2 / 2
番外編
その後
しおりを挟む
あれから、月日は経ち、アレンハルトは学院を卒業し、今年18歳となった。若き天才として、国の魔術師団の団長を務めている。ルートベルトは30歳となったがあまり、成長せず今ではアレンハルトの方が一回り大きくなってしまった。未だに、食が細いが、1日3食食べれるようになり、以前よりは身体に肉がついた。首や手足の痣は薄くはなったが消えることが無く、今でも枷が着いているような錯覚に陥る。全身の傷や痣も酷いものは癒えずに残ってしまい、それを気にするアレンハルトの為にルートベルトは露出が少ないハイネックを着るようになった。声は出せるようになったが、なにせ20年も発していなかったものだから、舌足らずで語彙が少なく、単語で話すことが多かった。それでも、アレンハルトは声を出して、自分を呼んでくれる一回り歳上の可愛らしい番を大切に愛でていた。
「ルート。」
「なに?」
「俺の番になってくれて、ありがとう。」
「おれ、ありがとう。」
「『も』を間に、入れるんだよ。」
「ん。....?...おれ、も、ありがとう?」
「うん、良くできました。」
そう言って、撫でれば嬉しそうに目を細める。あれから、感情が出るようになり僅かだが、笑ったり、少し拗ねたり、怒ったりするようになった。しかし、痛覚だけは戻らず、気付かないうちに傷や痣ができていることも多々あり、アレンハルトが家にいる間は常に一緒に行動した。いない間は、保護魔法をかけて使用人達に気を付けるように言い付けてから家を出ている。アレンハルトの兄、オルトレインとルートベルトの弟、リリィベルトは、屋敷に残り、アレンハルトとルートベルトと数人の使用人を連れて新たに屋敷を買って住んでいる。
そんなある日、アレンハルトは魔術師団にルートベルトを連れて出勤した。ルートベルトは20年間歩かなかった事で筋力が落ちてしまった足をリハビリして杖を付きながらゆっくりと歩けるようになっていた。アレンハルトの腕に掴まりながら、杖を付いて歩くルートベルト。その腰を抱いて支えるアレンハルト。傍から見れば、介護する親子だが、ルートベルトに向けるアレンハルトの微笑みは魔術師団では一切見せることのない顔だった。魔術師団の塔に着くまでに王宮にいた貴族や貴族令嬢に見せびらかし、自分が番持ちで、その番がこの美しく可愛らしいルートベルトなのだと主張した。
周囲からはヒソヒソと妬みなどが聞こえたが、どこ吹く風で気にしていなかった。そんな中、一人の令嬢が近付いてきてアレンハルトに詰め寄った。
「アレンハルト様!その方はなんですの?」
「....『なに』とは?」
ルートベルトを人として扱わなかった令嬢に対し、冷めた視線を向け、威圧した。
「わたくしは、アレンハルト様の婚約者ですわよ?」
「....誰だ?そんなことを言ったやつは。俺は婚約者などいない。」
「...なっ?!なんてことを言うんですの?!正式な婚約を無かったものにするのですか?!」
「そもそも、婚約などしていないし、お前を知らない。」
「~~~っ!!...こんな一回りも歳上の!しかも!男ですわよ?!ありえないですわ!!!」
そう言って、ルートベルトの杖を蹴り飛ばし、バランスを崩したルートベルトは膝が折れ座り込んだ。
「...?....ア、レン。...どうした?」
「大丈夫だよ。杖が飛んでいったからね。怪我はしていない?」
「ん。だいじょうぶ。」
「そう、抱えていい?」
「ん。」
そう言って、手を伸ばすルートベルトを横抱きにして抱え、杖を魔術で持ってきた。そして、令嬢に殺気を込めた視線を送り言い放った。
「お前の家が潰れるのも時間の問題だな。なにせ、勇者の兄であるルートに手を出したのだから。それに俺の兄は、騎士団長だしな。可哀想に。」
そう言って、ルートベルトを抱き抱えたまま、魔術師団の塔に向けて足を進めた。魔術師団では、散々惚気けていたので、ヒソヒソとした声は聞こえなかったが、代わりに惚気けた末の団長、アレンハルトの番に見惚れている者が多数いた。アレンハルトはそれを良く思わず、見惚れていた者の仕事を後日、倍に増やしたのは言うまでもない。
「ルート、挨拶して。」
「ん。...ルート、ベルト。...?」
「よろしく」
「...よろしく。」
「良くできました。」
そう言って、頭を撫でているアレンハルトは本当に番を大切にしている事が伝わってくる。惚気の際にルートベルトの生い立ちを聞いている魔術師団の者達は、拙い喋り方のルートベルトを悪く思う者はおらず、むしろ、かわいいと愛でて菓子を上げたりしていた。その光景は、正しく幼い子にお菓子を上げる大人だった。だがしかし、菓子を貰っているのはアレンハルトより一回り小さいが男性に見れるくらいの身長の30歳の大人なのだ。そして、菓子をあげているのは、菓子を貰うルートベルトより歳下の20代の大人なのだ。
―――――なんとも言えないが、アレンハルトはルートベルトが幸せそうなら何でも良かったのだ。
その後 Fin
「ルート。」
「なに?」
「俺の番になってくれて、ありがとう。」
「おれ、ありがとう。」
「『も』を間に、入れるんだよ。」
「ん。....?...おれ、も、ありがとう?」
「うん、良くできました。」
そう言って、撫でれば嬉しそうに目を細める。あれから、感情が出るようになり僅かだが、笑ったり、少し拗ねたり、怒ったりするようになった。しかし、痛覚だけは戻らず、気付かないうちに傷や痣ができていることも多々あり、アレンハルトが家にいる間は常に一緒に行動した。いない間は、保護魔法をかけて使用人達に気を付けるように言い付けてから家を出ている。アレンハルトの兄、オルトレインとルートベルトの弟、リリィベルトは、屋敷に残り、アレンハルトとルートベルトと数人の使用人を連れて新たに屋敷を買って住んでいる。
