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番外編
申請
朝起きると、ロイはまだ眠っていた。アルは俺が起きたことにより目を覚ましたらしく、もぞもぞと身じろぎ始めていた。
「んーー......、ぉ、はよ...。」
「おはよう。」
目をこすりながら挨拶してくるアルに苦笑しながら返事をする。俺達に挟まれて眠るロイは寝汗が酷く、顔も少し歪んでいた。眼の下の隈は慢性的になっていてロイの顔色を余計に悪くさせている。アルがロイの寝汗を拭いつつ、親指で隈をなぞって頬撫でている。
「.....ん。」
ロイが撫でる手に擦り寄った。が、すぐに顔を顰めた。呼吸も乱れ、掠れ始めた。
「....ヒュー....ヒュー、....ハッ...ヒュー....。」
「っロイ、目を覚ませ!」
「...ロイ!!起きろ!!」
ロイの呼吸が落ち着き薄く目を開いたので、安心しかけたが瞳をみて俺達の顔が歪む。ロイの瞳は絶望に染まり漆黒に染まっている。光が失く完全なDrop状態だ。早く戻さないと前のCommandに従い死にかねない。既に指先が氷のように冷たくなっている。
「ロイ、起きろ。死ぬな。」
「...『死ね』のCommandを上書きした方が一番いいのかもしれないね。」
「...だが、Commandの上書きはSubの脳にも精神にもかなりの負荷がかかるはずだ。」
「...でも、Dropのたびに死にかけるのは避けたい。」
「取り敢えず、起こそう。んで、俺が抱き締めながら体を温める。Domとしての格はアルの方が上だ。お前のGlareで無理矢理Sub spaceに入れる。そうすれば、いくらか上書きの負荷が減るはずだ。」
「...時間がない。それでやろう。」
痛みや苦しみに鈍感になっているロイを起こすのは至難の業だ。Commandで無理矢理こちらを見させた。その瞬間にアルが最大限のGlareを出してロイをSub spaceに入れた。
「.....。....ぁ、る。」
「...ああ、ロイ。おはよう。」
「....?.......、ん....。ぉ、はよ..?」
「うん、Good boy。」
「...んぅ。」
「...おはよう、ロイ。」
「....ゔぃ、....ぉ、は....よ。?」
「ああ、Good boyだ。」
「...ん。」
ちゃんと考えて挨拶をしたロイの頭を撫でながら褒めると、目を細めて気持ち良さそうに擦り寄ってくる。そして、アルがGlareを出している中で俺もGlareを最大限放つ。
「...っぁ。な、で?」
「...悪いな。ロイ、少しだけ我慢してくれ。」
「...ロイくん、上書きをするからそのまま麻痺しててね。」
「...ぅ、あ。.....ん。」
Glareを過剰に浴びているロイは今すべての感覚が麻痺している状態だ。そして、上書きの成功率を上げるために俺とアル同時に同じCommandを出す。
「「ロイ、生きろ。」」
ロイは、頭を抱えて呻きだす。前のCommandと今出されたCommandが矛盾しているから余計だろう。どちらのCommandにも従おうとして脳が擦り切れるような痛みを伴う。それが、上書き。辛いだろうが、耐えてくれ、ロイ。
「....ぅ"、あ"ぁ"、....ぉ"え"っ―――――」
脳が揺さぶられてるようなものなんだろう。嘔吐はしないものの、えづいて苦しそうだ。アルも顔を顰めて今にもGlareを放つのを止めそうな顔をしている。
「...あ"ぅ"....お"ぇ"っ、ぅ"ん"...」
―――どれぐらい経っただろうか。きっと十数分のことだろう。だが、俺達には数十分に感じられた。嗚咽が治まり、呼吸を整えながら涙を流しながらこちらを見つめるロイ。
「――――....し、ねなく、て。...ごめ、なさ、い。
....め、れい、に、そむ、い、て。ごめ、ん、さい。」
矛盾に打ち克ち、その末に出された前のCommandへの謝罪。それを聞いた瞬間、俺達はGlareをしまい、ロイを抱き締めた。
「―――っロイ!よく頑張った!Goodだ!....Good boyだ!!」
「ロイくん!!ロイ!...えらいよ!すっごくえらいっ!!Good boy!!」
