リバーシ!

文月

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四章 人は自分が思うほど‥

8-2.リバーシは、皆病み過ぎてるみたいです。

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(side ヒジリ) 


 ミチルは何の助けにもならない。
 自分で何とかするほかない。そりゃあ、そうだ。
 だけど‥
 今更対王族に対する敬語とかで話のも変だし‥普通に知らないしムリだし、せめてこれからは丁寧語で話すことにしよう。
 せめて‥だ。
「‥成程‥ですね」

 なんじゃ、成程ですねって‥。

 俺ホントに社会人か? ‥敬語とか丁寧語とかって意識すると途端に喋れなくなるよね?
 幸いミチルは俺の不自然さに気付いていないようで(聞いていないのかもしれない)
「そもそも、国だってやみくもにそういうことやっててるわけでもないよ。俺だって、一日や二日は、誰にも声を掛けられずに一人さまよってたわけだし」
 と続けて「そうだよな? 」とラルシュに確認を求める。
 このフラットな態度。
 でも‥。ミチルが敬語とかで話さないのは、ラルシュとミチルの付き合いが長いからだ。俺とは違う。
 それにつられてつい‥とか問題外! 
「情報網が張られてるんです。それで、目撃情報とかが出て‥保護する。その間の仕事は、迅速に、確実にですね」
 ラルシュが頷く。
 思えば‥ラルシュって俺に話すときにははじめっから丁寧語だった。
 ‥だって、親しくないから‥。

 俺だけ‥。(落ち込むわ‥)

 まあ‥それはそうと‥(これから改めるとして‥)
 ミチルの話の続き。

 つまり、ミチルが彷徨ってた2・3日の間の目撃情報で国が迅速に対応して、ミチルを保護したってこと。

 ‥なんか、徹底ぶりが凄いなあ。
 この国にとって、リバーシの重要度‥危険度が分かる。
 そして、‥この国出身のリバーシである、自分‥。
「‥なんかすごいですね」
 俺は、自分の我儘で「この国なんて別にどうでもいい」って言っていいものでは無い‥。
「俺‥私には、ここで何ができる能力があるでしょうか。‥私には、ミチルみたいに情報処理能力も、プログラミングを組むことも出来ないです。‥あっちでしている仕事は、出版業ですが、ここに還元できるような知識は‥ないです。
 ‥魔法使いでもないし、スキルは変なのばっかりだし‥
 私は、ここで何ができるでしょうか」
 この前、ミチルに言われて以来、気になっていたことをラルシュに聞いた。

 ここでの仕事。
 自分に何が出来るのか。

 これは、この前からずっと考えている。
 ラルシュは真剣に俺の話を聞いてくれて、聞き終わると改めて、大きく一つ頷いた。
 一呼吸‥って奴だ。
 人間、考えずに取り敢えず話すと大概ろくなことにならないからな。これも、対話術って奴だろう。
 だから、この一呼吸の次は多分
「そうですね‥」
 だろう。
 まあ、そんなすぐに答えなんか出るものじゃない。
 だけど、ラルシュが口を開く前に
「確かに変なスキルばかりだよな。ヒジリの趣味か? 」
 ミチルが「そういえば」と口を挟んだ。
 ラルシュが考える時間を稼いでいるのだろう。ミチルは、気配りさんだ。
 吉川といいミチルといい、俺の周りは、気配りさんだらけだ。
 ‥俺の至らなさを実感して落ち込むから止めて欲しい。
 ‥まあ。わざわざ言わないけどさ。
「‥実用重視‥とか‥だったのかな。よく覚えてないけど」
 代わりに、俺はミチルのさっきの質問に答えることにした。
 まあ、あんまりそこらへんのところは覚えてないんだけど。
 俺が首を傾げながら答えると、
「‥え‥。『金属でなんでも止めるチートなスキル(状態異常)』って、‥実用的?? 俺は、今まで生きてきて、そういうものがあれば‥って思った場面には出くわさなかったけど‥」
 ミチルがあからさまに怪訝そうな表情で俺を見た。

