Happy nation

文月

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八章 明日へ

11.流石に、味噌汁の冷めない距離ってわけにはいかないけど。

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 翔が卒業して
 桜が咲いたのを見たら、
 あっちに帰る。

 そう言ったら、
 泣きそうな顔を、ぐって我慢して
 最後に‥
 最後にお花見をしよって笑顔で桜子が言ったんだ。
 泣くのを我慢した、ぶっさいくな顔。‥そんな顔初めて見た。
 悲しそうに、‥苦しそうに泣く桜子なんて見たことない。
 桜子はいつも笑っていた。
 その為に、俺やフミカ‥勿論正樹だって翔なカツラギだって何かしらしてきた。
 でも、それは義務とかじゃなかった、皆桜子の事が大好きで、桜子の傍にいたかったし、桜子を構いたくって仕方が無かった。そして、‥そうやって、俺たちはしてきたことと同じくらい‥否、してきたこと以上に桜子から「嬉しい」を返してもらってきた。
 それが嬉しくて、俺たちは桜子の傍にいた。
 桜子から、お願いされることだって嬉しかった。
 桜子は、お願いって言いながら、いつだって俺たちが嬉しくなるようなことを考えてくれてた。
 魚が見たい、って桜子に言われて皆で行った水族館では、カツラギとフミカが楽しそうだった。俺たちが生れた村に海はなかったし、王都にもなかったから、カツラギには単純に珍しかったし、「初めて見る生き物」は、そんなの、カツラギの好物だ。
 フミカは、「生きてる魚をこんな風に見たことない」って大興奮だった。Happynationに水族館なんてないからね。水族館も、動物園も、生き物を鑑賞するって習慣はないね。動物は食べられるか食べられないか、有害か無害か‥が基準だしね。
 こことHappynationはやっぱり違うんだよな~って改めて思ったよ。
 それにしても、だ。
 そもそも、桜子がこんなこと言いだしたのだって、‥別に桜子の思い付きやら、我が儘とかじゃない。
 カツラギ‥休みだというのに、図鑑を開いているカツラギ(幼少期)の為だ。
 カツラギにどこか行きたい? なんて聞いても、きっと言いやしない。カツラギはあんな見かけだけど、大人だからね。遠慮するってこともあるけど、子供っぽいって思ったり‥やっぱ恥ずかしいじゃない? だから、桜子はカツラギのプライドを尊重したんだ。
 「図鑑に載ってるお魚、実際に見たくない? 」って言い方じゃだめ。あいつは、天の邪鬼だから、きっと「別に」っていうよね。それに‥カツラギは「自分に「子供らしさ」を求められてる」って深読みするよね。
 カツラギは、でもね、子供らしくしてるつもりなんだ、奴なりの「子供らしさ」で、「子供であることを利用して、思いっきり好きなことをしてる」んだ。だのに、「あれ? 違ったかな? これは「子供らしい」と違うのかな? 」ってきっと、考えちゃう。
 そしたら‥きっと、「やっぱり私には子供らしいは無理ですね」って考えちゃう。
 ‥子供であることを利用して知的好奇心を満たすってことをやめちゃう。
 それはね、カツラギにとってすごくつらいことだ。
 ‥きっとね、桜子の方法が一番、カツラギには正しかったんだ。
「だって、翔は私の息子だもん」
 って桜子も言ってるしね。
 きっと‥俺たちも良く知らない「カツラギの甘えどころ」みたいなものをしっているんだろう。(‥なんだ、「甘えどころ」って。‥なんとなく、そういう感じ~ってことで、理解しといて? )