「――....ん、ぅ。...ゔぃ...。...ぁ、る。」
「ああ、ここにいるぞ。俺の愛しいロイ。」
「うん、いるよ。ずっと一緒にいる。ロイくん。」
抱き締めるロイの体に温かみが戻り始め、アルが抱き締めながらソファに座った。俺は厨房で昨日の残ったスープを温め、えづいたロイにパンのミルク粥を作り、ロイの部屋に運んだ。ロイはアルに寄りかかって目を閉じて休んでいた。アルは寄りかかられて満足そうにロイの頭を撫でていた。
「....ずるいぞ、アル。」
「...ふふ、今ね、すっごく俺落ち着いてるんだ。」
「...さっき大量にGlareを放ったからじゃないか?」
「...んー、ああ、そうか。Defenseか。」
「結構、キツかったからな。」
「ふふっ、そういうヴィーだって。俺程じゃないけど強いんだから....。」
「ディスってるのか?」
「褒めてるんだよ。」
「...まあ、いいか。食おうぜ。んで、申請しに行こう。」
「...そうだね。ロイ、食べられる?」
「....ん。...たべ?」
「そう、ミルク粥。」
「...み?」
アルがミルク粥を掬ってロイに食べさせている。昨日の野菜スープより気に入ったらしく頷きながら食べている。
「ロイ、美味しいか?」
「...?...お、し?」
「美味しい、今食べてるやつ、また食べたいか?」
「...ん。たべ、る。」
「それを美味しいって言うんだ。」
「...お、しい。」
「...ふふっ、ロイ。『お・い・し・い』だよ。」
「....お、い、しい。」
「そう、上手。Good。」
「....アル、呼び方が変わってるぞ。」
「いいんだよ、俺は元々こうだし、ロイって呼びたい。」
「ロイは気にしないか?」
「...?...ゔぃー。だ、め?」
「ほら、いいって。」
「ロイがいいならいいんだ。」
ロイはミルク粥を完食し、俺達も食事を終えて、一休みした。ロイを部屋で少しだけ待っててもらい着替えに行こうとした。だが、――――――――
「ど、いく?」
「着替えてくるんだ。」
「...きが?....おい、てく?」
「戻ってくる。」
「...い、かな。で。」
「いかないで。」と瞳を濡らしながら俺の服の裾を小さく掴んで離してくれない。
「じゃあ、俺がロイと待ってるから着替えておいでよ。」
「...ん、そうし――「ゔぃー。な、で?...い、しょ。」
「....俺じゃだめなの?」
「...ちが、う。...ある、も。ゔぃー、も。いっ、しょ。」
「っ、じゃあ、一緒にヴィーの部屋に行こうか。」
「...い、しょ?」
「うん。」
「....ん。」
かわいいが超越している。かわいい。
そのまま3人で俺が泊まっている、引っ越したら俺の部屋になる部屋に向かい、さっさと着替えてアルの部屋に向かった。アルも俺も一応は貴族なので暗めの色合いのスラックスに合わせたベストとネクタイでコートを羽織った。
そして、ロイはまだサイズを測っていないし、そもそも服がなくずっとアルのネグリジェを着ていたらしく、今もそのネグリジェを着ている。これはこれでかわいいが、外へ出向くのだからそれなりにしなければならない。
取り敢えず、アルが学生の頃に着ていたシャツとスラックスを着せ、ベストの代わりにアルのセーターを着せた。一回り大きいセーターは肩周りがずり落ちそうで、かわいい。袖も手を覆っていて見えない。かわいい。シャツの襟元はボタンを開け、わざわざ首元で光る2つのCollarを見せつけるようにした。そして、コートを羽織らせ、髪を1つに束ねれば完璧。.....すぅ―――――――
「「かわいいっ!!!!」」
「(ビクッ).....な、に?...ご、め.......ぁ。」
「Good boy!謝らなかったね。Good。」
「...ほ、と?」
「ああ、Goodだ。悪かったな大声出して。」
「....ん。だ、じょぶ。」
撫でながら玄関に向かい、外に出れば呼んでおいた馬車が着いていたので、乗り込みそのまま役所に向かってもらった。役所の手前で降ろしてもらい、商業街は今日はバザールを開かれていていつも以上に賑わっていた。平民身分の者が串肉を焼いて客を集めていたので、2本買うと店主にも周りにいた客達にも驚かれた。そういえば、今日は貴族服だったな~なんて思いつつ串肉に齧り付けば程よい焼き加減で美味しかった。ロイは不思議そうに俺達を見ていた。
