今世は『私の理想』の容姿らしいけど‥到底認められないんです! 

文月

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今世は『私の理想』の容姿らしいけど‥到底認められないんです! 

皆様のハヅキと

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 目が覚めて、キョロキョロと周りを見回す。
 ちょっと目を瞑るだけだったのに、気が付いたらガッツリ夜だった。
 しかも、ここは‥
 いつの間にか我が家だ。
 睡眠に邪魔にならない様に、だけど起きた時何も見えないと困るからとの配慮からか、枕元に手元灯(魔道具)が置かれている。
 誰かが置いてくれたのかな? って思いかけ‥「いやいや」と考え直す。
 水差しと、手元灯。そういえばこれは‥いつもここに置かれていた。
 喉が渇いて夜中に目が覚めた時用の水差し。布団が落ちた時に布団を探す時用の手元灯。
 いつもベットに入ったら朝までぐっすりだから、夜中に水を飲むために起きることも、手元灯をつけることもなかったから気付かなかった。(でも、そういえばあったな、とは覚えている)
 自分の部屋なのに‥そういえばしみじみ見たことない。そう思って部屋を見回すと、ついこないだ買っただけの可愛いクッションが置かれたチェアやら清潔なカーテン。全て「そういえば見覚えはあるな」って程度。お客様感覚は無いよ? 勿論あたしの部屋の備品ってのは分かるんだけど‥。その程度。
 え‥ちょっと待って?? カーテンは‥あれ? こんな模様だったっけ? 手元灯をつけて見てみると、どうやら色まで違う‥気が? (気のせいかな?? )今まではクリーム色じゃなかったっけ? 今は、淡い水色のカーテンに変わっている。どうやらクッションと同じガラと色でそろえてあるようだ。
 ‥でも待てよ? このクッションはついこないだ買ったばかりだ。
 つまり、街でこのクッションをあたしが買って来たことで、あたしがこの柄を気に入っていると推定した家の者(それはメイドだかお母様だかは分からないが)がこのカーテンに変えてくれたのだろう。
 あたしが喜ぶと思って。
 ‥ごめんなさい。いつ変えてくれたか知りませんが今初めて気付きました。
 あたしは‥

 ホントにこの部屋を普段、何も見ていない。(あれだ。帰って→寝るだけ。って奴だ)

