Happynation番外編。

文月

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その後のHappynation。

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「これこれ。このつぶらな瞳にキューンってなったんだよね~」
 今日もアララキは、我が子‥っていうか、我がひよこにメロメロだ。
 サカマキの眉が一瞬ぴくってなる。
「え、俺に対しても元々は「モフモフ可愛い」って奴だったのか? 何それ。それって、恋か!? 俺のこと、愛玩動物扱いしてたのか?! 」
 少々大袈裟に眉をしかめてサカマキが我が子をアララキから奪い取る。
 アララキはきょとん、とした顔をした後、ふふ、と目を細める。
 自分が子供にばっかり構ってるから、ヤキモチやいちゃったのかな? サカマキったら案外子供っぽいなあ~。‥というか、子供に自分に対する僕の愛情を取られちゃったって思ったかな? そんなわけないのに!! サカマキ、可愛い!!
 って相変わらずの年中花畑な恋愛脳だ。
 ‥違うぞ。別に、俺への気持ちは、loveじゃなかったのね!? とか言って拗ねてるんじゃないぞ!? 普通に動物扱いされたら怒るよね!?
 そんなアララキの心の声を、長年の付き合いと‥彼の感情駄々洩れの表情からほぼ正確に読み取ったサカマキが呆れた顔をしたんだけど、お花畑な脳みそのアララキには「拗ねちゃって! まったく可愛い奴だなあ~」って風に見えてるらしい。
「愛玩動物扱いなわけないでしょ。もう、サカマキったら。でも、初めからloveって感じじゃなかったのは確かだな~。つぶらな瞳に癒されて、気がついたら‥って感じかな? 」
 にっこりと‥蕩ける様な慈しむ様な視線をサカマキに向ける。
 ‥フォローになってないし。それに、‥何それヤバい。
 源氏物語的なあれか? 育てて来た子にある日突然‥的な? 兄だと思ってたのに、酷い! って‥あれか?
 あれ、‥どうかと思うよね? 人間的に‥。
 気がついたら
「変態‥」
 ぼそっと呟いていたサカマキに、アララキが焦った顔で詰め寄ってくる。
「え!? 何!? 『幼馴染。兄弟みたいに育ったけど、気がつけば‥』ってよくある事じゃない? 」
「‥アララキと俺は、兄弟みたいに育ったというより‥アララキが俺を育てたって感じだったよな? カツラギから聞いたぞ? 俺の世話は全部アララキがしてくれてたって‥。それこそ、誰にも手を出させなかったって‥」
 兄弟みたいっていうより、それこそ、親子みたいに‥なんだけど、親子ほどは年が離れていないから、「年の離れたお兄ちゃんが面倒見てくれました」的な感じだろう。
 それは、兄弟みたいに育った幼馴染とは違う気がする。その関係は寧ろ、アララキとカツラギだ。
 アララキとカツラギは年が近いこともあって、それこそ一緒に育てられて、カツラギが「ズルを覚えて」仕事の手をぬくまでは、互いに努力して、競い合って、能力を高めあうライバル的存在だったって他の兄弟からつい最近聞いた。(幼少期村にいたころのサカマキはアララキに囲い込まれてたから、他の兄弟たちとの接触があまりなかった)
 幼馴染で兄弟みたいで‥ライバル的存在。記憶をどんなにたどっても、自分とアララキの関係は一瞬たりともそんな関係ではなかった。
「ええ!? 全然反論できないけど、そもそも恋ってそういうもんじゃない?? 自分の好きな子には独占欲を持つ。ずっと一緒にいたい、誰も触れて欲しくない。お風呂も一緒に入るし、一緒に寝るよね?? 」
 ‥それは一般的な恋愛だろうか‥。
 ってかそれは‥
「それは、乳児の子育てだと思います。そして、普通の人はちゃんと子離れします」
 ふう、とサカマキは落ち着いた口調で言って、腕の中の幼子(ひよこ)を撫でた。
 そう、子育てだ。
 そう口にしながらも、サカマキは
 ‥子育てかな。
 と「何か違うな」感をひしひしと感じていた。だけど、そういうことにしときたいじゃない。あの優しい村での優しい兄さんたち(アララキとカツラギ)との思い出を‥そういうことにしときたいじゃない。
 兄さんは、ちょっと溺愛傾向があった優しい兄さんだって。それこそ、自分が拾って来たひよこだから自分で面倒みるぞ!! って責任感が強い少年が「おや、人間になったぞ、じゃあ弟だな」って自分を育てた。‥そういうことだよね!?

 決して、病んでる感じじゃないよね??
 閉じ込めて、監禁的love‥とかじゃないよね!?