 ‥確かに。

 俺よ、適当なこと‥言うな。
 俺が引きつった笑いを浮かべていると、
「あれは‥攻撃魔法‥正確には防御魔法だね。
 魔法なら「何も」(媒体が)無くても、敵からこうの攻撃を止められる。だけど、魔法じゃなかったら、「何か」がいる。その何かがヒジリの場合「金属」だったってことだね。
 金属は土属性の上位だ。ヒジリは、土の属性を持ってるからできたんだろう。
 あとの二つも、日常を便利にするスキルというよりはそれぞれ攻撃に繋がりそうな状態異常だった。
 ヒジリは魔法使いの友達がいたから、自然とそういう考えが身についたんじゃないかな? 」
 魔法は使えないけど、魔法の代わりに媒体を使って、なんちゃって魔法を作り出してた‥ってこと。
「‥ああ、ヒジリは魔法に憧れてたって言ってたもんな。
 あと‥あれだ。憧れてた人が魔法使いのナツミちゃんばっかり褒めるから嫉妬したんだよね~」
 って、ミチルが意地の悪い顔をする。
 ったく! 違うっていったじゃん。
 憧れとかじゃなくって、子供特有の「自分もかまってほしい! 」ってあれだ! 
 ‥っていうか‥

 魔法に憧れてあれを考えた‥?

