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第二章 魔法の衆と禁じられた書
第四話 残されたもの
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スチルに勝利したおれたちはお互いに抱き合って喜びを嚙みしめた。
「ディールさん!すごいですよ。本当にスチルに勝てるなんて」
「おれだけの力じゃないぜ。皆が力を合わせたから勝てたんだ。強敵に怯まず立ち向かった自分自身を誇りに思え」
「よっしゃー!早く帰ってシスターに自慢してやろうぜ」
「ディールさんはロオの街最強の兄貴だー!」
皆が喜んでそこらへんで踊っていると、スチルの子分の応援がやって来た。皆が警戒する中でおれは一人で前に出る。
「お前らの大将ならここに埋まってるぜ。早く連れ帰ってやるんだな」
「そんな……俺たちの親分がこんなガキども負けたっていうのかよ……」
敵の何人かは腰を抜かしてそのまま逃走していった。残った子分たちに向けておれは脅し続ける。
「おれたちに手を出したらどうなるかこれで分かったか?二度とおれたちと戦おうなんて思うんじゃねえぞ‼」
「ひ……ひえ~~~。分かりましたからどうか命だけはお許しください」
子分たちは土下座をしてから埋まったスチルを引っ張り出して逃げたのでおれは呼び止める。
「それともう一つ言っておくことがある」
「な……な……何でございましょうか?」
「お前らの大将の新しい鎧を注文するの忘れんなよー。次からはもっといいものにするように教えといてやれ」
おれの言葉を聞き終わらないうちに子分たちはスチルや他の仲間を担いで鋼鉄の区へと撤退した。おれは皆を引き連れて妖精の区へと戻ることにした。
おれたちが妖精の区の教会に入ると、皆が出迎えてくれたがその表情はどこか暗い。おれは近くの子供にレイたちのことを聞いた。
「おい、フジャ。レイとフィリスはどうしたんだ?」
「あっ……ディールの兄ちゃん、おかえりなさい。レイの兄ちゃんとフィリス姉ちゃんはラグーに勝ったよ。だけど……」
フジャが今にも泣きだしそうな顔をしているのでおれはゆっくり話すように言った。
「レイの兄ちゃんたちが帰ってくるちょっと前に……うぅ……ぐすん。シスターが……シスターが……死んじゃったんだよ‼」
「何だって!」
おれは急いでシスターのいる部屋へと向かってドアを思い切り開けた。そこにはレイとフィリスが席に座っていて、ベッドを囲むように小さな子供たちのすすり泣く声が聞こえてきた。
「シスタ――――何で死んじゃったのぉ……いやだよぉぉ」
「またいっぱい頭撫でてよぉ。いっぱい褒めてよぉ。もう悪いことなんてしないから」
ベッドの上のシスターは眠るように亡くなっていた。その顔はとても穏やかでいつもと変わらぬ優しい笑顔だった。
レイがこちらに気づいた。おれは何と声を掛けたらいいのか分からなかった。レイは立ち上がって開いているドアから出た。おれもそれについていく。
「ディール。少しだけ話があるんだ。もう見たと思うけどシスターが亡くなった。葬儀は明日にでも行おうと思ってる」
「それでいいと思う」
レイとは久しぶりに会話した気がする。折角脅威は去ったというのに勝ったと報告するレイは暗い顔をしている。
「ラグーは僕たちの方で倒したよ。ディールがスチルからみんなを守ってくれたんだよね。流石だよ、ありがとう」
「シスターに言われたんだ。『一人ですべてを救おうとするな。誰かを助けるために差し伸べる手はディールだけじゃない』って。だから皆を信じておれは自分に出来ることをやっただけだよ」
レイと会話を終えおれは教会の中を見渡す。皆今日の出来事で頭がいっぱいになってしまったようだ。仕方がないだろう。敷物の区と鋼鉄の区との激しい戦闘に唐突なシスターの死、いろんなことが同時に起こりすぎたんだ。ただただ疲れ果てて眠ってしまった子もいれば泣き疲れて眠った子もいる。逆に悲しみに暮れて眠れなかった子もいた。
日は変わり早朝にシスターの葬儀が行われた。教会の祭壇の前に棺に入れられたシスターがいる。子供たちは列になってそれぞれシスターに思い思いの別れの言葉を残す。