 そんなサカマキの心の声はアララキに届かなかったらしく、アララキは
「え!? サカマキは僕の子供じゃないよ? 僕は一瞬だってそんなこと思ったことないよ? 子供だと思ってる子に、唇柔らかそうだなあ‥キスしたい‥とか、こんなに身体が小さかったらまだ僕のものは受け入れられないかなあ。無理したら壊しちゃいそうだなあ。もう少し我慢だ‥。初めての時は痛くしないようにしないと‥、でも僕の理性は保てるかな‥とか心配したりしないし。
 でも、キスを「寝る前にはあたり前にするものだ」って教えたら、何の疑いもなく信じてたサカマキはホントに天使みたいだったな~。いや、今でも天使だけどね~」
 さらっと変態全開なことを言って来た。

 ‥だれかこいつの口を塞いでくれ‥っ!

 病み過ぎてないか!? それが、子供の思考か!? お前、いつから俺のことそんないかがわしい目で見ていたんだ!? それ、ホントに子供の頃思って来たことか!? 一般的な子供の恋愛ってのは、もっと控えめだったり、もっと初々しい可愛らしいもんじゃないのか?! 
 しかもアララキ‥お前さっき「幼馴染だったけど、気がつけば‥」みたいな「可愛らしいlove」の話してなかったか?! 自分が言った言葉すら一瞬にして撤回か! 

「わ~!! 優しい兄さんだと思ってたのに‥昔っから頭ん中エロエロだったなんて‥っ! ある日突然、二人の関係に変化が‥どころじゃなくって、けっこう前の段階からエロイこと考えられてたなんて!! 」

 耳を塞いでいやいやする俺をアララキが「どうどう」って‥蕩けた様な目で‥宥める。

 ‥そうだよな!! お前は昔から、むかしっから病んでたよな!!

 昔から、アララキにはヤンデレ傾向があったんだ。アララキのサカマキに対する可愛がり様は、子供がお気に入りを自分だけで独占ってレベルを超えてたってカツラギも言ってた。
「目が病んでたな。弟が心配、とか可愛くって仕方ないってレベルじゃなかった。あれは、俺のものに手を出す奴は何人たりとも許さないって感じのレベルだった。殺気さえ感じられた」
 って。

 ‥囲い込み‥監禁‥。
 自分好みに育てて大きくなったら(性的に)刈り取ろうって計画だったってわけだ。
 一瞬でも、父性を抱いて自分で育てて来た相手をだ‥。それを変態と言わずして何と言おう‥。
 ‥きっと、一緒に風呂に入った時も、優しい兄さんの目じゃなく、イヤラシイ目で見てたんだ‥。な‥なんて、人を人間不信にさせるような発言をする奴だ‥!

「純粋無垢だった俺の少年時代の思い出を汚さないでくれ‥っ! 」
 がっくり膝を折るサカマキをアララキは
「‥純粋無垢だった少年時代のサカマキ‥。可愛かったなあ‥。僕の事、信用しきった‥キラキラした目でみあげてさ‥あの時の僕はよく耐えたって、昔の自分を褒めてやりたいくらいだよ‥」
 (多分かなリ美麗にデフォルメされた)昔を思い出しているらしい。アララキは恍惚とした顔で微笑んだ。
 その美麗な顔までが、いかがわしい。
 いかがわしいし、病んでるんだけど、やっぱりいつもと同じで、誰よりも綺麗でカッコイイって思えちゃうんだから自分も大概病んでいる。

 ‥まあ、100%自分好みに自分が作り上げた顔だから自分の好みにドンピシャでもしかたがないか‥。

 はあ、とため息をついて
「俺は、昔に戻って「逃げて~! 」って俺に言いたいよ‥」
 何か「気持ち、分るよ」って言ってるかのように、苦笑いして(‥る風に見える)俺を見上げているひよこな我が子を一撫ぜした。