「うん? ‥あれは、憧れとかとは‥違ってもっと‥生命の危険を感じて‥考えたような気が‥」
「生命‥? 」
 ミチルが微妙な顔で、俺を見る。「何言ってるの? 」って顔だ。
 ‥そうそう、生命の危機的な‥。
 俺は、その時、ふと思い出したことをそのまま口にした
「生命の危機を感じて、反射的に使っている内に、思いついたスキル‥。そうそう‥ナツミがふざけて攻撃して来たときに、止めたり。急に空からなんか降って来たときに、止めたり。時々、知らない奴に刃物で切りかかって来られた時とかにも対応できたりとか。それが結構日常的にあったから‥」
 そうそう、そんな感じだった。
 いやあ、今となっては懐かしいなあ。
 俺がしみじみと懐かしがっていると
「それが‥結構日常的? 」
 ラルシュが「何か嫌な予感がする」って顔で俺を見た。
「‥え‥それで片づけられること? それって‥」
 友達がふざけて‥攻撃とかしてくる? 普通。
 ミチルの顔が、さっきよりさらに微妙な表情になっていった。
「ナツミは、そんなに日常的に攻撃してきてたの‥? そういうスキルを使わなくちゃ防げない位の攻撃を‥」 
 ラルシュは、ちょっと顔色が悪くなっている。
 どうした? 寝不足かな? 寝た方がいいよ? 
「え? チャンバラごっこみたいなもんでしょ? 
 ‥氷の剣でよく遊んだなあ。
 だけどさ。氷の剣みたいに、剣筋が見えるもんだったらまだ良かったんだけど、『アイスピック』っていうナツミの魔法が凄くって、四方八方から氷のピックが飛んでくるの。その時に、「水を空気に変える‥」で防いだりとかして‥。
 あ、でも。これの方がまだ良くって、『アイスヌードル』、これはなかなか厄介なんだ。なんせ、対象物が針くらいに細くて、見えにくいんだ。透明だし。でも、刺さったら、めちゃ痛いし。
 だから、来たもの(攻撃)は全部防いじゃえって感じで‥。
 あ~でもアイスヌードルはひどかったな~。そう、アレに比べたら、『アイスアロー』なんて、親切過ぎて「どうしたの、今日は、調子悪いの? 」って感じだったね」
 俺はそんな何でもない昔話を付け加えた。
 ああ、ほんと、懐かしい。
 ナツミ元気かなあ。
 ‥どうした? なんか二人とも顔色悪いぞ? なんかあったのか?
 ラルシュはやっぱり寝不足かな? ‥そんな時に俺のつまらない長い話とかして悪かったなあ‥。だって、つまらない話って眠くなるもんな~。
 あと、ミチルは女の子の理想崩れた~って感じかな? 悪いね。お淑やかな女子じゃなくって。大丈夫、俺たちだけだと思うぞ、こういうのは別にこの国でも一般的な女子の遊びじゃない。うん。
 しばらくの沈黙の後、
「‥‥‥女の子の幼馴染の遊びってそんな感じなんだ‥」
 ラルシュが、青い顔のまま呟いた。
 ラルシュも女子はお淑やかなはず‥タイプか~。
 ごめ~んね~。
 ってか‥ラルシュは、幼馴染のミチルとそんな遊びしてこなかったのかな? ああ、ミチルが来るのは夜か、‥出来ないわな。アイスヌードル飛ばされたら、‥見えなくって、もう、暗殺レベルだね。ええと、でも、ラルシュは火の攻撃魔法持ってるから、溶かせるね。いいなあ。
 ふむふむ‥と頷いていると
「‥いや、きっと違うと思うぞ。っていうか、ナツミは本気でヒジリを殺しにかかってないか? 」
 ミチルが呆れた顔になった。
「まさかぁ」
 俺は、あんまり突拍子もないことを言うミチルに笑った。
 何を言うんだ。
 子供がじゃれついてるだけじゃないか。‥スキンシップだよ。
 まったく、ミチルってナツミに冷たい‥ってか、やたらナツミを敵視してる。流石に怒るぞ!
 人の友達を悪く言わないで欲しい! 
「ナツミは、氷の属性だったの? 」
 俺の不機嫌さが伝わったのか、ラルシュが話をちょっとそらした。
 ほんと、ラルシュにまで気を遣わせちゃって、困るな。ミチルは! 
 まあ、今はラルシュの質問に答えるけど‥。
「そうですね? あ、でも、水だけじゃなかったですよ。そうそう‥土魔法も‥。
 『迫りくる土壁』、あれは嫌だったなあ‥。
 土壁が左右から迫ってきて‥挟まれそうになるの。
 だから、俺‥『なんでも水に変えるチートなスキル(状態異常)』を覚えたんだよ‥。そうそう、時々埋められたりした時とか、周りを水にして逃げたり、‥ああそうそう、このスキル、風魔法で上空に投げ飛ばされた時にも使えた」
「‥‥絶対。殺しにかかってる‥いや、違うな。ヒジリが魔力を膨大に持ってて、なんとかよけられると分かってるから、魔法の実験台にされてたんじゃないか? 」
 またそんなことを!!
 ほんと、ミチルは!!
「じゃあ‥『石を魔石に変えるチートなスキル(状態異常)』これの誕生秘話は? 」
 と、俺の怒りの矛先を変えるべく、またラルシュが話を逸らせる。
 ‥止めてくれるな! 今度こそはミチルを‥!!
 ‥まあ、まずラルシュの質問に答えるけど‥。
「あれは‥。
 無人島に飛ばされた時に、火の魔石を作って火をだしたり、外国に転移させられた時、自国に帰る為の路銀稼ぎに使ったり。ホント良かったですよね~。土の属性があって。
 因みに、このスキル。重要なのは、土の変質であって作れる魔石と俺の属性は関係がない‥ってことなんです」
 そうそう。思い出した。
 地球でもこれ使えるかな。
 魔石にすると石がキラキラって宝石までは行かないけど‥綺麗になるの。
 パワーストーンって感じかな。でも、‥火とかマジで出るからマズいか‥。
「‥ヒジリ、あんた、‥マイペース過ぎない? ‥。それと、なんで、そこまでされてナツミと一緒に居るのよ‥」
 呆れ過ぎたミチルがオネエみたいな口調になっている。
 だけど、呆れたのは俺の方だ。全く‥。
 俺は大きくため息をつくと
「だって、ナツミしか傍に居てくれなかったから」
 俺にとっては当たり前の事実を、自信をもって、何のためらいもなく
 言い切った。

 ああ、俺も(たった一人の友達の)ナツミに依存してたな。

 そう思いはしたが‥
 直後にボソリとラルシュがつい、呟いた
「‥リバーシって病み過ぎてる‥」
 は、聞こえないふりをした。
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