 改めて見ると、この部屋は何とも手が凝っている。きっと「女の子らしい可愛い部屋」って奴なんだろう。
 白を基調にしたシリーズものの家具。(細やかな彫刻がされている。‥如何にも高そうだ)
 テーブルセット、ソファー、ベッド全て統一した同じデザインになっている。
 まず、一人掛けのテーブルとチェア。これは読書用だ。メイドさんの趣味なのか、(年頃の女の子らしく‥なって欲しいっていう)お母様の「願い」なのか‥壁際に配置された本棚にはいかにも年頃の女の子が好みそうな恋愛小説や推理小説が並べられている。(※ ハヅキが知らないだけで、これらの本は全部「巷で老若男女問わずに話題のベストセラー」って奴だ)‥もちろん、一度も読んだことはない。私の本「医療魔法全集」だとか「人体図鑑」は本棚に入ることもなく、テーブルの上に積まれている。
 物の配置が変わるのがイヤだって伝えているので、毎日、拭き掃除後元の場所に戻されているのだろう。積まれた本とテーブルは埃の一つも被っていない。
 チェアに置かれたこのクッションは‥「座り心地が良さそう」って思って買ったんだ。(この頃は忙しくて、帰ったら寝るだけの生活を送っていて結局今まで一度も座っていないのだが)元から椅子に置いてあったクッションは、美しい刺繍が施されていたけど、(いっぱい綿が入っているから)座るには少し高く、硬かったんだ。だから、この綿が少なく刺繍もないシンプルなクッションを見た時「これだよ、これ。座るならこういうの」って思ったんだよね。実はというと、「ただそれだけ」の理由。柄は‥正直何でもよかった。ただ、一緒に行ったメイドが「これ可愛い! 」って言ってたから「じゃあ、それで」って買ったんだよ。色は好きだったしね。
 小さな小花の散らされたクッションは幸いこの部屋のイメージによく合っていて、カーテンを揃えることで、まるでこのクッションが元からこの部屋にあったかのように馴染んでいる。
 部屋の中のものをこんなにしみじみ見たことはなかった。
 きっとあたしの為に誰かが揃えてくれた物だっただろうに‥。悪かったな。このカーテンだってあたしがこの柄を好きなんだって考えた誰かがあたしの為に変えてくれたのだろう。
 例の豪華クッションはあたしが二人掛けのソファーに移動させたまま今もそこに置いてある。このソファーはお友達をお部屋にお迎えした時座ってもらうためのものだろうか? ‥あたしには座ってお話をする様な「お友達(多分貴族のご令嬢?? )」はいなかったし、今でもいないから‥このソファーは本来の目的を果たしたことはないのだが。二人掛けのソファーとローテーブル、お揃いの一人掛けタイプの椅子がふたつ、ソファーと向かいあわせに置いてある。
 足元の‥フワフワのカーペットはシンプルな無地。クリーム色で、目に優しい。勿論、埃なんて落ちてないし、そんなにこの部屋で過ごすことがないから、新品みたいに綺麗だ(あと、きっと汚れたりくたびれたりしたら、交換されるのだろう) 
 家具とお揃いのクローゼット。ドレスやなんかは別の衣裳部屋に置かれているから、このクローゼットに入っているのはシンプルな部屋着と仕事着にしているシンプルなワンピース(と、ローブの洗濯替え)だけ。これは、毎日使っている。あ、そうそう。最近はズボンをはいているんだけど、それもここにかけている。ズボンは‥動くのには楽だけど‥なんだか足が窮屈な感じがするね。
 と、言うわけで
 クローゼットとテーブル。以上があたしがこの部屋でよく使用するもの。それ以外は一切‥使った覚えがない。
 あたしはこの部屋でどのくらいの時間過ごしただろうか? 

 思えば。

 今までの人生、こんなに部屋に関心を持たなかったことはなかったかもしれない。
 平民の主婦だったとき(その時の夫の顔は全然覚えてないが)あたしは家族の為に毎日小さな家を掃除した。家具らしい家具は何もなかったけど、テーブルに時々小さな花を飾ったりもした。シンプルなカーテンは、破れたら繕ってたんだけど‥ああそうだ。ちょっとでも華やかになればいいなって、裾の辺りに赤い糸で花の刺繍をした。(1回目の転生)
 あれがそう言えば初めての刺繍だった。
 誰かに褒めてもらうためでも、誰かにマウントをとるためにでもなく、「ちょっとでも明るい気持ちになって欲しい」って気持ちで一針一針糸をさした。 
 華やかな刺繍用の糸ではなかったし、多分出来栄えもそんなにって感じだったけど(今思えば)、あの小さな花は(家族の心を和ませたかどうかは分からないが)あたしの心をちょっと明るくしてくれた。
 可愛い妹を持った人生。妹は花が好きだったから、庭に花を沢山植えて、その花が咲いたらお部屋に飾った。(3回目の転生)だから部屋はいつも花の匂いがして、それを妹は喜んで
「今日のお花はいい香りね」
 って笑ってた。そうそう。その花を見ながら刺繍をしたハンカチを妹はいつも持ってくれてたっけ。
 可愛い可愛いあたしの妹。
 思えば、妹は着飾ってパーティーに出るより、あたしとお部屋でお茶を飲むことを喜んでいた。
 この部屋にあるよりシンプルな‥白いテーブルと椅子。小さな暖炉。あたしと妹は同じ部屋で、小さなベッドを二つ並べて眠った。眠る前は暖炉を消す。(危ないから。そう裕福な貴族じゃなかったから、メイドさんは通いで、夜中に暖炉の火を消しに来てくれる人はいなかった)だから、寒い時は同じベッドで眠ったりもした。両親の寝室、客間、食堂はあっただろうか? 家族が食事をとったりくつろいだりする部屋が一つ。厨房というのはおこがましい、小さなキッチン。これがたしかあの家の総てだった。今の家とはくらべものにならない位小さな小さなお家。
 だけど、清潔なカーテンの掛けられた窓辺に飾られた花は、あの小さな部屋を明るく美しいものに見せていた。
 可愛い妹と綺麗な花のあるこの家。うちの家最高! どこのお屋敷にも負けてない! あの時は、割と本気でそう思っていた。
 
 そういえば‥
 こんなに家に関心を持たなかったのも「誰かがしてくれるからする必要が無かった(だから、しなかった)」「今まの転生人生では自分で何でもしなくてはいけなかった(だから、関心を持ってしていた)」ってことだけなのかも?

