今世は『私の理想』の容姿らしいけど‥到底認められないんです! 

文月

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今世は『私の理想』の容姿らしいけど‥到底認められないんです! 

今世でも頼りになるのは幼馴染。(今世はいっぱいいます! )

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「ぐぬぬ‥」
 今日もワトソンが怒っている。
 トーマスがそれを慰める‥でもなく「どうどう」って宥めてる。話を聞こうともせず、だ。
 それをワトソンは「冷たい」って怒った後、(やっぱり聞いてくれないトーマスに)「トーマスには自分の意見ってのががない」ってまた怒る。
 ワトソンはイイ奴なんだけど、ちょっと「怒りんぼ」でそれ以前に思春期で「思い通りにならない世間」に「自分ではおさえられない様な苛立ち」を感じて、それを持て余しているんだ。
 つまらない人間に対して怒るなんて時間の無駄だって彼は思ってる。だけど、そんなつまらない人間に自分の友だちが嫌なこと言われてるって事実は耐え難い程‥イラつく。その場に自分がいたならば「つまらないことは止めろ」って言えるだろう。もしくはハヅキが「誰それにこんなこと言われた、辛い」って言われたなら、その誰それに文句を言いに行くことも出来る。まさか殴りかかるわけにはいかないが、きっちりと目撃者も探して、そいつに罪を認めさせて上で、ハヅキに謝罪させるくらい位は出来るだろう。でも、ハヅキと自分は学年が違い、ハヅキが嫌なことを言われている現場に立ち会う機会はない。そして、ハヅキは自分(というか、誰にも)に泣き言を言わない‥。
 どうしようもない。ハヅキが望んでいないのだったら、どうしようもない。‥でも、(ハヅキがどうやらいじめられているらしいと)風の噂ででも聞こえてくれば、腹が立つ。
 まあつまり今ワトソンが怒っているのは「イラつく状況に対して、自分が何も出来ないこと」であって、「ハヅキを苛めている人間に対して怒っている」わけではないってことだ。
 でも、そのことには当の本人ワトソンも、ハヅキも気付いていない。
 それに気付いているのは、トーマスだけなのだった。
 