「...お、いし?」
「ああ、美味しい。」
「...た、べ?」
「ロイはまだだめかなー。」
「...な、で?」
「ロイはまだ顎が強くないからね。また来たときは食べれるように頑張ろうか。」
アルがそう言ってロイの手を握ると、小さくこくこくと頷いていた。しばらく歩けば、目的の役所に着き中に入った。役所はいつも通り賑わっていて、冒険者なども買取科や依頼科に集まっていた。申請科は、いつも通り役所の隅にひっそりと扉が佇んでいた。申請科は個人情報を扱うので個室を用意されている。
扉をノックし返事を聞き3人で入れば、受付の女性職員が一瞬驚いていたが、アイコンタクトで意思を伝える。そうすれば、理解したようで他と同じようにカウンターの椅子に座るように促され、そのまま座ると一般と同じ対応をしてくれた。
「ようこそ、申請科へ。書類はお持ちですか?」
「ああ。」
「はい、確かに。では、いくつか質問をさせて頂きます。」
「ああ、構わない。それと、少し訳アリでね。その辺は後でまた頼むがいいか?」
「かしこまりました。」
俺が答えている間に、アルはロイを膝に抱えてここの説明をしている。微妙に分かっていなそうだが大切な事だということは分かったらしい。それを見ていた女性職員も訳アリの理由が分かったらしく、丁寧に質問をしてくれた。
「では、お聞きします。二対一の申請でよろしいですね?」
「ああ。」
「お二方とも、溺愛タイプでよろしいですか?」
「ああ。」「うん。」
「お二方とも、そちらのSubの方で間違いありませんか?」
「「ああ。」」
「そちらのSubの方の了承はお済みですか?」
「「もちろん。」」
「かしこまりました。それでは、そちらのSubの方に質問します。よろしいですね?」
「ああ。」「....うん。」
「....それでは、白銀の君。よろしいですか?」
「....は、ぎん?の、きみ?」
「ロイのことだよ。ここは個人名は使わないからその人の特徴で呼ぶんだ。」
「...ん。」
「では、白銀の君。このお二方のパートナーでよろしいですか?」
「...ぱ、と。......ん。」
「はい、嫌なことはされてませんか?(溺愛タイプですから)殴ったり蹴ったりされてませんか?」
「...な、い。」
「本当ですか?」
「...ん。」
「...?お二方、事実ですか?」
女性職員の近付き、小声で「前の主人が、どうもな。禁止ワードも使ったらしく、今朝上書き出来たんだ。」と説明すれば、大声を上げかけたのか口を手で覆い、頷いた。
「かしこまりました。では、Collarは....贈られてますね。
おめでとうございます。正式なパートナーとして承認します。」
「....お、わり?」
「うん、俺と外で待ってようか?」
「...ん。」
ロイとアルが申請科の個室から出て行き、アルが出会った頃から話し始め、ロイに聞いたことを説明すると顔を歪ませながら書類を作ってくれた。強制的に親権を放棄させる事ができ、親権がなくなった子の身元を役所が保証する書類だ。パートナー申請書類の控えと申請承認書、まっさらな契約書。そして親権放棄書を受け取り、部屋を出ようと席を立とうとした瞬間―――――――
――――強烈なGlareがここに、役所全体に放たれた。アルのDefenseだ。ロイに何かあったらしい。急いで部屋を出れば、扉一枚分の抑えられていたGlareを諸に浴び、俯きかける。だが、目に入った光景で、俺もDefenseでGlareを放ってしまった。周りにいたSubには悪いと思う。跪いてしまったりパートナーのDomに支えられていたり、本当にすまない。
俺の目に飛び込んできた光景は、ロイが髪を掴まれどこぞの男に踏まれていた。許さない。俺は、ロイの髪を掴んでいる男の頬を殴り飛ばし、ロイを抱え込んだ。男は壁まで飛びそのまま伸びている。近くでニヤついてロイを見ていた若い男は顔を青くして首輪を着けられた男を引きずって逃げようとしていた。俺は、腰につけていたシガーナイフで鎖を断ち切り、役所職員に保護させた。どう見ても同意の上の所業ではなかったからな。
ロイはDropに陥っているのに、上書きのおかげかいくらか意識を保っている。アルに預けるとアルのGlareが落ち着き周りも少しずつGlareにあてられた者がゆっくり起き上がっている。逃げようとした男は入り口にいた冒険者に捕まり、喚いていた。
「すまない、俺達のGlareにあてられた者は救護室に運んでやれ。パートナーの奴等には上の宿の個室を空けてやれ。費用は俺が持つ。」
「はい!マスター!!」
「マスター!壁の修繕費は。」
「そこの伸びている奴に払わせろ。」
「こいつはどうすんだ?マスター。」
「ああ、ありがとうな。捕まえてくれて。」
気絶させられた若い男を預かる。
「何やらかしたんだ?大分濃いGlareだったが....。」
「そら、俺とアルベルのGlareだぞ?キツいに決まってる。....本当に悪かったな。」
「あー、可哀想に。ん?てことは、パートナーが?」
「そうだ。今アルベルが抱いている子だ。」
「そらぁ、おめでとさん。今日承認されたのか?」
「そうだ。俺とアルベルでな。」
「あー、どんまい。変わり者公爵サマもお気の毒に。」
「ま、そういう事だ。お前ら!後片付けは頼んだぞ?」
「「「了解!!」」」
アルベルとロイを連れて所長室に入る。若い男と壁下で伸びている奴は冒険者達に任せた。所長室のソファに、ロイとアルを座らせると、アルはロイを抱きかかえて離そうとしなかった。
「ロイ、分かるか?」
「....ん。」
「アル、ロイが苦しいぞ?」
「...やだ。」
「ロイ、苦しくないか?」
「....だ、じょ。ぶ。」
「Drop入ってる?」
「.....だ、じょぶ。」
「大丈夫じゃないっ!」
アルがボロボロと泣きながらロイの肩に顔を埋めた。
「...ぁ、る。...だ、じょぶ?」
「...ロイが、大丈夫じゃない!」
「....わか、な。」
「アル、取り敢えずロイの怪我の治療するから離せ。」
「......ん。」
「おいで、ロイ。」
「...っや!」
「っロイ!大丈夫だ、Commandじゃない。」
「...んぅ。」
ロイを膝に乗せてシャツを捲ると傷だらけの腹に青痣が新しく出来ていて、アルが今にも殺しに行きそうだった。ロイの腹を冷やしつつ、アルを隣に座らせた。アルとロイの頭を撫でる。
「二人共、偉かったな。」
「...ほ、と?」
「ああ、Dropに堕ちなかっただろ?Good boyだ。」
「アルも、お前はよく我慢した。偉いな。」
「......殺したかった。」
「お前は後で社会的に殺すだろう?公爵サマ?」
「うん。」
「手伝うよ。」
騒ぎはすぐに広がり、ロイの親だった伯爵と時期伯爵は公爵サマのおかげで不正がボロボロと出て、地位をなくしたとか。俺とアルベルのパートナーになったロイに手を出したのが悪かったな。
ロイはあの後順調に回復して固形物も食べられるようになり、串肉を美味しく食べた。だが、今でもミルク粥が一番美味しいと言い、主食はミルク粥となっている。
申請 Fin
「んーー......、ぉ、はよ...。」
「おはよう。」
目をこすりながら挨拶してくるアルに苦笑しながら返事をする。俺達に挟まれて眠るロイは寝汗が酷く、顔も少し歪んでいた。眼の下の隈は慢性的になっていてロイの顔色を余計に悪くさせている。アルがロイの寝汗を拭いつつ、親指で隈をなぞって頬撫でている。
「.....ん。」
ロイが撫でる手に擦り寄った。が、すぐに顔を顰めた。呼吸も乱れ、掠れ始めた。
「....ヒュー....ヒュー、....ハッ...ヒュー....。」
「っロイ、目を覚ませ!」
「...ロイ!!起きろ!!」
ロイの呼吸が落ち着き薄く目を開いたので、安心しかけたが瞳をみて俺達の顔が歪む。ロイの瞳は絶望に染まり漆黒に染まっている。光が失く完全なDrop状態だ。早く戻さないと前のCommandに従い死にかねない。既に指先が氷のように冷たくなっている。
「ロイ、起きろ。死ぬな。」
