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一話
インチキ霊媒師、異世界へ
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「これでこの家に取り憑いた悪霊は成仏しました。これからは幻聴に悩まさせる事なく安心して暮らすことが出来るでしょう」
「ありがとうございます、雲水様」
妙齢の依頼人と固い握手して報酬が入った封筒を貰った俺はさっさとこの屋敷から出て行った。
車の中で封筒を開けると十万円が入っていた。全く適当に念仏を唱えるだけで十万なんてボロい商売だ。
妙齢のおばさんに雲水と呼ばれた俺は霊媒師を生業としている。勿論、雲水とは霊媒師として活動する為の名前である。霊媒師と言っても幽霊を見た事は一度たりとも無く、幽霊の声も聞いた事は無い。幽霊を見れないし声を聞けないので成仏したかも勿論分からない。
なのでこの仕事は除霊をするのではなく、いかに依頼人を満足させるかが肝なのだ。
大体幽霊なんかいる訳が無い。未練があるだけで幽霊になるなら世界中幽霊だらけだ。依頼人も幽霊がいるとか何とか言ってるが大体は何かの病気か勘違い、もしくは家の欠陥である。
それでも全国各地から霊媒師としての仕事が舞い込み毎日忙しい日々を送っている。
東に怨霊のせいで入院した男がいれば行って南無阿弥陀と言い、西に怨霊のせいでノイローゼになった母がいれば行って南無阿弥陀と言い、南に怨霊のせいで家庭崩壊した家族がいれば行って南無阿弥陀と言い、北に怨霊のせいで死にそうな爺さんがいれば行って南無阿弥陀と言う。
日本全国津々浦々南無阿弥陀除霊旅である。世の中不安を抱えて生きている人間ばかりだ。
俺は袈裟や着物を着ないで黒スーツに黒ネクタイと言った非常にシンプルな出立ちだ。右手首にワンポイントの数珠を着けて、髪は黒髪のスッキリとした短髪にしている。
俺から言わせれば如何にもな格好をしているとどうにも胡散臭くなり、怪しくなる。見た目の説得力が増すと人の心に安心感と信頼感を与える事ができる。
依頼人と話すときは温かい慈悲の目をして微笑んでいる。我ながら演技派である。
依頼人の悩みを聞き、寄り添い、それっぽい念仏を唱える。
依頼人は救われて俺はお金を貰える。なんて素晴らしい関係なのだろう。これだから霊媒師は辞められない。素晴らしきかな我が人生。
そしてこの仕事を長く続けるコツは目立たない事だ。決してテレビに出ず細々と依頼を受けていく。
有名なれば必ず粗を探す人間が出てきて俺の邪魔をする。インチキだとか詐欺師とか罵って集団で俺を潰しにかかるだろう。一円にもならないのに人叩く暇があるなら働けばいい。どいつもこいつも無駄な労力で無駄なことをしている。貧乏人の嫉妬であろうが、ああ嘆かわしいし鬱陶しい。
そうならない為に知る人ぞ知る霊媒師として活動していくのだ。金さえ貰えれば何も要らない。目立たず影に隠れてドブネズミのようにコソコソと生きていく。プライドや自己顕示欲は身を滅ぼす事は過去の偉人達が身の持って証明している。
俺は他の霊媒師と違って馬鹿でも見栄っ張りでもなく、依頼人と違って軟弱でも臆病でもない。賢く生きているのだ。
俺は車を走らせてサッサとこの場から立ち去った。俺は振り返らない。
さようなら名も知れぬ依頼人よ、二度と会う事は無いだろう。幸せに暮らせよ。
俺はマンションの自室で次の予定を確認していた。部屋の中は調度品も芸術品も置いてない、必要最低限の家具しかないシンプルな部屋である。
無駄なものに金を使わないのは俺のこだわりであり、楽しみは通帳に刻まれる預金残高を見る事だ。金だけを信用している。
いや金すらも信用していないかもしれない。日本円をドルに、ユーロに、金貨に、土地に、換えて資産形成している。株も過去にやった事があるが日常的に上がり下がりしている為心休まらず止めてしまった。
酒もタバコもギャンブルもしない、質素で慎ましい生活を送っているのだ。家族も結婚相手も恋人もいない、実に自分勝手の自由な生活を送っている。
最終的には有り余る金で高級老人ホームにでも入って余生を過ごそうと思っている。
三十二歳にして人生を逃げ切れる位の金は十分あるのでいつでも霊媒師を辞めてもいいが何だかんだ続けている。やはり金を信じていないのかもしれない。
「明日は少し遠いな、早く寝るか」
予定を確認し終えてスケジュール帳をテーブルに置いた。部屋着に着替えようとしスーツを脱ぎかけたその時、俺の足元に黒い渦が現れた。
俺は叫び声を上げる暇もなく渦に吸い込まれてしまった。その後の自室の様子は分からない。ただあたり一面真っ暗の空間を墜ちているのだけは分かる。
地面も掴むところも無くただ墜ち続ける俺に誰かが語りかけた。
「改心せよ」
あまりに傲慢で偉そうな声は何処から聞こえてきたかは分からない。男なのか女のなのか子供なのか年寄りなのかも分からない。
その言葉は暗闇を堕ちていき恐怖している俺の神経を逆撫でするような非常に気に食わないものであった。恐怖するのも忘れてイラつきが俺の感情を支配した。
声の主は誰かは分からないが俺をこの暗闇に引き摺り込んだ奴なのは間違いない。俺はプライドは無いがコケされて黙っていられるほど優しい人間ではない。具体的な方法はまだ決めていないが、必ずやあの不愉快な声の主に後悔させてやると固く誓った。
暗闇から落っこちた。盛大に石畳に落ちた為お尻が痛いのなんの。
痛みを堪えてキョロキョロ見回した。ここが何処だか分からないが大きな窓からキラキラと太陽光がこれでもかと入っており、並んだ大量の長椅子に信者らしき姿、厳かな雰囲気は教会か神殿かと思わせた。
背後にはそこそこ大きい女の像が祀られておりこれが信仰対象なのだろうと直感で分かった。
もしかしたらコイツが俺をここに落とした張本人かもしれない。俺が像を睨みつけていると後ろから女性の声が聞こえた。
「御使様?もしかして御使様なのですか?」
女性は金髪で白のローブを着ており明らかに聖職者と言った格好をしていた。
正直困惑していたがこんな訳の分からない状況は仕事現場では日常茶飯事である。この間は山奥の村で村人に囲まれながら怪しい儀式に参加させられた。そんな時も嫌な顔一つせず笑顔で対応した。正直村人が松明を持ってぐるぐる俺の周りを踊っていた時は死を覚悟した。
「すいません、ここは一体何処でしょうか?」
それと比べればなんのその。俺は営業スマイルを披露して何とかこの女性から情報を聞き出さなければならない。
「は!すいません、えっとここは街のロータス教の教会で私は修道女のアイリスと言います」
アイリスは慌てて頭を下げて自己紹介した。ここが教会という事はこの女の像はやはり信仰対象なのだろう。
「そうですか、私の名前は雲水と言います」
とりあえず俺も自己紹介。こういう丁寧な対応が仕事では大切なのである。挨拶を疎かにしている若者よ、とりあえず丁寧に頭を下げとけば大抵何とかなる。覚えおくと社会に出た時助かるぞ。
「あのーウンスイ様は御使様なのですか?」
アイリスはさっきから俺のことを御使様と呼んでいる。
御使、おそらくこの女の像がここに寄越したと思っているのだろう。しかしどうしよう、そんな気もするがここで「はいそうです」と答えるとこの像の思う壺のような気がする。
「いいえ、私は突然ここに落ちてきたのです。それが貴方の言う御使なのかは分かりませんが」
とりあえず判断は保留。アイリスの反応を見てから考えよう。
「そうなのですか……でもウンスイ様が自覚していないだけできっと女神様の御導きです。だからウンスイ様はきっと女神様からの御使様のはずです」
女神様からの御使様ねぇ、そんな重要そうな事を気がするだけで判断していいのだろうか。アイリスは自分の都合の良いように考えてるだけではないか。
その俺を見るキラキラした目は仕事現場でよく見る俺を盲信している依頼人のダメな目だ。アイリスは直ぐに悪い奴に騙されるだろう。
「御使様ならきっと屋敷の悪霊を退治出来るはずです」
「悪霊退治ですか?」
悪霊退治か、何処に行ってもやる事は変わらないのか。しかし悪霊退治なら俺の得意分野だ。適当にやってサッサとこの場から去ろう。
「はい、悪霊が出て近隣の住人が困っているのです」
「私に出来る事なら協力しましょう。これでも少しだけ覚えが有るのです」
俺は営業スマイルでアイリスに微笑んだ。ここで重要なのが決して「退治してやるとか」「俺に任せろ」なんて言わずに謙虚に対応するのだ。
その後の逃げ道を残すのがその道のプロである。霊媒師に絶対など無いのだ。
アイリスは喜び早速現場に行こうと僕の手を引いた。そんなにその悪霊が怖いのか。それとも御使様とやらに会えて気分が舞い上がっているのか。
教会の扉を開けて外に出ると驚愕した。街並みは石造りの洋風のものだが歩いている住人は明らかに地球のそれと違い、やたらと背が低かったり耳が長かったり、更に顔が獅子であったりとファンタジーの世界観そのものであった。
いつものスーツがこの世界では浮いておりチラチラと皆がこちらを見ている。俺もキョロキョロと見回すが俺のような格好をしている人間は存在しない。あの気に食わない声の主は随分面倒くさい世界に俺を連れてきた様だ。
そんな俺の動揺など梅雨知らずのアイリスは元気に俺を霊が出る例の屋敷にズンズンと案内していく。首から下げている女神を形どったロザリオの様なものが意気揚々と揺れている。
繁華街を抜けて少しずつ住宅街になっていき、そして大きな屋敷が見えてきた。
ぐるりと高い塀に囲まれて大きな庭がある二階建ての屋敷である。
しかし塀も屋敷の壁もボロボロで人の手が入っておらず、長年の誰も住んでいない事は一目で分かる。
門は鉄柵でできており開かないように鎖でグルグルに閉めらている。その門の前には場違いな女神像が置かれており、この屋敷の悪霊を封印しているのだと直感した。本当に効果があるのか?