 正樹も、普段、あんまり子供らしくない「翔」が楽しそうなのを見て、すっごく嬉しそうな顔してた。
 カメラを抱えて、休日パパをしてるんだけど、子供みたいな見かけの正樹だから、ぱっと目、兄弟‥年の離れた兄弟みたいだったよ。
 でもね、顔は「お父さん」って表情なんだ。
「フミカちゃん翔、そこで写真撮ろう! ほら、桜子さんと酒井さんも並んで! ペンギンも! ほら! ペンギンが今こっち向いたよ! 」
 ペンギンも! はないだろう‥ってちょっと笑いそうになったら‥
 どうやら、たまたま一匹が振り向いたらしい。(そういうことってあるよね)
 そしたら、その正樹の「こっち向いたよ」に反応したカツラギが
「え! ペンギンって人間の言葉通じるのか!? 」
 ペンギンの方向いちゃって
「あ、翔、前を向いて!!! 」
 正樹がカツラギに注意して‥。
 それを見た、桜子と俺が大笑いして。周りの知らない人たちも微笑ましいって顔でそれを見てた。
 
 他にも色々行ったよ。
 Happynationには、無い様な所全部。
 遊園地‥とか、「へえ、大人も遊んでる」って驚いたよ。
 花火は、あっちにもあるんだけど、あんなに人が沢山河原とかで座ってみてるってことはないから、人の多さに驚いたね。
 綺麗な景色も、珍しい景色も。
 普段の俺は鳥の姿だったら、行こうと思えば何処にだって行けるけど、桜子たちと行った方がずっと楽しかった。
 

 最後だから‥、お花見‥
 アララキさんも、その「ナツカさん」も呼んでね

 って、桜子のお願い。
 最後のお願い。
 アララキと‥勿論ナツカにも言っておいたよ。二人とも来るって。
 二人が来る前に用意しようって、
 桜子に連れてこられたのは、なぜか写真館だった。
「着物。これは、白無垢って言うんだ。キレイでしょう? 」
 って、フミカと俺は、
 今、なぜか着付けてもらっている。
 胸に、やたらパットが入った下着は、桜子に貰ったんだ。
「妹は胸が無いのを気にしてるから、下着はつけて着付けさせてね。お願い」
 って、美容院の人に桜子が頼んでた。
 ‥妹って。俺のこと?
 何でだ。
 って思ったけど、
 気付いたら、桜子は初めて会った時から、もう10余年分年を取っていた。
 まだ、30にもなってないけど、‥でも、やっぱり昔とは違う。
 もう、俺の妹‥みたいだった桜子とは違う。
 俺は変わっていないのに‥。
 正樹も、変わっていない‥とは言えない。相変わらずショタだけど、昔みたいにぴちぴちではない。‥心なしか、貫禄‥は出てないけど、落ち着いた感じ。
「二人とも、凄くお肌綺麗ですね~」
 美容スタッフが化粧をしてくれながら、ほう、っと感嘆した様なため息を漏らす。
「お肌も、白いし、髪もツヤツヤでキレイ」
「妹さんは、ハーフさんですか? 」
 って桜子を見て「しまった。立ち入ったことを聞いてしまった」って苦笑いして、口を閉ざす。
「義理の妹です。でも、弟夫婦は結婚式もしてないから、今日は写真だけでも‥って。お節介で提案したんです」
 ‥アララキと桜子が姉弟って設定? ‥無理あるわ~。妹って言っちゃったから嘘に嘘を重ねる羽目になって困ってる桜子、可愛い。
「成程。では、写真を撮っていきますね。旦那様たちの用意はもう出来ていますよ」
「え? 」
 ‥旦那? だれ。
 いや、たちって言って着付けられてるのが俺とフミカだから
 ‥アララキとナツカ??
 ‥まあ、さっきからの話の流れだと、‥そうなんだろうね。
 因みに、フミカはどういう設定なんだろう。まあ、‥いいか。

「サカマキ!! 」
「キレイ‥ホントに、キレイ!! 」
 紋付き袴のアララキが泣き出して
 ナツカがフミカ見て感激して‥
 ‥4人、恰好つかない集合写真が出来た。
 アララキとフミカを見て、写真館のお姉さんがちょっと驚いてた。
 きっと、そっくり‥って思っただろう。
 そんなそっくりな二人と見るからに外国人(←ナツカだ。ナツカは普通に外人顔だ)が着物を着て結婚写真って、‥ちょっと面白いね。俺は‥ここでもそれ程珍しくない髪色してるから、ガッツリ外国人って感じではないんだ。まあだから、ハーフってのが‥妥当な線っぽい?
 アララキとナツカは‥違和感はやっぱりあったものの、そこそこ似合ってたよ。
 そのアララキそっくりなフミカもやっぱり違和感はあってナツカが感激して「似合ってる~」って程でもなかったとは思うんだけど‥まあ、人さまの美的感覚にケチつけることはないよね。
 ‥ナツカなら、フミカが着る服全部「似合ってる~。可愛い~」って言いそう。‥それは、まあ、アララキも変わらないけどね‥。
 でも、俺は声を大にして言いたい。「どれも似合ってる~」って、「どれでも変わらん」と同意味だからね!!

 それぞれのカップルでって写真も取ったし、お色直しって言って、ドレスの写真も撮った。白のマーメードラインのシンプルだけど品のいいドレスと何故かもう一枚。フミカは水色で、俺は萌黄色だった。その場で俺たちがえらんだわけじゃなくって、次々に用意されたものが出て来た。俺たちは、「美しい~」とか、「似合う~」って興奮気味な美容部員さんに言われる前に着替えたり写真を撮ったり‥ぐったりだったよ。
 事前にドレスを選んだのは、桜子。「サカマキさんの色っていったらこれでしょ」って悪戯っぽい顔で笑った。
 俺たちに内緒で‥きっと大変だっただろう。
 そう思うと、目頭が熱くなった。
 ‥終始、アララキは泣いていた。
「可愛い‥すごくよく似合ってる‥」
 って感激して泣いて
「ホントに‥大事にするからねぇ‥」
 って感極まって、また泣く。
 って、こいつがこんなに泣き虫だとは思わなかった。
 泣きながら笑っていた。
 ナツカは、フミカを見て、終始顔が真っ赤だった。
 でも、久し振りに再会したフミカを見た一言が
「良かった、女だった」
 だったのが‥笑った。
 もっとも、呟いた声は、凄く小さかったから、桜子たちには聞こえてなかっただろうけどね。
 神獣な俺だからこそ聞こえたってこと。(フミカにも‥聞こえたんだろう。苦笑いしてた。言わなかったのは、きっとフミカのやさしさだ)
 ‥ちょっと笑ってしまった。

 最後に、皆で写真を撮ってもらった。
「この写真は、3枚焼き増ししてください。大きいサイズで」
 って桜子が写真屋さんに言った。
 フミカたち夫婦の分と、俺たちの分、そして、桜子の家の分
 そう言ったら、フミカが初めて泣き出した。
「桜子、桜子‥絶対、また遊びに来るから」
 って。
 桜子は、第二のお母さんだからって。
 二人で抱き合って泣いていた。

 流石に、味噌汁の冷めない距離ってわけにはいかないけど、私が連れて来るヨって、今日は女の恰好をしてるから‥自分の事、俺って呼ぶのは、やめた。(流石にね、こんな花嫁な格好してる時にはね。特にね)

「さ、次はお花見だよ!!  」
 流石にこれ以上、ナツカとアララキにここに居てもらうのはマズイ(時間的な問題だ。Happynationと地球は時間のたち方が違うからね)‥って思ったけど、桜子に言われて、桜だけ見に行った。
 花霞って初めて見た。
 こんなに綺麗な景色‥今まで見たことなかった、
 花霞が、どんどん霞んで、
 気が付いたら俺は泣いてた。
 桜子も。
 フミカも。
 アララキが、そんな俺の背中をさすってくれた。ナツカは‥遠慮がちにフミカの手をそっとつないだ。


「桜が咲いたら、またこうしてここで会おうね」
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