列に並んでいる間、おれは2年ぐらい前のシスターとの会話を思い出していた。
◆◇◆
おれは剣の修行を終えた後、部屋に戻るために教会の前を通った。その時、花に水をあげているシスターの姿が目に入った。おれはシスターに話しかける。
「シスター、こんな場所に花が咲くなんて珍しいですね」
「綺麗でしょ。でも咲かせるまでとっても苦労したのよ」
滅多に自分の過去を語らないシスターが珍しく自身のことを教えてくれた。
「実は昔、花を育てるのが嫌いでね。毎日水をあげないといけないし、それに病気になってないか見てあげないといけないでしょ。そうすることでようやく花を咲かせる。若い時の私はこれが苦労に見合ってない気がして嫌だったのよ」
「まあ、おれも花を見るのは好きですけど。育てろって言われたら途中で面倒になって枯らせちゃうかもしれないです」
「でもね、長年育ててようやく気付けたことがあったの。同じ種類の花でもよく見てみると小さな違いがあるのよ。花が咲く早さとか、花びらの大きさや形。魂色と一緒だなと思ったの」
「魂色と一緒……ですか?」
「そうよ、同じ魂色だからといってその人の中身まで全く同じというわけではないでしょ。それに気づいた時に花と人が似ている気がして育てるのが好きになったの」
「例えばですよ、この白い花の中に特徴も色も違う花が出てきたらシスターならどうしますか?」
「うふふ、ディールは面白いことを考えるのね。私ならどんな花が咲いても……それがどんな毒を持っていようとも花である限りは枯れるまで世話して愛し続けるわね。だってその花は望んで毒を持ったわけでもないし、花として生えてきた以上、その地で生きる権利はあるわよ」
シスターと会話を終えたおれはしばらくの間、機嫌が良かった。これがおれにとって聞きたかった言葉なのかもしれない。
◆◇◆
子供たちは珍しく真っ直ぐ列に並んでいた。感謝を述べたりただひたすらに泣いたりしていた。列が段々と短くなって遂におれの番がきた。列に並んでいる間ずっとなんて言おうか悩んでいた。けど亡くなったシスターを目の前にして何を言うか決まった。おれはシスターの棺に彼女が愛情を込めて育てた白い花を供えてから話す。
「シスター、この三年間本当にありがとうございました。貴女との最後の会話をおれは一生忘れません。おれのやるべきことを見つけます」
最後のお別れを済ませたおれは列を離れて教会の隅の方に移動した。皆がお別れを済ませた後にシスターの遺体は土葬することになった。教会の入り口の横の白い花が咲き誇る場所にお墓を建てることにした。立派なものではないがそれでも子供たちが皆で感謝を込めて作ったものだ。シスターもきっと喜んでくれるだろう。
最後にフィリスが墓の前で手を合わせてから喋った。
「私たちを愛し私たちの愛したシスターに最大限の祈りを送ります。全員、黙祷」
フィリスに続いて皆が手を合わせてシスターへと祈りをささげた。この時ばかりはいつも騒いでばかりで騒音だらけの妖精の区も水を打ったように静まり返った。
葬儀がひと通り終了して気づけば夕暮れ時になっていた。シスターの使っていた部屋で遺品を整理しているとフィリスがやってくる。
「どうしたんだフィリス。欲しいものでもあるのか?」
「いいえ、そうじゃないわ。ディールにお願いがあって来たのよ」
フィリスがおれに頼み事なんて珍しい。ハッキリ言っていいお願いじゃなさそうだ。
「次の妖精の区の支配者をレイに任せたいと思っているの。だから、あなたの方からも頼んでくれないかしら」
フィリスが頭を深々と下げながらお願いしてきた。おれはフィリスが後継になるべきだと思っていたので願いを受け入れられずキッパリと断った。
「それは無理なお願いだよ。この区の後継者はフィリス以外いないしシスターもそれを願っているはずだ。自分だって分かってるだろう」
「私には到底無理だわ。だって……これから先みんなを率いていくなんて。シスターのようになんてなれないわ!」
フィリスの言いたいことは分かる。確かにシスターは凄い人だった。彼女のような人を人徳者と呼ぶんだろうな。だけどフィリスだって素晴らしいところがあるはずだ。
