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煌びやかなシャンデリアが、王宮の大夜会を昼間のような明るさで照らし出していた。
周囲には着飾った貴族たちが集まり、高級なワインの香りと、どこか浮足立った空気が漂っている。
そんな華やかな場の中央で、私の婚約者であるエリオット第一王子は、これ以上ないほどドラマチックなポーズで私を指さした。
「リーナ・ド・メルヴェイユ公爵令嬢! 貴様との婚約を、今この瞬間をもって破棄することを宣言する!」
王子の声は、音楽をかき消すほど大きくホールに響き渡った。
騒がしかった会場が一瞬で静まり返り、何百という視線が私に突き刺さる。
普通なら、ここで泣き崩れるか、あるいは身に覚えのない罪を否定して取り乱す場面なのだろう。
けれど、私の視線は王子の怒りに満ちた顔でも、その隣で可憐に震えている男爵令嬢セシルの顔でもなく、彼女の首元に釘付けになっていた。
(……あら? あの輝き、どこかで見覚えがありますわね)
エリオット殿下は、私が何も言い返さないのを「ショックで声も出ないのだ」と勘違いしたらしい。
彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、さらに追い打ちをかけるように言葉を続けた。
「貴様の強欲さには、ほとほと愛想が尽きたのだ! ことあるごとに私に高価な贈り物を要求し、国庫を私物化するかのような振る舞い……。愛とは形ではなく心にあるものだということが、なぜ分からない!」
王子の言葉を聞きながら、私は必死に計算していた。
(エメラルド……にしては、屈折率が甘いですわね。カットは丁寧ですけれど、あの深みのない緑色は、おそらく……)
「聞いているのか、リーナ! 私は今、愛するセシルと共に歩むことを決めたのだ! 彼女は貴様と違い、道端に咲く一輪の花でさえ涙を流して喜んでくれる、清らかな心の持ち主だ!」
ようやく、私は王子の顔をまともに見た。
「殿下、一つだけお伺いしてもよろしいかしら?」
「ふん、命乞いか? あるいは往見苦しい言い訳か?」
私は扇をゆっくりと閉じ、セシル様の方へ一歩踏み出した。
「セシル様、その素敵な首飾り……。先月の私の誕生日に、殿下が『予算が足りなくて用意できなかった』とおっしゃっていた、あの特注のベリル・コランダムではございませんの?」
セシル様はビクッとして、細い手で首元を隠した。
「え、ええ……。エリオット様が、私のような者にふさわしいと贈ってくださったのです。リーナ様、どうかお怒りにならないでください……。私はただ、彼のお気持ちが嬉しくて……」
「あら、怒るなんてとんでもないですわ」
私はにっこりと、公爵令嬢としての完璧な微笑みを浮かべた。
「ただ、それ……ガラスですわよね?」
会場に、妙な沈黙が流れた。
「なっ……! リーナ、貴様、何をデタラメを! それは私がセシルのために、一流の職人に作らせた業物だぞ!」
エリオット殿下が顔を真っ赤にして怒鳴る。
「いいえ、殿下。私、プレゼントされる物が大好きすぎて、鑑定士の資格を取ってしまいましたの。その石、表面に僅かな気泡が見えますわ。それに、光の分散の仕方が安価な鉛ガラスそのものです。……まあ、デザインだけは一流の職人の模倣でしょうけれど」
私は確信を持って告げた。
そもそも、本物の宝石であれば、あの距離でも私の「プレゼント・センサー」がもっと激しく反応しているはずなのだ。
「セシル様、そんな偽物を贈られて『愛されている』だなんて、殿下の愛もずいぶんと……お安いものですわね」
「そ、そんな……。ガラスだなんて、嘘よ……!」
セシル様の顔から血の気が引いていく。
「貴様……! 婚約破棄を突きつけられて、まだそんな不敬な口を叩くのか! セシルが傷ついたではないか!」
「傷ついたのは私の方ですわ、殿下。私の誕生日に『心が大事だ』と説教して、結局、浮気相手には偽物を贈っていたなんて。私へのプレゼントをケチってまで用意したのが、たかがガラス玉だなんて……。公爵家に対する侮辱以外の何物でもありませんわ」
