押しかけた僕のその後

文月

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4.ザッカさんは、「奴らとは‥心の底から分かり合えない」って思ったらしい。(side ロナウ)

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 コリンはちょっと苦笑いして、
「‥仕事自体はたいしたことない。いつもやってる仕事の‥雑用部分だけどpickupしたってだけのことだ。
 僕が痩せたのは、単純に、ご飯が少なかったからだ。
 うっすいスープとかうっすい粥やら硬いパンで太れる方がおかしいよ。
 肉はC肉only。
 野菜といいながら大半は森で採れた野草。‥C肉を狩に行かされた新入りがついでに頼まれて採ってきたんだろう。僕も何度かやったことがある」
 うっすいスープとか‥って辺りでナナフルさんが憤り、ザッカさんが滝の様な涙を流している。
 ‥怖いよこの過保護両親。
 僕はちょっと引いたけど‥コリンは気にしてない様だからスルーすることにした。
 
 ‥成程、食事環境は悪い、と。協会費も集めてるみたいだし、補助金も国から出てるのに‥何に使ってるんだろ‥。
 備品? 
 
 ‥きっとそんな感じじゃないだろうな‥なんて予想はついたけど、折角の機会だから色々聞いてみようと思う。
 インタビューみたいだね! 
 見習いのインタビュアーにインタビューとか、‥ちょっと笑える。
 なんて思ってたら
「寝る場所の環境は悪くなかったの? ちゃんと寝れた? 薄い布団しかなくて震えながら寝た‥とかない? 」
 先に口を開いたのは、心配そうなフタバちゃん(フタバちゃんは僕みたいに興味本位‥じゃないみたい)
 フタバちゃんも‥随分と過保護になった。
 コリンは幸せ者だな。
 コリンは「ん~」と首を傾げ。
「寒いとか熱いとかは自分で調節するからそんなに問題はない。マットレスもないベッドは‥まあ言うならば教会の寮で慣れてる。この事務所とかフタバちゃん家でいいところで寝すぎてたから身体がそれに馴染んじゃってるか? って心配したけど‥そうでもなかったみたい。そういえば生まれた家もそんなにいいベッドで寝てなかったからね。庶民の家はそんなもんだよ。
 だけど‥あそこまでは酷くはなかったけどね」
 苦笑いした。
 あ~。教会の寮のベッド。確かに硬かったよね。だから、貴族の子やら庶民でも裕福な家の出の子は皆家からマットレスをもってくるんだ。勿論僕も持ってきた。聞いたことないけどきっとフタバちゃんもだろう。そう思って、ちらりとフタバちゃんを見ると小さく頷いて「私も勿論持ってきたわ」って言った。
「教会はそれでも薄い毛布があったけど、あそこはないんだ。「皆さん稼ぎがいいんですからご自分で買ってください。こちらで用意させてもらっても‥皆様にはそれぞれ好みもあるでしょ? 」って言われたけど、絶対買いたくないだけなんだよ」
 って不満げなコリン。
「稼ぎなんて、罰則者にあるか! そもそも買いに行こうにも外出が制限されてるのに無理だろうがって感じだよ」
 ‥一体どんなとこなんだ? 誓約士協会の寮‥。
 劣悪な食事と睡眠環境‥生活環境が『くそ』だな!
 僕が憤っていると、コリンは
「まあ、そう言ってやるな。‥奴らも悪い奴じゃないんだ」
 って苦笑いした。
 そして‥ちょっと考えると「そうだ‥悪い奴らじゃないんだ‥」ってしみじみと呟く。

「いや、奴ら‥管理者に悪気はない。あれだ。奴らも誓約士だから‥普通に常識がないだけだ。僕はそれでも「誓約士協会の寮以外」を知っている。誓約士協会の寮が劣悪だって気付ける正常な判断力もある。だけど‥奴らにはそれがないんだ。
「昔からそうだったし‥僕らもそうだったし‥。何か問題がある? 」
 って感じなんだ。
 退寮の挨拶に行ったとき‥僕は目撃しちゃったんだ。
 林檎を見ながら
「僕らもやっとここまで来ましたね~! 」
 って手を取り合って感動する奴ら(寮の管理者は一人じゃない)を。
 それで‥その林檎を剥いて食べて
「こんなおいしいものがあるんだ! 僕たちもここまでよく頑張った! 」
 って泣いてたんだ。
 そのときはドン引きして「一刻も早くここから出なくちゃ‥」って思ったけど、今思えば‥仕方がないことなんだな‥って。
 ‥何を好き好んでそんな劣悪な状況に居続けてるねんって思うのは‥正常な判断力があるからこそで、それがマヒしちゃったら「これが当たり前」になっちゃうんだ。‥多分」

 (コリンの予想)
 
 憧れの誓約士になった! 寮に入ろう! 
 え? 何この生活? ‥そうなの? 「そんなもの」なの? それが「ここの常識」なの? ‥ならいいか。慣れよう慣れよう‥。
 慣れた。
 新入生が入ってきた! え? 新入生が入ってきたから、二年目さんはスープの水増しがちょっと減ってスープが濃くなるの? やったあ! 
 え? ここの生活が変? ‥「そんなもの」だから、慣れて? 
 新入生も慣れた。
 (そのうちスープは濃くなり、アン先輩の食べてたような食事になる)だけど、林檎とかは特別な日に、「偉いさん」にしか出ない。
「いつかは僕も林檎を貰えるようになりたいもんだ‥」
 そうこう言ってるうちに僕もこの寮長いなあ。え? 寮長!? なりますなります! ここの伝統守ります! 

