27 / 30
打ち上げ花火 2
しおりを挟む
ミニテストの後に行われる補講授業を終えた時にはもう19時を過ぎていた。
それでも真っ直ぐに向かえば、花火大会には余裕で間に合う。
俺の周辺にいた他の受講者達も今から花火を見に行くようだった。
スマホを取り出して、連絡を取り合う人も多いようだ。
周りに置いていた勉強道具を片付けてリュックに詰め込むと、顔見知りに簡単に挨拶をして予備校を後にした。
玄関から外へ出ると、一気に夏の蒸し暑い空気が体を包み込んだ。
予備校の教室内は冷房がいつも効きすぎて少し肌寒い。
着込んでいたシャツを脱いでリュックに詰め込こんだ。
幾分涼しくはなったが、とても快適とは言えるほどではない・
観光通りから中央通りを高松駅方面に向かって歩く。
駅前へ向かう中央通りは渋滞していて、ほとんど動いていないようだった。
時折クラクションが鳴り響いていた。
歩道には浴衣姿の女性や子供、家族連れなど多くの人がサンポート方面へと向かっていた。
その流れに乗って、俺はのんびりと歩いていた。
「おーい、佐藤!」
中央公園の横を歩いていると、誰かが俺に声を掛けてきた。
聞き覚えのある声だった。
振り返ると、公園の出入り口から俺の方に誰かが手を振りながら、こちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「久しぶりやね」
高校の同級生でサッカー部のチームメイトの木嶋だった。
半パンにTシャツ姿で、シャツは汗で体に張り付いていて、少し肩で息をしていた。
手足や顔は真っ黒に日焼けしている。
以前よりも体つきも少し大きく見える。
「久しぶり。公園でトレーニングでもしてたん?」
「いや…普通にランニングしてただけ。暑くてほんと嫌になる」
呼吸を整えながら、木嶋は半パンのウエストに挟んでいたタオルで顔の汗を拭いていた。
「佐藤はこれからどこかへ行くん?」
「俺は予備校の帰り。花火見ながら帰ろうかと思ってさ」
「予備校か…ああ、それでサンポートの方へ向かってんか」
「そういう事よ」
「今は少し時間あるかな?実は話したい事がある…」
ついさっきまでの表情とは違った顔を木嶋はしていた。
それは久しぶりに会ったチームメイトに向けるような表情では無かった。
「いいよ。それじゃ公園の中で話そうか」
「すまんな…」
俺達は無言のまま中央公園に入っていった。・
公園内部は今日のイベントはすでに終わっていて、人影もまばらだった。
俺達は空いていたベンチに並んで腰掛けた。
「それで話って?」
「うん…あのさ…」
木嶋は前かがみになり、足元を見ていた。
そして、一つ大きく息を吐いてから顔を上げた。
「すまん、さっさと話す。佐藤はさ志望校とかはもう決まってるん?」
「一応、教育大学に進学しようかと思ってるけど。木嶋はどうすんだ?」
「俺は推薦で受けようと思ってる。K大のさ…」
その大学の名前を聞いて、俺の胸の奥がチクッと痛んだ。
その大学から以前にサッカー推薦での進学を誘われていたからだった。
もっとも怪我をしてからは、全く連絡は来なくなっていた。
俺の膝の怪我が重傷だってことが向こうに伝わっての事だろう。
「K大ってことは、やっぱサッカー推薦を受けるん?」
「セレクションで合格してな…どこまで自分が行けるのか、厳しい場所で挑戦してみたくなった」
横目で木嶋を見る。日焼けし引き締まった顔つきをしている。
誰よりも真面目に練習に取り組んでいた男だった。
そのストイックさに、どれだけチームが引っ張られていただろう。
K大は関西の私立大学で、サッカー部は全国でも有数の強豪校だった。
チームは3軍まであり、激しい競争で切磋琢磨するサッカー部として有名だった。
OBにも多くのプロ選手もいた。
「佐藤が怪我で空いた席が俺の所に廻ってきたんだよ。それでこの前セレクションを受けてな。本当なら先に話しておくべきだった。遅くなってすまん」
「そんな事、気にするなよ。俺はもう別の進路に向かってんだしさ。ほんま、頑張ってくれな」
「佐藤、ありがとう!俺、まじで頑張ってみる!…それと、もう一つ話したいことがあるんよ…セレクションの時にいたんだよ。S商業のやつ… 背番号4番のあいつ」