「...『死ね』のCommandを上書きした方が一番いいのかもしれないね。」
「...だが、Commandの上書きはSubの脳にも精神にもかなりの負荷がかかるはずだ。」
「...でも、Dropのたびに死にかけるのは避けたい。」
「取り敢えず、起こそう。んで、俺が抱き締めながら体を温める。Domとしての格はアルの方が上だ。お前のGlareで無理矢理Sub spaceに入れる。そうすれば、いくらか上書きの負荷が減るはずだ。」
「...時間がない。それでやろう。」
痛みや苦しみに鈍感になっているロイを起こすのは至難の業だ。Commandで無理矢理こちらを見させた。その瞬間にアルが最大限のGlareを出してロイをSub spaceに入れた。
「.....。....ぁ、る。」
「...ああ、ロイ。おはよう。」
「....?.......、ん....。ぉ、はよ..?」
「うん、Good boy。」
「...んぅ。」
「...おはよう、ロイ。」
「....ゔぃ、....ぉ、は....よ。?」
「ああ、Good boyだ。」
「...ん。」
ちゃんと考えて挨拶をしたロイの頭を撫でながら褒めると、目を細めて気持ち良さそうに擦り寄ってくる。そして、アルがGlareを出している中で俺もGlareを最大限放つ。
「...っぁ。な、で?」
「...悪いな。ロイ、少しだけ我慢してくれ。」
「...ロイくん、上書きをするからそのまま麻痺しててね。」
「...ぅ、あ。.....ん。」
Glareを過剰に浴びているロイは今すべての感覚が麻痺している状態だ。そして、上書きの成功率を上げるために俺とアル同時に同じCommandを出す。
「「ロイ、生きろ。」」
ロイは、頭を抱えて呻きだす。前のCommandと今出されたCommandが矛盾しているから余計だろう。どちらのCommandにも従おうとして脳が擦り切れるような痛みを伴う。それが、上書き。辛いだろうが、耐えてくれ、ロイ。
「....ぅ"、あ"ぁ"、....ぉ"え"っ―――――」
脳が揺さぶられてるようなものなんだろう。嘔吐はしないものの、えづいて苦しそうだ。アルも顔を顰めて今にもGlareを放つのを止めそうな顔をしている。
「...あ"ぅ"....お"ぇ"っ、ぅ"ん"...」
―――どれぐらい経っただろうか。きっと十数分のことだろう。だが、俺達には数十分に感じられた。嗚咽が治まり、呼吸を整えながら涙を流しながらこちらを見つめるロイ。
「――――....し、ねなく、て。...ごめ、なさ、い。
....め、れい、に、そむ、い、て。ごめ、ん、さい。」
矛盾に打ち克ち、その末に出された前のCommandへの謝罪。それを聞いた瞬間、俺達はGlareをしまい、ロイを抱き締めた。
「―――っロイ!よく頑張った!Goodだ!....Good boyだ!!」
「ロイくん!!ロイ!...えらいよ!すっごくえらいっ!!Good boy!!」
「――....ん、ぅ。...ゔぃ...。...ぁ、る。」
「ああ、ここにいるぞ。俺の愛しいロイ。」
「うん、いるよ。ずっと一緒にいる。ロイくん。」
抱き締めるロイの体に温かみが戻り始め、アルが抱き締めながらソファに座った。俺は厨房で昨日の残ったスープを温め、えづいたロイにパンのミルク粥を作り、ロイの部屋に運んだ。ロイはアルに寄りかかって目を閉じて休んでいた。アルは寄りかかられて満足そうにロイの頭を撫でていた。
「....ずるいぞ、アル。」
「...ふふ、今ね、すっごく俺落ち着いてるんだ。」
「...さっき大量にGlareを放ったからじゃないか?」
「...んー、ああ、そうか。Defenseか。」
「結構、キツかったからな。」
「ふふっ、そういうヴィーだって。俺程じゃないけど強いんだから....。」
「ディスってるのか?」
「褒めてるんだよ。」
「...まあ、いいか。食おうぜ。んで、申請しに行こう。」
「...そうだね。ロイ、食べられる?」
「....ん。...たべ?」
「そう、ミルク粥。」
「...み?」
アルがミルク粥を掬ってロイに食べさせている。昨日の野菜スープより気に入ったらしく頷きながら食べている。