そんなある日、アレンハルトは魔術師団にルートベルトを連れて出勤した。ルートベルトは20年間歩かなかった事で筋力が落ちてしまった足をリハビリして杖を付きながらゆっくりと歩けるようになっていた。アレンハルトの腕に掴まりながら、杖を付いて歩くルートベルト。その腰を抱いて支えるアレンハルト。傍から見れば、介護する親子だが、ルートベルトに向けるアレンハルトの微笑みは魔術師団では一切見せることのない顔だった。魔術師団の塔に着くまでに王宮にいた貴族や貴族令嬢に見せびらかし、自分が番持ちで、その番がこの美しく可愛らしいルートベルトなのだと主張した。
周囲からはヒソヒソと妬みなどが聞こえたが、どこ吹く風で気にしていなかった。そんな中、一人の令嬢が近付いてきてアレンハルトに詰め寄った。
「アレンハルト様!その方はなんですの?」
「....『なに』とは?」
ルートベルトを人として扱わなかった令嬢に対し、冷めた視線を向け、威圧した。
「わたくしは、アレンハルト様の婚約者ですわよ?」
「....誰だ?そんなことを言ったやつは。俺は婚約者などいない。」
「...なっ?!なんてことを言うんですの?!正式な婚約を無かったものにするのですか?!」
「そもそも、婚約などしていないし、お前を知らない。」
「~~~っ!!...こんな一回りも歳上の!しかも!男ですわよ?!ありえないですわ!!!」
そう言って、ルートベルトの杖を蹴り飛ばし、バランスを崩したルートベルトは膝が折れ座り込んだ。
「...?....ア、レン。...どうした?」
「大丈夫だよ。杖が飛んでいったからね。怪我はしていない?」
「ん。だいじょうぶ。」
「そう、抱えていい?」
「ん。」
そう言って、手を伸ばすルートベルトを横抱きにして抱え、杖を魔術で持ってきた。そして、令嬢に殺気を込めた視線を送り言い放った。
「お前の家が潰れるのも時間の問題だな。なにせ、勇者の兄であるルートに手を出したのだから。それに俺の兄は、騎士団長だしな。可哀想に。」
そう言って、ルートベルトを抱き抱えたまま、魔術師団の塔に向けて足を進めた。魔術師団では、散々惚気けていたので、ヒソヒソとした声は聞こえなかったが、代わりに惚気けた末の団長、アレンハルトの番に見惚れている者が多数いた。アレンハルトはそれを良く思わず、見惚れていた者の仕事を後日、倍に増やしたのは言うまでもない。
「ルート、挨拶して。」
「ん。...ルート、ベルト。...?」
「よろしく」
「...よろしく。」
「良くできました。」
そう言って、頭を撫でているアレンハルトは本当に番を大切にしている事が伝わってくる。惚気の際にルートベルトの生い立ちを聞いている魔術師団の者達は、拙い喋り方のルートベルトを悪く思う者はおらず、むしろ、かわいいと愛でて菓子を上げたりしていた。その光景は、正しく幼い子にお菓子を上げる大人だった。だがしかし、菓子を貰っているのはアレンハルトより一回り小さいが男性に見れるくらいの身長の30歳の大人なのだ。そして、菓子をあげているのは、菓子を貰うルートベルトより歳下の20代の大人なのだ。
―――――なんとも言えないが、アレンハルトはルートベルトが幸せそうなら何でも良かったのだ。
その後 Fin
147
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
闇を照らす愛
モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。
与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。
どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。
抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。
姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)
turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。
徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。
彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。
一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。
ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。
その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。
そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。
時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは?
ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ?
読んでくださった方ありがとうございます😊
♥もすごく嬉しいです。
不定期ですが番外編更新していきます!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる