Happynation番外編。

文月

文字の大きさ
上 下
17 / 18

ほっとけない

しおりを挟む
「だけど、サカマキが高位魔法使いだったってのは、神だから人と子を成さない為に‥ってことなのかな。やっぱり」
 魅惑の羽毛枕をだっこしてゴロゴロしているサカマキを、アララキが枕ごと抱き占める。
「ん~。‥かもねえ。
 でも、単純に嫌がらせかもよ?
 高位魔法使いは嫌われ者だし、神獣も「性的対象じゃないよね」ダブルってもう、性的に魅力とかゼロじゃね? って面白がってるんだよ。上司(←神としての)のやりそうなことだよ。
 ‥神のDNAが人の中に混じったら、大変なことになる‥って程大袈裟なことじゃないと思う。所詮、神としての俺の力なんて大したことない。
 今までにも、神と人のハーフは時々いたしね。
 それに、俺のここでの一生なんて、神にとってはほんの一瞬だから、そんな気にするようなものでもない」
 サカマキが苦笑いする。
 あれから、ちょっとずつ思い出したりしてるけど、‥俺の扱いはそんな‥重要人物感無かった。会社でいうところの、平社員だ。
 そうだな‥皆の憧れの大企業に勤めている、平社員。
 しかも、イジラレキャラ。いつまでも「そこそこのポジション」にしかなれないタイプ。(‥我ながら情けないね!)
「一瞬かあ‥」
 アララキがは~と深いため息をついた。なんか、「実感はわかないなあ」って顔してる。
 そうだよねえ。自分の人生が一瞬とかあんまり実感ないよねえ。
 その一瞬を人間は一生懸命生きてるんだぞ‥とかちょっとムカッと来るよねえ。
 でも、悲しいかな、そうなんだ。
 例えばさ、地球の長い歴史に比べたら人の一生なんて一瞬だよね。
 そんな感じ。
 ‥そこまでは長くないけどね。流石に。

「そう。ほんの一瞬」
 何でもない、って顔でサカマキは頷いた。
 自分で言ったのに、ちょっとこころがチクリ、とした。
 ここでの自分の人生は一瞬。‥でも、人間の人生は更に‥短い。

「でも、‥僕たちにとっては、大事な大事な一生だ。‥一度きりね」
 にっこり微笑んだアララキが、不安げな顔をしたサカマキをもう少し強めに抱きしめた。
 アララキの暖かい腕の中に包まれるのは、心配ないよって言葉で言われるより、ずっと安心する。
 だけど‥

 ‥安心できる要素なんて‥なにもない。
 大事な一生だって考えるのは大事だし、そう思って生きるしかないのは正しいんだけど、‥気の持ちようの話じゃなく、人の一生は短い。
 ‥いつかは、アララキは先に死に‥俺は置いていかれる。

「‥一度きり‥じゃなかった‥んだよなあ。俺たちって‥」
 前世と、今と。
 俺もアララキも‥カツラギもフミカも、一生は一度じゃない。
 途中までだったけど、今の人生とは別に、前にも人生があった。

「でも、サカマキとこうしてる過去なんて今まで無かった。サカマキは前世では坂本だったかもしれないけど、僕は坂本のことをそんな‥こんなふうに思ったことはなかった」

 そういえば‥顔は似てたかな‥って、今ちらっと思い出した。
 顔はあの時も可愛かった。だけど、だからっていって好きにならないよ。女の子みたいに可愛いとしても、別に本物の女の子がいるわけだし。
 女の子の「かわり」に、女の子っぽい男の子を好きになるとか‥わけわからん。
 そういうのじゃなく、男の子だとか女の子だとか、顔が可愛いとか可愛くない‥とかじゃなくって、‥サカマキが良いんだ。
 「サカマキがいい」って自分で決めちゃったから、「サカマキがいい」んだ。前世の自分を殺した殺人者だったり、神だったり、男だとも女だともつかなかったり、神獣だったり‥ツッコミどころ満載だけど、それは仕方が無い。

