リバーシ!

文月

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十章 ネルという特別な子供

4.ただ、落ちていく。

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(side カタル)


 今までリーダーからの愛‥というか、リーダーに対する愛(家族愛)でなんとか「持ちこたえていた」僕は、どんどん落ちていった。

 なんか、どうでも良くって感情のままに‥って感じになった。
 もともと「いい人間」じゃなかったっていうのは‥自覚はある。
 リーダーたちと暮らすために「いい人間であろう」ってこれでもね、ちょっとは思ってたんだ。
 だけど、‥そんな必要ないって割り切っちゃったら‥あとは、どんどん‥

 落ちていくだけだった。

 悪の道っていうか‥「自分の欲望」に?

 他の皆にも、もともと感じていた「皆仲良しがちょっと物足りない」って感情を解き放てばいい。簡単だ。だって、無いものを無理やり植え付けるんじゃない。種はもうすでに(各自の心っていう畑に)あるんだ。あとはちょっと水をあげて、世話してやればいい。発芽率100%ではないだろうが、随分な率で芽生えるだろう。

「災厄の星? カタル坊は難しい言葉をしってるな。‥ああ、確かに国の予言者がそんなことを言ってるらしいな」
「‥驚いたことに天体観測者も異常を報告しているらしいぞ。なんでも魔素の濃度が異常に上昇している場所があるとか‥」
 天体観測者や国の予言者の話なんて普段だったら馬鹿にして、話にも出さない癖に‥
 嫌いだし、話にはしたくはないが、事実としては知ってた‥ってことだ。
 僕の話と奴らの話が合致したことで、信憑性が増したんだな。
 僕は彼らの反応を見ながら話をつづけた。
「光の星は、きっと気付かれているだろう。だから、僕らは影星の方が欲しいな。少しばかり力は弱いようだけど、なあに、これ位の差は訓練その他でなんとかできる。
 国民の平和と日々の生活の安定が一番大事っていって、保身にばかり力を入れている国はきっと、これら‥強すぎる光を放つ星を国民から遠ざけ、問題が無いように隠してしまうだろう。
 強すぎる力は、事なかれ主義を貫く奴らには無用で厄介なものでしかないからね。
 隠すって‥まさに、宝の持ち腐れだね。勿体ないよ。
 僕らはそうはならない様にしないとね」
 ‥この言葉、今思い返せば「間違っている」。だってその時、「うち」には既にネル(災厄の星)はいたから。
 僕がもっと幼かった「前回の予言」で既にネルの事を予言し、僕らはそれ(ネル)を確かめに行ったんだ。リーダーは「そんな子供は親に持て余されて‥肩身の狭い思いをしていないだろうか」って心配して‥僕は、まあ「自分の予言が正しいか」って確かめるために‥(あと、単純に好奇心だね)。
 そこで、ネルを‥父親に持て余されたネルをみて‥リーダーが引き取るって決めたんだ。(仲間内の誰にも相談せずに、結構その場で決断したって感じだったよ。リーダーはそういうこと多かった。僕の時もそうだったし)
 その時、ネルの父親にはネルが災厄の星だってことは言ってない。父親はネルの事をただのリバーシだって思ってる。
 言ったら‥「この子にはそれだけの価値がある特別な子なんだ」って思って大切にしようって思ったかな? 
 ‥ないだろうなぁ。あの父親にそんな根性とか愛情があるようには思えなかった。
 きっと、今までの「厄介だな」が「ホントに厄介!! 」に変わるだけだ。
 ‥お金を吹っかけて来るほどの「悪」には見えなかったのがせめてもの救いだな。そこまでクズじゃなかったってこと。‥でも、それって結構恵まれてる部類だ。厄介払いでリバーシを押し付けてくる際でも「眠らないで働くお買い得品」って「商品価値」をアピールして「売り込み」してくるクズな親は少なくない。
 それに比べたら、ね。
 ネルにも当時は言ってなかった。
 それどころか、言ったこともないがいつのまにか「なんでだか知っていた」のはネルが普通の子供より聡いからだ。きっと、(ここの)大人が話しているのを聞いたんだろう。
 ネルが知っていることをリーダーは気付いていない様だった。(ネルも「気付いていないふり」してたしね)
 リーダはネルにそのことを話すつもりはない様だった。
 僕は別にどっちでもよかったんだけど、リーダーが言わないから言わなかったって感じかな。ネルが気付いてるな~って気付いたのは多分僕だけだったから、そこらへん「気を遣って」気付いてないふりしてたんだけど、他の皆に「ネルは気付いてないよ」っていうフォローしてたら気付かれちゃった‥って感じかな。
 気付かれて、お礼を言われて、謝られて、(改めて)お願いされた。
 リーダーには(僕が気付いたってこと)言わないでって。
 リーダーがネルにあの予言の事いわなかったのは、リーダーが
「ネルを普通の子供の様に育ててやりたい」
 って思ってたからってネルはちゃんとわかってたから。
 (‥僕の予言を信用していない‥とかではないと思う)
 まあ、兎も角リーダーはネルに対して普通のリバーシに接するのと同じように接した。(普通の子供ってのは、いってもリバーシだから流石に無理だからね)僕もネルに対して弟のように接したし、幼いころのネルは僕を兄って呼んで懐いてた。
 ネルは聡かったけどやっぱり子供だったから寂しかったんだね。
 僕は大人しく一人でいることが多かったネルになるべく話しかけて‥「懐かせるように」したんだ。
 あの頃はネルを何かに巻き込む気なんてなかったけど‥でも、懐かせてる方が何かといいでしょ? それくらいの気持ちだった。
 でも、言った言葉‥
「僕らは君の事を傷つけたりしないよ」
 とかはホントの気持ち。だって、傷つけるつもりなんてないから。
 僕たちは、(国のお偉いさんみたいに)クズで物の価値の分からない愚か者たちなんかじゃないからね。
 