おそらく日本のお札の代わりなのだろう、何処の世界もやる事は大体同じなんだな。
「ここが悪霊が出る屋敷です。もう長年誰も住んでないはずなのに屋敷の中から叫び声が聞こえるんです」
「それは恐ろしい」
「本当は司祭様が浄化するのですか、この街の司祭様はぎっくり腰になってしまい誰も浄化出来ないのです」
ふーん、その司祭様も怪しいな。霊なんて誰にも見えないのにさも自分の力で浄化したとか言っているのだろう。
それに屋敷から声が聞こえるなんて馬鹿馬鹿しい。この手の除霊はよくやった。大抵は何処ぞの不良の溜まり場になってるだけで事件性も心霊性も無いのだ。
まあ、適当に夜張り込んで不良達にここで遊ぶなって忠告すれば終わりであろう。
「何処から入ればいいのですか?」
「えっと裏口がありまして、そこから庭に入れます」
「じゃあそこに行きましょう」
裏口が開いているなら正門を閉めても意味がないだろ。そこから不良が侵入しているのだろう。ならそこを塞げばこの幽霊騒ぎも解決だ。
ただその前に屋敷に入ってそれっぽい事をしないといけない。ここに禍々しいオーラを感じるとか、霊界への入り口が開いているとか、そんな最もらしい事を言わないと依頼人は満足しないのである。
依頼人は納得したいだけなのだ。幽霊の正体が本物であろうが、不良であろうが、猫であろうが何でもいい。俺は幽霊の仕業と言って納得してもらうだけだ。
裏口から庭に入るとあたり一面雑草だらけで全く庭の管理をしていないのが分かる。かろうじて石畳の道を進む事ができるくらいで、昔どんな綺麗な庭であったか想像も出来ないほど荒れ果てていた。まさに幽霊屋敷。
裏庭には簡素な墓らしきものがあった。この世界の埋葬方法は知らないが、屋敷の主人を庭に埋めるなんてしないだろう。この屋敷で飼っていた猫か犬かの墓かもしれない。
裏庭からぐるりと屋敷を回って玄関まで来た。さていつものお決まりの台詞を言おう。
「こ、これは……」
「ああ、禍々しいオーラを感じます」
アイリスが先に俺を台詞を言ってしまった。アンタが言ったらダメだよ。それを感じるならアンタが除霊をしろよ。
俺は咳払いを一つして改めて言い直した。
「アイリスさんも感じるのですね。危険ですので私だけで中に入ります」
「お願いしますウンスイ様」
アイリスは神に祈るように手を組んだ。
俺は大きな玄関の扉を開いた。ギシギシと音を立てて埃を落としながら扉はゆっくりと開いていく。
扉が少しだけ開きエントランスホールが見えた。そこには……
「どうして……どうして……どうして……」
半透明で禍々しいオーラを放つドレスを着た女性が座り込んで啜り泣いていた。
バタン。俺は扉をそのまま閉めた。
「ああやっぱり、女神様に愛されなかった哀れな霊がいました」
アイリスは震えながら怯えている。
「一度戻りましょう」
俺は一度帰ることにした。
教会に戻った俺は椅子に座りながら考えていた。
マジでいた、初めて幽霊を見た、聞いてない、いや初めから聞いていた筈、でも本当にいると思わないだろ?どうする?逃げるか?そもそも除霊ってどうやるんだよ?マジでいるの?
あれこれ思考が頭をぐるぐる回転している。それでも不安な表情は表には出さない。なぜなら直ぐそこでアイリスが目を輝かせながら見ているのだ。
「ウンスイ様、それで悪霊の浄化は上手くいきそうですか?」
出来るわけないだろ。こちとらインチキ霊媒師だぞ。
だがどうする。ここで出来ませんと言ったら。俺はこの教会から追い出されて、このファンタジー紛いの世界で一人で生きていくのか?
いや無理だ、それならダラダラとそれっぽい事を言いつつアイリスを利用するのがいいだろう。この俺を盲目的に信用しているアイリスなら俺を養ってくれるに違いない。
まずはこの世界の浄化とやらを聞き出そう。もしかしたら念仏を唱えれば何とかなるかもしれない。
「アイリスさん、一つ質問をしていいですか?」
「はい、なんでしょう」
「いつもは司祭様が浄化をしていると言っていましたが、それはどの様な方法であの悪霊を浄化しているのですか?」
「司祭様は光魔法が使えるので悪霊に光魔法を放つのです」
無理だ。そんな暴力的に浄化するのかこの世界では。そもそも何だ光魔法って。光魔法を放つって何なんだ。手からビームでも出るのか。全く参考にならない。
「他の方法で浄化は出来ないのですか?」
「神聖味を帯びている武器で倒すとかです」
もう嫌だ。そんなゲームにみたいな理屈を現実に持ち出すなよ。俺は高校受験をきっかけにゲームは止めたぞ。この世界の住人はゲーム脳なのか?
「それとあの悪霊をそのままにしておくとどうなるのですか?」
「悪霊は今はまだ屋敷にいますが、そのうち屋敷から飛び出して人を襲うかもしれません」
「それは危険ですね」
悪霊が屋敷から出てしまうなら余計に退治しなければならない。退治したと嘘ついてそっとしておく事は出来ないと言う事だ。
「あの?ウンスイ様?」
「はい、なんでしょう?」
「もしかしてウンスイ様は別の方法で浄化するのですか?」
まあ、そうっちゃそうだが、そうじゃないと言えばそうでもない。ここはいつもの如く口先で乗り切ろう。
「はい、私は悪霊の言葉を聞き、そして悪霊がこの世に縛れている原因を取り除く事でその魂を救済しているのです」
ここで重要なのが浄化するとか成仏させると言わないと事。魂の救済と言う曖昧な表現を使ってはぐらかすのだ。
「そんな、悪霊は女神様を信仰しない者の成れの果てなのでは?だから死んでも女神様の祝福を受けられずこの世を彷徨っていると」
「その女神様は慈愛に溢れているはずでは?」
「はい、その通りです」
「なら全ての者に祝福を与えるはずです。もしかしたら悪霊は何らかの理由で現世に縛り付けられているだけかもしれません。私はそんな哀れな悪霊の魂を消滅ではなく救済をしたいのです」
出るは出るは思ってもいない事が口からスラスラと。長年霊媒師をやっていると自然とそれっぽい事が出る様になる。言い淀んだり考えたりしてはいけない。さも当然の様に、常識の様に、真理であるかの様にでまかせを言うのだ。
そんななんちゃて説法を聞いたアイリスの瞳から涙が溢れ落ちた。そしてスンスンと泣き始めた。
「ウンスイ様はなんて清らかな心の持ち主なんでしょう」
こいつチョロ過ぎる。
「私が間違っていました。悪霊を悪と決めつけ消滅させようとしてたなんて。それでは苦しみは消えず本当の意味での救済にならないのに」
悪霊への説得は割とポピュラーな方法だと思っていたが違うのだろうか。いや、こっちの世界のやり方が暴力的過ぎる気もする。
それにしてもそんな簡単に宗教観を曲げていいのか?人生かけて信仰してきたのではないのか?それを文字通りポッと出のオッサンの言う事に感動するなんて、もしかしてアイリスはヤバい奴なのでは?
アイリスはヨロヨロと女神像の前へ行き跪いた。そして胸の前で両手を組み祈り始めた。
「ああ、女神ロト様。これまでの私の浅はかな考えをお許しください。全ての人間に等しく慈愛を持って包み込む女神様を疑ってしまった事をお許しください」
祈りと言うより懺悔をアイリスはしている。このままでは話が進まないのでサッサと切り上げさせよう。
「女神様もきっとアイリスさんを許してくれますよ」
「ありがとうございますウンスイ様」
「私もアイリスさんの為に女神様に祈りを捧げましょう」
俺は女神様の前に跪きアイリスの見様見真似で祈り始めた。これくらいやっておけばアイリスは俺を放り出したりしないだろう。これで寝床の確保はできた。
後はどうやって日本に帰るかだ。あの声の主を探し出さなければならない。
「その必要は無い」
この尊大で傲慢そうな声は一度だけ聴き覚えのある忘れられない声である。
顔を上げるとそこは真っ白な空間になっており、目の前に女神像と同じ顔の女性が浮いていた。
「お前か、俺をこの訳の分からない世界に連れてきたのは」
俺は立ち上がりそいつを睨みつけた。人を見下す様な表情は俺を更にイラつかせる。
「人を欺き、私腹を肥やし、神の名を語る愚か者よ。改心する気はなったか?この世界ではお前の虚言は通用しない」
「改心?何で俺が。」
「虚言により人々を騙した罪を忘れたと言うのか」
「はっ、相手は満足してるのだ、何の問題はない」
「それが嘘であってもか」
「そうだ、嘘も方便。家族も、医者も、行政も、誰も解決出来なかったから私がそれを引き受けただけだ。そんなに俺が活躍するのが嫌ならお前が助けてやればいい」
「神は干渉しない」
「俺には干渉するくせにな」
「お前は罪人だからだ」
「救いはしないが制裁は与えるのか?随分自分勝手な神だな」
「その不遜な態度、いつまでも続けられると思うなよ」
「ご忠告どうも、そんなに心配するなら俺を家に帰しな」
「ならん、この世界で己が行いを悔いるがいい」
俺はいつの間にか教会で跪いた姿勢に戻っていた。アイリスの様子を見るに、それなりに話したつもりだが時間は経っていない様だ。
全く自分勝手な自称神だ。この世界で反省しろってここは地獄か何かなのか。好き勝手に言うくせに俺の質問に一向に答えようとしない。
「女神様への祈りは終わりました」
俺は立ち上がり微笑んだ。女神だろうが利用出来るもんなら何でも利用してやる。
「ありがとうございます。ウンスイ様は女神様のお声を聞いた事がありますか?敬虔な信徒は祈りを捧げるとそのお声を聞く事が出来るらしいのです。私はまだまだ修行の身なので聞いた事は無いのですが……」
どこの世界にもそんな事を言う奴がいるのか。
「いいえ、私もまだ女神様のお声を聞いた事はありません」
なにしろ俺は敬虔な信徒ではない、となると女神様の声を聞く事はできない筈。それならさっきの奴は女神様じゃない事になる。完璧な証明である。
「そうですか。聖都にある大聖堂の法王様は聞くことが出来たと言っていたのですが」
そいつはおそらく嘘だろう。誰にも聞こえないなら幾らでも嘘をつける。
「女神様のお声が聞けなくても貴方の行いは必ず見てくれている筈です。大切なのは聞こえるから信じるのではなく、聞こえなくても信じる事です。アイリスさんの信仰が試されているのです」
十八番の説法はアイリスの胸を打ったらしく感動している。このままでは霊媒師でなく教祖になってしまう。
さて、祈りも終わり本格的に悪霊をどうするか考えなくてはならない。まずは情報が欲しい。説得するにしても武器でブン殴るにしても。
そもそもあの霊は誰なんだ?元々は生きていた人間だよな?霊だけが自然発生する世界なのか?
