妹に振り回される土下座する無敵な兄

なぐりあえ

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四話

対面

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ソニアには妹がいる事が発覚してからが早かった。
 レッドグレイブ家の末娘は騎士学校を卒業して王宮に勤める事になっていた。フレイルの取り計らいにより直ぐにお茶会の開催が決まった。
 マルテは領に戻らなければならないのでお茶会にはオーズ、ソニア、アーティ、フレイルの四名とまだ見ぬ義妹ルーンだけが参加する事になった。
 レッドグレイブ家の顔合わせなのでフレイルは関係無いのだが、二人の護衛騎士が同時にいなくなるのは問題あり、フレイルも参加する形になってしまった。と言うよりフレイルが自ら参加すると無理やり自分を捩じ込んだのだ。
 そうしてお茶会の日になった。王宮の一室でこじんまりとオーズが座っている。その横には勿論フレイルも座っていた。オーズは緊張しており新たな妹になんと声をかけたらいいか決めかねていた。そんなソワソワ落ち着かないオーズをフレイルは情けない兄だなと呆れながら見ていた。
 ルーンを呼びに行ったソニアはまだ帰ってこない。たった数分の事だがオーズはとんでもなく長い時間に感じられた。
 扉の向こうからソニアの声が聞こえた。
「姫様、連れて参りました」
「入りなさい」
 フレイルが入室の許可をするとゆっくりと扉が開かれた。ソニアを先頭にその後ろから一人の女の子が入ってきた。おそらくこの子がルーンであるとオーズは思った。
 ルーンはソニアと同じく赤い髪に褐色の肌をしており、髪は短くさっぱりしていた。まだ見た目も幼さが残る少女であるがきっちりとした騎士の格好をしており、その容姿とのギャップがあった。
 フレイルが椅子から立ち上がるの見てオーズは慌てて立ち上がった。
「初めまして、貴女がソニアの妹のルーンね。お会いできて嬉しいわ」
 フレイルは初対面の相手なので一応猫を被って挨拶した。
「はい!ルーン・レッドグレイブと言います!この度は姉共々お茶会にお招き頂き誠にありがとうございます!」
 ルーンはハキハキと感謝の意を伝えた。オーズもなんて挨拶をしようかと口をモゴモゴさせているとソニアが気を利かせてくれて紹介してくれた。
「そちらにいるのがこの間姉上と結婚したオーズだ。そしてこちらがその妹のアーティ殿だ」
「ど、どうも、オーズです。結婚しました」
「アーティです。よろしくお願いします」
 何ともアホらしい挨拶をしたオーズをルーンは睨みつけた。可愛らしい顔をしているが流石騎士の家系でありその形相は迫力あるものであった。
 ――あっ嫌われてる
 オーズは直ぐ様気付いたがどうする事も出来ない。恐らく結婚の事だろが今更結婚はやっぱ無しなんて出来る訳がない。
「さあ、どうぞ座って下さい。貴女の事を知りたいわ」
「失礼します」
 フレイルが着席を勧めるとルーンは断りを入れつつオーズ睨みつけながら歩いた。あまりにオーズを凝視する為ルーンは椅子に足をぶつけてしまった。しかし何事もなかった様に睨みつけながらルーンは着席した。
「アーティ、皆さんに紅茶を出して差し上げて。その後は貴女も一緒に座ってお話ししましょう」
 フレイルの指示でアーティがお茶の用意を始めた。本来あり得ない指示だが特に注意する人間はここにはいない。
「ルーンったらこんなに可愛い妹がいるのに何も教えてくれなかったんですよ?」
「いえ、私なんて姫様に紹介される程の者では……」
「そんなに緊張しなくてもいいのよ?歳も近いしもっと気を楽にして」
「は、はい」
 フレイルがそう言うが相手はこの国のお姫様なのでルーンも簡単に態度を崩せない。
「ほら、オーズも何か言いなさい」
「えっと、先日マルテさんと結婚してレッドグレイブ家の一員になりました。よろしくお願いします」
「どうも」
 ルーンは明らかにオーズを歓迎していないのが分かる。どうもと言いつつもオーズを睨みつけている。
「紅茶です。お好みで砂糖とミルクを入れて下さい」
 アーティが紅茶を淹れてくれたので皆で紅茶とお菓子を楽しむ事にした。紅茶に砂糖を入れながらもルーンはオーズを睨みつけている。
 オーズを睨みつけるあまり手元がお留守になっており紅茶に何度も砂糖を入れている。これでは紅茶を飲むのか砂糖を食べるのかは分からない。
 案の定紅茶を口に含んだルーンは蒸せてしまった。
 アーティが慌てて側に寄るが顔を赤くしながら、「大丈夫です」と一言つぶやいた。
 そんなギクシャクしながら本格的にお茶会が始まった。オーズとアーティの生い立ちやレッドグレイブ領であった事などを話した。一応まだ土下座スキルの事は隠している。その為マルテはオーズに一目惚れして結婚した事になってしまった。
 これではルーンがオーズを睨み付けるのも納得である。オーズが何かマルテの弱みを握っているか、怪しいスキルを使っているか疑っているのだ。
 ルーンはフレイルが話せばキリッと騎士の顔をして、オーズが話せば眉間に皺を寄せて睨みつけ、アーティが話せば穏やかな顔になり、終始忙しそうに表情をコロコロ変えていた。そんなルーンを見てソニアは呆れて何も言えなかった。
「ルーンは今まで何をしていたの?」
 今度はフレイルがルーンの事を聞いた。
「はい!騎士学校で訓練をしておりました。それで姉上と同じ護衛騎士を目指しています」
「それに神殿でスキルも授かったと聞いているわ」
「え、あ、はい。一応そうです」
「ソニアの妹なら大歓迎だわ。私の護衛騎士に任命します」
 フレイルは嬉しそうにしているがソニアが口を挟んできた。
「姫様、そう簡単に護衛騎士を決めないで下さい。オーズの時も周りから相当反感を買いました」
「別にルーンは騎士なのだからオーズの時とは違って問題ないでしょ?」
「現状護衛騎士は皆レッドグレイブの人間です。そこにルーンまで加われば明らかに贔屓していると見られます」
「縁故採用なんて王宮では当たり前じゃない」
「それでも正式に護衛騎士として選別試験をしなければ他の家に申し訳が立ちません」
 オーズは選別試験なるものがある事を初めて知った。あったとしても戦闘経験のないオーズは決して受からなかっただろう。
 オーズが護衛騎士として任命されて白い目で見られていたのは平民出身である事と試験を免除された為であった。そんな周りの白い目も王宮で土下座をしている場面を目撃された事により同情や哀れみの目になっていった。
「なら新たな護衛騎士決める選別試験をしましょう。ルーン、必ず受かりなさい」
「はい!」
 と言うわけであっという間に選別試験を開催する運びとなった。


数週間後、護衛騎士の選抜試験が開催された。試験は騎士達が訓練で使う森林で行われる。
 フレイルも試験の見学の為、森の入り口まで来ていた。
「皆さん、どうかお怪我をなさらずに」
 フレイルは選抜試験に挑む騎士達に心配してる風な言葉を掛けているが微塵もそんな事は思っていない。実際の試験は森の中で行われフレイルは見れない為「つまんねーな」と不貞腐れていた。
 試験に挑む騎士に対して一人の試験官がついて選抜は行われる。ルールは簡単であり騎士は自らの試験官を守りながら相手の騎士の撃破を目指すのだ。試験官にかすり傷一つでもついたらその騎士は失格となる厳しい試験となっている。
 そんな厳しい試験でルーンを担当する試験官はオーズであった。ここでもフレイルは無理やりオーズを試験にねじ込んだのだ。一応ソニアから厳格な試験なので不正は無いようにと厳しく忠告されているのでオーズ自身がルーンに手助けする事も土下座により攻撃を防ぐ事も禁じられた。
 それでもフレイルが試験官としてオーズを捩じ込んだ理由は故意にルーンを試験で落とす者がいる可能性を考慮した為だ。護衛騎士を独占しているレッドグレイブ家をよく思わない人間はいくらでもいる。その対策としてオーズを試験官に据えたのだ。
「それでは選抜試験を開始する。まずは一組目から森に入ってくれ」
 ソニアの指示により一人の騎士と試験官が森の中に入って行った。その数分後にもう一組、更にもう一組と森の中に入って行く。
 ルーンは全体の半分くらいの所で呼ばれてオーズと共に森の中に入って行った。
 これは試験なのでどんなにルーンがオーズの事を嫌っていてもルーンはオーズに近寄り行動しなければならない。オーズとしてはこの二人っきりの状況で何とか歩み寄りたいと考えていた。
 ルーンもレッドグレイブ家の人間なのでオーズの事は全部話してもいいと考えていたが、オーズのスキルは公然の機密だが一応護衛騎士に受かるまで黙っている事になっている。フレイルはルーンに話しても問題と考えているがソニアが断固反対した。言いたくても言えない、そのもどかしさもオーズを苦しめていた。