 ‥弟でもよかったんだけど‥でも、今は状況が変わったかな。「今の」僕にとっては、ネルはただの「重要な駒」でしかない。

 手に入れられるかもしれない大きな権力に目がくらんで人が変わってしまった‥とかじゃないよ。
 ただね、今まで「なんとか」平和な暮らしを続けてたけど、もういいかな、ってその「無駄な努力」をするのやめただけ。
 僕はね。もともと‥愛情とかそんなこと人に対して感じないような「冷めた人間」だったんだ。
 だけど、リーダーに対しては特別な感情‥(隠しても仕方が無いから白状するが)憧れを持っていた。「こういうのが父親なんだろう」って憧れかな。あとは‥リーダーの作り出す「あったかい空気」が居心地いいな‥って思ってたって感じ。
 でも、それを木っ端みじんに砕かれた今、そういう感情はもうそれこそ微塵もない。
 もう、どうにでもなれって感じ。
 結局僕はリーダーに愛情を感じてたんじゃなくて、信頼してたんだろう。だけど、その信頼も失われて‥なんか全部虚しくなったってことかな~。そういう「危ういバランス」ってあるでしょ? (あと、当時は僕も思春期だったから傷つきやすかったってのもあるんだろうね)

 ‥とにかく、あの頃の僕は思春期特有の「かまってちゃん」気質爆発の、刹那的で破滅願望のある‥やばい奴だったってこと。(それは‥恥ずかしながら認める)
 だけど、それを止めてくれる人も、「大丈夫だ」って抱きしめてくれる人もいなかった‥。
 いまでも、その事だけは寂しかったって思う。

「災厄の星‥ってネルのことだろ? 昔カタル坊がそういったからリーダーが見に行って、親たちに持て余されたネルを見て同情して引き取ることに決めたんだよな。
 だけど、国の予言者はなんで今更その話を? 」
 って首を傾げた大人と一緒に僕も首を傾げる。
 そうなんだよな。あの時は(ネルが災厄の星として誕生‥もしくは覚醒した時には)分からなくて、なぜ今「その話を? 」って感じなんだよな。

 ‥あんなに分かりやすかったのに。

「災厄の星が二倍になってやっとわかった‥ってことかな。それは僕も分かりかねます」
 僕は肩をすくめた。
 でも、「もしかしたらそうかも」って言ってみた言葉に皆は「それもあるかも」って納得した様だ。
 ‥確かにそれもあるかも。
 僕も、そんな気がしてきた。
「それだ。きっと。カタル坊は、国の予言者の二倍! 予言能力(予言能力っていうのかは分からんが)が凄いんだ! 
 国の予言者はヘボってわけだ。
 で、今回産まれた方の(実は二分の一の)災厄の星を唯一だって思ってるわけだ」
 はは、って大人たちが笑った。「国の予言者も大した事ねえな」って。そして僕を褒める。

 僕は照れたような顔なんてしない。
 持ち上げられて満更でもないって顔をする。
 「僕は子供だから大人たちに煽てられて、その気になっちゃったんだ」って顔をする。
 そしたら、大人は「やっぱりなんていってもまだ子供だなあ」って顔をするんだ。
 「自分たちが守ってあげないとなあ」って。
 生意気な子供は、ダメだ。「勝手にしろ」って思われちゃうから。だから、僕はまだ子供って顔して、でも「僕、こんなことも予言したよ」みたいな感じで話すんだ。

 僕たちはこのままでいけない。

 とかそんな直接的なことは言わない。
 何となく‥「その気にさせる」言い方をするんだ。そしたらその気になった皆は「自分で決めた」って思うから。
 ‥自分で決めたことだから、仕方が無い。
 そして、そんな決定をさせる切っ掛けになった僕のことを神聖視するようになる。
 そこで初めて(ピンポイントで)、僕は「子供らしくない」予言者の顔をして
「僕らはその星とともに、新しい国を作るんだ」
 って一言呟くだけ。

 ‥こんな窮屈な暮らしはもう沢山だ。

 って。

 大人たちが唾をのんだ。
 当時の事を彼らは「そりゃもう、雷に打たれたような衝撃が走ったね」って今でもよく言っている。
 その時までただの社会に不満を持つ「はぐれ者の集団」でしかなかった僕たちが、政治を意識し始めたのはその時からなんだ。
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