魂色物語

ガホウ

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第二章 魔法の衆と禁じられた書

第十七話 友の命と亜人族

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 おれたちはレイを運びながら街へとやって来た。どんどんレイの顔色が悪くなって生気が失われていくのが分かる。その街はエル曰く亜人の四肢長族で構成されているそうで彼らは人間のことを好んでいないらしい。

 街の入り口を見ると立て看板に名前が書いてあった。ここはどうやらネクロベートという名前の街のようだ。

 おれたちは街に入ってから近くの長椅子にレイを寝かせた。おれはエルから金を受け取り見守っておくように頼んだ。

「レイ……すぐに治してやるから待っててくれ」

 街の中を歩いて薬を売っている店を探した。ずっと走り回って息が上がりそうになっていたところで目的の店を見つけた。薬屋に入るなりおれは店の店主にコープスディバウ用の解毒剤があるかを聞いた。

 それにしても四肢長族は随分とデカい。手と足の長さが大人の倍以上もある。そのせいかやけに店の天井が高い気がする。

 店の店主はおれの顔をジロジロと訝しげに見てから話す。

「お前、人間だろ。人間に売る薬は無い」

 人間嫌いだとは聞いたがここまでとは思わずおれは腹が立った。

「何でだよ!金なら払うから薬を売ってくれよ」
「無理なものは無理だ」

「おれは何でアンタらが人間を嫌っているのか知らないけどな。もしこのままおれの親友が命を落としたらおれは一生かけてアンタらを恨むぞ!」

 机をぶっ叩いて店主を睨みつけた。おれ自身でも無茶苦茶なことを言っているという自覚はあるが今は緊急事態なんだ。脅しても何してでも薬を手に入れてやる。おれが剣を抜こうとした時、店主が深く考え込んでから話した。

「分かった、薬を売ってやろう。しかし、人間に薬を売ったと周りに知られたらわたしが困る」
「何をしろって言うんだ?」

 おれが聞くと店主は店の奥に行って何かを持ってきた。机に置かれたのは緑色の液体の入った瓶と空き瓶を持ってきた。

「この薬がコープスディバウの毒に効くから持っていけ。その代わりにここから西の洞窟に生息している氷蛾から鱗粉を採取してこい」
「この空き瓶に入れて来いって事だろ。やってやるよ」

 おれがそう言うと店主は小さく頷いた。薬と空き瓶を手に取ってから走って店を出る。来た時にはそこまで気にならなかったがやはりここの四肢長族はおれを見るなり嫌そうな表情をして明らかに避けている。

 おれが薬を持っていくとエルはおれの手から薬を奪い取るようにして取って薬をゆっくりとレイに飲ませた。すると早速効果が現れてきたのかレイの顔に生気が戻ってきた。おれとエルはホッと胸をなでおろした。

「それにしても本当にここの四肢長族は人間が嫌いなんだな」
「それはそうよ……。だって歴史によると四肢長族はかつてサンアスリム地方に住んでいたんだけどその住処を人間に追われてここまで逃げてきたんだから」

「エルはレイと一緒に宿屋で休んで看病しておいてくれないか」
「あなたはどうするの?」
「おれは薬をもらった時にちょっとしたおつかいを頼まれたんだよ。それをこなしてくる」
「一人で行って大丈夫なの?」
「そこまで遠くないし危険は無さそうだから大丈夫だ」

 おれはレイの負傷に責任を感じていた。だってあの時おれが浮かれずにしっかりとどめを刺しておけばこんなことにならなかったはずだ。

「私たちはこの街で待ってるから。さっさと用事済ませて旅を再開させるわよ」
「分かったよ。じゃあすぐに終わらせてくる」

 おれは最低限の荷物を持ってから氷蛾の鱗粉を手に入れるために街を出発した。

 西に向かって進み続けていると洞窟の入り口が見えてきた。おれは中に入る前に魔宝具の魔法の燭台を使って明かりを灯した。

 洞窟の中に入ると奥から冷たい風が吹いてきた。これは氷蛾が近くにいるかもしれない。どんどん奥へ進んでいくと分かれ道に出くわした。どっちに行けばいいんだ?おれはとりあえず何も考えずに左の道を進むことにした。

 少し進んだあたりで足に何かがぶつかってカラカラと転がっていった。ぶつかったのが何か確認してみるとそれは人間と思わしき頭蓋骨だった。おいおいまさかこの洞窟って相当危険なんじゃないのか。それよりもアルテザーンに来て初めての遭遇する人間が死んでいるとはいえ頭蓋骨だとは思わなかった。軽く手を合わせて祈ってから先に進んだ。