「サカマキ~! 」
「こら。足元も見ないと転ぶぞ! ‥ああ‥言わんこっちゃない。だけど、泣かないのは偉かったな」
 フミカが我が子・ハルカの頭を撫ぜて微笑んだ。すっかり「お母さん」の顔だ。
 フミカは、最近王都の兵士に就職して(復帰して? )ナツカと共に王都勤務している。今日は、休みが取れたので、久し振りにハルカと共にサカマキたちに会いに来たのだ。
 アララキとサカマキが家の外まで二人を出迎えた。
 休暇の調節がきくアララキが二人に合わせたんだ。サカマキは‥アララキに合わさせられたって感じかな。
「フミカ久し振りだな! 」
 サカマキがフミカに微笑む。
 フミカとナツカの子供は、外見も成長の仕方も9割人間の子供だった。(卵で産まれず、人間の形で産まれたしね)
 1割は、神獣の血なのだろう、若干人間より魔力が強い。
 顔はナツカそっくりな男の子で、
「サカマキ! 俺はもう大きくなったぞ! 結婚しよう! 」
 サカマキが大好きだ。(ここら辺はアララキ似か)
 ‥お母さんと結婚するってのはたまに聞くけど、孫に求婚されるって珍しい。
 可愛らしい子供の仕草に、サカマキとフミカは微笑ましそうに微笑むが、‥アララキだけは大人げない。
「何度言ったら分かる。サカマキは僕の妻で、この先ハルカがどんなに大人になろうと、サカマキとは結婚出来ないんだ!! 」
 子供相手に、本気で説教。
 だけど、子供相手だけど血が繋がっているから‥とかそういう理由で説得したり、突っぱねたりしない。
「だけど、まあ、趣味がいいことは認めてやろう。きっと、ハルカは将来いい結婚が出来るぞ。楽しみだな」
 って、しゃがんでハルカと目線を合わせ、「おじいちゃん」の顔で微笑む。
「へ! ちょっと俺より先にサカマキと出会ったからって、偉そうに。俺がアンタより先にサカマキに出会ってたら、サカマキを嫁にしてたのは俺だったのにな! アンタが誇れる唯一の幸運・「運がいい」を生涯大事にしろよ! 」
 ハルカが白けた顔でアララキを見る。
「その他はどう考えても俺のが勝ってるからなあ‥俺の最大の不幸は「運が悪い」だな‥」
 ハルカがため息をつく。
「勝ってるのか? ハルカが? 僕に? 何処が? 」
 アララキが首を傾げると、ハルカが白けた様な顔でアララキを見る。
「え~? いちいち聞いて落ち込みたいの? マゾなの? まあ、聞きたいなら教えてあげるけどさ‥。
まず、僕のが若いでしょ? 」
「そりゃ、まそうだよな? 」
 アララキが頷くのを待って、ハルカが話を続ける。
「俺はアンタみたいに粘着質じゃない。わかるか? 粘着質な性格ってのは、自信のなさの表れだ。自分に自信がないから、人の行動がいちいち気になるんだよ。
 つまり、アンタは自分に自信がなくって妻の行動が気になって仕方が無い小さい男ってわけだ。
 その点俺は自分に自信があるから、サカマキの行動や意志を尊重できる
 ‥愛する妻って言いながらも、その妻を信用出来てないってのも最悪だな」
「ほう、サカマキの行動や意志を尊重できる、と。サカマキの行動や意志を把握できてないの間違いじゃないか? サカマキのことを分かってるからこそ尊重する反対する‥って言えるんであって、分かりもしてないんじゃ尊重するどころじゃないだろ? ただ、接点がないだけだ」
「なんだと!? 」
「自信があるって言うけど、根拠のない自信なんて百害あって一利なしだぞ? 自信って名のもとに、人は努力を怠り、警戒を怠り、慢心する。そんな危険な男にサカマキを預けることは出来ないなあ」
「う‥」
 アララキの言っていることは、‥子供相手に言うことではないが、サカマキは不覚にもドキッとした‥。
 
 ものは言い様だな。
 アララキのしてることは、ただのストーキングと過保護なんだが‥。
 
「後は? 顔の話をする? だけど、顔だけは僕はサカマキに好かれてるって確信があるんだ。サカマキったら未だに僕の顔見て真っ赤になったり‥時々見惚れたりしてるんだ。ホントにサカマキったら可愛いよね~。
 ああ。ごめんごめん。今はハルカのいいとこって話をしてたよね。
 ああ、若い‥だっけ? その若さを体力面で言ってるんだったら、僕はまだまだ現役だよ? 昼夜バテ知らずだよ! 
 寿命も、神の伴侶補正で問題はないし! 生涯現役だよ! 」
「昼夜バテ知らずって‥別に夜はバテてもいいだろ‥。夜は寝ろよ」
「ははは! こういう話は若い子‥子供にはまだ早かったね! 」
 ‥下ネタ最低‥。
 これ以上ここにハルカを置いとくのも考えものだ‥と思うサカマキとフミカだった。


 さて、カツラギはというと‥
 やっぱりあれから数年たった今でも相変わらずだ。
 時々調整にこっちに帰ってきて、地球の技術を広めたりしてる。‥勿論、私的な交流についてもお盛んだ。
 カツラギに「誠実さ」や「堅実な将来設計」を求めても無理なんだろう。
 この頃は正樹も
「翔の一生だから翔の好きなように生きればいい。だけど、自分の行動には常に責任を持て」
 って、ちょっと諦め気味だ。


 こんな具合に、happynationも地球の皆もそれなりに、ホントに「それなりに」幸せに暮らしている。


 Happynation‥理想の国 そんな大層な名前のついた国に住み、Perfectmanを名乗った勘違い男を夢見る。
 この狂った‥でも愛おしい世界。
 
 人々が笑って過ごせる理想郷。Happynation。
 そこに住むという、理想の‥正しい「特別な人間」Perfectman。
 ‥HappynationにはPerfectmanが住むという。
 Perfectmanは、人々の良心。人々の理想。
 ‥ありえない、だけど、こうありたい‥って理想の象徴。

 万人にhappyってのは絶対ないし、皆を幸せにする‥いつでも正しい完璧な人(perfectman)もいないけど、だ。
 それで、いいんだって思う。
 だからこそ、愛おしいって思える。
 それなりなら、皆が程々に幸せになれる気がする。
 皆がそれなりに幸せになれますように。


 ‥そうなればいいって思う。
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