで倒したんだよね? 逃がしちゃったりしたら、経験値もらえないよ?」
流石にそんなことはカナデでも知っている。ゲームに触れる環境が増えた今の時代、そのことを知らない人間も少なくなっただろう。
「当たり前だろ? 数的にはピクシーとスライムとケット・シーを1000体ずつだったかな。もしかしたらもう少し多いかも」
「えっ? 嘘? こんな短期間でそんなに倒したの? マジ?」
「マジマジでガチガチ。僕の心も純心無垢だから、嘘なんてつくはずがない」
蒼褪めた顔のフェアリナ。カナデの嘘にではない。決して、純真無垢だという嘘がばれたからではない。その証拠に、あのフェアリナが、眉間に皺を寄せ、真顔になったのだ。
「そんなことしてないよ。うん、私はそんなことしてない」
「はい?」
「あなたが2分の1の選択を当てすぎて、レベル上がりまくったはずなのは間違いないけど、だからといって失敗して、レベル1になることなんて絶対にないはずよ」
冷静に答えを探そうとしているのだろう。彼女にしては珍しく神妙な面持ちだった。
「現にレベル1なのですが。ついでにステータスも1ばっかりなのですが。フェアリナ先生」
「エヘッ」
「エヘッじゃねえよ!」
「ごめんなさい。何かのバグかなー。今までこんなこと一回もなかったのにー。また死んじゃったらどうしよ。もう新しい人探したくないのに」
――また死ぬ?
不吉なことを彼女は平然と言ってのける。カナデが死ねば、また次が控えているということだろう。勘弁して欲しいとカナデは思った。
「てか、このままじゃ強い敵にも挑めないし、魔法値1じゃあ、魔法学校にも入れないってことだ。そしたらお前の望みも叶わないんだろ? 何だっけ、神々の黄昏の回避? ありがち設定過ぎるんだけど」
「うん、うん、そうなの。でも、でも、そんな縛りとかルール聞いたことないよ、ずっとレベル1だなんて……って、あれ?」
言葉を止め、急に辺りを見回すフェアリナ。カナデでは何もわからない。話をはぐらかそうとでもしているのだろうか。だとしたらかなりたちが悪い。
――でも。
「何だろう、この気配? 敵? カナデ君、何か来るよ?!」
――違った。
砂煙が上がり、突如、地面が爆ぜる。そして強烈な金切り音と腐敗臭と共に、目の前には、手足に10本のハサミを持ったクワガタのような巨大なモンスターが現れた。
「おお、やっとケット・シーたち以外の敵が現れた。ラッキー」
身体こそ十数メートルサイズと大きいが、初期エリアに現れる敵だ。きっとレベルも一ケタだろう。楽勝ムードで木製ナイフを構えるカナデ。カナデの体力を数値化したHPは1しかないけれども、相手の攻撃が当たらなければ、どうってことない。今までがずっとそうだったのだから。
「フェアリナ、相手のレベルは?」
反応がない。彼女の顔を見ると、完全に蒼褪めていた。
「……うそ……何で……こんなところに」
「おい、フェアリナ。あいつはどんな敵なんだ?」
意外にも彼女は震えていた。それは目の前のモンスターが一体どんな敵なのかを良く理解していたからだろう。そして怯えたようにこう呟いたのだった。
「草原の覇者グワナダイル……レベル80。エリアボスよ」
息を吐くように心から漏れる声。汗と共に身体から滲み出る焦燥感。
一体、何体の敵を倒したのだろう。どれだけの経験値を手に入れたのだろう。しかし、どんなに大量の討伐報酬を得ようとも、かつて高校生男子であったカナデのキャラクターレベルは、一向に上がる気配がなかった。
「なあ、どうして上がらないんだ?」
緑が生い茂った広い草原の中、黒いツンツン頭のカナデは、鉈を振り回しながら目の前を闊歩する猫型の妖精ケット・シーに問いかける。だが、彼らが答えてくれることはない。
赤い帽子に瞳孔の開いた黄色い眼で、左右の均整のとれた彫の深い顔つきのカナデを見つめ、怪しくギギギギと擬音を発し、橡の木から溢れた樹液のように、だらりと涎を垂らすだけだった。
――まだレベル1のままだぞ?
もちろん、初期レベルだからという理由で、カナデはピクシーやスライム、ケット・シーなどの最弱と呼ばれるモンスターしか相手にしていない。他にも、武器や防具などの装備が所謂初期装備というやつで、木製のナイフに布の服だけだったからという理由もあった。
それでも、どんなRPGであっても、レベル1で始まり、数体から数十体のモンスターを倒せば、容易にレベルアップすることが出来るのが、プレイヤーを楽しませるゲーム性というものだ。
だけれど、カナデが自らの死と引き換えに転生したこの異世界セレスティアラは、夢にまで見たような理想的な生活とは程遠く、挫折と頓挫と絶望へと追いやられた暗澹たる世界だった。
「これじゃあ……」
カナデの腕に力が入る。
「魔法大学はおろか、魔法学校にも入れないじゃないか!」
苛立ちから虚空を切る拳。強烈な風がカナデの周囲を包むが、何一つ満たされることはなく、後に残されたのは、ただ言いようのない空しさだけだった。
伝説の武器も持たない。超絶魔法も使えない。カナデがこの世界で使用出来るのはまだ五体のみ。セレスティアラで地位や名声を得ようとするならば、高難度の魔法の取得は絶対だという。
何故なら、扱える魔法のレベルや魔力の総量によって、世界の序列が決まっている。そして現在、未だレベルの上がっていない彼の順位は、1クラス1。その中でも最底辺のレベル1である。
数字が上になるほど腕が認められ、上位クラスになれば、土地や爵位まで与えられる幸せな生活が保障されているというのに、カナデが属するのは、ワールドカースト最底辺というわけだ。
――本当にどうしてなんだ。
転生するにあたって、何か異常な点がなかったかカナデは思い出そうとする。
――ああ。
よくよく思い出せば、心当たりがあった。そう、おかしな点があったとすれば、異世界転生前のあの忌々しい女との賭けで、およそ運という運を全て使い切ってしまったことだ。だからこそ、今カナデは不幸のどん底に叩き落とされているのだろう。でなければ、レベルなんてすぐに上がって、俺TUEEEが出来たはずなのだから。
「それもこれもあの駄女神のせいだ」
――女神フェアリナ。
透明感のある薄ピンク色の可愛らしいお団子ロングの髪、半月の目に浮かぶルビーのように赤い瞳、そして艶々と潤い下がぷっくり膨らんだ唇で、カナデの未来を決定しようとした女。妖精のような名前や、肌が透き通るほど白く可愛らしい外見とは相反して、中身はどす黒い悪魔のような女だ。いや、彼女が女であるかさえ、怪しいものだ。
「あの悪魔め」
「誰が悪魔よ?!」
噂をすれば、突然、何もない空間から、次元に割れ目を作って女神が飛び出してくる。彼女は薄ピンク色の髪を振り乱し、息を切らしたように、「ハアハア」と声にならない声を漏らしている。おそらく、ただカナデに文句を言うためだけに、慌てて彼女の世界から瞬間移動をしてきたのだろう。
「それに悪魔じゃなくて言うなら小悪魔だし、そもそも私は本物の女よ、女の神よ? 女神様なのよ? ねえ、ねえってば?」
「はいはい」
呆れたようにカナデが空返事をすると、フェアリナは不満そうに頬を膨らます。本来なら女神である彼女には、尊敬や憧れの念を抱いたとしてもおかしくはないのだが、カナデにとってこの女だけは別扱いだった。
「それでその本物の女神様は、僕に最強の力を与えてくれたんじゃなかったのか?」
「うん、あなたとの、約束だったからね」
それだけは当然とでも言わんばかりに、フェアリナは腰に両手をあて、大きく胸を張る。白いウェディングドレスのようなミニドレスから突き出た胸の膨らみや谷間が、彼女の自信を更にアピールしているようだった。
「へー、約束ねえ?」
「何よ? ちゃんと強くなれたでしょ? ね?」
フェアリナの問いに頷くことなく、カナデは更に言葉を続けた。
「フェアリナ。僕の言うことは、何でも聞くんだったよな?」
「聞いたし、ちゃんと聞くわよ。私に勝ち続けたあなたとの約束だもん」
フェアリナは少し恥ずかしそうに顔を背ける。別にエロいことをしたいわけではないが、カナデは意地悪を言おうと思った。
「じゃあそのドレス脱いで」
「ぬ、脱がないわよ!」
早速、顔を赤くした彼女に怒られてしまった。しかし、これはあくまで彼女の本気度を試したお願いだった。そうでなければ、カナデがそんなセクハラ・ド直球なことを言うはずがない。もちろん、かつて高校生だった頃の話だけれども。
「僕との約束破るんだ?」
「約束って……あなた何処まで卑怯なの? あなたみたいに卑劣で陋劣なド変態の言うことなんか約束なんかじゃないわ! それに、こんな純真無垢で可愛い女神様を捕まえて、裸にして辱めるような行為をするだなんて、いくらなんでも神様が許さないんだから」
強気な口調とは反して、何故か涙目のフェアリナ。勝手に色々と妄想しているのだろう。残念ながら、今カナデが欲しいのは、彼女の言葉に嘘がないという信用だけなのに。いや、本当にですよ?
「そもそもさ、そんな心も身体も真っ白なはずの女神様が、まさか賭けごとなんかすると思うか? しかも嬉しそうにさ? 2分の1を外した人間を地獄に突き落とすような残酷非道な真似を? いやー普通しないよなー? だって、純心無垢の穢れを知らない女神様なんだから」
それには「ううっ……」と頭を抱えた様子のフェアリナ。眉をハの字にして、泣きそうな顔をしている彼女は、どこか意地らしくて可愛い。でも、どうして彼女は、あの場で二択の賭けをさせたのか。彼女の反応を見る限り、ただのギャンブル好きか。現実世界と一緒で、ギャンブルに一度染まった人は、なかなか抜け出せないのかなと、カナデは溜め息をついた。
「はいはい。もう、わかったから、早く僕を普通の人間に戻してくれ。僕はね、普通に戦ってどんどん強くなりたいだけなんだ。いくら強くなりすぎたからって、転生初期からレベル1縛りとか、周りにハンデをつけるにも程があるだろう?」
「へっ? ハンデって何、なに? どういうこと? 裸では飽きたらず、私を縛るの? そういうプレイなの?」
「縛りません!」
状況がさっぱり飲み込めない様子のフェアリナ。それにしても被害妄想を拗らせすぎていて、色々と痛い。
「違うって。だからさ、僕のレベルが1から上がらないんだよ。結構な数の敵を倒したのにさ。だから、これはそういう設定ってことだろ? もしくはお前の意地悪か」
「私は意地悪なんてしていないんだから! 絶対よ、絶対! だから縛らないで。痛いのは……やっぱり嫌なのっ」
「はいはい……」
フェアリナは妙なところでプライドが高いようだ。そして他人の話を聞かない女の子だということが良くわかった。女神様とはみんなこうなのだろうか。いや、思い起こせば現実の世界でも、偉い人たちはみんなそうだったなとカナデは苦笑するのだった。
「もう……本当にほんとのことなんだから」
いい加減な返事をしたせいか、彼女は再びムスッと唇を尖らせていた。流石に少し可哀想になり、カナデは彼女の頭のお団子を「よしよし」と軽く撫でてあげる。それで落ち着いたのか、フェアリナの表情は明るいものへと変わった。
「えっと……じゃあ、カナデ君はどのくらいの数のモンスターを倒したの? 4、5匹? ちゃんと最後まで倒したんだよね? 逃がしちゃったりしたら、経験値もらえないよ?」
流石にそんなことはカナデでも知っている。ゲームに触れる環境が増えた今の時代、そのことを知らない人間も少なくなっただろう。
「当たり前だろ? 数的にはピクシーとスライムとケット・シーを1000体ずつだったかな。もしかしたらもう少し多いかも」
「えっ? 嘘? こんな短期間でそんなに倒したの? マジ?」
「マジマジでガチガチ。僕の心も純心無垢だから、嘘なんてつくはずがない」
蒼褪めた顔のフェアリナ。カナデの嘘にではない。決して、純真無垢だという嘘がばれたからではない。その証拠に、あのフェアリナが、眉間に皺を寄せ、真顔になったのだ。
「そんなことしてないよ。うん、私はそんなことしてない」
「はい?」
「あなたが2分の1の選択を当てすぎて、レベル上がりまくったはずなのは間違いないけど、だからといって失敗して、レベル1になることなんて絶対にないはずよ」
冷静に答えを探そうとしているのだろう。彼女にしては珍しく神妙な面持ちだった。
「現にレベル1なのですが。ついでにステータスも1ばっかりなのですが。フェアリナ先生」
「エヘッ」
「エヘッじゃねえよ!」
「ごめんなさい。何かのバグかなー。今までこんなこと一回もなかったのにー。また死んじゃったらどうしよ。もう新しい人探したくないのに」
――また死ぬ?
不吉なことを彼女は平然と言ってのける。カナデが死ねば、また次が控えているということだろう。勘弁して欲しいとカナデは思った。
「てか、このままじゃ強い敵にも挑めないし、魔法値1じゃあ、魔法学校にも入れないってことだ。そしたらお前の望みも叶わないんだろ? 何だっけ、神々の黄昏の回避? ありがち設定過ぎるんだけど」
「うん、うん、そうなの。でも、でも、そんな縛りとかルール聞いたことないよ、ずっとレベル1だなんて……って、あれ?」
言葉を止め、急に辺りを見回すフェアリナ。カナデでは何もわからない。話をはぐらかそうとでもしているのだろうか。だとしたらかなりたちが悪い。
――でも。
「何だろう、この気配? 敵? カナデ君、何か来るよ?!」
――違った。
砂煙が上がり、突如、地面が爆ぜる。そして強烈な金切り音と腐敗臭と共に、目の前には、手足に10本のハサミを持ったクワガタのような巨大なモンスターが現れた。
「おお、やっとケット・シーたち以外の敵が現れた。ラッキー」
身体こそ十数メートルサイズと大きいが、初期エリアに現れる敵だ。きっとレベルも一ケタだろう。楽勝ムードで木製ナイフを構えるカナデ。カナデの体力を数値化したHPは1しかないけれども、相手の攻撃が当たらなければ、どうってことない。今までがずっとそうだったのだから。
「フェアリナ、相手のレベルは?」
反応がない。彼女の顔を見ると、完全に蒼褪めていた。
「……うそ……何で……こんなところに」
「おい、フェアリナ。あいつはどんな敵なんだ?」
意外にも彼女は震えていた。それは目の前のモンスターが一体どんな敵なのかを良く理解していたからだろう。そして怯えたようにこう呟いたのだった。
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