リバーシ!

文月

文字の大きさ
49 / 248
六章 思えば‥フラグだったんだ。

1.勝てば官軍負ければ賊軍。皆にとっての正義は‥ない。

しおりを挟む
(side ヒジリ)


 勝てば官軍負ければ賊軍。

 今、官軍は城だから、反対勢力は賊軍ってことになる。
 城は、反対勢力にリバーシが渡らないように、ありとあらゆる対策を練っている。
 反対勢力は、悪だから。
 だけど、反対勢力だって、自分の考えを正義だと信じているわけだし、反対勢力にだっていろんな考えの人がいる。
 悪だ、正義だっていう決めつけは‥でも、平和ボケした国に住む、俺たちにはきっと分からないんじゃないかなあって‥思う。


 否。今そんな気がした。‥してた。


「ヒジリ。久し振りね」
 にこりと笑う、
 相変わらず超絶可愛い幼馴染を久し振りに見た、今、
 そして、どうやら彼女が反対勢力に属しているらしいという事を知った、今。


 反対勢力ってだけで、正義じゃない『悪』だって、決めつけられるのか、決めつける必要があるのか、って。
 政党があるみたいに、ただ、考え方が違う人々を認める必要は‥でもあるんじゃないかって。


「ナツミ! 」
 ああ、ナツミにあったら何ていおうって思ってたっけ? 
「ナツミ‥俺‥いや、わたし‥」
 俺は、‥ないな。だって、ここでは女の姿なわけだし。
「ん? 」
 優しくナツミが微笑む。
 ナツミは、‥大人っぽくなった。
 肩までに切りそろえられた髪の毛は、機能的で、あそこでの俺みたいに「如何にも非戦闘員」って感じじゃない。ナツミのズボンタイプの機能的な服は、如何にも「戦えそう」なスタイルだ。
 でも、‥ここどこだろう。
 ナツミの恰好は、‥あっちの女の子の標準的な服装のシンプルなワンピースじゃなかったけど、地球の服って服でもない。スタイルが‥とかじゃなくて、素材だとか‥そういうのが全然違う。
 たぶん、ここは‥「夜の国」で間違いないんだろう。
 ‥だけど、俺、いままでどこにいたっけ??

 確か地球で‥母さんと一緒にいた‥気が‥?

 ぞくっとする。
 自分の身に何が起きたか‥なんかより、母さんがどうなったのか‥って考えた。
 とっさに、身構えて周りを見回していると、
「どうしたの? ヒジリ。怖いの? 私の事? 」
 心配そうな顔でナツミが俺の顔を覗き込んできた。

 ナツミのことが怖い?
 そんなわけがない。

「違うよ!! そんなわけない‥」
 慌てて否定する。
 俺は‥

 ああ、そうだ。

 ナツミに会えたら、言おうって


「あの時はよくもやったな! でも、‥もう大丈夫だから安心して」って言ってやりたい。
 もう一回友達になろうって‥
 そう言おうって思ってた。


「あの時は‥よくもやったな‥」
 俺は、おずおずと、口を開いた。正直、どんな顔して幼馴染を見ればいいかなんて、分かんなかった。
 ちょっと、恥ずかしい。
 でも、‥嬉しい。
 嬉しいけど、そんな顔見せるの、ちょっと悔しい?
 だから、顔をちょっと伏せた。
 耳がとてつもなく熱いから、きっと真っ赤な顔してるだろう。
「うん。どの時かな? ‥子供の時のこと? 」
 だのに、聞こえて来る幼馴染の声は、全然、平然としてて、なんか
 余裕綽綽って感じ。
 ‥悔しい。
「違う‥あの時‥」
 悔しくってちょっと、怒ったような声だしちゃったかも。‥今まで男として暮らして来たら、‥ナツミを驚かしてないかな。‥怯えさせたくないよ‥。
 ちらり、と視線を上げる。
 ナツミは、コテンと首を傾げている。
 ‥よかった。怯えてないみたい。
 それに、‥可愛い。
 ナツミは、
「ヒジリは、私の事怒ってるの? 怒ることなんて、出来ないでしょ」
 と、そこで、くすりと笑った。

 ‥ナツミ‥?

 そこで、ナツミを纏う雰囲気っていうのかな、オーラみたいなものが変わった気がした。
 ちょっと、周りの空気が冷えたって感じ‥
 俺は、顔をあげてナツミを見た。
 ナツミの表情は変わっていない。
 コテン、と首を傾げた、相変わらず可愛い顔。
 だのに
「だって、ヒジリは‥あんなに魔力があるくせに、臆病なんだもの。
 意気地なしだし。
 ‥違うわね。守られてるから、危機感が無かったのよ。‥私が本気で殺すとは思ってなかったのよね。‥幸せな子」
 ナツミの声が少し、低くなってる。

「‥ナツミ‥? 」

「それとも馬鹿にしていたのかしら、私の事。私如きの魔法じゃ自分は殺せないって。思い上がりもはだはだしいわ。生まれつき魔力が高いだけの女が‥」 
「ちが‥違う、ナツミ‥」