「アイリスさん、あの悪霊と話す為にまず情報が欲しいのですが、あの悪霊は誰だか心当たりはありますか?」
「すいません、私にも分からないです。あの屋敷は随分前から誰も住んでいなくて」
「そうですか。それでは屋敷の持ち主を調べるにはどうしたらいいですか?」
「それなら役場に行けば居住届が残ってるかもしれません」
なるほど、世界でもしっかりと役所は仕事をしているのだな。それなら何か分かるかもしれない。
「なら早速役場に行って聞いてみましょう」
「はい!」
俺たちは教会から出て役場に向かった。
正直あの悪霊が何なのかはどうでもいいが、兎に角時間を稼いでこの世界の事を知る必要がある。それに上手く行けばアイリスを利用して暮らしていけるかもしれない。
あの自称神の思い通りになってたまるものか。改心?ふざけるな。何としてもアイツの期待を裏切らないといけない。俺はどの世界に行こうがやる事は変わらない。
アイリスに案内された役場で俺は受付嬢に用件を伝えた。悪霊が出るから屋敷の持ち主を調べて欲しいと。しかし、
「実は私共もその件に関しては承知しておりまして、ただ持ち主の貴族様が手出し無用と言っておりまして」
なんと家主は知っていたのだ。知っていて放置している事になる。
「近隣住民から教会に救いを求める声が届けられました。出来れば屋敷の中に入りたいのですが、もし許可なく入って処罰される訳にもいかないのでどうにかその貴族様に話がしたいのです」
俺は更に懇願してみた。既に屋敷の庭には入っているがそれは黙っておこう。屋敷には入っていないから嘘は言ってない。
「こちらとしても教会の活動を援助したいのは山々なのですが、貴族様の命に逆らえないのです」
あれだけデカい屋敷だ、それなりの地位の人間が持ち主だろう。そして一般市民と貴族では住む世界が違う様だ。
「どうにかなりませんか?迷える魂を救済したいのです」
アイリスも懇願しているが快い返事は返ってこない。
だが方法はある。あくまで俺が知りたいのは屋敷の持ち主の情報ではなく、悪霊の正体が誰なのかだ。
「なら、そこで働いていた使用人は紹介出来ますか?その人に貴族様に繋いでもらえる様に取り計らってもらいたいのですが。それなら貴族様の許可は必要無い筈では?」
「しかし、使用人と言えど貴族様の許可無しには」
「ではこう言うのはどうでしょう。私は新しく使用人を雇いたいのです。誰かいい人を紹介する事は出来ますか?」
「それってつまり……」
「何も言わないで下さい。私はただ人を紹介して貰いたいだけなのです。貴方はたまたまその人を紹介しただけです」
「うーん分かりました。ただ使用人程度では貴族様に取り継いでもらうのは難しいかと」
「少しでも可能性があるなら」
俺は営業スマイルで微笑んだ。
受付嬢が奥に引っ込んでしばらくすると古い紙の束を持ってきた。就労届けの様でそこから屋敷で働いていた人物を探しているが中々見つからない。
こちらの文字は俺は読めないので完全に受付嬢頼みである。ようやく一人だけ使用人として働いていた人物を特定出来た。ローラと言う女性でこの街に住んでいる老人らしい。
受付嬢にお礼を言って俺たちは外に出た。
「ウンスイ様、本当に貴族様に会えるのでしょうか?」
アイリスは心配そうに聞いてきたが何も問題無い。
「悪霊の正体を探るのが目的なので事情を知る者であれば誰でも良いのです」
「なるほど」
アイリスは納得してくれた様だ。そして一人でフンフン言って考えている。
俺達は住宅街にある小さな家の前に着いた。ここが紹介された使用人の家である。
「アイリスさんが呼び出して下さい。私の格好だと不審がられるので」
「はい」
アイリスは扉に付いているドアノッカーで扉を叩いた。しばらくすると扉がゆっくりと開き中からお婆さんが顔を覗かせた。
「あら、どちら様?」
「私はロータス教の修道士、アイリスと言います。ローラさんで間違いないですか?」
「はい、あっておりますが修道士様が何の御用で?」
「実はある屋敷で現れた悪霊についてお話したいのですが」
アイリスの言葉に反応してローラの顔は少し曇った。やはり何か事情を知っている様だ。
「どうぞお入り下さい。中でお話を聞きます」
ローラは俺達を部屋の中に案内してくれた。部屋はこぢんまりした作りで、テーブルには椅子が四脚備えられていた。
ローラに席に座るよう言われた俺達は遠慮なく座り、ローラはお茶の用意をしてくれた。
「さて、何をお話しすればよいのですか?」
ローラは明らかに暗そうな顔をしている。ここからは俺の出番である。
「あの屋敷では悪霊が出ると近所で騒ぎになっています。私は悪霊は何かこの世に未練や恨みがある為女神様の下へ行けないと考えております。ローラさん、悪霊について何か心当たりはありますか?」
「その悪霊と言うのは女性ですか?」
「はい、ドレスを着た白い髪の女性の霊です」
「あぁ、なんていうこと……」
ローラは手で口を押さえた。その表情は絶望している様な悲しげな表情であった。
「何か心当たりがあるのですね?私達はあの悪霊となった魂を救い女神様の下へ送ってあげたいのです」
俺は営業スマイルだけではなく営業シリアスモードも出来る。今の俺はそれはそれは真剣に魂を救いたいと願ういい男に映っているだろう。
「これは四十年程前の話です……」
そうローラは切り出した。
あの屋敷の持ち主はヴァントル・ネーロと言う貴族で今から四十年前にリリーと言う令嬢と結婚した。
リリーは病弱で一日の大半を床で過ごした。そんなリリーと何故ヴァントルは結婚したのか、それは借金である。当時多額の借金をしていたヴァントルはリリーと結婚する条件に借金の肩代わりをリリーの実家に頼んだのである。
リリーの実家も娘を煩わしく思っていたので快く快諾して金と一緒に娘を嫁に出した。
借金を返済したヴァントルにとってリリーはもう用済みなので屋敷の一つをリリーに与えてた。外に出れないリリーは実質軟禁状態になってしまった。使用人もローラとその旦那の二人だけしかおらず最低限の生活をさせるだけであった。
一方ヴァントルは他所で愛人を作り結婚式以来リリーと顔を合わせる事は無かった。
結婚から十年後リリーは流行病で息を引き取った。リリーの実家は遺体の引き取りを拒否し、ヴァントルさえもネーロ家の墓にリリーを埋葬する事を拒んだ。
リリーは屋敷の庭に埋葬されてた。葬儀には葬儀屋と司祭、そしてローラと旦那しか参列しなかった。親族おろかヴァントルさえも顔を出さなかった。
リリーの死後ヴァントルは愛人と再婚して今なお生きている。
「これがあの屋敷で起こった事です」
悪霊になる位だ何か恨みつらみがあるだろうと踏んでいたが胸糞悪い話だ。日本でも霊が出るとその理由を聞かされているが、実際目の当たりにすると気分が悪い。
「ひどいです……そんな事」
アイリスも目を真っ赤にさせている。やはりそこの所の感覚は俺と変わらないらしい。
「ここ最近リリー様の霊が出現する様になったのですが何か心当たりは?」
俺は更にローラから情報を引き出す。
「もしかしたら私が墓参りに行けなくなったからかもしれません。毎年奥様の墓参りに行っていたのですが主人も亡くなって、私も足を悪くして誰もお墓を管理していないのです」
なるほど、よくある話だ。しかしそれでは墓を管理する人間がいなくなればまた出てきてしまう。それは一時的な先延ばしに過ぎない。
それに今更墓に花を供えたところで大人しくしてくれるとは限らない。
「それとこの件に関しては貴族様から手出し無用と言われているのですが」
俺がそう言うとローラは黙ってしまった。そしてゆっくりと口を開けた。
「ここから先は老人の妄言と受け取って下さい」
「分かりました。妄言なので聞き流しましょう」
「ヴァントル様はお金に執着しておられました。司祭様に除霊を頼むと教会に寄付をするのが一般的です。勿論貴族は礼に多額の寄付金を納めるでしょう。ヴァントル様は奥様に金貨一枚だって使いたくないのかと思われます」
確かにこれは年寄りの妄言だ。貴族に対して金を払いたくないケチと言っているのだ。表で言ったら何をされるか分からない。
「どうか奥様を女神様の下へ送って下さい。亡くなってもまだ苦しんでいるなんて……あんまりです」
ローラは深々と頭を下げた。見慣れた光景だ。俺の仕事はいつもこう言う奴を相手している。それなら簡単だ、俺が婆さんにかける言葉はただ一つ。
「安心して下さいローラさん。貴方の願いはきっと女神様に届きます」
俺は優しく語りかけた。ローラの目は涙で潤んでいる。アイリスも潤んでいる。
俺達はローラに見送られ外に出た。日は沈みかけ空を茜色に染めていた。
「ウンスイ様!必ずやリリー様の魂を救済しましょう!」
アイリスはやる気十分である。しかしアイリスが同行されると邪魔なのでここは帰ってもらおう。
「アイリスさん、屋敷には私一人で行きます」
「何でですか!危険です!」
「だからです、前途ある若者を危険に晒す訳にはいきません。アイリスさんは教会で女神様に祈りを捧げて下さい。リリー様が女神様の祝福を受けれるように」
アイリスは号泣している。
「分かりました。ウンスイ様が戻ってくるまで何年でも祈り続けます」
もう怖い、それじゃあ俺の信者だろ。しかしここで引いてはいけないので俺は優しく微笑んだ。アイリスは何度も振り返りながら去っていく。俺はその姿が見えなくなるまで見送った。
アイリスと別れて屋敷に向かう。
日は落ちて辺りは暗くなってきた。街灯りだけが道標になってくれている。
人生で初めての除霊である。しかし相手が元は人間ならやる事は変わらない。
今までは依頼人を納得させる仕事だったのが、今回は幽霊を納得させる事に変わっただけである。
自称神には恨んでいるがどこかこの状況を楽しんでいる自分がいた。本心からは絶対にお礼は言わない。あいつに対して言う事はただ一つ。
「思い通りになると思うなよ」
呟きは誰もいない夜道に消えていった。
夜の屋敷は昼とはまた違った趣きがある。鎖で入れない様にしている門越しに見る屋敷は幽霊が出そうである。いや幽霊は実際出ているのだが。
霊媒師をやっていて如何にもな場所には何度も訪れたが幸運な事に一度も幽霊に遭遇した事はない。だからだろうか夜の幽霊屋敷になんの恐怖も感じない。これも霊媒師に必要なスキルであろう。どちらかと言うと屋敷が老朽化により倒壊するの方が心配である。
ボロボロの正門は開けられないので今回も裏口からお邪魔する事になる。暗いので近所の窓から漏れる光と月明かりだけが荒れた庭を照らしてくれる。
歩いていくとリリーの墓が目についた。昼に見た時は質素な墓だと思っていてたがこれが人間の墓だと言うのだ。死後についての扱いはあまり興味の無い俺だが流石にあんまりだと思う。これでも常識的な感性は持ち合わせているつもりだ。
一応俺は墓の前で手を合わせた。特に祈るわけでもなくただ手を合わせた。墓の主は屋敷に居るのだから、ここでやらなくてもいいが一応念の為だ。
草むらの中をずんずん進みようやく屋敷の前に出た。暗い分昼よりもだいぶ時間がかかった。
玄関の大きな扉を前にして深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。気のせいだろうか扉の隙間から何だか禍々しいオーラが漏れている。このまま放っておけば屋敷を包み込んでしまいそうだ。
俺は腹を括り扉に手を掛けた。