「シスターになれって言ってるんじゃないんだ。フィリスのいいところは子供たちのことを誰よりも詳しく知っているし誰よりも深く人を愛せる。だからフィリスなりの方法でこれから皆と生きていく方法を見つけていけばいいんだよ。お前は一人じゃないんだ。お前以外に適任はいない」
フィリスは何かを考えこんでいるようだ。しばらくした後に口を開く。
「あなたは誰かを過大評価するような人じゃないわ……分かった。後継者の件、考えてみるわ」
フィリスが部屋から出ていった。おれは遺品の整理に戻る。
机の引き出しの中に入っていたオルゴールを手に取った。ねじを巻いてから開くと曲が流れてくる。初めて聞く曲なのにどこか懐かしい気がする。なぜだろうか……不思議とこれまで堪えていた涙が溢れて頬を伝っていた。曲が終了するとオルゴールの底が開いて中から手紙と巻かれた状態の書状のようなものが出てきた。
その手紙の最初の一行を確認するとおれに宛てたものだということが分かった。手紙には書かれている文章を読む。
『ディールへ。あなたに伝えたいことや教えたいことがまだまだたくさんあります。ですが、時間が残されていないようですので手紙に記しておきますね』
『あなたが青色の魂色だと教えてくれてから古い記憶の中を辿ってみました。そして思い出したのです。今から70年程前に私が修行していた時の話です』
『当時の聖白教で共に修行していた名前も忘れた仲間がたった一度だけ青の魂色について話していたのです。その言葉とは「歴史的にみても青い魂色は近いうちに必ず現れて世界を混乱の渦に招く」と言っていました』
『この情報があなたの力になればと思っています。当時の仲間はどこで何をしているのかは知りませんが見つければ詳しい話を聞けるかもしれません』
『最後にこの手紙と一緒に入っていた書状についてです。それは聖白教の聖地スーメンへと入ることが許される許可証です。それがいつか役に立つ日が来ることを祈っています』
『未来ある若者に幸多からんことを。――シスター・エスメより』
シスターはおれのためにこれを残してくれていたのか。ここにきて初めて手に入れた青い魂色の情報におれは少しだけ心が躍った。手紙と書状を懐にしまってから整理を終わらせる。教会の外はもう真っ暗だったのでおれは自分の部屋に戻った。
部屋に戻るとレイは既に眠っていた。起こすのは悪いと思ったので静かに移動しておれも眠ることにした。
「ディールさん!すごいですよ。本当にスチルに勝てるなんて」
「おれだけの力じゃないぜ。皆が力を合わせたから勝てたんだ。強敵に怯まず立ち向かった自分自身を誇りに思え」
「よっしゃー!早く帰ってシスターに自慢してやろうぜ」
「ディールさんはロオの街最強の兄貴だー!」
皆が喜んでそこらへんで踊っていると、スチルの子分の応援がやって来た。皆が警戒する中でおれは一人で前に出る。
「お前らの大将ならここに埋まってるぜ。早く連れ帰ってやるんだな」
「そんな……俺たちの親分がこんなガキども負けたっていうのかよ……」
敵の何人かは腰を抜かしてそのまま逃走していった。残った子分たちに向けておれは脅し続ける。
「おれたちに手を出したらどうなるかこれで分かったか?二度とおれたちと戦おうなんて思うんじゃねえぞ‼」
「ひ……ひえ~~~。分かりましたからどうか命だけはお許しください」
子分たちは土下座をしてから埋まったスチルを引っ張り出して逃げたのでおれは呼び止める。
「それともう一つ言っておくことがある」
「な……な……何でございましょうか?」
「お前らの大将の新しい鎧を注文するの忘れんなよー。次からはもっといいものにするように教えといてやれ」
おれの言葉を聞き終わらないうちに子分たちはスチルや他の仲間を担いで鋼鉄の区へと撤退した。おれは皆を引き連れて妖精の区へと戻ることにした。
おれたちが妖精の区の教会に入ると、皆が出迎えてくれたがその表情はどこか暗い。おれは近くの子供にレイたちのことを聞いた。
「おい、フジャ。レイとフィリスはどうしたんだ?」
「あっ……ディールの兄ちゃん、おかえりなさい。レイの兄ちゃんとフィリス姉ちゃんはラグーに勝ったよ。だけど……」
フジャが今にも泣きだしそうな顔をしているのでおれはゆっくり話すように言った。
「レイの兄ちゃんたちが帰ってくるちょっと前に……うぅ……ぐすん。シスターが……シスターが……死んじゃったんだよ‼」
「何だって!」
おれは急いでシスターのいる部屋へと向かってドアを思い切り開けた。そこにはレイとフィリスが席に座っていて、ベッドを囲むように小さな子供たちのすすり泣く声が聞こえてきた。
「シスタ――――何で死んじゃったのぉ……いやだよぉぉ」
「またいっぱい頭撫でてよぉ。いっぱい褒めてよぉ。もう悪いことなんてしないから」
ベッドの上のシスターは眠るように亡くなっていた。その顔はとても穏やかでいつもと変わらぬ優しい笑顔だった。
レイがこちらに気づいた。おれは何と声を掛けたらいいのか分からなかった。レイは立ち上がって開いているドアから出た。おれもそれについていく。
「ディール。少しだけ話があるんだ。もう見たと思うけどシスターが亡くなった。葬儀は明日にでも行おうと思ってる」
「それでいいと思う」
レイとは久しぶりに会話した気がする。折角脅威は去ったというのに勝ったと報告するレイは暗い顔をしている。
「ラグーは僕たちの方で倒したよ。ディールがスチルからみんなを守ってくれたんだよね。流石だよ、ありがとう」
「シスターに言われたんだ。『一人ですべてを救おうとするな。誰かを助けるために差し伸べる手はディールだけじゃない』って。だから皆を信じておれは自分に出来ることをやっただけだよ」
レイと会話を終えおれは教会の中を見渡す。皆今日の出来事で頭がいっぱいになってしまったようだ。仕方がないだろう。敷物の区と鋼鉄の区との激しい戦闘に唐突なシスターの死、いろんなことが同時に起こりすぎたんだ。ただただ疲れ果てて眠ってしまった子もいれば泣き疲れて眠った子もいる。逆に悲しみに暮れて眠れなかった子もいた。
日は変わり早朝にシスターの葬儀が行われた。教会の祭壇の前に棺に入れられたシスターがいる。子供たちは列になってそれぞれシスターに思い思いの別れの言葉を残す。
列に並んでいる間、おれは2年ぐらい前のシスターとの会話を思い出していた。
◆◇◆
おれは剣の修行を終えた後、部屋に戻るために教会の前を通った。その時、花に水をあげているシスターの姿が目に入った。おれはシスターに話しかける。
「シスター、こんな場所に花が咲くなんて珍しいですね」
「綺麗でしょ。でも咲かせるまでとっても苦労したのよ」
滅多に自分の過去を語らないシスターが珍しく自身のことを教えてくれた。
「実は昔、花を育てるのが嫌いでね。毎日水をあげないといけないし、それに病気になってないか見てあげないといけないでしょ。そうすることでようやく花を咲かせる。若い時の私はこれが苦労に見合ってない気がして嫌だったのよ」
「まあ、おれも花を見るのは好きですけど。育てろって言われたら途中で面倒になって枯らせちゃうかもしれないです」
「でもね、長年育ててようやく気付けたことがあったの。同じ種類の花でもよく見てみると小さな違いがあるのよ。花が咲く早さとか、花びらの大きさや形。魂色と一緒だなと思ったの」
「魂色と一緒……ですか?」
「そうよ、同じ魂色だからといってその人の中身まで全く同じというわけではないでしょ。それに気づいた時に花と人が似ている気がして育てるのが好きになったの」
「例えばですよ、この白い花の中に特徴も色も違う花が出てきたらシスターならどうしますか?」
「うふふ、ディールは面白いことを考えるのね。私ならどんな花が咲いても……それがどんな毒を持っていようとも花である限りは枯れるまで世話して愛し続けるわね。だってその花は望んで毒を持ったわけでもないし、花として生えてきた以上、その地で生きる権利はあるわよ」
シスターと会話を終えたおれはしばらくの間、機嫌が良かった。これがおれにとって聞きたかった言葉なのかもしれない。
◆◇◆
子供たちは珍しく真っ直ぐ列に並んでいた。感謝を述べたりただひたすらに泣いたりしていた。列が段々と短くなって遂におれの番がきた。列に並んでいる間ずっとなんて言おうか悩んでいた。けど亡くなったシスターを目の前にして何を言うか決まった。おれはシスターの棺に彼女が愛情を込めて育てた白い花を供えてから話す。
「シスター、この三年間本当にありがとうございました。貴女との最後の会話をおれは一生忘れません。おれのやるべきことを見つけます」