 あの言葉の後に、俺は、なんてつなげたかったっけ? 。「でも‥もう大丈夫だから安心して」

 何が大丈夫?
 俺は、‥思いあがっていた‥。

「自分が偉い様な‥選ばれた様な気にならないで‥!? ねえ、‥今度は、平和ボケ? 全然、殺気も感じられないわ。
 あの頃にはあった緊張感すらなくなってる。
 ブレスレットが取れた気配がしたから、会ってみようって思ったら、‥何、貴女は‥どうしちゃったの? 組織に関する敵意だとか、‥復讐してやろうって‥そんな気持ちにすらならないの? 馬鹿にしてるの? 
 ‥私の事みたいに」
「ちが‥ナツミ‥何を言ってるの? ‥分からないよ‥」
「分からない? 分かろうとしてないの間違いじゃない? 普通、‥命を狙われたんなら、必死になって力をつけて、やられないように‥やられる前にやろうって思うんじゃないの? 王子に助けられて、‥逃げきれたら、何とかなるならそれで‥って思う? 普通‥。
 誰かに迷惑かけるって‥気付かない? 思わない? 」
 馬鹿にしきった、目。
 俺をあざけり、呆れかえった、顔。

 もう一度友達になろう?

 俺は、今まで何を思っていたんだろう。‥
 ナツミは今まで、‥一度も俺のことを友達だなんて‥
 いや、ラルシュに俺を預けた時は、‥友達だと思っていてくれたのかもしれない。
 だけど、再会した俺が‥全然、平和ボケしてて
 きっと、ナツミは呆れた。
 俺が‥ナツミを失望させた。‥俺が‥。

「私を‥元のところに返してくれない? 私の事腰抜けだって中傷するなら、‥誘拐なんて卑怯なこと、止めてくれないかな。そういうことしといて、よくそんな偉そうなこといえたもんだね」
 俺は、震えそうになる声を励まして、なるべく平静な口調で言った。
 怖くて震えてるんじゃない。
 これは、怒りで震えているんだ。
 ナツミにじゃない。
 甘ちゃんで、‥厚顔無恥な自分に対して、だ。
 真っ直ぐにナツミを見る俺の視線に、‥もうナツミを懐かしいとか思う気持ちは‥きっとなかった。
 人は、薄情だ。
 あんなに、会いたい。謝りたいって言ってたのに、自分に敵意を隠すことなく向けられ‥嘲笑されて‥、今はただ、怒りしか感じていない。
 俺は、なんて‥思いあがった人間なんだろう。
 ナツミの事、俺は、甘く見てたんだ。‥可哀そうなナツミって‥同情して、だけど「理解してるよ」って同感して、でも、それでも、俺の方が魔力が強い、もともと持ってるもんが違うって‥。憐れんで‥?

 俺は、‥汚い。

 お城の奥で、姫様みたいに守られてきた、自分が、兎に角恥ずかしい。
 ラルシュに
 両親にただ、謝りたい。
 まず俺のこと殴りたい。

「あら、お姫様。
 そんな正義は、私たちには、在りませんわ。
 卑怯だとか、‥それがなんだっていうのかしら? 」
 ナツミが相変わらず口元に嘲笑を浮かべて、言う。
「姫?! 馬鹿にしてるのか?! 」
 俺は、ナツミを睨み付けた。
 ナツミは益々面白そうに、笑う。
「お城に居る貴女を、見たわ。一度、窓辺に出てきたことがあったでしょ? 結界が張られててもちろん入れないんだけど、窓辺は‥それでも見える。外からね。あの時の貴女、今の恰好と違って、まるで‥お姫様みたいだった。髪の毛が長くって、ふわふわしてて、真っ白な肌で、手なんて、華奢で、細くって‥」
「止めろ! 」
「あら、褒めてるのよ。‥本当に綺麗だった。‥何にも、役に立たない、誰かに守ってもらうしかないお人形そのものだった」
「止めろ!! 」
 俺は、二度目はもっと強い口調で叫び、
 ナツミが俺にかけていた術を引きちぎった。

 スキル 何でも水に変えるチートなスキル!!

 いつのまにか俺に絡まりついていた、つたみたいなやつが全部、水になってばしゃりと落ちた。俺は、それをそのままにしないで。
「水の龍! 」
 そのまま、状態異常させた。
 混合スキルの応用。
 状態異常と攻撃魔法の混合だ。
 水の龍は、ナツミに走って行って、彼女に絡まる。
 そして、絡まり切ったところで
「氷結! 」
 俺は、水の龍を氷に変える。

「ほら、やっぱり戦う気なんて、無い」
 氷の龍に巻き付かれたナツミがにやり、と笑う。
 あざける様に、‥でも
 その顔は、そのまま
 俺に対する憎悪に変わって‥

「ヒジリ、貴方のことは直ぐにでも殺せる。だけど、今殺しても仕方ないし、利用するだけしなきゃ意味が無いから、今は逃がしてあげる。
 私の思い出の中にいたあの正義ぶったお優しいだけの顔が、今の顔にすり替えられただけでも、収穫だったかしらね! 」

 氷が割れて、

 俺は、元居た場所にはじき返された。

「ヒジリ!! どうしたの? 急に消えたから、驚いたわ」
 母さんが驚いた顔で、俺に慌てて駆け寄る。

 俺はいつでも誰かに守られて‥

「触らないで!! 俺のこと、‥今は放って置いて!! 」
「ヒジリ?! 」

 俺は‥つ!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セリフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セリフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セリフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセリフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセリフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セリフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...