 少しだけ広い空間に出た。おれは燭台を落とさないようにしっかりと持って行き止まりまで進んでみると壁に止まっている目的の氷蛾を発見した。

「やっと見つけた。案外簡単なおつかいだったな」

 空き瓶の蓋を開けて氷蛾の羽から落ちる鱗粉を採取する。氷蛾は近くで見てみると羽には氷の結晶のような模様がついていて綺麗だった。それに氷蛾の周りはちょっとだけ涼しい。瓶に鱗粉が充分集まったのを確認してから蓋を閉めた。

 瓶を袋に入れようとして袋の中に手を入れるとやたらとモフモフする何かが入っている。気になって取り出してみるとそこにはおれの精霊のバサンがいた。

「お前何で袋に入ってるんだ?」
「ピピピピ、ピョ~~」
「相変わらず何言ってるのか分からないな」

 そういえばエルが精霊は契約すると勝手に出てくる場合もあるって言ってたような。でもなんで勝手に出てくるんだっけ?腹が減ったから?構って欲しいから?思い出せないな。するとバサンが目を見開いて小さな体を目いっぱい動かしてピヨピヨと鳴き始めた。

「あとで遊んでやるから待っとけ」
「ピピピヨ――――」
「もう何なんだよ?」

 あっ!思い出したぞ。精霊が勝手に出てくるのって確か契約者が危険な時に出てくるんだ。ん?危険な時ってもしかして今ヤバいのか。おれが後ろを振り向くと魔法の燭台で出来た薄明りの中にさっきまでなかった壁があった。

「こんなところに壁なんてあったっけ?あれ……なんかこの壁、暖かいな」

 おれが壁を触っていると突然上の方から獣のような咆哮が聞こえてきた。どうやら触っていたのは壁ではなくて魔物の腹だったらしい。おれはゆっくりと後ろに下がってその全体像を視界に入れる。こいつは……墓熊《グレイブベアー》か!

 墓熊はその名の通り野生の熊みたいな魔物で凶暴な肉食獣だ。奴の通った跡には骨の髄までしゃぶりつくされた綺麗な人骨しか残らないことからその名がつけられた。さっき見つけた頭蓋骨もこいつにやられたんだろう。こいつは体表が岩のようにゴツゴツになっていて暗がりの中で黄色い目が妖しく光る。

「話が通じるような相手じゃないよな」
「ピピ~」
「バサンは隠れてろ」

 おれの指示を聞いてバサンはどこかの岩陰に隠れた。

 こんなデカブツ相手に一人で勝てるか分からないがこんなに危険な魔物を野放しにはできない。何より四肢長族に嵌められたかもしれないということに怒りが抑えられなかった。あの四肢長族は墓熊がいるのを知っていておれを送り込んだんだろう。剣を抜いて構えるが片手に魔法の燭台を持っていては戦いづらい。

 この空間がもっと明かるければ……そう思った時、魔法の燭台に灯された明かりは強くなり空間全体が外と変わらない程の明るさになった。少し下がり眩しいほどに光を放つ魔法の燭台を地面に置く。

 墓熊がおおきく振りかぶって腕を叩きつけてきた。おれは前方に転がるようにして躱すと足元に向かって剣で斬りつける。しかし大した傷をつけることはできなかった。これはスチルの鎧よりも硬いかもしれないぞ。

 一旦距離を取ってから魔法で攻撃することにした。

「”グリンド”【衝撃波】」

 グリンドを何発もデカい腹に食らわせているが少し怯む程度で直接的なダメージにはなってなさそうだ。後ろに回ってから剣でもう一度、背中を攻撃するが弾かれてしまった。それに弾かれた瞬間、墓熊が背後にいるおれに後ろ蹴りを食らわせてきた。防御が間に合わなかったおれはその蹴りをもろに受けてしまい後ろの壁に吹っ飛ばされて衝突した。

「墓熊があんな蹴りを持ってるなんて知らなかったぞ……グッ……痛てぇ」

 なんだか視界がぼやけてきた。さっきの衝突で頭を怪我したらしい。頭から血が流れて頬までつたってくる。おれは額に手を当ててポカラを唱えて応急処置をした。傷は多少治ったが痛みが消えるわけじゃない。

 何か策を練らないと奴の餌になってしまう、それだけは御免だ。
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