 昼休み、中庭でサンドイッチを食べながらワトソンが怒り、トーマスが宥めて、ハヅキとエイミーが苦笑い。
 この光景は、ハヅキが学校に入ってから「割と日常」に見る光景だった。
 王都の端にあるこの学校は全寮制じゃない。だから勿論家から通っている生徒もいるんだけど、「王都に家がなく、学校から遠い組(まあ早い話田舎者だ)」は通学とか無理だから学生寮に入っている。
 ハヅキたち寮組は、朝や夜は寮で食べるんだけど、昼食は学校で食べる。食堂が人気で殆どの生徒(寮生だけではなく、通いの生徒も、だ)は食堂を利用するんだけど、中にはお弁当を持参したり、購買部で軽食を購入したりして食堂外で食事をとる者もいる。中でも、四季折々の花が植えられた庭園は一番人気で、次に人気なのは食堂のテラス席だ。 
 テラス席は貴族と一緒に食事をとりたくない(だって気まずいから)平民に人気で、庭園は(特に決まりがあるわけではないけど)高位貴族様とその取り巻きたちが使っている。
 ハヅキたちが使用している中庭は、小さな池があるだけで(※ しかもその池の水は濁っていて「目が赤く大きな怪魚が住んでいて、池を覗き込んだものを喰らう」という怪奇な噂もある。因みにその噂を流したのはこの場所を独占したいハヅキたちなんだけど、そのせいで時々「肝試し」に来る子供たちがいて迷惑している)花の一本も植わっていないし、狭いし、校舎からも遠く日当たりが悪い。なんでこんな場所作ったんだ? と思ったら、元々は生物部の「薬草園」があったらしい。
 田舎出身の彼らは「何か華やかな場所」がどうも居心地が悪くって、何となくたどり着いた場所がここだったってわけだ。
 ワトソン、トーマス、エイミー、ハヅキの四人の内エイミーが一番年上でワトソンとトーマスが来る前は一人だったんだけど、エイミーは「そういうのあんまり気にしない性格」だった。(だから、彼女は適当に食堂で食事を食べていた)だけど、後から入って来た(ちょっと繊細な)ワトソンは食堂に慣れずに、「‥無理」ってなっちゃって、トーマスがエイミーに頼んで三人で集まって昼食を取るようになった‥ってわけ。
 中庭を探し出したのはワトソンだった。ワトソンは中庭を「避難場所」とは呼ばず「秘密基地」と呼んでたんだけど、ホントのところは‥ってのは言わなくてもわかるだろう。
「つまり、奴らはハヅキんちをやっかんでんだ」
 サンドイッチを食べ終えたワトソンは、デザートのブドウをつまみながら言った。(高い方の「サンドイッチプレート(二人前)」にはデザート代わりに果物がついていて、安い方の「サンドイッチ(一人前)」には何もついていない。因みにサンドイッチプレートはチキンサンド、卵サンド、ハムサンド(各二個ずつ)でサンドイッチは、卵サンド、ハムサンド、野菜(レタスとキュウリ)と内容も違う)
 エミールはハヅキに紅茶を手渡しながら首を傾げ
「やっかむ? 」
 と、聞き返した。ワトソンが頷く。
「ハヅキの家は貴族家とはいえ、地方にしか家がない。「裕福って言っても、所詮田舎貴族だろ」って、はじめ奴らは正直ハヅキのことを侮っていたんだろう。奴らの中では「金持ち=王都に家がある」が常識だから」
 トーマスが「確かに」って頷く。ハヅキはエミールから紅茶を受け取りながら「そうなんだ? 」って首を傾げる。ワトソンが軽く頷いて
「だけど、実際にはハヅキの家は王都に家を持っていないだけの大金持ちだ。学校への寄付金も凄いから教師たちもハヅキのことを贔屓している。
 ハヅキは贔屓されてるって聞いたら嫌だと思うかもしれないが‥アレだ、ローブを被ってても「あれくらいのいじめ」で済んでるのがその証拠だ。もっとひどい目に遭ってる生徒だっていっぱいいる。
 ‥胸糞悪い話だけどな。
 ハヅキは学校‥先生方にとって上得意さん(金蔓)だから‥苛めてる生徒を影で始末してるんだ」
 と言葉を続けた。
 それはつまり‥お得意さんじゃなきゃ、先生に「影で始末されない」ってことで‥
 ハヅキは苦笑いした。
 ‥ホント、それも胸糞悪いな‥。
 にしても‥始末って‥こぇえな‥。
 ワトソンは話を続ける。
「苛めてる生徒ってのは、この学校の影の支配者‥王都出身の貴族の手下だ。奴らにしてみたら、そういう手下が先生たちによって退学処分にされてるもんだから気分が悪いわな」
 エイミーから受け取った紅茶を飲んでワトソンは「ドヤ顔」で言った。
 ‥成程ね~。「王都出身の貴族(目の届くところに親がいる金持ち)」は先生方もおいそれと処分しにくいけど、その手下ならば容易く処分できる。そして、そうすることにより「真の金持ち(ハヅキ)」の父親に成果を見せられて‥しかも、「王都出身の貴族」をも牽制してるってわけか。
 ‥まあ、彼ら(王都出身の貴族)にしたら手下なんて使い捨ての道具なんだろうけどね~。
「ワトソンは情報網が凄いねえ‥」
 ハヅキが苦笑いした。
 まあ‥ぶっちゃけどうでもいいけどね~。
 言いたい奴には言わせておけって話だ。あたしにはワトソン達もいるから全然大丈夫。
 同じ年はいないから教室に帰ったら一人なんだけど、一日の大半を過ごす学生寮はエイミーと同室だ。
 何の不安もない。
 この学校は、下級生、特に一年生は希望する上級生(大概実家同士が決めた知り合いや親戚だ)が同室になるように寮側が配慮してくれるらしく、ハヅキは(父親の権力で)幼馴染のエイミーと同室にしてもらっている。大概一年生の世話役は5.6年なんだけど、「エイミーなら大丈夫」と特別に認めてもらった(※ 権力と財力でごり押しで認めさせた、が正しい)らしい。
 知り合いが世話係となって同室に住む方が学校にとっても生徒にとっても都合がいいから「イイ制度だな」って、ハヅキなんかは単純に思ってたけど、ド田舎出身とか家の権力が無かったりとかで知り合いが用意出来ない家は困るらしい。身近なところではワトソンとトーマスが年齢の合うような知り合いがいなくてこれまたハヅキの家のごり押し(※ 権力と財力)で特別に同室にしてもらったらしい。
 そうじゃなかったらどうなってたかって? 適当に学校側が決めた上級生と同室になるんだ。その場合「結構な確率」で「ハズレ」なルームメイトと組まされる‥らしい。
 高位貴族の場合だったら、侍従とか侍女が「お手伝いの代わり」に同室になって面倒見る。その為に親が信用できる子供を探してきて、その子供の学費や給金を払って(同室になって)世話をお願いするってわけだな。ハヅキの場合は、ハヅキとエイミーは幼馴染で、別にハヅキの親はエイミーの学費やなんかを払っているわけではない(同室になってもらうためのお礼金は払った)。
 ‥だけど、あたしとエイミーは家同士の約束とかそういうの関係なく仲良くやっている。‥と思ってるんだけど、多分エイミーが「さりげなく」世話してくれてるんだろうな。エイミーは面倒見がいいししっかりしてるから。
 ‥まあそんな感じで多少引け目は感じているが‥だけど、「よろしく~、特別に信用してるよ~」って意味も込めて、あたしはエイミーにだけはローブを外した姿も見せた。大したことでもないんだけど、あたしにとっては一大イベントだ。そりゃあ、緊張した。
 そして、むかえた決行日(大袈裟)。
 ローブを外す前「びっくりしないでね」って言うのも変だし‥「でも何か言わなきゃな~」「なんて言おうかな~」って考えてたあたしにエイミーは、
「どんな顔でも関係ないよ。ハヅキはハヅキでしょ」
 って言ってた。そりゃもう「何でもないよ~☆」って顔で。
 言ってたのに‥

 ‥何で無言やねん‥。

 傷付いたわ~ちょっと‥。いや、ちょっとだけ。そんなに傷付いてないよ!? (※ エイミーはただハヅキの美しさに驚いて何も言えなかっただけ)
 エイミーはそれ以降、まるで何事もなかったかのように、あたしの顔について触れてこない。
 だから、あたしは今まで通りエイミーの前でもローブを被ってる。灯りを消して「お休み~」って言うまでローブを被ってる。
 それで平和に暮らせるならそれでいい。
 (ちなみにその時の)エイミーの脳内
 ①「え?? あれは夢?? 幻?? 凄い美少女見た気がするんだけど?? 」
 ②「あ、ローブ被っちゃった。ってか‥外したっけ? さっきのやっぱり夢だった? 目の前に居るのは‥いつも通りのハヅキだ。やっぱり夢だったみたい」
 ③「じゃあ‥今まで通り振る舞おう」
 ‥つまり、脳内で「なかったことになった」ってわけ。そんなことを、ハヅキは勿論知らない。知らずに(可哀そうに)傷付いているんだ‥。
『それで、友情にひびがはいるかって? はいらないよ。だって、たいしたことない、「些細な事」だもんね? 』
 ハヅキはそう思い込むことで悲しい現実を忘れることにした。
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