 森の中をオーズとルーンは歩いて行く。試験中とはいえ何も喋らない気まずい沈黙にオーズ耐えきれずルーンに話しかけた。
「あのールーンちゃん?」
「なんですか」
「いや、その試験頑張ってね」
「言われなくても。ソニア姉様とフレイル様が何を考えているか分かりませんが貴方の助けはいりませんから」
「大丈夫、手助けしないようにってソニアさんに言われているから」
「そうですか」
 ルーンは目も合わせずオーズと会話した。またもや二人の間に気まずい沈黙が訪れた。、歩く音と鳥の囀りしか聞こえない。
「あの……」
 オーズが話しかけた瞬間、ルーンは言葉を遮ってオーズの方を向いた。
「私、貴方の事を疑っています」
「えっと何を?」
「私は厳しい訓練を乗り越えて騎士になりました。それなのに貴方は平民出身なのに突然護衛騎士になって、更にマルテ姉様と結婚するなんて絶対おかしいです」
「まあ、そうだよね」
「マルテ姉様もソニア姉様も貴方に騙されているんです!そうとしか考えられません!それにギースリー兄様もおかしくなったって聞きました。しかも貴方がマルテ姉様と結婚した時と同じ時期に!」
「そうだよねー」
「これで貴方を疑わない方がおかしいです!私が護衛騎士になったら貴方の不正を暴いて皆んなの目を覚まさせます!」
 フンガフンガとルーンは息巻いている。そうして言い訳しようにも何も言い返すことが出来ないオーズはただあたふたしていた。
「えっと本当は大切な事情があるんだよ」
「突然結婚する事情ってなんですか?」
「普通はないよねー」
「それにアーティさんも本当に貴方の妹なのかも怪しいです」
「え、そっちも?」
「あんな気の利くいい子が貴方のような悪人の妹の訳がありません」
 妹を褒められるのは嬉しいオーズだが自分を悪人扱いされるのは、それはそれでショックであった。これまでも小心者だとか恥ずかしげもなく土下座する小物だとかは言われたが、悪人とまでは流石に言われなかった。
 すると遠くから笛の音が聞こえた。この笛はソニアが吹いてる。ルーンは模造刀を抜き盾を構えた。
「試験開始の合図だね」
「邪魔をしないで下さいね」
「しないよー」
 オーズは情けない声で反論した。

 ソニアが笛を吹くと森の中が一気にざわつき始めた。
「ねえ、ソニア。ルーンは選抜試験に受かると思う?」
 フレイルはソニアに質問した。
「ルーンもレッドグレイブ家の人間です。幼少より訓練をしてきましたので簡単に負ける事はないです」
「なら安心ね」
「ただ志願者の中にはスキルを持っている物もいます。それを使われると戦況は厳しいものになるかと」
「でもルーンもスキルを持っているのでしょ?」
「はい、かなり強力なスキルです。ただルーンはスキルを使わないの筈です」
「え?」
 フレイルはソニアの言っている意味が分からなかった。ただソニアの表情は曇っており、ルーンはスキルが使えない何なかの事情がある事は何と無く分かった。
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