「あいつか…」
県大会準決勝の後半が始まって10分。
後方から足元へのスライディングを受けた俺は、左膝を痛めてそのまま退場をした。
その時のファールをした相手が4番のデフェンスの選手だった。
俺が担架で運び出されている時、あいつこっちを見て笑っていたっけ…
「あいつはセレクションには落ちたんよね。それでさ、帰り際に言われたんよ。お前も潰しておけばよかったって…やっぱ佐藤に対してしたことが許せんで、ぶん殴ってやろうかと思ったんやけど、周りに人もいたし。睨むことしか出来んかった」
「手を出さなくて正解やったよ。それとあの試合での怪我は、あくまでも試合中のアクシデントやと俺は思ってる。それも含めてサッカーだってね。だからもうあんなヤツのことは忘れてろ」
「そっか。佐藤がそう言うなら…話し聞いてくれてありがとう。なんかこう、もやもやしてて。時間取らせて悪かったね」
木嶋はベンチから立ち上がった。それを見て俺も立ち上がる。
「木嶋が頑張ってるのを見たら、俺もやる気出てきたわ。こう見えても真面目に受験生やってるんやで」
「それなら良かった…なあ佐藤。佐藤は本当にもうサッカーをやらないのか?もうお前と一緒にサッカーをすることはできないんか?」
「完全に回復するのは無理だってっさ。でもサッカーを辞める事によって見えてきた事もあるし。ごめん、それに関しては何も言えないかな」
木嶋の表情が曇る。
俺は立ち上がると、木嶋の肩を叩いて頷く。
「俺は俺の道を進むしかないんよ」
「そうだよな、佐藤が考えて出した答えが今やもんな…俺はこのまま、ランニングして帰るわ。またLINE送る。それじゃまた!」
公園の出口で走っていく木嶋の背中を見えなくなるまで見送った。
「人はいつだって、今の自分を受け入れて勝負していくしかない」
膝の手術の後に、ゆき兄に言われた言葉だ。
わかっている。
過去なんて変えれない事ぐらい。
そして道なんていくらでもあることも。
だけど、木嶋の姿に怪我をしなかった自分を重ねて見てしまった。
それでも真っ直ぐに向かえば、花火大会には余裕で間に合う。
俺の周辺にいた他の受講者達も今から花火を見に行くようだった。
スマホを取り出して、連絡を取り合う人も多いようだ。
周りに置いていた勉強道具を片付けてリュックに詰め込むと、顔見知りに簡単に挨拶をして予備校を後にした。
玄関から外へ出ると、一気に夏の蒸し暑い空気が体を包み込んだ。
予備校の教室内は冷房がいつも効きすぎて少し肌寒い。
着込んでいたシャツを脱いでリュックに詰め込こんだ。
幾分涼しくはなったが、とても快適とは言えるほどではない・
観光通りから中央通りを高松駅方面に向かって歩く。
駅前へ向かう中央通りは渋滞していて、ほとんど動いていないようだった。
時折クラクションが鳴り響いていた。
歩道には浴衣姿の女性や子供、家族連れなど多くの人がサンポート方面へと向かっていた。
その流れに乗って、俺はのんびりと歩いていた。
「おーい、佐藤!」
中央公園の横を歩いていると、誰かが俺に声を掛けてきた。
聞き覚えのある声だった。
振り返ると、公園の出入り口から俺の方に誰かが手を振りながら、こちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「久しぶりやね」
高校の同級生でサッカー部のチームメイトの木嶋だった。
半パンにTシャツ姿で、シャツは汗で体に張り付いていて、少し肩で息をしていた。
手足や顔は真っ黒に日焼けしている。
以前よりも体つきも少し大きく見える。
「久しぶり。公園でトレーニングでもしてたん?」
「いや…普通にランニングしてただけ。暑くてほんと嫌になる」
呼吸を整えながら、木嶋は半パンのウエストに挟んでいたタオルで顔の汗を拭いていた。
「佐藤はこれからどこかへ行くん?」
「俺は予備校の帰り。花火見ながら帰ろうかと思ってさ」
「予備校か…ああ、それでサンポートの方へ向かってんか」
「そういう事よ」
「今は少し時間あるかな?実は話したい事がある…」
ついさっきまでの表情とは違った顔を木嶋はしていた。