私は深々とため息をついた。
婚約破棄をされた悲しみなど、微塵も感じない。
ただ、私がエリオット殿下に「おねだり」し続けていた数々の至宝が、実は彼の財布事情を圧迫していたのではなく、単にセンスと財力がないだけだったという事実に、底知れぬ失望を覚えただけだ。
「分かりましたわ、エリオット殿下。婚約破棄、喜んでお受けいたします」
「……は?」
拍子抜けしたような王子の声を無視して、私は周囲をぐるりと見渡した。
「皆様、お聞きになりましたわね? 私はたった今、自由の身となりました。……ところで殿下、婚約破棄となれば当然、慰謝料のお話になりますわよね?」
「慰謝料だと!? 悪逆非道な振る舞いをしてきた貴様が、どの面下げてそれを言うか!」
「あら、悪逆非道? 私が殿下に『贈らせてあげた』のは、全て将来の王妃としての品格を保つための投資ですわ。それを一方的に反故にするのですから、当然、対価は支払っていただきます」
私はドレスの隠しポケットから、あらかじめ用意しておいた「ある物」を取り出した。
それは、この日のために(というか、いつか殿下が愛想を尽かす日のために)夜な夜な書き溜めていたリストである。
「現金でも構いませんけれど、できれば『現物』でお願いしたいのです。……そうですね、王家に伝わる『暁の涙』と呼ばれる真珠のセット。それから、北方の鉱山で採れる最高品質のアレキサンドライト……」
「待て! 何を読み上げている!」
「慰謝料のカタログですわ」
私は平然と言い放った。
「殿下は『愛は心』とおっしゃいましたわね? でしたら、その清らかな心で、このリストにある品々を全て揃えてくださいませ。愛があるなら、たかだかこれくらいの物、惜しくはないはずですわ」
エリオット殿下は絶句し、セシル様は偽物の首飾りを握りしめて震えている。
私の「プレゼント大好き」な人生は、ここからが本番なのだ。
婚約破棄? 大歓迎ですわ。
だって、自由になった私の前には、世界中の「素敵な贈り物」が待っているのですもの。
私は優雅にカーテシーを披露すると、唖然とする群衆の間を、高価なヒールの音を響かせて堂々と歩き出した。
周囲には着飾った貴族たちが集まり、高級なワインの香りと、どこか浮足立った空気が漂っている。
そんな華やかな場の中央で、私の婚約者であるエリオット第一王子は、これ以上ないほどドラマチックなポーズで私を指さした。
「リーナ・ド・メルヴェイユ公爵令嬢! 貴様との婚約を、今この瞬間をもって破棄することを宣言する!」
王子の声は、音楽をかき消すほど大きくホールに響き渡った。
騒がしかった会場が一瞬で静まり返り、何百という視線が私に突き刺さる。
普通なら、ここで泣き崩れるか、あるいは身に覚えのない罪を否定して取り乱す場面なのだろう。
けれど、私の視線は王子の怒りに満ちた顔でも、その隣で可憐に震えている男爵令嬢セシルの顔でもなく、彼女の首元に釘付けになっていた。
(……あら? あの輝き、どこかで見覚えがありますわね)
エリオット殿下は、私が何も言い返さないのを「ショックで声も出ないのだ」と勘違いしたらしい。
彼は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、さらに追い打ちをかけるように言葉を続けた。
「貴様の強欲さには、ほとほと愛想が尽きたのだ! ことあるごとに私に高価な贈り物を要求し、国庫を私物化するかのような振る舞い……。愛とは形ではなく心にあるものだということが、なぜ分からない!」
王子の言葉を聞きながら、私は必死に計算していた。
(エメラルド……にしては、屈折率が甘いですわね。カットは丁寧ですけれど、あの深みのない緑色は、おそらく……)
「聞いているのか、リーナ! 私は今、愛するセシルと共に歩むことを決めたのだ! 彼女は貴様と違い、道端に咲く一輪の花でさえ涙を流して喜んでくれる、清らかな心の持ち主だ!」
ようやく、私は王子の顔をまともに見た。
「殿下、一つだけお伺いしてもよろしいかしら?」
「ふん、命乞いか? あるいは往見苦しい言い訳か?」