 坂本じゃない。
 僕が好きなのは、今のサカマキだ。

 サカマキはちょっと苦笑いして
「‥それ、聞きたいって思ってたんだけど、全然‥ちっとも何とも‥思ってなかった? その‥さ、坂本のこと‥」
 ちらっとアララキの腕の中から視線だけ上げた。
 アララキがサカマキの目を覗き込んで、ふわりと微笑む。
「‥ん」
 相変わらずの美形スマイルに、サカマキがちょっと赤面して顔を元の‥アララキの腕に伏せる。
 見えてる耳が真っ赤だ。
 ‥可愛い。
 アララキは瞳を細めて微笑むと、サカマキの後ろ髪を撫ぜた。
「ん~。まあ。ね、あの頃は‥そうだったと思う。あの頃の‥小笠原な僕は、ただ彼女が欲しい、モテたいって思ってた、冴えないただの男子大生だった」
 さらさらと後ろ髪を撫ぜていると、サカマキがピクリ、と反応したのが分かった。
 ‥ちょっと怒ったかな?
 そりゃあ、そんなはっきり無関心だったよって聞かされたら、ねぇ。

 だけど、小笠原は自分の前世だったにもかかわらず、別の存在(小笠原)がサカマキ(あの頃は坂本)の事好きだったって考えたら‥なんか嫉妬心が沸いてくる。

 小笠原も(前世とはいえ)自分自身だろって言ったって、考えてることも顔も住んでるところも‥今と何もかも違う男は果たして、自分自身と同じと言えるだろうか? ってことだ。

 サカマキにはそんな考え方無かったみたいだ。
「‥そう‥かあ‥なんか、そんな普通の大学生に坂本な俺はなんであんなに執着してたんだろ‥」
 拗ねてるってのが、口調から分かる。サカマキは「生まれ変わっても君が好き」に憧れてる方なのかな? そんなところも可愛い。

「‥でも、仕方ない‥かあ。俺だってアララキの事、小笠原先輩だから好きになったわけでもない‥しなあ」
 ‥そもそも、元々自分から好きになったわけじゃない。
 熱烈なプッシュを受けて気がついたら‥って感じだったって感じだ。
 流されたって奴だね! 

 あの「賭け」を聞いてた神様(サカマキを転生させた神だね)が(面白がって? )サカマキとアララキを会わせるように調節したとしても、好きになるかどうかはサカマキやアララキ次第だったわけだ。
 そういう、偶然っていうか‥めぐり合わせっていうか‥運命っていうか? そういうのって、なんか凄い。
 ああ、奇跡ともいうのかもしれないね。
「そう思ったら、‥凄いことだね。今こうしてるのって」

 ホントに、そうだ。
 サカマキの事をアララキが好きになってなかったら、今頃アララキはきっと王になんてなってなかった。
 サカマキは今でも高位魔法使いだったかもしれない。(っていうか、凄い確率でそうだろう)
 カツラギとフミカは絶対生き返らせてただろうけど‥フミカは‥もしかして、もっと人造人間みたいな感じになってたかも。

 アララキと産んだから、今のフミカがいる。

「アララキがいなかったら‥フミカは最悪人造人間だったかもなあ‥」
 そんなことを何となく話したら、アララキの顔が引きつってた。「僕はフミカの恩人だね‥」って呟いたのは‥だけど、無視した。

「‥そういう‥奇跡みたいな関係やら気持ち‥この先、カツラギも見つけられるんだろうか? 桜子と正樹を見てたら、「出会うべくして出会った」とかそういう感じには見えなかったんだよな‥。
 無理矢理くっつけた俺が言うのもなんだけど。
 そういうと、‥俺は、なんてことしたんだろうって今頃になって反省してるんだ」
 前々から思ってたことが、つい口から出た。

 桜子の気持ちとかって考えたことない。‥それは正樹についても言える。
 とにかく、何でもいいからくっつけなきゃ‥って思った。
 フミカたちの為に。

「まあ、‥あれは酷かった‥とは思うけど、結果的にあの二人は、そんな燃え上がる様な恋ではないけど、お互いの事を大事に思ってる‥って思うよ」
 アララキが苦笑いする。