最後のお別れを済ませたおれは列を離れて教会の隅の方に移動した。皆がお別れを済ませた後にシスターの遺体は土葬することになった。教会の入り口の横の白い花が咲き誇る場所にお墓を建てることにした。立派なものではないがそれでも子供たちが皆で感謝を込めて作ったものだ。シスターもきっと喜んでくれるだろう。
最後にフィリスが墓の前で手を合わせてから喋った。
「私たちを愛し私たちの愛したシスターに最大限の祈りを送ります。全員、黙祷」
フィリスに続いて皆が手を合わせてシスターへと祈りをささげた。この時ばかりはいつも騒いでばかりで騒音だらけの妖精の区も水を打ったように静まり返った。
葬儀がひと通り終了して気づけば夕暮れ時になっていた。シスターの使っていた部屋で遺品を整理しているとフィリスがやってくる。
「どうしたんだフィリス。欲しいものでもあるのか?」
「いいえ、そうじゃないわ。ディールにお願いがあって来たのよ」
フィリスがおれに頼み事なんて珍しい。ハッキリ言っていいお願いじゃなさそうだ。
「次の妖精の区の支配者をレイに任せたいと思っているの。だから、あなたの方からも頼んでくれないかしら」
フィリスが頭を深々と下げながらお願いしてきた。おれはフィリスが後継になるべきだと思っていたので願いを受け入れられずキッパリと断った。
「それは無理なお願いだよ。この区の後継者はフィリス以外いないしシスターもそれを願っているはずだ。自分だって分かってるだろう」
「私には到底無理だわ。だって……これから先みんなを率いていくなんて。シスターのようになんてなれないわ!」
フィリスの言いたいことは分かる。確かにシスターは凄い人だった。彼女のような人を人徳者と呼ぶんだろうな。だけどフィリスだって素晴らしいところがあるはずだ。
「シスターになれって言ってるんじゃないんだ。フィリスのいいところは子供たちのことを誰よりも詳しく知っているし誰よりも深く人を愛せる。だからフィリスなりの方法でこれから皆と生きていく方法を見つけていけばいいんだよ。お前は一人じゃないんだ。お前以外に適任はいない」
フィリスは何かを考えこんでいるようだ。しばらくした後に口を開く。
「あなたは誰かを過大評価するような人じゃないわ……分かった。後継者の件、考えてみるわ」
フィリスが部屋から出ていった。おれは遺品の整理に戻る。
机の引き出しの中に入っていたオルゴールを手に取った。ねじを巻いてから開くと曲が流れてくる。初めて聞く曲なのにどこか懐かしい気がする。なぜだろうか……不思議とこれまで堪えていた涙が溢れて頬を伝っていた。曲が終了するとオルゴールの底が開いて中から手紙と巻かれた状態の書状のようなものが出てきた。
その手紙の最初の一行を確認するとおれに宛てたものだということが分かった。手紙には書かれている文章を読む。
『ディールへ。あなたに伝えたいことや教えたいことがまだまだたくさんあります。ですが、時間が残されていないようですので手紙に記しておきますね』
『あなたが青色の魂色だと教えてくれてから古い記憶の中を辿ってみました。そして思い出したのです。今から70年程前に私が修行していた時の話です』
『当時の聖白教で共に修行していた名前も忘れた仲間がたった一度だけ青の魂色について話していたのです。その言葉とは「歴史的にみても青い魂色は近いうちに必ず現れて世界を混乱の渦に招く」と言っていました』
『この情報があなたの力になればと思っています。当時の仲間はどこで何をしているのかは知りませんが見つければ詳しい話を聞けるかもしれません』
『最後にこの手紙と一緒に入っていた書状についてです。それは聖白教の聖地スーメンへと入ることが許される許可証です。それがいつか役に立つ日が来ることを祈っています』
『未来ある若者に幸多からんことを。――シスター・エスメより』
シスターはおれのためにこれを残してくれていたのか。ここにきて初めて手に入れた青い魂色の情報におれは少しだけ心が躍った。手紙と書状を懐にしまってから整理を終わらせる。教会の外はもう真っ暗だったのでおれは自分の部屋に戻った。
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