この仕事必ず成功しなくてはいけない。それはこのふざけた世界で生きていく為に。
そして自称神は俺に改心しろと言ってきた。それはこの世界で霊媒師として活躍できなくて後悔させたいのだろう。お前がやってきた事はまやかしだ、本物の霊には無力だと。
やってやるよ。テメー悪用して、利用出来るとこが無くなる程しゃぶり尽くして、俺に喧嘩を売ったことを後悔させてやる。
俺は腕に力を入れて扉を開けた。扉の隙間から一気にドス黒いオーラが溢れ出す。
エントラスホールは月明かりに照らされた。中央には昼とは同じ様にリリーがいた。
「ヴァントル様?」
リリーは俺を見た。こいつまだヴァントルが来る事を待っていのか。
「貴方は誰!ヴァントル様は何で来ないの!」
リリーから更にオーラが溢れ出す。足元が真っ黒なオーラで見ないくらいだ。流石の俺も冷や汗をかいた。こっちの幽霊はマジもんじゃないか。
「リリー様、貴方にヴァントル様について話があります。その為に私は来ました」
そう言うとリリーの表情は少し和らいだ。話が通じた。これならやり様はある。
「そうなのですか?ヴァントル様は何で来ないのですか?」
「ヴァントル様は来ません」
「何故?私はヴァントル様の伴侶なのですよ?」
「ヴァントル様は愛人を作り結婚しました」
「は?」
屋敷は静寂に包まれた。こういう勘違い女はのらくら説得したところで無駄であろう。それに幽霊になるほどだ、その思いは必ず強い。なら回りくどい言い方せず直接伝える方がいいだろう。
ただ一つ予想外な事が起きた。いや、考えが甘まかったと言うかもしれない。そもそも最初からドス黒いオーラを出しているのだ、日本の幽霊とは訳が違う。
「そんな訳ないでしょぉぉぉ!!」
リリーが叫ぶと屋敷がギシギシと揺れ出して、落ちていた燭台や机が宙に浮いた。窓はガタガタと開閉している。
やばい!そんな事とも出来るのかよ。霊媒師としての経験が仇となった。現場でポルターガイストなんて見た事ないから手ぶらで来たがこれはまずい。
リリーの周りを屋敷に散乱していた物が縦横無尽に飛び回っている。確かにこの世界で悪霊を説得する奴がいない訳だ。危険過ぎる。こんな事になるならサッサと光魔法とやらをぶっ放す方がいいに決まっている。
俺は急いで玄関扉の後ろに隠れてリリーの説得を試みた。
「リリー様!もう気付いているのでしょう!ヴァントル様が来ないことを!」
「うるさい!そんな事無い!ヴァントルは私の唯一の家族なのです!」
「じゃあ何で来ないのですか?」
「それは貴族としての務めがあるのです!」
「貴方が床に伏しても見舞いに来ず、亡くなって葬式にも参列しない、貴族の務めとはそれ程までに忙しいのですか!」
扉に掴まっているがその扉も物凄い力で揺れている。
「うるさい!ならヴァントル様は亡くなっているのよ!みんな私を傷付けない為に嘘をついたのよ!」
「みんなって誰ですか?使用人の夫婦二人の事ですか?ネーロ家の夫人なのにこんなボロ屋敷と二人の使用人しか与えらないのにそれでも愛されていると?」
「黙りなさい!」
リリーから更にオーラが噴き出す。そして俺の体が宙に浮いた。何かが俺を宙に浮かせたのだ。そのまま俺は何かに引っ張られリリーの目の前に連れてこられた。
これも聞いていない。アイリスもこんな事が起きるなら先に言えよ。感動してないで忠告の一つくらい出来ただろう。
足が地面に着かないふわふわとした気味の悪い感覚のまま、俺はリリーと対面した。手も足も動かない、頭だけが動かせる。これが金縛りと言うやつか。
リリーは俺を凄まじい形相で睨みつけている。
「どうしました?やっと現実を直視出来ましたか?」
リリーは睨みつけると俺の体はキシキシと音を立てて握りつぶされる様な感覚に陥った。急な締め付けに俺は息が漏れる。
「ぐわぁ!」
「これを見なさい!これはヴァントル様が結婚式でくれた指輪です!」
リリーは薬指つけている指輪を俺の目の前で見せた。その指輪はもう何十年も経ったからであろう錆びついて、宝石は今にも外れそうであった。
こんな物に縋っているとは。
「ほう、本当にヴァントル様がくれた指輪なのですか?」
「そうです!片時も外さず、死んでもこうやって肌身離さずつけているのです」
「よく私に見せて下さい。本物のはずがない。ヴァントル様が渡した指輪ならその証が彫られているはずです」
「何度でも見ればいいわ!この指輪が絆であり、契りであり、愛なのですから!」
リリーは俺の目の前で指輪を見せつけてきた、リリーの表情は自信が有るはずなのにどこか無理している様な顔をしている。
「もっと近くで見せて下さい」
俺が要求すると目に突っ込むんじゃないかと思うくらい指輪を近づけてきた。これでは何にも見えない。
しかしそれでいい。俺は大きく口を開けて指輪をリリーの指ごと食べた。
「ひぃ!」
リリーは悲鳴を上げて慌てて手を引いた。リリー体は透けており幽霊なので食べる事は出来ない。口から指だけがスルリと抜けて本物の指輪は俺の口の中で抜け落ちてしまった。
金属の味である。食えたもんじゃない。食いもんじゃない。
ゴリゴリゴリ、俺は指輪を噛んでみた。硬い。指輪なんて食べるもんじゃないな。
リリーは何も言えず呆然と俺を見ている。ただ手だけはわなわなと伸ばしている。
「ペッ!不味い!」
俺は指輪を床に吐き捨てた。勢いよく口から飛び出した指輪は床にカツンと当たり宝石が外れてしまった。
「あ、ああ、あ」
リリーは無残な指輪を見て座り込んでしまった。俺の拘束も解けて無事に床に着地できた。完全に心が折れたのであろう。
「なんて事するの……これだけが私の……」
「いい加減にしろ、そんな物が愛の証になると思うな。そんな物、近所のガキでも買えるぞ」
「私にはこれしか無かったのに!病弱で家族から疎まれて。部屋に閉じ込められて。ようやくヴァントル様が私を部屋から連れ出してくれたんです!」
「そして今度はこの屋敷に閉じ込めれたんだろ?馬鹿馬鹿しい。何も状況は変わっていない」
「それでも、もう私にはヴァントル様しかいないの!」
本当にムカつく。他人に存在価値を求める様な奴らは。
「他でもないお前自身がいるじゃないか!他人に価値を求めるな!他人に拠り所を求めるな!」
「じゃあこんな病弱な私一人残って何になるの!」
「病弱?ふざけるな俺を殺しかけといて病弱な訳かあるか!そもそも幽霊は体が無いのだから病気もクソもあるか!」
「元気なったって何にも残って無い私は何をすればいいの!家族に見放され、友人からもいなくて、ヴァントル様からも捨てられて。誰にも愛されず、一人で死んで、一人で幽霊になって。私は空っぽなの!何もやりたい事なんてないの」
何から何まで言わないといけないのかコイツは。幽霊になったらやる事は一つであろう。
「復讐だよ」
「復讐?誰に?」
「ヴァントルだよ、あいつは借金を肩代わりしてもらう為にアンタも結婚した。そして用済みになったらここに閉じ込めて、愛人作って今も本邸でぬくぬくと暮らしているんだ。復讐の理由には十分じゃないか」
「そんな事しても何にもならないじゃない」
「そうだ、だがスッキリする。復讐は何も残らないが嬉しくなる。晴れ晴れする。爽快感がある。それともそんなクズを野放しにしてアンタは満足なのか?そのうち司祭が来てアンタを倒すだろう。積年の恨みを晴らす絶好の機会をみすみす手放すのか?」
「それは……」
「今のアンタは病弱でベッドから動けないか弱い令嬢じゃない。宙に浮けて、壁を通り抜けられて、物を浮かせる復讐にはうってつけの存在になったんだ」
「そんな事女神様がお許しにならない……」
「今はアンタの話をしてるんだ女神は関係ない。自分の心に従え。肉体は死んだがアンタの心は死んじゃいない」
「でも……」
ええい、まどろっこしい。何で素直にハイと言えない。幽霊なんて法律もクソも無いだろうに。何を気にしているんだ。
「ならヴァントルのいる屋敷を見てきて決めたらいい。わざわざここでヴァントルを待たないで自分から行けばいいんだよ。そこでヴァントルの姿を見てその時の心に従え」
「私が行く?」
「そうだよ、待ってないで直接会いに行けばいい」
「ああ、そうか……何で私、会いに行かなかったんだろう」
「さあ、今すぐ行け。すぐに行け。その目で見てこい。アンタは自由だ縛り付ける物なんて最初から無いんだ」
リリーはフワフワと玄関から出ていった。草むらも門も彼女を阻む事を出来ない。
こうなったらこっちのもんだ。リリーは現実が見えていない。自分の心の安定の為ヴァントルを美化している。それなら簡単だ現実を直接見ればいい。
俺も外に出てリリーを追う事にした。最後まで見届けないと今回はマズイ。やっぱり消えてませんでしたなんてこの世界ではシャレにならない。
正門は相変わらず閉まっているので俺は裏庭を通り裏口から外に出た。これだけで随分とリリーのと差をつけられてしまった。
ヴァントルの屋敷はこの街で一番デカいやつで場所は分かっている。とりあえず急いで屋敷に向かった。
結論から言うと屋敷の側まで行ったが途中で引き返した。屋敷の門も前には人集りが出来ており全然進めなかった。
彼らは野次馬なのだ。何の野次馬かと言えばヴァントルの屋敷から聞こえてくる悲鳴であろう。
「ひぃやああああぁぁぁ!!」
「許してくれ!」
「あああぁぁ!!」
「あばばばばばば!!」
情け無いジジイの悲鳴が屋敷から何度も響いてくる。物が倒れる音や食器が割れるような音も聞こえる。屋敷の中でリリーはかなり暴れているらしい。
外から聞く分には不倫がバレた旦那が妻にボコボコにされている様であった。まあ概ね間違っていないのだが。
満足のいく結果を知れたのでボロ屋敷に戻ろう。もしかしたらリリーが帰ってくるかもしれない。
「うわあぁぁぁぁ!!」
俺はジジイの悲鳴を背にして去った。ヴァントルが何歳か知らないが元気な爺さんだなと思った。
俺がエントランスホールの階段で座って待っているとリリーが帰ってきた。その表情は実に満足気で死んでいるが生き生きとしていた。
「お帰り、どうだった」
「向かう途中は一目見たら帰ろうと思っていたのですが、年老いたヴァントルを見たら何だか愛していた気持ちが冷めてしまって……」
「ほう、それで」
「反対に沸々と怒りが込み上げて暴れちゃいました」
「いいじゃないか。それでヴァントルは死んだのか?」
「いいえ、ただ階段から転げ落ちたので大怪我程度はしてるかと」
大怪我程度とはいかに。しかしリリーは全くヴァントルな事を憂いていない。それもそうだ、あんな奴心配するだけ無駄なのだ。
「あの、ありがとうございます。貴方がいたから立ち直れました」
「これが仕事だから」
「それでもです。貴方でなければ私は無念を抱えたまま司祭様に打ち倒されていたでしょう。私は晴れやかな気持ちで女神様の下へ行けます。本当にありがとうございました」
リリーは淡い光に包まれた。満足そうな顔で笑っている。この世に未練など砂一粒だって無い様な清々しい顔である。
全く本当にコイツは何にも分かっていない。
「何を勝手に終わらそうとしている」
「え?何でしょう?あっ教会への寄付ですか?私はお金を持っていないので何も差し上げられないのですが」
「そうじゃない、復讐が済んだだけで何で満足してるんだ」
「え?」
「アンタは病弱でずっと屋敷の中に居たんだろ?行ってみたい所とか無かったのか?」
「確かに本で読んだ国とか行ってみたいと思ってましたけど」
「リリー・ネーロは死んでアンタはただの幽霊のリリーになった。縛りつけるものは何も無いんだ。そんな便利な体を持ってるんだ好きにしたらいい」
「え、でも死んだ人間は女神様の下へ行かなくては……」
「三十年もこっちでウロウロしてたんだ。今更何を言ってんだ?」
「確かにそうですか……」
「女神様も少しくらい見逃してくれるだろ」
リリーは少し考えている様であった。
「ふふ、そうですね。ちょっとくらい大目に見てくれますよね」
「後この屋敷には帰ってくるな。公にはアンタは女神様の下へ行った事にしとくから」
「二度と来ませんよこんなとこ」
リリーは笑っている。この屋敷に執着していた彼女はどこにも居ない。
「それもそうだな」
「そう言えば貴方の名前を私は知らないわ」
「ああ、雲水だ」
「ウンスイ様ですか。それではウンスイ様ありがとうございました。少し旅に出てみます」
「気を付けろよ。それとアンタの使用人だったローラが心配してたから旅立つ前に顔を見せやりな」
「ああそうだローラにもお礼を言わないと。本当に何から何までありがとうございました」
「いいって、早いとこ行かないとヴァントルのとこの奴らが来るかもしれないから」
「そうですね。それではまたお会いましょう」
リリーはスウっと飛び上がり天井を突き抜けて行った。幽霊の体を完全に使いこなしている。
「ふー」
俺は大きく息を吐いた。
今回初の幽霊退治は大成功と言った所だろう。
俺はポケットから指輪に付いてた宝石を取り出した。汚れているが宝石は宝石だ、売ればいい値段であろう。ニヤニヤが止まらない。
それに自称神の思い通りにならなかった。アイツは俺が除霊出来ず慌てふためくと予想していたのだろう。それにリリーは女神はとやらの所には行かなかった。屈辱的だろう。ザマァ見ろ。
屋敷から出ると朝日が登り始めていた。完全に徹夜だ。仕事柄こんな事はよくあるから何も問題はない。いつもに増して清々しい朝である。
「ありがとうございます、雲水様」
妙齢の依頼人と固い握手して報酬が入った封筒を貰った俺はさっさとこの屋敷から出て行った。
車の中で封筒を開けると十万円が入っていた。全く適当に念仏を唱えるだけで十万なんてボロい商売だ。
妙齢のおばさんに雲水と呼ばれた俺は霊媒師を生業としている。勿論、雲水とは霊媒師として活動する為の名前である。霊媒師と言っても幽霊を見た事は一度たりとも無く、幽霊の声も聞いた事は無い。幽霊を見れないし声を聞けないので成仏したかも勿論分からない。
なのでこの仕事は除霊をするのではなく、いかに依頼人を満足させるかが肝なのだ。
大体幽霊なんかいる訳が無い。未練があるだけで幽霊になるなら世界中幽霊だらけだ。依頼人も幽霊がいるとか何とか言ってるが大体は何かの病気か勘違い、もしくは家の欠陥である。
それでも全国各地から霊媒師としての仕事が舞い込み毎日忙しい日々を送っている。
東に怨霊のせいで入院した男がいれば行って南無阿弥陀と言い、西に怨霊のせいでノイローゼになった母がいれば行って南無阿弥陀と言い、南に怨霊のせいで家庭崩壊した家族がいれば行って南無阿弥陀と言い、北に怨霊のせいで死にそうな爺さんがいれば行って南無阿弥陀と言う。
日本全国津々浦々南無阿弥陀除霊旅である。世の中不安を抱えて生きている人間ばかりだ。
俺は袈裟や着物を着ないで黒スーツに黒ネクタイと言った非常にシンプルな出立ちだ。右手首にワンポイントの数珠を着けて、髪は黒髪のスッキリとした短髪にしている。
俺から言わせれば如何にもな格好をしているとどうにも胡散臭くなり、怪しくなる。見た目の説得力が増すと人の心に安心感と信頼感を与える事ができる。
依頼人と話すときは温かい慈悲の目をして微笑んでいる。我ながら演技派である。
依頼人の悩みを聞き、寄り添い、それっぽい念仏を唱える。
依頼人は救われて俺はお金を貰える。なんて素晴らしい関係なのだろう。これだから霊媒師は辞められない。素晴らしきかな我が人生。
そしてこの仕事を長く続けるコツは目立たない事だ。決してテレビに出ず細々と依頼を受けていく。
有名なれば必ず粗を探す人間が出てきて俺の邪魔をする。インチキだとか詐欺師とか罵って集団で俺を潰しにかかるだろう。一円にもならないのに人叩く暇があるなら働けばいい。どいつもこいつも無駄な労力で無駄なことをしている。貧乏人の嫉妬であろうが、ああ嘆かわしいし鬱陶しい。
そうならない為に知る人ぞ知る霊媒師として活動していくのだ。金さえ貰えれば何も要らない。目立たず影に隠れてドブネズミのようにコソコソと生きていく。プライドや自己顕示欲は身を滅ぼす事は過去の偉人達が身の持って証明している。
俺は他の霊媒師と違って馬鹿でも見栄っ張りでもなく、依頼人と違って軟弱でも臆病でもない。賢く生きているのだ。
俺は車を走らせてサッサとこの場から立ち去った。俺は振り返らない。
さようなら名も知れぬ依頼人よ、二度と会う事は無いだろう。幸せに暮らせよ。
俺はマンションの自室で次の予定を確認していた。部屋の中は調度品も芸術品も置いてない、必要最低限の家具しかないシンプルな部屋である。
無駄なものに金を使わないのは俺のこだわりであり、楽しみは通帳に刻まれる預金残高を見る事だ。金だけを信用している。
いや金すらも信用していないかもしれない。日本円をドルに、ユーロに、金貨に、土地に、換えて資産形成している。株も過去にやった事があるが日常的に上がり下がりしている為心休まらず止めてしまった。
酒もタバコもギャンブルもしない、質素で慎ましい生活を送っているのだ。家族も結婚相手も恋人もいない、実に自分勝手の自由な生活を送っている。
最終的には有り余る金で高級老人ホームにでも入って余生を過ごそうと思っている。
三十二歳にして人生を逃げ切れる位の金は十分あるのでいつでも霊媒師を辞めてもいいが何だかんだ続けている。やはり金を信じていないのかもしれない。
「明日は少し遠いな、早く寝るか」
予定を確認し終えてスケジュール帳をテーブルに置いた。部屋着に着替えようとしスーツを脱ぎかけたその時、俺の足元に黒い渦が現れた。
俺は叫び声を上げる暇もなく渦に吸い込まれてしまった。その後の自室の様子は分からない。ただあたり一面真っ暗の空間を墜ちているのだけは分かる。
地面も掴むところも無くただ墜ち続ける俺に誰かが語りかけた。
「改心せよ」
あまりに傲慢で偉そうな声は何処から聞こえてきたかは分からない。男なのか女のなのか子供なのか年寄りなのかも分からない。
その言葉は暗闇を堕ちていき恐怖している俺の神経を逆撫でするような非常に気に食わないものであった。恐怖するのも忘れてイラつきが俺の感情を支配した。
声の主は誰かは分からないが俺をこの暗闇に引き摺り込んだ奴なのは間違いない。俺はプライドは無いがコケされて黙っていられるほど優しい人間ではない。具体的な方法はまだ決めていないが、必ずやあの不愉快な声の主に後悔させてやると固く誓った。
暗闇から落っこちた。盛大に石畳に落ちた為お尻が痛いのなんの。
痛みを堪えてキョロキョロ見回した。ここが何処だか分からないが大きな窓からキラキラと太陽光がこれでもかと入っており、並んだ大量の長椅子に信者らしき姿、厳かな雰囲気は教会か神殿かと思わせた。
背後にはそこそこ大きい女の像が祀られておりこれが信仰対象なのだろうと直感で分かった。
もしかしたらコイツが俺をここに落とした張本人かもしれない。俺が像を睨みつけていると後ろから女性の声が聞こえた。
「御使様?もしかして御使様なのですか?」
女性は金髪で白のローブを着ており明らかに聖職者と言った格好をしていた。
正直困惑していたがこんな訳の分からない状況は仕事現場では日常茶飯事である。この間は山奥の村で村人に囲まれながら怪しい儀式に参加させられた。そんな時も嫌な顔一つせず笑顔で対応した。正直村人が松明を持ってぐるぐる俺の周りを踊っていた時は死を覚悟した。
「すいません、ここは一体何処でしょうか?」
それと比べればなんのその。俺は営業スマイルを披露して何とかこの女性から情報を聞き出さなければならない。
「は!すいません、えっとここは街のロータス教の教会で私は修道女のアイリスと言います」
アイリスは慌てて頭を下げて自己紹介した。ここが教会という事はこの女の像はやはり信仰対象なのだろう。
「そうですか、私の名前は雲水と言います」
とりあえず俺も自己紹介。こういう丁寧な対応が仕事では大切なのである。挨拶を疎かにしている若者よ、とりあえず丁寧に頭を下げとけば大抵何とかなる。覚えおくと社会に出た時助かるぞ。
「あのーウンスイ様は御使様なのですか?」
アイリスはさっきから俺のことを御使様と呼んでいる。
御使、おそらくこの女の像がここに寄越したと思っているのだろう。しかしどうしよう、そんな気もするがここで「はいそうです」と答えるとこの像の思う壺のような気がする。
「いいえ、私は突然ここに落ちてきたのです。それが貴方の言う御使なのかは分かりませんが」
とりあえず判断は保留。アイリスの反応を見てから考えよう。
「そうなのですか……でもウンスイ様が自覚していないだけできっと女神様の御導きです。だからウンスイ様はきっと女神様からの御使様のはずです」
女神様からの御使様ねぇ、そんな重要そうな事を気がするだけで判断していいのだろうか。アイリスは自分の都合の良いように考えてるだけではないか。
その俺を見るキラキラした目は仕事現場でよく見る俺を盲信している依頼人のダメな目だ。アイリスは直ぐに悪い奴に騙されるだろう。
「御使様ならきっと屋敷の悪霊を退治出来るはずです」
「悪霊退治ですか?」
悪霊退治か、何処に行ってもやる事は変わらないのか。しかし悪霊退治なら俺の得意分野だ。適当にやってサッサとこの場から去ろう。
「はい、悪霊が出て近隣の住人が困っているのです」
「私に出来る事なら協力しましょう。これでも少しだけ覚えが有るのです」
俺は営業スマイルでアイリスに微笑んだ。ここで重要なのが決して「退治してやるとか」「俺に任せろ」なんて言わずに謙虚に対応するのだ。
その後の逃げ道を残すのがその道のプロである。霊媒師に絶対など無いのだ。
アイリスは喜び早速現場に行こうと僕の手を引いた。そんなにその悪霊が怖いのか。それとも御使様とやらに会えて気分が舞い上がっているのか。
教会の扉を開けて外に出ると驚愕した。街並みは石造りの洋風のものだが歩いている住人は明らかに地球のそれと違い、やたらと背が低かったり耳が長かったり、更に顔が獅子であったりとファンタジーの世界観そのものであった。
いつものスーツがこの世界では浮いておりチラチラと皆がこちらを見ている。俺もキョロキョロと見回すが俺のような格好をしている人間は存在しない。あの気に食わない声の主は随分面倒くさい世界に俺を連れてきた様だ。
そんな俺の動揺など梅雨知らずのアイリスは元気に俺を霊が出る例の屋敷にズンズンと案内していく。首から下げている女神を形どったロザリオの様なものが意気揚々と揺れている。
繁華街を抜けて少しずつ住宅街になっていき、そして大きな屋敷が見えてきた。
ぐるりと高い塀に囲まれて大きな庭がある二階建ての屋敷である。
しかし塀も屋敷の壁もボロボロで人の手が入っておらず、長年の誰も住んでいない事は一目で分かる。
門は鉄柵でできており開かないように鎖でグルグルに閉めらている。その門の前には場違いな女神像が置かれており、この屋敷の悪霊を封印しているのだと直感した。本当に効果があるのか?
おそらく日本のお札の代わりなのだろう、何処の世界もやる事は大体同じなんだな。
「ここが悪霊が出る屋敷です。もう長年誰も住んでないはずなのに屋敷の中から叫び声が聞こえるんです」
「それは恐ろしい」
「本当は司祭様が浄化するのですか、この街の司祭様はぎっくり腰になってしまい誰も浄化出来ないのです」
ふーん、その司祭様も怪しいな。霊なんて誰にも見えないのにさも自分の力で浄化したとか言っているのだろう。
それに屋敷から声が聞こえるなんて馬鹿馬鹿しい。この手の除霊はよくやった。大抵は何処ぞの不良の溜まり場になってるだけで事件性も心霊性も無いのだ。
まあ、適当に夜張り込んで不良達にここで遊ぶなって忠告すれば終わりであろう。
「何処から入ればいいのですか?」
「えっと裏口がありまして、そこから庭に入れます」
「じゃあそこに行きましょう」
裏口が開いているなら正門を閉めても意味がないだろ。そこから不良が侵入しているのだろう。ならそこを塞げばこの幽霊騒ぎも解決だ。
ただその前に屋敷に入ってそれっぽい事をしないといけない。ここに禍々しいオーラを感じるとか、霊界への入り口が開いているとか、そんな最もらしい事を言わないと依頼人は満足しないのである。
依頼人は納得したいだけなのだ。幽霊の正体が本物であろうが、不良であろうが、猫であろうが何でもいい。俺は幽霊の仕業と言って納得してもらうだけだ。
裏口から庭に入るとあたり一面雑草だらけで全く庭の管理をしていないのが分かる。かろうじて石畳の道を進む事ができるくらいで、昔どんな綺麗な庭であったか想像も出来ないほど荒れ果てていた。まさに幽霊屋敷。
裏庭には簡素な墓らしきものがあった。この世界の埋葬方法は知らないが、屋敷の主人を庭に埋めるなんてしないだろう。この屋敷で飼っていた猫か犬かの墓かもしれない。
裏庭からぐるりと屋敷を回って玄関まで来た。さていつものお決まりの台詞を言おう。
「こ、これは……」
「ああ、禍々しいオーラを感じます」
アイリスが先に俺を台詞を言ってしまった。アンタが言ったらダメだよ。それを感じるならアンタが除霊をしろよ。
俺は咳払いを一つして改めて言い直した。
「アイリスさんも感じるのですね。危険ですので私だけで中に入ります」
「お願いしますウンスイ様」
アイリスは神に祈るように手を組んだ。
俺は大きな玄関の扉を開いた。ギシギシと音を立てて埃を落としながら扉はゆっくりと開いていく。
扉が少しだけ開きエントランスホールが見えた。そこには……
「どうして……どうして……どうして……」
半透明で禍々しいオーラを放つドレスを着た女性が座り込んで啜り泣いていた。
バタン。俺は扉をそのまま閉めた。
「ああやっぱり、女神様に愛されなかった哀れな霊がいました」
アイリスは震えながら怯えている。
「一度戻りましょう」
俺は一度帰ることにした。
教会に戻った俺は椅子に座りながら考えていた。
マジでいた、初めて幽霊を見た、聞いてない、いや初めから聞いていた筈、でも本当にいると思わないだろ?どうする?逃げるか?そもそも除霊ってどうやるんだよ?マジでいるの?
あれこれ思考が頭をぐるぐる回転している。それでも不安な表情は表には出さない。なぜなら直ぐそこでアイリスが目を輝かせながら見ているのだ。
「ウンスイ様、それで悪霊の浄化は上手くいきそうですか?」
出来るわけないだろ。こちとらインチキ霊媒師だぞ。
だがどうする。ここで出来ませんと言ったら。俺はこの教会から追い出されて、このファンタジー紛いの世界で一人で生きていくのか?
いや無理だ、それならダラダラとそれっぽい事を言いつつアイリスを利用するのがいいだろう。この俺を盲目的に信用しているアイリスなら俺を養ってくれるに違いない。
まずはこの世界の浄化とやらを聞き出そう。もしかしたら念仏を唱えれば何とかなるかもしれない。
「アイリスさん、一つ質問をしていいですか?」
「はい、なんでしょう」
「いつもは司祭様が浄化をしていると言っていましたが、それはどの様な方法であの悪霊を浄化しているのですか?」
「司祭様は光魔法が使えるので悪霊に光魔法を放つのです」
無理だ。そんな暴力的に浄化するのかこの世界では。そもそも何だ光魔法って。光魔法を放つって何なんだ。手からビームでも出るのか。全く参考にならない。
「他の方法で浄化は出来ないのですか?」
「神聖味を帯びている武器で倒すとかです」
もう嫌だ。そんなゲームにみたいな理屈を現実に持ち出すなよ。俺は高校受験をきっかけにゲームは止めたぞ。この世界の住人はゲーム脳なのか?
「それとあの悪霊をそのままにしておくとどうなるのですか?」
「悪霊は今はまだ屋敷にいますが、そのうち屋敷から飛び出して人を襲うかもしれません」
「それは危険ですね」
悪霊が屋敷から出てしまうなら余計に退治しなければならない。退治したと嘘ついてそっとしておく事は出来ないと言う事だ。
「あの?ウンスイ様?」
「はい、なんでしょう?」
「もしかしてウンスイ様は別の方法で浄化するのですか?」
まあ、そうっちゃそうだが、そうじゃないと言えばそうでもない。ここはいつもの如く口先で乗り切ろう。
「はい、私は悪霊の言葉を聞き、そして悪霊がこの世に縛れている原因を取り除く事でその魂を救済しているのです」
ここで重要なのが浄化するとか成仏させると言わないと事。魂の救済と言う曖昧な表現を使ってはぐらかすのだ。
「そんな、悪霊は女神様を信仰しない者の成れの果てなのでは?だから死んでも女神様の祝福を受けられずこの世を彷徨っていると」
「その女神様は慈愛に溢れているはずでは?」
「はい、その通りです」
「なら全ての者に祝福を与えるはずです。もしかしたら悪霊は何らかの理由で現世に縛り付けられているだけかもしれません。私はそんな哀れな悪霊の魂を消滅ではなく救済をしたいのです」
出るは出るは思ってもいない事が口からスラスラと。長年霊媒師をやっていると自然とそれっぽい事が出る様になる。言い淀んだり考えたりしてはいけない。さも当然の様に、常識の様に、真理であるかの様にでまかせを言うのだ。
そんななんちゃて説法を聞いたアイリスの瞳から涙が溢れ落ちた。そしてスンスンと泣き始めた。
「ウンスイ様はなんて清らかな心の持ち主なんでしょう」
こいつチョロ過ぎる。
「私が間違っていました。悪霊を悪と決めつけ消滅させようとしてたなんて。それでは苦しみは消えず本当の意味での救済にならないのに」
悪霊への説得は割とポピュラーな方法だと思っていたが違うのだろうか。いや、こっちの世界のやり方が暴力的過ぎる気もする。
それにしてもそんな簡単に宗教観を曲げていいのか?人生かけて信仰してきたのではないのか?それを文字通りポッと出のオッサンの言う事に感動するなんて、もしかしてアイリスはヤバい奴なのでは?
アイリスはヨロヨロと女神像の前へ行き跪いた。そして胸の前で両手を組み祈り始めた。
「ああ、女神ロト様。これまでの私の浅はかな考えをお許しください。全ての人間に等しく慈愛を持って包み込む女神様を疑ってしまった事をお許しください」
祈りと言うより懺悔をアイリスはしている。このままでは話が進まないのでサッサと切り上げさせよう。
「女神様もきっとアイリスさんを許してくれますよ」
「ありがとうございますウンスイ様」
「私もアイリスさんの為に女神様に祈りを捧げましょう」
俺は女神様の前に跪きアイリスの見様見真似で祈り始めた。これくらいやっておけばアイリスは俺を放り出したりしないだろう。これで寝床の確保はできた。
後はどうやって日本に帰るかだ。あの声の主を探し出さなければならない。
「その必要は無い」
この尊大で傲慢そうな声は一度だけ聴き覚えのある忘れられない声である。
顔を上げるとそこは真っ白な空間になっており、目の前に女神像と同じ顔の女性が浮いていた。
「お前か、俺をこの訳の分からない世界に連れてきたのは」
俺は立ち上がりそいつを睨みつけた。人を見下す様な表情は俺を更にイラつかせる。
「人を欺き、私腹を肥やし、神の名を語る愚か者よ。改心する気はなったか?この世界ではお前の虚言は通用しない」
「改心?何で俺が。」
「虚言により人々を騙した罪を忘れたと言うのか」
「はっ、相手は満足してるのだ、何の問題はない」
「それが嘘であってもか」
「そうだ、嘘も方便。家族も、医者も、行政も、誰も解決出来なかったから私がそれを引き受けただけだ。そんなに俺が活躍するのが嫌ならお前が助けてやればいい」
「神は干渉しない」
「俺には干渉するくせにな」
「お前は罪人だからだ」
「救いはしないが制裁は与えるのか?随分自分勝手な神だな」
「その不遜な態度、いつまでも続けられると思うなよ」
「ご忠告どうも、そんなに心配するなら俺を家に帰しな」
「ならん、この世界で己が行いを悔いるがいい」
俺はいつの間にか教会で跪いた姿勢に戻っていた。アイリスの様子を見るに、それなりに話したつもりだが時間は経っていない様だ。
全く自分勝手な自称神だ。この世界で反省しろってここは地獄か何かなのか。好き勝手に言うくせに俺の質問に一向に答えようとしない。
「女神様への祈りは終わりました」
俺は立ち上がり微笑んだ。女神だろうが利用出来るもんなら何でも利用してやる。
「ありがとうございます。ウンスイ様は女神様のお声を聞いた事がありますか?敬虔な信徒は祈りを捧げるとそのお声を聞く事が出来るらしいのです。私はまだまだ修行の身なので聞いた事は無いのですが……」
どこの世界にもそんな事を言う奴がいるのか。
「いいえ、私もまだ女神様のお声を聞いた事はありません」
なにしろ俺は敬虔な信徒ではない、となると女神様の声を聞く事はできない筈。それならさっきの奴は女神様じゃない事になる。完璧な証明である。
「そうですか。聖都にある大聖堂の法王様は聞くことが出来たと言っていたのですが」
そいつはおそらく嘘だろう。誰にも聞こえないなら幾らでも嘘をつける。
「女神様のお声が聞けなくても貴方の行いは必ず見てくれている筈です。大切なのは聞こえるから信じるのではなく、聞こえなくても信じる事です。アイリスさんの信仰が試されているのです」
十八番の説法はアイリスの胸を打ったらしく感動している。このままでは霊媒師でなく教祖になってしまう。
さて、祈りも終わり本格的に悪霊をどうするか考えなくてはならない。まずは情報が欲しい。説得するにしても武器でブン殴るにしても。
そもそもあの霊は誰なんだ?元々は生きていた人間だよな?霊だけが自然発生する世界なのか?
「アイリスさん、あの悪霊と話す為にまず情報が欲しいのですが、あの悪霊は誰だか心当たりはありますか?」
「すいません、私にも分からないです。あの屋敷は随分前から誰も住んでいなくて」
「そうですか。それでは屋敷の持ち主を調べるにはどうしたらいいですか?」
「それなら役場に行けば居住届が残ってるかもしれません」
なるほど、世界でもしっかりと役所は仕事をしているのだな。それなら何か分かるかもしれない。
「なら早速役場に行って聞いてみましょう」
「はい!」
俺たちは教会から出て役場に向かった。
正直あの悪霊が何なのかはどうでもいいが、兎に角時間を稼いでこの世界の事を知る必要がある。それに上手く行けばアイリスを利用して暮らしていけるかもしれない。
あの自称神の思い通りになってたまるものか。改心?ふざけるな。何としてもアイツの期待を裏切らないといけない。俺はどの世界に行こうがやる事は変わらない。
アイリスに案内された役場で俺は受付嬢に用件を伝えた。悪霊が出るから屋敷の持ち主を調べて欲しいと。しかし、
「実は私共もその件に関しては承知しておりまして、ただ持ち主の貴族様が手出し無用と言っておりまして」
なんと家主は知っていたのだ。知っていて放置している事になる。
「近隣住民から教会に救いを求める声が届けられました。出来れば屋敷の中に入りたいのですが、もし許可なく入って処罰される訳にもいかないのでどうにかその貴族様に話がしたいのです」
俺は更に懇願してみた。既に屋敷の庭には入っているがそれは黙っておこう。屋敷には入っていないから嘘は言ってない。
「こちらとしても教会の活動を援助したいのは山々なのですが、貴族様の命に逆らえないのです」
あれだけデカい屋敷だ、それなりの地位の人間が持ち主だろう。そして一般市民と貴族では住む世界が違う様だ。
「どうにかなりませんか?迷える魂を救済したいのです」
アイリスも懇願しているが快い返事は返ってこない。
だが方法はある。あくまで俺が知りたいのは屋敷の持ち主の情報ではなく、悪霊の正体が誰なのかだ。
「なら、そこで働いていた使用人は紹介出来ますか?その人に貴族様に繋いでもらえる様に取り計らってもらいたいのですが。それなら貴族様の許可は必要無い筈では?」
「しかし、使用人と言えど貴族様の許可無しには」
「ではこう言うのはどうでしょう。私は新しく使用人を雇いたいのです。誰かいい人を紹介する事は出来ますか?」
「それってつまり……」
「何も言わないで下さい。私はただ人を紹介して貰いたいだけなのです。貴方はたまたまその人を紹介しただけです」
「うーん分かりました。ただ使用人程度では貴族様に取り継いでもらうのは難しいかと」
「少しでも可能性があるなら」
俺は営業スマイルで微笑んだ。
受付嬢が奥に引っ込んでしばらくすると古い紙の束を持ってきた。就労届けの様でそこから屋敷で働いていた人物を探しているが中々見つからない。
こちらの文字は俺は読めないので完全に受付嬢頼みである。ようやく一人だけ使用人として働いていた人物を特定出来た。ローラと言う女性でこの街に住んでいる老人らしい。
受付嬢にお礼を言って俺たちは外に出た。
「ウンスイ様、本当に貴族様に会えるのでしょうか?」
アイリスは心配そうに聞いてきたが何も問題無い。
「悪霊の正体を探るのが目的なので事情を知る者であれば誰でも良いのです」
「なるほど」
アイリスは納得してくれた様だ。そして一人でフンフン言って考えている。
俺達は住宅街にある小さな家の前に着いた。ここが紹介された使用人の家である。
「アイリスさんが呼び出して下さい。私の格好だと不審がられるので」
「はい」
アイリスは扉に付いているドアノッカーで扉を叩いた。しばらくすると扉がゆっくりと開き中からお婆さんが顔を覗かせた。
「あら、どちら様?」
「私はロータス教の修道士、アイリスと言います。ローラさんで間違いないですか?」
「はい、あっておりますが修道士様が何の御用で?」
「実はある屋敷で現れた悪霊についてお話したいのですが」
アイリスの言葉に反応してローラの顔は少し曇った。やはり何か事情を知っている様だ。
「どうぞお入り下さい。中でお話を聞きます」
ローラは俺達を部屋の中に案内してくれた。部屋はこぢんまりした作りで、テーブルには椅子が四脚備えられていた。
ローラに席に座るよう言われた俺達は遠慮なく座り、ローラはお茶の用意をしてくれた。
「さて、何をお話しすればよいのですか?」
ローラは明らかに暗そうな顔をしている。ここからは俺の出番である。
「あの屋敷では悪霊が出ると近所で騒ぎになっています。私は悪霊は何かこの世に未練や恨みがある為女神様の下へ行けないと考えております。ローラさん、悪霊について何か心当たりはありますか?」
「その悪霊と言うのは女性ですか?」
「はい、ドレスを着た白い髪の女性の霊です」
「あぁ、なんていうこと……」
ローラは手で口を押さえた。その表情は絶望している様な悲しげな表情であった。
「何か心当たりがあるのですね?私達はあの悪霊となった魂を救い女神様の下へ送ってあげたいのです」
俺は営業スマイルだけではなく営業シリアスモードも出来る。今の俺はそれはそれは真剣に魂を救いたいと願ういい男に映っているだろう。
「これは四十年程前の話です……」
そうローラは切り出した。
あの屋敷の持ち主はヴァントル・ネーロと言う貴族で今から四十年前にリリーと言う令嬢と結婚した。
リリーは病弱で一日の大半を床で過ごした。そんなリリーと何故ヴァントルは結婚したのか、それは借金である。当時多額の借金をしていたヴァントルはリリーと結婚する条件に借金の肩代わりをリリーの実家に頼んだのである。
リリーの実家も娘を煩わしく思っていたので快く快諾して金と一緒に娘を嫁に出した。
借金を返済したヴァントルにとってリリーはもう用済みなので屋敷の一つをリリーに与えてた。外に出れないリリーは実質軟禁状態になってしまった。使用人もローラとその旦那の二人だけしかおらず最低限の生活をさせるだけであった。
一方ヴァントルは他所で愛人を作り結婚式以来リリーと顔を合わせる事は無かった。
結婚から十年後リリーは流行病で息を引き取った。リリーの実家は遺体の引き取りを拒否し、ヴァントルさえもネーロ家の墓にリリーを埋葬する事を拒んだ。
リリーは屋敷の庭に埋葬されてた。葬儀には葬儀屋と司祭、そしてローラと旦那しか参列しなかった。親族おろかヴァントルさえも顔を出さなかった。
リリーの死後ヴァントルは愛人と再婚して今なお生きている。
「これがあの屋敷で起こった事です」
悪霊になる位だ何か恨みつらみがあるだろうと踏んでいたが胸糞悪い話だ。日本でも霊が出るとその理由を聞かされているが、実際目の当たりにすると気分が悪い。
「ひどいです……そんな事」
アイリスも目を真っ赤にさせている。やはりそこの所の感覚は俺と変わらないらしい。
「ここ最近リリー様の霊が出現する様になったのですが何か心当たりは?」
俺は更にローラから情報を引き出す。
「もしかしたら私が墓参りに行けなくなったからかもしれません。毎年奥様の墓参りに行っていたのですが主人も亡くなって、私も足を悪くして誰もお墓を管理していないのです」
なるほど、よくある話だ。しかしそれでは墓を管理する人間がいなくなればまた出てきてしまう。それは一時的な先延ばしに過ぎない。
それに今更墓に花を供えたところで大人しくしてくれるとは限らない。
「それとこの件に関しては貴族様から手出し無用と言われているのですが」
俺がそう言うとローラは黙ってしまった。そしてゆっくりと口を開けた。
「ここから先は老人の妄言と受け取って下さい」
「分かりました。妄言なので聞き流しましょう」
「ヴァントル様はお金に執着しておられました。司祭様に除霊を頼むと教会に寄付をするのが一般的です。勿論貴族は礼に多額の寄付金を納めるでしょう。ヴァントル様は奥様に金貨一枚だって使いたくないのかと思われます」
確かにこれは年寄りの妄言だ。貴族に対して金を払いたくないケチと言っているのだ。表で言ったら何をされるか分からない。
「どうか奥様を女神様の下へ送って下さい。亡くなってもまだ苦しんでいるなんて……あんまりです」
ローラは深々と頭を下げた。見慣れた光景だ。俺の仕事はいつもこう言う奴を相手している。それなら簡単だ、俺が婆さんにかける言葉はただ一つ。
「安心して下さいローラさん。貴方の願いはきっと女神様に届きます」
俺は優しく語りかけた。ローラの目は涙で潤んでいる。アイリスも潤んでいる。
俺達はローラに見送られ外に出た。日は沈みかけ空を茜色に染めていた。
「ウンスイ様!必ずやリリー様の魂を救済しましょう!」
アイリスはやる気十分である。しかしアイリスが同行されると邪魔なのでここは帰ってもらおう。
「アイリスさん、屋敷には私一人で行きます」
「何でですか!危険です!」
「だからです、前途ある若者を危険に晒す訳にはいきません。アイリスさんは教会で女神様に祈りを捧げて下さい。リリー様が女神様の祝福を受けれるように」
アイリスは号泣している。
「分かりました。ウンスイ様が戻ってくるまで何年でも祈り続けます」
もう怖い、それじゃあ俺の信者だろ。しかしここで引いてはいけないので俺は優しく微笑んだ。アイリスは何度も振り返りながら去っていく。俺はその姿が見えなくなるまで見送った。
アイリスと別れて屋敷に向かう。
日は落ちて辺りは暗くなってきた。街灯りだけが道標になってくれている。
人生で初めての除霊である。しかし相手が元は人間ならやる事は変わらない。
今までは依頼人を納得させる仕事だったのが、今回は幽霊を納得させる事に変わっただけである。
自称神には恨んでいるがどこかこの状況を楽しんでいる自分がいた。本心からは絶対にお礼は言わない。あいつに対して言う事はただ一つ。
「思い通りになると思うなよ」
呟きは誰もいない夜道に消えていった。
夜の屋敷は昼とはまた違った趣きがある。鎖で入れない様にしている門越しに見る屋敷は幽霊が出そうである。いや幽霊は実際出ているのだが。
霊媒師をやっていて如何にもな場所には何度も訪れたが幸運な事に一度も幽霊に遭遇した事はない。だからだろうか夜の幽霊屋敷になんの恐怖も感じない。これも霊媒師に必要なスキルであろう。どちらかと言うと屋敷が老朽化により倒壊するの方が心配である。
ボロボロの正門は開けられないので今回も裏口からお邪魔する事になる。暗いので近所の窓から漏れる光と月明かりだけが荒れた庭を照らしてくれる。
歩いていくとリリーの墓が目についた。昼に見た時は質素な墓だと思っていてたがこれが人間の墓だと言うのだ。死後についての扱いはあまり興味の無い俺だが流石にあんまりだと思う。これでも常識的な感性は持ち合わせているつもりだ。
一応俺は墓の前で手を合わせた。特に祈るわけでもなくただ手を合わせた。墓の主は屋敷に居るのだから、ここでやらなくてもいいが一応念の為だ。
草むらの中をずんずん進みようやく屋敷の前に出た。暗い分昼よりもだいぶ時間がかかった。
玄関の大きな扉を前にして深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。気のせいだろうか扉の隙間から何だか禍々しいオーラが漏れている。このまま放っておけば屋敷を包み込んでしまいそうだ。
俺は腹を括り扉に手を掛けた。
この仕事必ず成功しなくてはいけない。それはこのふざけた世界で生きていく為に。
そして自称神は俺に改心しろと言ってきた。それはこの世界で霊媒師として活躍できなくて後悔させたいのだろう。お前がやってきた事はまやかしだ、本物の霊には無力だと。
やってやるよ。テメー悪用して、利用出来るとこが無くなる程しゃぶり尽くして、俺に喧嘩を売ったことを後悔させてやる。
俺は腕に力を入れて扉を開けた。扉の隙間から一気にドス黒いオーラが溢れ出す。
エントラスホールは月明かりに照らされた。中央には昼とは同じ様にリリーがいた。
「ヴァントル様?」
リリーは俺を見た。こいつまだヴァントルが来る事を待っていのか。
「貴方は誰!ヴァントル様は何で来ないの!」
リリーから更にオーラが溢れ出す。足元が真っ黒なオーラで見ないくらいだ。流石の俺も冷や汗をかいた。こっちの幽霊はマジもんじゃないか。
「リリー様、貴方にヴァントル様について話があります。その為に私は来ました」
そう言うとリリーの表情は少し和らいだ。話が通じた。これならやり様はある。