「ロイ、美味しいか?」
「...?...お、し?」
「美味しい、今食べてるやつ、また食べたいか?」
「...ん。たべ、る。」
「それを美味しいって言うんだ。」
「...お、しい。」
「...ふふっ、ロイ。『お・い・し・い』だよ。」
「....お、い、しい。」
「そう、上手。Good。」
「....アル、呼び方が変わってるぞ。」
「いいんだよ、俺は元々こうだし、ロイって呼びたい。」
「ロイは気にしないか?」
「...?...ゔぃー。だ、め?」
「ほら、いいって。」
「ロイがいいならいいんだ。」
ロイはミルク粥を完食し、俺達も食事を終えて、一休みした。ロイを部屋で少しだけ待っててもらい着替えに行こうとした。だが、――――――――
「ど、いく?」
「着替えてくるんだ。」
「...きが?....おい、てく?」
「戻ってくる。」
「...い、かな。で。」
「いかないで。」と瞳を濡らしながら俺の服の裾を小さく掴んで離してくれない。
「じゃあ、俺がロイと待ってるから着替えておいでよ。」
「...ん、そうし――「ゔぃー。な、で?...い、しょ。」
「....俺じゃだめなの?」
「...ちが、う。...ある、も。ゔぃー、も。いっ、しょ。」
「っ、じゃあ、一緒にヴィーの部屋に行こうか。」
「...い、しょ?」
「うん。」
「....ん。」
かわいいが超越している。かわいい。
そのまま3人で俺が泊まっている、引っ越したら俺の部屋になる部屋に向かい、さっさと着替えてアルの部屋に向かった。アルも俺も一応は貴族なので暗めの色合いのスラックスに合わせたベストとネクタイでコートを羽織った。
そして、ロイはまだサイズを測っていないし、そもそも服がなくずっとアルのネグリジェを着ていたらしく、今もそのネグリジェを着ている。これはこれでかわいいが、外へ出向くのだからそれなりにしなければならない。
取り敢えず、アルが学生の頃に着ていたシャツとスラックスを着せ、ベストの代わりにアルのセーターを着せた。一回り大きいセーターは肩周りがずり落ちそうで、かわいい。袖も手を覆っていて見えない。かわいい。シャツの襟元はボタンを開け、わざわざ首元で光る2つのCollarを見せつけるようにした。そして、コートを羽織らせ、髪を1つに束ねれば完璧。.....すぅ―――――――
「「かわいいっ!!!!」」
「(ビクッ).....な、に?...ご、め.......ぁ。」
「Good boy!謝らなかったね。Good。」
「...ほ、と?」
「ああ、Goodだ。悪かったな大声出して。」
「....ん。だ、じょぶ。」
撫でながら玄関に向かい、外に出れば呼んでおいた馬車が着いていたので、乗り込みそのまま役所に向かってもらった。役所の手前で降ろしてもらい、商業街は今日はバザールを開かれていていつも以上に賑わっていた。平民身分の者が串肉を焼いて客を集めていたので、2本買うと店主にも周りにいた客達にも驚かれた。そういえば、今日は貴族服だったな~なんて思いつつ串肉に齧り付けば程よい焼き加減で美味しかった。ロイは不思議そうに俺達を見ていた。
「...お、いし?」
「ああ、美味しい。」
「...た、べ?」
「ロイはまだだめかなー。」
「...な、で?」
「ロイはまだ顎が強くないからね。また来たときは食べれるように頑張ろうか。」
アルがそう言ってロイの手を握ると、小さくこくこくと頷いていた。しばらく歩けば、目的の役所に着き中に入った。役所はいつも通り賑わっていて、冒険者なども買取科や依頼科に集まっていた。申請科は、いつも通り役所の隅にひっそりと扉が佇んでいた。申請科は個人情報を扱うので個室を用意されている。
扉をノックし返事を聞き3人で入れば、受付の女性職員が一瞬驚いていたが、アイコンタクトで意思を伝える。そうすれば、理解したようで他と同じようにカウンターの椅子に座るように促され、そのまま座ると一般と同じ対応をしてくれた。
「ようこそ、申請科へ。書類はお持ちですか?」
「ああ。」
「はい、確かに。では、いくつか質問をさせて頂きます。」
「ああ、構わない。それと、少し訳アリでね。その辺は後でまた頼むがいいか?」
「かしこまりました。」
俺が答えている間に、アルはロイを膝に抱えてここの説明をしている。微妙に分かっていなそうだが大切な事だということは分かったらしい。それを見ていた女性職員も訳アリの理由が分かったらしく、丁寧に質問をしてくれた。
「では、お聞きします。二対一の申請でよろしいですね?」
「ああ。」
「お二方とも、溺愛タイプでよろしいですか?」
「ああ。」「うん。」
「お二方とも、そちらのSubの方で間違いありませんか?」
「「ああ。」」
「そちらのSubの方の了承はお済みですか?」
「「もちろん。」」
「かしこまりました。それでは、そちらのSubの方に質問します。よろしいですね?」
「ああ。」「....うん。」
「....それでは、白銀の君。よろしいですか?」
「....は、ぎん?の、きみ?」
「ロイのことだよ。ここは個人名は使わないからその人の特徴で呼ぶんだ。」
「...ん。」
「では、白銀の君。このお二方のパートナーでよろしいですか?」
「...ぱ、と。......ん。」
「はい、嫌なことはされてませんか?(溺愛タイプですから)殴ったり蹴ったりされてませんか?」
「...な、い。」
「本当ですか?」
「...ん。」
「...?お二方、事実ですか?」
女性職員の近付き、小声で「前の主人が、どうもな。禁止ワードも使ったらしく、今朝上書き出来たんだ。」と説明すれば、大声を上げかけたのか口を手で覆い、頷いた。
「かしこまりました。では、Collarは....贈られてますね。
おめでとうございます。正式なパートナーとして承認します。」
「....お、わり?」
「うん、俺と外で待ってようか?」
「...ん。」
ロイとアルが申請科の個室から出て行き、アルが出会った頃から話し始め、ロイに聞いたことを説明すると顔を歪ませながら書類を作ってくれた。強制的に親権を放棄させる事ができ、親権がなくなった子の身元を役所が保証する書類だ。パートナー申請書類の控えと申請承認書、まっさらな契約書。そして親権放棄書を受け取り、部屋を出ようと席を立とうとした瞬間―――――――
――――強烈なGlareがここに、役所全体に放たれた。アルのDefenseだ。ロイに何かあったらしい。急いで部屋を出れば、扉一枚分の抑えられていたGlareを諸に浴び、俯きかける。だが、目に入った光景で、俺もDefenseでGlareを放ってしまった。周りにいたSubには悪いと思う。跪いてしまったりパートナーのDomに支えられていたり、本当にすまない。
俺の目に飛び込んできた光景は、ロイが髪を掴まれどこぞの男に踏まれていた。許さない。俺は、ロイの髪を掴んでいる男の頬を殴り飛ばし、ロイを抱え込んだ。男は壁まで飛びそのまま伸びている。近くでニヤついてロイを見ていた若い男は顔を青くして首輪を着けられた男を引きずって逃げようとしていた。俺は、腰につけていたシガーナイフで鎖を断ち切り、役所職員に保護させた。どう見ても同意の上の所業ではなかったからな。
ロイはDropに陥っているのに、上書きのおかげかいくらか意識を保っている。アルに預けるとアルのGlareが落ち着き周りも少しずつGlareにあてられた者がゆっくり起き上がっている。逃げようとした男は入り口にいた冒険者に捕まり、喚いていた。
「すまない、俺達のGlareにあてられた者は救護室に運んでやれ。パートナーの奴等には上の宿の個室を空けてやれ。費用は俺が持つ。」
「はい!マスター!!」
「マスター!壁の修繕費は。」
「そこの伸びている奴に払わせろ。」
「こいつはどうすんだ?マスター。」
「ああ、ありがとうな。捕まえてくれて。」
気絶させられた若い男を預かる。
「何やらかしたんだ?大分濃いGlareだったが....。」
「そら、俺とアルベルのGlareだぞ?キツいに決まってる。....本当に悪かったな。」
「あー、可哀想に。ん?てことは、パートナーが?」
「そうだ。今アルベルが抱いている子だ。」
「そらぁ、おめでとさん。今日承認されたのか?」
「そうだ。俺とアルベルでな。」