 いや‥そうでもないか。
 メイドさんが沢山いた時もあった。(2回目の転生)あの時は‥兄たちに甘えて自分は「政略結婚」という貴族の義務すら放棄していた人生だった。
 あの時の気持ちを何となく「覚えている」。違うか。予測できる、が正しいかも。
 きっと、家族に対して罪悪感を感じていた。‥家族は誰もそのことであたしを責めていないのに。後ろめたい、苦しい。だけど、でも、どうしても結婚は怖い。結婚どころか‥恋愛もしたくない。出来る気がしない。政略結婚だから愛情は求めないって‥割り切ることすらできなかった。割り切ろうとしても、こころと身体が追い付かなかった。だから、結婚しないことを責めないでいてくれて嬉しかった。それなのに、逃げている自分に嫌気がさしていた。世間の目も気になった。家族があたしのせいで変な目で見られたらどうしようって‥。
 だから、一生懸命家族の為に尽くした。兄のお嫁さんたちの衣装を縫ったり‥役に立とうとした。それで家族の役割を果たしてるってあの時は‥信じようとしてたけど、思えば邪魔でしかなかっただろうなって‥分かった。分かったというか、やっと認めることが出来た。
 過去の黒歴史として心の中に封印することを許してほしい。
 あの時は‥部屋を見る心の余裕もなかった。

 今、この部屋はそんな色んな思い出を消してしまう程、‥白く塗りつぶしてしまう程、明るくって清潔だ。愛情が詰まっていて、こころがこもっていて、凄く暖かい。

「ハヅキ! 」
 あたしが起きたことに気付いた母様が、笑顔であたしに抱き着く。あたしを抱きしめたまま「気が付いたのね‥」って泣きそうな声で呟いた後、ばっと勢いよくあたしから離れ、あたしの両肩を掴んで、正面からあたしを見つめ、にっこり笑って‥次の瞬間、その顔が鬼の様に変わった。
「貴女って人は、皆に心配かけて!! 」
 鬼の様に怒ってる‥のは「振り」だ。目は怒ってない。涙がちょっと浮かぶ瞳で「怒った振り」されてもな。でも、ここで「いやいや、あんさん怒ってへんやろ? 」って顔しちゃダメ。
 ちゃんと「しゅん‥」って反省した顔しなきゃだめ。(説教が長引くからね! )
 あたしが、しゅんって落ち込んだ顔して「ごめんなさい‥」って小声で謝ったら、母様がぶわって泣き出した。我慢してた涙がこぼれちゃったんだろう。
 あたしをギュウギュウ抱きしめながら泣きながら怒っている。あたしの肩に顔を埋めて泣いてるもんだから、肩は母様の涙でぐっしょりだ。
「皆の為に頑張るハヅキは偉いと思うわ。でも‥ 
 貴女は私の‥私たち家族の大事な大事な‥大っ事なハヅキなのよ!! 」
 って、今度は号泣。母様の泣き声を聞いて飛んできた父様と兄様が部屋に入って来て、あたしが起きてるのを見て、また号泣。
 あたしは‥ホントに愛されてるね。

 皆の為に頑張るハヅキと、
 家族の大事なハヅキ。
 そして‥(ちょっと恥ずかしいけど)オズワルドさんの恋人であるハヅキ。
 全部のあたしは、きっと大事で不幸になんてなっちゃダメなあたし。

 あたしは、あたしだけのあたしではないのだ。あたしがあたしだけの判断で好き勝手しちゃダメなあたしなのだ。
 そう改めて感じた。
 それは、嬉しくって、ちょっとくすぐったい感情だった。
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