私は扇をゆっくりと閉じ、セシル様の方へ一歩踏み出した。
「セシル様、その素敵な首飾り……。先月の私の誕生日に、殿下が『予算が足りなくて用意できなかった』とおっしゃっていた、あの特注のベリル・コランダムではございませんの?」
セシル様はビクッとして、細い手で首元を隠した。
「え、ええ……。エリオット様が、私のような者にふさわしいと贈ってくださったのです。リーナ様、どうかお怒りにならないでください……。私はただ、彼のお気持ちが嬉しくて……」
「あら、怒るなんてとんでもないですわ」
私はにっこりと、公爵令嬢としての完璧な微笑みを浮かべた。
「ただ、それ……ガラスですわよね?」
会場に、妙な沈黙が流れた。
「なっ……! リーナ、貴様、何をデタラメを! それは私がセシルのために、一流の職人に作らせた業物だぞ!」
エリオット殿下が顔を真っ赤にして怒鳴る。
「いいえ、殿下。私、プレゼントされる物が大好きすぎて、鑑定士の資格を取ってしまいましたの。その石、表面に僅かな気泡が見えますわ。それに、光の分散の仕方が安価な鉛ガラスそのものです。……まあ、デザインだけは一流の職人の模倣でしょうけれど」
私は確信を持って告げた。
そもそも、本物の宝石であれば、あの距離でも私の「プレゼント・センサー」がもっと激しく反応しているはずなのだ。
「セシル様、そんな偽物を贈られて『愛されている』だなんて、殿下の愛もずいぶんと……お安いものですわね」
「そ、そんな……。ガラスだなんて、嘘よ……!」
セシル様の顔から血の気が引いていく。
「貴様……! 婚約破棄を突きつけられて、まだそんな不敬な口を叩くのか! セシルが傷ついたではないか!」
「傷ついたのは私の方ですわ、殿下。私の誕生日に『心が大事だ』と説教して、結局、浮気相手には偽物を贈っていたなんて。私へのプレゼントをケチってまで用意したのが、たかがガラス玉だなんて……。公爵家に対する侮辱以外の何物でもありませんわ」
私は深々とため息をついた。
婚約破棄をされた悲しみなど、微塵も感じない。
ただ、私がエリオット殿下に「おねだり」し続けていた数々の至宝が、実は彼の財布事情を圧迫していたのではなく、単にセンスと財力がないだけだったという事実に、底知れぬ失望を覚えただけだ。
「分かりましたわ、エリオット殿下。婚約破棄、喜んでお受けいたします」
「……は?」
拍子抜けしたような王子の声を無視して、私は周囲をぐるりと見渡した。
「皆様、お聞きになりましたわね? 私はたった今、自由の身となりました。……ところで殿下、婚約破棄となれば当然、慰謝料のお話になりますわよね?」
「慰謝料だと!? 悪逆非道な振る舞いをしてきた貴様が、どの面下げてそれを言うか!」
「あら、悪逆非道? 私が殿下に『贈らせてあげた』のは、全て将来の王妃としての品格を保つための投資ですわ。それを一方的に反故にするのですから、当然、対価は支払っていただきます」
私はドレスの隠しポケットから、あらかじめ用意しておいた「ある物」を取り出した。
それは、この日のために(というか、いつか殿下が愛想を尽かす日のために)夜な夜な書き溜めていたリストである。
「現金でも構いませんけれど、できれば『現物』でお願いしたいのです。……そうですね、王家に伝わる『暁の涙』と呼ばれる真珠のセット。それから、北方の鉱山で採れる最高品質のアレキサンドライト……」
「待て! 何を読み上げている!」
「慰謝料のカタログですわ」
私は平然と言い放った。
「殿下は『愛は心』とおっしゃいましたわね? でしたら、その清らかな心で、このリストにある品々を全て揃えてくださいませ。愛があるなら、たかだかこれくらいの物、惜しくはないはずですわ」
エリオット殿下は絶句し、セシル様は偽物の首飾りを握りしめて震えている。
私の「プレゼント大好き」な人生は、ここからが本番なのだ。
婚約破棄? 大歓迎ですわ。
だって、自由になった私の前には、世界中の「素敵な贈り物」が待っているのですもの。
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