それは久しぶりに会ったチームメイトに向けるような表情では無かった。
「いいよ。それじゃ公園の中で話そうか」
「すまんな…」
俺達は無言のまま中央公園に入っていった。・
公園内部は今日のイベントはすでに終わっていて、人影もまばらだった。
俺達は空いていたベンチに並んで腰掛けた。
「それで話って?」
「うん…あのさ…」
木嶋は前かがみになり、足元を見ていた。
そして、一つ大きく息を吐いてから顔を上げた。
「すまん、さっさと話す。佐藤はさ志望校とかはもう決まってるん?」
「一応、教育大学に進学しようかと思ってるけど。木嶋はどうすんだ?」
「俺は推薦で受けようと思ってる。K大のさ…」
その大学の名前を聞いて、俺の胸の奥がチクッと痛んだ。
その大学から以前にサッカー推薦での進学を誘われていたからだった。
もっとも怪我をしてからは、全く連絡は来なくなっていた。
俺の膝の怪我が重傷だってことが向こうに伝わっての事だろう。
「K大ってことは、やっぱサッカー推薦を受けるん?」
「セレクションで合格してな…どこまで自分が行けるのか、厳しい場所で挑戦してみたくなった」
横目で木嶋を見る。日焼けし引き締まった顔つきをしている。
誰よりも真面目に練習に取り組んでいた男だった。
そのストイックさに、どれだけチームが引っ張られていただろう。
K大は関西の私立大学で、サッカー部は全国でも有数の強豪校だった。
チームは3軍まであり、激しい競争で切磋琢磨するサッカー部として有名だった。
OBにも多くのプロ選手もいた。
「佐藤が怪我で空いた席が俺の所に廻ってきたんだよ。それでこの前セレクションを受けてな。本当なら先に話しておくべきだった。遅くなってすまん」
「そんな事、気にするなよ。俺はもう別の進路に向かってんだしさ。ほんま、頑張ってくれな」
「佐藤、ありがとう!俺、まじで頑張ってみる!…それと、もう一つ話したいことがあるんよ…セレクションの時にいたんだよ。S商業のやつ… 背番号4番のあいつ」
「あいつか…」
県大会準決勝の後半が始まって10分。
後方から足元へのスライディングを受けた俺は、左膝を痛めてそのまま退場をした。
その時のファールをした相手が4番のデフェンスの選手だった。
俺が担架で運び出されている時、あいつこっちを見て笑っていたっけ…
「あいつはセレクションには落ちたんよね。それでさ、帰り際に言われたんよ。お前も潰しておけばよかったって…やっぱ佐藤に対してしたことが許せんで、ぶん殴ってやろうかと思ったんやけど、周りに人もいたし。睨むことしか出来んかった」
「手を出さなくて正解やったよ。それとあの試合での怪我は、あくまでも試合中のアクシデントやと俺は思ってる。それも含めてサッカーだってね。だからもうあんなヤツのことは忘れてろ」
「そっか。佐藤がそう言うなら…話し聞いてくれてありがとう。なんかこう、もやもやしてて。時間取らせて悪かったね」
木嶋はベンチから立ち上がった。それを見て俺も立ち上がる。
「木嶋が頑張ってるのを見たら、俺もやる気出てきたわ。こう見えても真面目に受験生やってるんやで」
「それなら良かった…なあ佐藤。佐藤は本当にもうサッカーをやらないのか?もうお前と一緒にサッカーをすることはできないんか?」
「完全に回復するのは無理だってっさ。でもサッカーを辞める事によって見えてきた事もあるし。ごめん、それに関しては何も言えないかな」
木嶋の表情が曇る。
俺は立ち上がると、木嶋の肩を叩いて頷く。
「俺は俺の道を進むしかないんよ」
「そうだよな、佐藤が考えて出した答えが今やもんな…俺はこのまま、ランニングして帰るわ。またLINE送る。それじゃまた!」
公園の出口で走っていく木嶋の背中を見えなくなるまで見送った。
「人はいつだって、今の自分を受け入れて勝負していくしかない」
膝の手術の後に、ゆき兄に言われた言葉だ。
わかっている。
過去なんて変えれない事ぐらい。
そして道なんていくらでもあることも。
だけど、木嶋の姿に怪我をしなかった自分を重ねて見てしまった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる