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アトランティス大陸編
忌み子=Re:スタート
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少女は忌み子である自身のことが大嫌いだった。
エルフ族の族長の娘として生まれた少女の母親は、族長の娘として厳しく育てられた影響かおてんば娘で人一倍冒険心が強く。
外の世界は危ないから決して森の外へ出てはいけないという掟を破り、彼女は閉鎖的な大森林を飛び出した。
エルフ族は精霊の声を聞くための長く尖った耳を持ち、精霊の力を借りることで強力な魔法を使うことができる種族だが。まだ子供である彼女にはそこまでの力はなかった。
結果として人さらいに捕まった彼女は奴隷として人族の権力者の持ち物となり、助け出された彼女は心を壊されて人形のようになっていたが。
皮肉にも死んでいた彼女の心を生き返らせたのは身ごもっていた権力者の子への母性本能であり、母親としての愛だった。
『やぁっ! 私の赤ちゃん、とらないでっ!』
彼女は権力者への憎悪と善意から自身の子供を魔法で堕ろそうする大人達に衰弱しきった身体で抵抗し、子供を守り切った。
しかしエルフ族は人族から一方的な宣戦布告で国を滅ぼされて隠れ潜むようになった過去があり、可愛がっていた族長の娘が無理やり身ごもらされた子供。ましてや相手は憎悪の対象である人族の指導者である。
生まれた子供に悪感情が向かってしまうのも無理はなかった。
そうして複雑な心境の大人達の見守る中で短く尖った耳を持つハーフエルフの少女は生まれた。
大人達の多くは生まれた子供に罪はないと憎悪を抑え込み、まだ子供である彼女の子育てを手伝い少女の成長を見守っていたが。裏で一部の大人達が少女のことを忌み子と呼んで嫌悪していた。
そのためある意味当然ではあるが大人でも抑えきれない憎悪をエルフ族の子供達が抑えれるはずもなく、少女は他の子供から様々な暴言、暴力を受けることになったが。
自身の生まれと子供達が少女の父親の手で理不尽に家族を奪われたことを知ってしまった少女は反撃することもできず、やがて忌み子である自身は生きていてはいけないのではないかと思うほど追い込まれてしまう。
『ごめんなさい、私が森の外に出さえしなければっ。私が全部悪いのッ!
アリスに罪なんてないのよ! だって、あなたはこんなに優しいじゃない!!』
やがて母親へ『僕は死んだ方がいいのかな、お母様』と訊いてしまった少女は涙を流しながら己を抱きしめて、そう言った母親の姿を目の当たりにして強く後悔し、確かな母親からの愛情を感じた少女は生きようと自然と思った。
自分自身に価値を感じることができず、生きていていいのかまだ分からないけど。それでも母親の泣き顔は二度と見たくないと思ったのだ。
それから少女は変わった。今まで一方的に暴力を受けるだけだった状況を変えるため、子供達と向き合い殴られながらも心の傷が少しでも治ればいいと子供達の親代わりをしようとした。
そんな少女の姿は親を奪われた子供や人族との戦いで子供を亡くした親の心を曇らせていた憎しみを晴らし、自分自身の心へとしっかりと向き合わせる。
本当はみんな分かっていたのだ。こんなものは八つ当たりにすぎないと、亡くなった家族が生きていたのならばこんな幼子に何をやってるんだと怒るのだろうと。
『ごめん、なさ、いッ! 本当はわかってる、あなたに罪がないことも。こんなことをしたってしょうがないってこともッ!!
だけど許せなかった! 母様はあの人族に殺されたのに!! なんでその娘が生きてるのよッ!l 返して、私の家族を返してよっ』
少女は子供達の中で一番年上の女の子が叫んだ言葉に対して最初反応できなかった、それほどの衝撃だった。
頭では分かっているつもりだったのだ、己の存在の罪深さを。しかし現実は少女の想像を超えていた。
目の前の女の子は当たり前のように母親を持つ子供だったのだ。
その日人族が攻めてさえこなければきっと、今日も母親と共に笑っていた。こんな悲しみを背負うこともなかった。
気が付けば少女は女の子を抱きしめていた。まるで女の子が愛する我が子かのように優しく、この子へあなたを愛している人が少なくともここに一人いると伝わるよう――しっかりと。
『ごめんね、僕はお母様のために生きるって決めたから死ぬことはできない。
それでもあなたの悲しみを受け止めることくらいはできると思うんだ、こんな僕でも』
少女は泣きじゃくる女の子の頭を静かに撫でながら己の罪を償おうと密かな決意をした。
母親のために死んで逃げることはできないからせめて、目の前の女の子のような人を死ぬまで救い続けるのだと。
それがアリスと名付けられた少女が己の魂に刻んだ誓いだった。だから僕は後悔しない、絶対に。
「アリス先生、この魔法のやり方が分からないの。どうすればいい?」
「あぁ、え~と、これはね――」
あの誓《ちか》いを立てた時から大体3年の月日が経ち――まっすぐ彼らに向き合い続けた成果なのか、僕は里のみんなと少しだけ仲良くなることができたのかな? 僕にはよく分からないし、恐怖からただ走り続けてきただけだけど。
彼らの笑顔が少しずつ増えてきてくれて、僕も少しだけ嬉しかった。
侵略戦争後に生まれた忌み子に対して負の感情を持ってない子供の引率をして魔法を教える仕事中の僕は、目の前のエルフ族の子供が一生懸命精霊魔法を使おうとがんばっているのを見守りながら3年前の出来事へ思いを馳せた。
立てた誓《ちか》いを撤回するつもりは毛頭ないし、これからも――人を死ぬまで救い続けるのは――考えるまでもない当然のことだ。
だが、どうしようなく思うのだ。幸せだと。
「アリス先生、小っちゃな炎がでたの~、やったの~」
「えぇ、小さいけど――とても素敵な炎の精霊魔法ね、こうするともっと綺麗よ」
僕は目の前の子の手の平を包み込みんで、小さな炎の魔法へ少しだけ僕の魔力を送り込み――大輪の炎の薔薇を咲かせた。
そしてこの子の魔力でも維持できるようにしてから「この花をみんなに見せてあげてね、とっても素敵よ――ただこれは綺麗でも炎の塊だから触らせちゃちゃダメよ? 分かりましたか??」そう言った。
そう言うと目をキラキラと輝かせた少女はドタドタと足音を響かせながら走って行ってしまった。
「ふふふっ、後で走らないように注意しなくちゃね。可愛い子♡」
そんなことを考えながら――僕は思う。
忌み子として生まれて生きて、色々なことがあった。理不尽だと思える仕打ちを受けたこともある。そのことを恨む気持ちはない、そう己に誓える。
……ただ怖かった、僕は情けないことに死ぬのが怖くて恐くてしょうがないのだ。
こんなことで誰かを守るために闘えるのだろうかと、もう守りたい宝物が出来てしまったからこそ。そう強く思い、そんな日が来なければいいと今日も思っている。
そんな日々を過ごしながら少しだけ自分のことが好きになっていた頃、大森林の里の外れで魔法の授業をしているボク達の前に――ヤツらが現れた。
魔物。
魔法などに使用される生命エネルギーである魔力の湧き出る竜穴と呼ばれる場所が死の属性である闇属性の魔力で汚染され、周囲の動植物が変じた動く災害。
そんな存在の群れが――僕の貼っている結界に襲いかかってきた。
「グヌヌッ!!!? 負けてたまるか!!!!! ここには僕の生徒が、いや――僕の宝物がいるのだからァッ!!!!!!??」
結界にぶつかる度に自爆する魔物達の影響で軋む結界を全力で強化し、新たに創り出した無数の結界で魔物達を跳ね飛ばし、一旦結界の周囲から魔物を排除することに成功した。
「みんなは今すぐ里の方向へ向かって逃げなさい!!! 僕がここで魔物達を食い止めている間に速く!!!!」
「だ、だけど、アリス先生は? わ、私達も一緒に闘った方がいいん――」
「――非常事態故二度は言いません!!!!!! 今すぐ全員全力で走れ!!!!!!! 走れ!!!!!!! 走れェェェェェェッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
「「「「「「「――ッ!!? はい!!!! 分かりました!!!!! アリス先生!!!!!!」」」」」」
僕の言葉を聞いて一目散に里の方角へ走り出した生徒達の姿に、僕は誇らしさと少しの愛慕を覚えながら全力の魔法を行使し始めた。
そしてアリスが魔物の群れを十分に破壊する威力の魔法が準備できると、アリスは魔物の群れ目がけてそれを解き放った。
「――全力でいくよ!!! スカイジャッジメントッ!!!!
!」
その言葉に呼応するよう天空から目に見える程圧縮された巨大な空気のハンマーが落っこちてきた。
僕はスカイジャッジメントで魔物の半数を叩き潰すと、その勢いのまま更にもう一発のスカイジャッジメントを創り出し始めた。
そしてアリスが魔物の群れを十分に破壊できる威力の魔法の準備が終わると、直ぐさま放とうとしたが。
チクリとした痛みが首筋へ走り、その直後体が言うことを聞かず――地面に倒れ込んだ。
「な、なに、が、おき、て」
アリスは倒れ込んだまま周囲へ視線を巡らせると、数え切れないほどの触手が結界内を満たしており。触手の先だけを空間転移させているのだと分かった。
そしてゆっくりと倒れたアリスの元へ触手が伸びてきたことで、僕はこれから自分が味わうことになる地獄が脳裏をよぎり、アリスは――自分の首を風の刃で切り裂いた。
――例え、僕がここで死ぬことになっても、あの子達は僕が守るッ!!!!!!
これで、逃がしたあの子達へ万が一にも自分の悲鳴が届かないようにした。
もしも僕の悲鳴を聞いてしまったら優しいあの子達はきっと戻ってきてしまうと分かっていたから――それだけは絶対に阻止する。
その意思で自分の首を切り裂いたが、僕は死ぬのが怖くて、恐くて、仕方なかった。
ただ死ぬこと事態はこわくない。こわいのは死ぬことがじゃなく、もう誰も守れなくなってしまうことがこわかった。
それでもアリスは涙を流さず、ただ自身へ迫る触手をただただ受け入れた。
そしてアリスは空中へ持ち上げられ、まるでおもちゃの人形を弄るように触手が体中を這い回り――アリスは空中で大の字型にされてから手足の骨を折られた。
「ぇっ――ッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!??????????」
アリスは手足を同時に折られて声にならない悲鳴を上げたが、誰もアリスを助けに来てくれるものはいなかった。
自分で最後の命綱を切ったのだから仕方がないが、その後もアリスは触手達に弄ばれ続けた。
そして全身の骨がグチャグチャになるまで遊ばれた後、アリスの首に触手が巻き付き少しずつ力を強めていった。
アリスはやっと死ねるのだと思い、過去を回想し始めていた。
――ごめんね、お母様。もう泣かしたくなかったのに僕、もう死んじゃうや。
アリスは人のため生きた人生に悔いなどなかったが、母親は己が死んだ後大丈夫だろうかと少し不安だった。
忌み子である自分のことを愛情を持って育ててくれた程優しい母親だから、きっと僕なんかが死んでもショックを受けるのだろう。
そうならないためにもまだ生きていたかったが、もう指一本動かなかった。
――そう言えばもっと自分を大切にするよう言われたばっかりだったけ。僕は僕なりに体調管理しっかりしてるんだけどなぁ。
少し前に『睡眠は一刻で十分だしあまり食べ物を食べなくても周囲の魔力だけで一月は生きていられる!』と胸を張って言い切ったアリスに対して烈火の如く怒っていた母親の顔を思い出して幸せだったと苦笑し、それと同時に死にたくないと強く思ったが。その願いが叶わないことはアリスが誰よりもよく理解していた。
――まだ、生きていたかったなぁ
そうして人生で初めての我がままを心の中でこぼした後、アリスは目を閉じて最後の時を待つ。
しかしいつまで待っても死は訪れず、不思議に思っていると声がした。
「――もう大丈夫だ、俺が来た」
「ぇ、ぁ、ぇ、ァァ――」
もう体の感覚がほとんどないから最初は気がつかなかったが、今アリスは醜い触手ではなく、誰かの優しい両手がアリスを優しく抱えていた。
そのことに気がつくとアリスは涙がぐっとこみ上げ声を詰まらせるが、アリスはそれでも気絶する前に「ぁ、ぃ、ぁ、ぉ」と顔も知らない救出者へ告げてから完全に気を失った。
アリスを助けた男――デュラン・ライオットは目の前で気を失った少女を見つめながらベッドを創造してからそこへ寝かせ、先程斬り刻んだ魔物の群れがした残虐非道な行動に文字通り、地面が揺れ動くほどの怒髪天を衝き――それだけでアリスの貼っていた結界は吹き飛んだ。
そしてぐるりと魔物の群れへ視線を向けたデュランは風に吹かれたたんぽぽの綿毛のように姿を消し、次の瞬間には魔物達は自爆すら許されず――空間ごと体をみじん切りにされ、声一つあげられずにこの世から消えた。
「界破斬――乱舞」
その言葉と共に再びアリスの近くに現れたデュランは優しくアリスをお姫様抱っこすると、里の方角へ向けて歩き出した。
これが後に世界を救う少年と少女の始めての出会いであり、またとある妖精の受難の始まりでしたが。そんなことはまだ、誰も知る由もありませんでした。
この世界にはかつて剣神と称えられた剣士がいた。
剣士は十二の神が唯一神の座を巡り争ったことで荒廃した世界を救うため、新たに生まれ落ちた十三番目の神である起源神ワールドと同道して旅立ち。長い旅の末に起源神ワールドと共に十二の神を討ち果たして争いを終結させた。
そして争いを終結させ、神を打倒した剣士は剣を極め神の領域へと至った者――剣神と呼ばれた。
そんな偉業をなしとげた剣神はやがて姿を消し、共に世界を旅した起源神ワールドは世界を見守る存在として七体の竜王を生み出した後。荒廃した世界を支える大樹ユグドラシルに姿を変える。
世界中のありとあらゆる種族が姿を消した剣神を探したが見つかることはなく、剣神は伝説になった。
これはそれから数百年後。好きな女のために世界存亡の危機へと立ち向かった――新たな剣神の物語である。
エルフ族の族長の娘として生まれた少女の母親は、族長の娘として厳しく育てられた影響かおてんば娘で人一倍冒険心が強く。
外の世界は危ないから決して森の外へ出てはいけないという掟を破り、彼女は閉鎖的な大森林を飛び出した。
エルフ族は精霊の声を聞くための長く尖った耳を持ち、精霊の力を借りることで強力な魔法を使うことができる種族だが。まだ子供である彼女にはそこまでの力はなかった。
結果として人さらいに捕まった彼女は奴隷として人族の権力者の持ち物となり、助け出された彼女は心を壊されて人形のようになっていたが。
皮肉にも死んでいた彼女の心を生き返らせたのは身ごもっていた権力者の子への母性本能であり、母親としての愛だった。
『やぁっ! 私の赤ちゃん、とらないでっ!』
彼女は権力者への憎悪と善意から自身の子供を魔法で堕ろそうする大人達に衰弱しきった身体で抵抗し、子供を守り切った。
しかしエルフ族は人族から一方的な宣戦布告で国を滅ぼされて隠れ潜むようになった過去があり、可愛がっていた族長の娘が無理やり身ごもらされた子供。ましてや相手は憎悪の対象である人族の指導者である。
生まれた子供に悪感情が向かってしまうのも無理はなかった。
そうして複雑な心境の大人達の見守る中で短く尖った耳を持つハーフエルフの少女は生まれた。
大人達の多くは生まれた子供に罪はないと憎悪を抑え込み、まだ子供である彼女の子育てを手伝い少女の成長を見守っていたが。裏で一部の大人達が少女のことを忌み子と呼んで嫌悪していた。
そのためある意味当然ではあるが大人でも抑えきれない憎悪をエルフ族の子供達が抑えれるはずもなく、少女は他の子供から様々な暴言、暴力を受けることになったが。
自身の生まれと子供達が少女の父親の手で理不尽に家族を奪われたことを知ってしまった少女は反撃することもできず、やがて忌み子である自身は生きていてはいけないのではないかと思うほど追い込まれてしまう。
『ごめんなさい、私が森の外に出さえしなければっ。私が全部悪いのッ!
アリスに罪なんてないのよ! だって、あなたはこんなに優しいじゃない!!』
やがて母親へ『僕は死んだ方がいいのかな、お母様』と訊いてしまった少女は涙を流しながら己を抱きしめて、そう言った母親の姿を目の当たりにして強く後悔し、確かな母親からの愛情を感じた少女は生きようと自然と思った。
自分自身に価値を感じることができず、生きていていいのかまだ分からないけど。それでも母親の泣き顔は二度と見たくないと思ったのだ。
それから少女は変わった。今まで一方的に暴力を受けるだけだった状況を変えるため、子供達と向き合い殴られながらも心の傷が少しでも治ればいいと子供達の親代わりをしようとした。
そんな少女の姿は親を奪われた子供や人族との戦いで子供を亡くした親の心を曇らせていた憎しみを晴らし、自分自身の心へとしっかりと向き合わせる。
本当はみんな分かっていたのだ。こんなものは八つ当たりにすぎないと、亡くなった家族が生きていたのならばこんな幼子に何をやってるんだと怒るのだろうと。
『ごめん、なさ、いッ! 本当はわかってる、あなたに罪がないことも。こんなことをしたってしょうがないってこともッ!!
だけど許せなかった! 母様はあの人族に殺されたのに!! なんでその娘が生きてるのよッ!l 返して、私の家族を返してよっ』
少女は子供達の中で一番年上の女の子が叫んだ言葉に対して最初反応できなかった、それほどの衝撃だった。
頭では分かっているつもりだったのだ、己の存在の罪深さを。しかし現実は少女の想像を超えていた。
目の前の女の子は当たり前のように母親を持つ子供だったのだ。
その日人族が攻めてさえこなければきっと、今日も母親と共に笑っていた。こんな悲しみを背負うこともなかった。
気が付けば少女は女の子を抱きしめていた。まるで女の子が愛する我が子かのように優しく、この子へあなたを愛している人が少なくともここに一人いると伝わるよう――しっかりと。
『ごめんね、僕はお母様のために生きるって決めたから死ぬことはできない。
それでもあなたの悲しみを受け止めることくらいはできると思うんだ、こんな僕でも』
少女は泣きじゃくる女の子の頭を静かに撫でながら己の罪を償おうと密かな決意をした。
母親のために死んで逃げることはできないからせめて、目の前の女の子のような人を死ぬまで救い続けるのだと。
それがアリスと名付けられた少女が己の魂に刻んだ誓いだった。だから僕は後悔しない、絶対に。
「アリス先生、この魔法のやり方が分からないの。どうすればいい?」
「あぁ、え~と、これはね――」
あの誓《ちか》いを立てた時から大体3年の月日が経ち――まっすぐ彼らに向き合い続けた成果なのか、僕は里のみんなと少しだけ仲良くなることができたのかな? 僕にはよく分からないし、恐怖からただ走り続けてきただけだけど。
彼らの笑顔が少しずつ増えてきてくれて、僕も少しだけ嬉しかった。
侵略戦争後に生まれた忌み子に対して負の感情を持ってない子供の引率をして魔法を教える仕事中の僕は、目の前のエルフ族の子供が一生懸命精霊魔法を使おうとがんばっているのを見守りながら3年前の出来事へ思いを馳せた。
立てた誓《ちか》いを撤回するつもりは毛頭ないし、これからも――人を死ぬまで救い続けるのは――考えるまでもない当然のことだ。
だが、どうしようなく思うのだ。幸せだと。
「アリス先生、小っちゃな炎がでたの~、やったの~」
「えぇ、小さいけど――とても素敵な炎の精霊魔法ね、こうするともっと綺麗よ」
僕は目の前の子の手の平を包み込みんで、小さな炎の魔法へ少しだけ僕の魔力を送り込み――大輪の炎の薔薇を咲かせた。
そしてこの子の魔力でも維持できるようにしてから「この花をみんなに見せてあげてね、とっても素敵よ――ただこれは綺麗でも炎の塊だから触らせちゃちゃダメよ? 分かりましたか??」そう言った。
そう言うと目をキラキラと輝かせた少女はドタドタと足音を響かせながら走って行ってしまった。
「ふふふっ、後で走らないように注意しなくちゃね。可愛い子♡」
そんなことを考えながら――僕は思う。
忌み子として生まれて生きて、色々なことがあった。理不尽だと思える仕打ちを受けたこともある。そのことを恨む気持ちはない、そう己に誓える。
……ただ怖かった、僕は情けないことに死ぬのが怖くて恐くてしょうがないのだ。
こんなことで誰かを守るために闘えるのだろうかと、もう守りたい宝物が出来てしまったからこそ。そう強く思い、そんな日が来なければいいと今日も思っている。
そんな日々を過ごしながら少しだけ自分のことが好きになっていた頃、大森林の里の外れで魔法の授業をしているボク達の前に――ヤツらが現れた。
魔物。
魔法などに使用される生命エネルギーである魔力の湧き出る竜穴と呼ばれる場所が死の属性である闇属性の魔力で汚染され、周囲の動植物が変じた動く災害。
そんな存在の群れが――僕の貼っている結界に襲いかかってきた。
「グヌヌッ!!!? 負けてたまるか!!!!! ここには僕の生徒が、いや――僕の宝物がいるのだからァッ!!!!!!??」
結界にぶつかる度に自爆する魔物達の影響で軋む結界を全力で強化し、新たに創り出した無数の結界で魔物達を跳ね飛ばし、一旦結界の周囲から魔物を排除することに成功した。
「みんなは今すぐ里の方向へ向かって逃げなさい!!! 僕がここで魔物達を食い止めている間に速く!!!!」
「だ、だけど、アリス先生は? わ、私達も一緒に闘った方がいいん――」
「――非常事態故二度は言いません!!!!!! 今すぐ全員全力で走れ!!!!!!! 走れ!!!!!!! 走れェェェェェェッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
「「「「「「「――ッ!!? はい!!!! 分かりました!!!!! アリス先生!!!!!!」」」」」」
僕の言葉を聞いて一目散に里の方角へ走り出した生徒達の姿に、僕は誇らしさと少しの愛慕を覚えながら全力の魔法を行使し始めた。
そしてアリスが魔物の群れを十分に破壊する威力の魔法が準備できると、アリスは魔物の群れ目がけてそれを解き放った。
「――全力でいくよ!!! スカイジャッジメントッ!!!!
!」
その言葉に呼応するよう天空から目に見える程圧縮された巨大な空気のハンマーが落っこちてきた。
僕はスカイジャッジメントで魔物の半数を叩き潰すと、その勢いのまま更にもう一発のスカイジャッジメントを創り出し始めた。
そしてアリスが魔物の群れを十分に破壊できる威力の魔法の準備が終わると、直ぐさま放とうとしたが。
チクリとした痛みが首筋へ走り、その直後体が言うことを聞かず――地面に倒れ込んだ。
「な、なに、が、おき、て」
アリスは倒れ込んだまま周囲へ視線を巡らせると、数え切れないほどの触手が結界内を満たしており。触手の先だけを空間転移させているのだと分かった。
そしてゆっくりと倒れたアリスの元へ触手が伸びてきたことで、僕はこれから自分が味わうことになる地獄が脳裏をよぎり、アリスは――自分の首を風の刃で切り裂いた。
――例え、僕がここで死ぬことになっても、あの子達は僕が守るッ!!!!!!