「あー、どんまい。変わり者公爵サマもお気の毒に。」
「ま、そういう事だ。お前ら!後片付けは頼んだぞ?」
「「「了解!!」」」
アルベルとロイを連れて所長室に入る。若い男と壁下で伸びている奴は冒険者達に任せた。所長室のソファに、ロイとアルを座らせると、アルはロイを抱きかかえて離そうとしなかった。
「ロイ、分かるか?」
「....ん。」
「アル、ロイが苦しいぞ?」
「...やだ。」
「ロイ、苦しくないか?」
「....だ、じょ。ぶ。」
「Drop入ってる?」
「.....だ、じょぶ。」
「大丈夫じゃないっ!」
アルがボロボロと泣きながらロイの肩に顔を埋めた。
「...ぁ、る。...だ、じょぶ?」
「...ロイが、大丈夫じゃない!」
「....わか、な。」
「アル、取り敢えずロイの怪我の治療するから離せ。」
「......ん。」
「おいで、ロイ。」
「...っや!」
「っロイ!大丈夫だ、Commandじゃない。」
「...んぅ。」
ロイを膝に乗せてシャツを捲ると傷だらけの腹に青痣が新しく出来ていて、アルが今にも殺しに行きそうだった。ロイの腹を冷やしつつ、アルを隣に座らせた。アルとロイの頭を撫でる。
「二人共、偉かったな。」
「...ほ、と?」
「ああ、Dropに堕ちなかっただろ?Good boyだ。」
「アルも、お前はよく我慢した。偉いな。」
「......殺したかった。」
「お前は後で社会的に殺すだろう?公爵サマ?」
「うん。」
「手伝うよ。」
騒ぎはすぐに広がり、ロイの親だった伯爵と時期伯爵は公爵サマのおかげで不正がボロボロと出て、地位をなくしたとか。俺とアルベルのパートナーになったロイに手を出したのが悪かったな。
ロイはあの後順調に回復して固形物も食べられるようになり、串肉を美味しく食べた。だが、今でもミルク粥が一番美味しいと言い、主食はミルク粥となっている。
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アルファポリス限定で連載中
【完結】俺だけの○○ ~愛されたがりのSubの話~
Senn
BL
俺だけに命令コマンドして欲しい
俺だけに命令して欲しい
俺の全てをあげるから
俺以外を見ないで欲しい
俺だけを愛して………
Subである俺にはすぎる願いだってことなんか分かっている、
でも、、浅ましくも欲張りな俺は何度裏切られても望んでしまうんだ
俺だけを見て、俺だけを愛してくれる存在を
Subにしては独占欲強めの主人公とそんな彼をかわいいなと溺愛するスパダリの話です!
Dom/Subユニバース物ですが、知らなくても読むのに問題ないです! また、本編はピクシブ百科事典の概念を引用の元、作者独自の設定も入っております。
こんな感じなのか〜くらいの緩い雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです…!
待てって言われたから…
ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。
//今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて…
がっつり小スカです。
投稿不定期です🙇表紙は自筆です。
華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)
病弱の花
雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。
目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
とても好きな作品です!
ぜひ続きや番外編があれば読みたいです!
ロイがアルとヴィーに愛されて幸せになるところがたくさん見られたら嬉しいです!
お体にお気をつけて素敵な作品をたくさん書いてください!お待ちしています!
わあ、ありがとうございます!!
今新しいものを書いているので、投稿したらそちらも見てくださると嬉しいです!!!
番外編も思いついたら書きたいと思います!!!