 の‥繰り返しだったんだろう。
 恐ろしいよ‥。

「‥怖いね。
 でも、栄養失調とかは問題ないの? 」
 つい出たこの言葉は(興味本位とかじゃなく)本音。
 ホント‥心配になったんだ。
 三年で寮を出れてよかった。コリンがそんな‥感覚がマヒした仕事only人間にならなくてよかった‥。
 コリンはふふって笑って
「他の皆は寮でしか食事をとらないわけじゃないからね。だから、「寮のくそマズい食事食べたく無いから寮を出よう! 」って頑張る目標になるんだよ。
 ええと‥誓約士協会のフォローの為に言うんだけどね。‥薄いしマズいけど、あれであのスープちゃんと栄養はあるんだ。調味料代わりにポーションとか入ってるから。(← だからマズい)「味と見た目? 食べ応え? 食感? バリエーション? そんなの無意味じゃね? 栄養さえあればいい」って思ってる‥んだと思う」
 多分。
 ってコリン。
 ‥やばい。ヤバいよ誓約士。
「酒とかも飲まないの? 」
 ザッカが眉を寄せて‥信じられないものを見る様な顔でコリンを見る。
 いや、コリンは「これは違う」ってちゃんとわかってるから‥。
 だけど‥確かに騎士寮とは全然違うんだろうな。
 騎士は身体が資本だからご飯もたくさん食べるし、お酒も飲む。いい騎士はほどほどに、飲む。
「飲みますよ? 魔術士はお酒が強いひと多いんです。魔力を一気に使ったら凄くだるいんですけど‥それを一時的に補うために飲んだりもしますよ」
 脱水症状は水分が足りない。それを補うために塩とか砂糖とか入った水を飲んだ方がいいでしょ? あれと同じ。
 体温や血流が上がったりするといい‥とかなのかな? 
 でも
「へ~‥」
 味とか関係ない。楽しく仲間と飲む? そんなのどうでもいい、とか言ってそう。
 アルコール何度だから、必要量は何mlとか言って計量カップで計って飲んでそう‥。
 ザッカさんの頭の中での奴らの扱いは‥こんな感じ。
「でも、お酒とか飲むのもメンドクサイでしょ。だから、僕は手っ取り早く取れるように粒状にした奴を持ってた」
 もはや、酒ですらない。
 ‥酒を楽しむ感覚なんてまるでない。
 効率効率って‥! あんたらの生活にQOL(quality of life)の考えはないんだな!!
 大いに憤るザッカさん。
 コリンはまた苦笑い。

 ‥ザッカさん、僕も魔術士だけど‥そこまで酷くないですよ。コリンは特殊です。‥魔術士の代表的なパターンとかじゃないです‥!

「僕らにとって仕事と日常は全くかけ離れたもんなんです。
 寮での生活は仕事の一部で‥日常とは全然違う。
 彼らもね。実家に帰れば友達や家族と酒を楽しく飲んでますよ。‥きっと
 だけど、仕事中に魔力が足りなくってやむなく飲まなければいけない酒は酒ではなく、ただの薬。薬を味わうやつはいない。‥ご飯も一緒です。薬はマズいと相場が決まってるんです」
 僕らとか、言うな!! 少なくとも僕は違うぞ!! 魔力不足になったら、諦めて寝るぞ! 酒飲んでまで「まだまだやれる! 」とか言わないぞ!? 何なの。エナジーポーション扱いなの!? 
「あ、誓約士の話です。魔術士の中でも誓約士は特にワーカホリックなんです」
 ‥そうそう。誓約士だけ。
 僕は大きく頷き‥隣を見るとフタバちゃんは‥「う~ん。まあ、私もそういうとこ‥ちょっとあるかも」って顔してた。
 僕の周りにはワーホリ(妻)、超ワーホリ(親友)しかいないのか!? 脳筋上司も若干ワーホリだしな! 
 ザッカさんは「信じられん‥」と呟いて、
 しみじみと‥
「俺たち騎士にとって‥というか、生きてる人間は皆食を取って身体を作るのも、仕事のうちだから手を抜かないってのが当たり前だと思ってた‥。
 食事は栄養を摂ることや身体を作るっていう肉体的な意味だけじゃなく、コミュニケーションをとったり、リラックスしたり‥そういう‥精神的にも大切な役割を持っている。
 ‥俺は、それを蔑ろにする奴らが‥信じられない。
 コリンには悪いが‥俺は奴らとは‥心の底からは分かり合えない‥」
 って言ったんだ。
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