これで、逃がしたあの子達へ万が一にも自分の悲鳴が届かないようにした。
もしも僕の悲鳴を聞いてしまったら優しいあの子達はきっと戻ってきてしまうと分かっていたから――それだけは絶対に阻止する。
その意思で自分の首を切り裂いたが、僕は死ぬのが怖くて、恐くて、仕方なかった。
ただ死ぬこと事態はこわくない。こわいのは死ぬことがじゃなく、もう誰も守れなくなってしまうことがこわかった。
それでもアリスは涙を流さず、ただ自身へ迫る触手をただただ受け入れた。
そしてアリスは空中へ持ち上げられ、まるでおもちゃの人形を弄るように触手が体中を這い回り――アリスは空中で大の字型にされてから手足の骨を折られた。
「ぇっ――ッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!??????????」
アリスは手足を同時に折られて声にならない悲鳴を上げたが、誰もアリスを助けに来てくれるものはいなかった。
自分で最後の命綱を切ったのだから仕方がないが、その後もアリスは触手達に弄ばれ続けた。
そして全身の骨がグチャグチャになるまで遊ばれた後、アリスの首に触手が巻き付き少しずつ力を強めていった。
アリスはやっと死ねるのだと思い、過去を回想し始めていた。
――ごめんね、お母様。もう泣かしたくなかったのに僕、もう死んじゃうや。
アリスは人のため生きた人生に悔いなどなかったが、母親は己が死んだ後大丈夫だろうかと少し不安だった。
忌み子である自分のことを愛情を持って育ててくれた程優しい母親だから、きっと僕なんかが死んでもショックを受けるのだろう。
そうならないためにもまだ生きていたかったが、もう指一本動かなかった。
――そう言えばもっと自分を大切にするよう言われたばっかりだったけ。僕は僕なりに体調管理しっかりしてるんだけどなぁ。
少し前に『睡眠は一刻で十分だしあまり食べ物を食べなくても周囲の魔力だけで一月は生きていられる!』と胸を張って言い切ったアリスに対して烈火の如く怒っていた母親の顔を思い出して幸せだったと苦笑し、それと同時に死にたくないと強く思ったが。その願いが叶わないことはアリスが誰よりもよく理解していた。
――まだ、生きていたかったなぁ
そうして人生で初めての我がままを心の中でこぼした後、アリスは目を閉じて最後の時を待つ。
しかしいつまで待っても死は訪れず、不思議に思っていると声がした。
「――もう大丈夫だ、俺が来た」
「ぇ、ぁ、ぇ、ァァ――」
もう体の感覚がほとんどないから最初は気がつかなかったが、今アリスは醜い触手ではなく、誰かの優しい両手がアリスを優しく抱えていた。
そのことに気がつくとアリスは涙がぐっとこみ上げ声を詰まらせるが、アリスはそれでも気絶する前に「ぁ、ぃ、ぁ、ぉ」と顔も知らない救出者へ告げてから完全に気を失った。
アリスを助けた男――デュラン・ライオットは目の前で気を失った少女を見つめながらベッドを創造してからそこへ寝かせ、先程斬り刻んだ魔物の群れがした残虐非道な行動に文字通り、地面が揺れ動くほどの怒髪天を衝き――それだけでアリスの貼っていた結界は吹き飛んだ。
そしてぐるりと魔物の群れへ視線を向けたデュランは風に吹かれたたんぽぽの綿毛のように姿を消し、次の瞬間には魔物達は自爆すら許されず――空間ごと体をみじん切りにされ、声一つあげられずにこの世から消えた。
「界破斬――乱舞」
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世界中のありとあらゆる種族が姿を消した剣神を探したが見つかることはなく、剣神は伝説になった。
これはそれから数百年後。好きな女のために世界存亡の危機へと立ち向かった――新たな剣神の物語である。
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