「そうなのですか?ヴァントル様は何で来ないのですか?」
「ヴァントル様は来ません」
「何故?私はヴァントル様の伴侶なのですよ?」
「ヴァントル様は愛人を作り結婚しました」
「は?」
屋敷は静寂に包まれた。こういう勘違い女はのらくら説得したところで無駄であろう。それに幽霊になるほどだ、その思いは必ず強い。なら回りくどい言い方せず直接伝える方がいいだろう。
ただ一つ予想外な事が起きた。いや、考えが甘まかったと言うかもしれない。そもそも最初からドス黒いオーラを出しているのだ、日本の幽霊とは訳が違う。
「そんな訳ないでしょぉぉぉ!!」
リリーが叫ぶと屋敷がギシギシと揺れ出して、落ちていた燭台や机が宙に浮いた。窓はガタガタと開閉している。
やばい!そんな事とも出来るのかよ。霊媒師としての経験が仇となった。現場でポルターガイストなんて見た事ないから手ぶらで来たがこれはまずい。
リリーの周りを屋敷に散乱していた物が縦横無尽に飛び回っている。確かにこの世界で悪霊を説得する奴がいない訳だ。危険過ぎる。こんな事になるならサッサと光魔法とやらをぶっ放す方がいいに決まっている。
俺は急いで玄関扉の後ろに隠れてリリーの説得を試みた。
「リリー様!もう気付いているのでしょう!ヴァントル様が来ないことを!」
「うるさい!そんな事無い!ヴァントルは私の唯一の家族なのです!」
「じゃあ何で来ないのですか?」
「それは貴族としての務めがあるのです!」
「貴方が床に伏しても見舞いに来ず、亡くなって葬式にも参列しない、貴族の務めとはそれ程までに忙しいのですか!」
扉に掴まっているがその扉も物凄い力で揺れている。
「うるさい!ならヴァントル様は亡くなっているのよ!みんな私を傷付けない為に嘘をついたのよ!」
「みんなって誰ですか?使用人の夫婦二人の事ですか?ネーロ家の夫人なのにこんなボロ屋敷と二人の使用人しか与えらないのにそれでも愛されていると?」
「黙りなさい!」
リリーから更にオーラが噴き出す。そして俺の体が宙に浮いた。何かが俺を宙に浮かせたのだ。そのまま俺は何かに引っ張られリリーの目の前に連れてこられた。
これも聞いていない。アイリスもこんな事が起きるなら先に言えよ。感動してないで忠告の一つくらい出来ただろう。
足が地面に着かないふわふわとした気味の悪い感覚のまま、俺はリリーと対面した。手も足も動かない、頭だけが動かせる。これが金縛りと言うやつか。
リリーは俺を凄まじい形相で睨みつけている。
「どうしました?やっと現実を直視出来ましたか?」
リリーは睨みつけると俺の体はキシキシと音を立てて握りつぶされる様な感覚に陥った。急な締め付けに俺は息が漏れる。
「ぐわぁ!」
「これを見なさい!これはヴァントル様が結婚式でくれた指輪です!」
リリーは薬指つけている指輪を俺の目の前で見せた。その指輪はもう何十年も経ったからであろう錆びついて、宝石は今にも外れそうであった。
こんな物に縋っているとは。
「ほう、本当にヴァントル様がくれた指輪なのですか?」
「そうです!片時も外さず、死んでもこうやって肌身離さずつけているのです」
「よく私に見せて下さい。本物のはずがない。ヴァントル様が渡した指輪ならその証が彫られているはずです」
「何度でも見ればいいわ!この指輪が絆であり、契りであり、愛なのですから!」
リリーは俺の目の前で指輪を見せつけてきた、リリーの表情は自信が有るはずなのにどこか無理している様な顔をしている。
「もっと近くで見せて下さい」
俺が要求すると目に突っ込むんじゃないかと思うくらい指輪を近づけてきた。これでは何にも見えない。
しかしそれでいい。俺は大きく口を開けて指輪をリリーの指ごと食べた。
「ひぃ!」
リリーは悲鳴を上げて慌てて手を引いた。リリー体は透けており幽霊なので食べる事は出来ない。口から指だけがスルリと抜けて本物の指輪は俺の口の中で抜け落ちてしまった。
金属の味である。食えたもんじゃない。食いもんじゃない。
ゴリゴリゴリ、俺は指輪を噛んでみた。硬い。指輪なんて食べるもんじゃないな。
リリーは何も言えず呆然と俺を見ている。ただ手だけはわなわなと伸ばしている。
「ペッ!不味い!」
俺は指輪を床に吐き捨てた。勢いよく口から飛び出した指輪は床にカツンと当たり宝石が外れてしまった。
「あ、ああ、あ」
リリーは無残な指輪を見て座り込んでしまった。俺の拘束も解けて無事に床に着地できた。完全に心が折れたのであろう。
「なんて事するの……これだけが私の……」
「いい加減にしろ、そんな物が愛の証になると思うな。そんな物、近所のガキでも買えるぞ」
「私にはこれしか無かったのに!病弱で家族から疎まれて。部屋に閉じ込められて。ようやくヴァントル様が私を部屋から連れ出してくれたんです!」
「そして今度はこの屋敷に閉じ込めれたんだろ?馬鹿馬鹿しい。何も状況は変わっていない」
「それでも、もう私にはヴァントル様しかいないの!」
本当にムカつく。他人に存在価値を求める様な奴らは。
「他でもないお前自身がいるじゃないか!他人に価値を求めるな!他人に拠り所を求めるな!」
「じゃあこんな病弱な私一人残って何になるの!」
「病弱?ふざけるな俺を殺しかけといて病弱な訳かあるか!そもそも幽霊は体が無いのだから病気もクソもあるか!」
「元気なったって何にも残って無い私は何をすればいいの!家族に見放され、友人からもいなくて、ヴァントル様からも捨てられて。誰にも愛されず、一人で死んで、一人で幽霊になって。私は空っぽなの!何もやりたい事なんてないの」
何から何まで言わないといけないのかコイツは。幽霊になったらやる事は一つであろう。
「復讐だよ」
「復讐?誰に?」
「ヴァントルだよ、あいつは借金を肩代わりしてもらう為にアンタも結婚した。そして用済みになったらここに閉じ込めて、愛人作って今も本邸でぬくぬくと暮らしているんだ。復讐の理由には十分じゃないか」
「そんな事しても何にもならないじゃない」
「そうだ、だがスッキリする。復讐は何も残らないが嬉しくなる。晴れ晴れする。爽快感がある。それともそんなクズを野放しにしてアンタは満足なのか?そのうち司祭が来てアンタを倒すだろう。積年の恨みを晴らす絶好の機会をみすみす手放すのか?」
「それは……」
「今のアンタは病弱でベッドから動けないか弱い令嬢じゃない。宙に浮けて、壁を通り抜けられて、物を浮かせる復讐にはうってつけの存在になったんだ」
「そんな事女神様がお許しにならない……」
「今はアンタの話をしてるんだ女神は関係ない。自分の心に従え。肉体は死んだがアンタの心は死んじゃいない」
「でも……」
ええい、まどろっこしい。何で素直にハイと言えない。幽霊なんて法律もクソも無いだろうに。何を気にしているんだ。
「ならヴァントルのいる屋敷を見てきて決めたらいい。わざわざここでヴァントルを待たないで自分から行けばいいんだよ。そこでヴァントルの姿を見てその時の心に従え」
「私が行く?」
「そうだよ、待ってないで直接会いに行けばいい」
「ああ、そうか……何で私、会いに行かなかったんだろう」
「さあ、今すぐ行け。すぐに行け。その目で見てこい。アンタは自由だ縛り付ける物なんて最初から無いんだ」
リリーはフワフワと玄関から出ていった。草むらも門も彼女を阻む事を出来ない。
こうなったらこっちのもんだ。リリーは現実が見えていない。自分の心の安定の為ヴァントルを美化している。それなら簡単だ現実を直接見ればいい。
俺も外に出てリリーを追う事にした。最後まで見届けないと今回はマズイ。やっぱり消えてませんでしたなんてこの世界ではシャレにならない。
正門は相変わらず閉まっているので俺は裏庭を通り裏口から外に出た。これだけで随分とリリーのと差をつけられてしまった。
ヴァントルの屋敷はこの街で一番デカいやつで場所は分かっている。とりあえず急いで屋敷に向かった。
結論から言うと屋敷の側まで行ったが途中で引き返した。屋敷の門も前には人集りが出来ており全然進めなかった。
彼らは野次馬なのだ。何の野次馬かと言えばヴァントルの屋敷から聞こえてくる悲鳴であろう。
「ひぃやああああぁぁぁ!!」
「許してくれ!」
「あああぁぁ!!」
「あばばばばばば!!」
情け無いジジイの悲鳴が屋敷から何度も響いてくる。物が倒れる音や食器が割れるような音も聞こえる。屋敷の中でリリーはかなり暴れているらしい。
外から聞く分には不倫がバレた旦那が妻にボコボコにされている様であった。まあ概ね間違っていないのだが。
満足のいく結果を知れたのでボロ屋敷に戻ろう。もしかしたらリリーが帰ってくるかもしれない。
「うわあぁぁぁぁ!!」
俺はジジイの悲鳴を背にして去った。ヴァントルが何歳か知らないが元気な爺さんだなと思った。
俺がエントランスホールの階段で座って待っているとリリーが帰ってきた。その表情は実に満足気で死んでいるが生き生きとしていた。
「お帰り、どうだった」
「向かう途中は一目見たら帰ろうと思っていたのですが、年老いたヴァントルを見たら何だか愛していた気持ちが冷めてしまって……」
「ほう、それで」
「反対に沸々と怒りが込み上げて暴れちゃいました」
「いいじゃないか。それでヴァントルは死んだのか?」
「いいえ、ただ階段から転げ落ちたので大怪我程度はしてるかと」
大怪我程度とはいかに。しかしリリーは全くヴァントルな事を憂いていない。それもそうだ、あんな奴心配するだけ無駄なのだ。
「あの、ありがとうございます。貴方がいたから立ち直れました」
「これが仕事だから」
「それでもです。貴方でなければ私は無念を抱えたまま司祭様に打ち倒されていたでしょう。私は晴れやかな気持ちで女神様の下へ行けます。本当にありがとうございました」
リリーは淡い光に包まれた。満足そうな顔で笑っている。この世に未練など砂一粒だって無い様な清々しい顔である。
全く本当にコイツは何にも分かっていない。
「何を勝手に終わらそうとしている」
「え?何でしょう?あっ教会への寄付ですか?私はお金を持っていないので何も差し上げられないのですが」
「そうじゃない、復讐が済んだだけで何で満足してるんだ」
「え?」
「アンタは病弱でずっと屋敷の中に居たんだろ?行ってみたい所とか無かったのか?」
「確かに本で読んだ国とか行ってみたいと思ってましたけど」
「リリー・ネーロは死んでアンタはただの幽霊のリリーになった。縛りつけるものは何も無いんだ。そんな便利な体を持ってるんだ好きにしたらいい」
「え、でも死んだ人間は女神様の下へ行かなくては……」
「三十年もこっちでウロウロしてたんだ。今更何を言ってんだ?」
「確かにそうですか……」
「女神様も少しくらい見逃してくれるだろ」
リリーは少し考えている様であった。
「ふふ、そうですね。ちょっとくらい大目に見てくれますよね」
「後この屋敷には帰ってくるな。公にはアンタは女神様の下へ行った事にしとくから」
「二度と来ませんよこんなとこ」
リリーは笑っている。この屋敷に執着していた彼女はどこにも居ない。
「それもそうだな」
「そう言えば貴方の名前を私は知らないわ」
「ああ、雲水だ」
「ウンスイ様ですか。それではウンスイ様ありがとうございました。少し旅に出てみます」
「気を付けろよ。それとアンタの使用人だったローラが心配してたから旅立つ前に顔を見せやりな」
「ああそうだローラにもお礼を言わないと。本当に何から何までありがとうございました」
「いいって、早いとこ行かないとヴァントルのとこの奴らが来るかもしれないから」
「そうですね。それではまたお会いましょう」
リリーはスウっと飛び上がり天井を突き抜けて行った。幽霊の体を完全に使いこなしている。
「ふー」
俺は大きく息を吐いた。
今回初の幽霊退治は大成功と言った所だろう。
俺はポケットから指輪に付いてた宝石を取り出した。汚れているが宝石は宝石だ、売ればいい値段であろう。ニヤニヤが止まらない。
それに自称神の思い通りにならなかった。アイツは俺が除霊出来ず慌てふためくと予想していたのだろう。それにリリーは女神はとやらの所には行かなかった。屈辱的だろう。ザマァ見ろ。
屋敷から出ると朝日が登り始めていた。完全に徹夜だ。仕事柄こんな事はよくあるから何も問題はない。いつもに増して清々しい朝である。
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