「暮らしている内に、情が移ったってのもあるのかも。桜子はあんな感じだから」
 サカマキが首をひねる。

「まあ、元から知らなかった仲でもなかったし、いくら桜子でも嫌だったら結婚しなかっただろうと思うよ」
 って、アララキのセリフは、でもまあ、全然根拠なんかない。しかも、そう関心もない。アララキは桜子にさえ(サカマキがあんまり桜子桜子言うから)嫉妬してるし、正樹の事は苦手らしい。(七章1部でもそんな話をしていた‥)
 
 適当なこと言って‥。そんなに桜子の事知らないだろ。
 ‥ったく、なんで桜子に嫉妬するかねえ‥

 って、相変わらず「(桜子に対する執着心が強い)正樹よりもずっと(サカマキに対して)執着心が強い恋人」には、苦笑いしかない。(いつものことだから、わざわざ言わないけど)

「日本人って愛情表現が淡泊だから、そういうの傍目からわかりにくいんだよね‥」
 ふう、とため息交じりで呟く。
 アララキはオーバーアクションって位に大袈裟に頷くと、
「それは同意だな。結婚前はそれでも、好かれるために努力してる様な所はあるけど、結婚した後って、びっくりする程淡泊だよな」
 ぎゅう、と腕の中のサカマキをさらに強く抱きしめた。

 ‥お前は、ちょっと熱烈すぎるけどな。
 サカマキは、小さくため息をつく。
 ‥ったく、コイツがもとはあのシャイな日本人だったなんて信じられないな。環境とか顔とかが変わったことによって、性格まで変わったってことかなあ‥。

 性格は、環境とか顔っていう、外的要因によって変わり得るか?
 答えは、yesの一択だと思う。

 顔に自信が持てることによって、外交的になるってこともあるだろうし、何より大きいのは環境っていうか‥風土・気質だろう。
 感情豊かな風土だったら、感情をオープンに表すのが普通で、シャイな人の方がマイノリティだとか‥そういうのもあるだろう。
 愛情表現以外だって、そうだ。
 地球の‥日本に住んでるよりあの村で住んでいる方が「求められる身体能力」だって高めだろう。
 なんせ、逃げ足が速くなきゃ逃げ切れないし、腕力だっている。
 こっちでのアララキの身体能力云々だって、サカマキの事を好きになって以来は「サカマキにいいとこ見せたい」って目的もあっただろうが、必要に迫られて身に着けた‥って部分が大きい。(魔獣がいるって環境もそうだけど、育て親も特別スパルタだったし)

 転生チートは、魔法だけだったって話。

「日本とか‥周りの人たちも、そんな感じ(愛情表現が淡泊)だから、熱愛ラブラブ♡だったら浮くしな」
 サカマキが言うと、地球時代をちょっと思い出し、アララキが頷く。

「こっちでは、淡泊な方が浮くけどね」

「そうそれ。「喧嘩したのか? 」とか「あいつは冷たい奴だ」とか、ラブラブな態度じゃなくても、お互いを尊重してるよ、お互いが大事だよって態度を表に出すよな。こっちの人間のほうが」

「それって大事だよね」

「ホント、それ」

 態度に出さないと伝わらない。
 態度に出してる内に、関係もよりよく変わる。

「‥カツラギだって、好きって気持ちは分かるだろうけど‥
 あいつは、誰かと一緒に歩んでいくイメージがない。‥そういう人間は‥どういう風になっていくんだろ。
 あいつにとって、地球‥日本は住み辛くは無いと思う。他の国は知らないけど‥。
 お互いの生活には干渉しないでおきましょう。
 仲が悪いからとかじゃなくて、だ。仲が良くても、‥だ。
 結構、地球ではよくあった関係だよな。
 お互いの自由を尊重するっていうの?
 ‥でも、俺はそれじゃ‥それだけじゃ‥寂しいんだよなあ‥」
しおりを挟む

処理中です...