婚約破棄?悪役令嬢は、貢がれすぎて幸せを掴む

黒猫かの

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ノイシュタット王国の美しいバラ庭園。


私はヴィクトール様と、新しく仕入れたという「宝石箱のようなマカロン」を楽しんでいました。


そこに、またしてもあの「しつこい御方」が姿を現したのです。


「リーナ! 頼む、私の話を聞いてくれ!」


ボロボロの服を隠すようにマントを羽織ったエリオット殿下が、庭の茂みから飛び出してきました。


もはや王子としての品格はどこへやら、隠密行動のプロのような執念を感じますわ。


「あら、殿下。また不法侵入かしら? ノイシュタットの衛兵は優秀ですから、次こそ地下牢行きかもしれませんわよ」


私はマカロンを一口かじり、優雅に警告しました。


「そんなことはどうでもいい! リーナ、私は君に伝えたいことがあるんだ!」


殿下は膝を突き、懐から一本の花を取り出しました。


それは、どこにでも咲いているような、少ししおれかけた野ばらでした。


「見てくれ、この花を。……私は今、ようやく気づいた。君に必要なのは、金銭で買える冷たい宝石ではない。この花のように、一途で、温かな『真実の愛』なのだと!」


殿下は瞳を潤ませ、ドラマチックな声で続けます。


「セシルが言っていた通りだ。物はいつか壊れるし、価値は移ろう。だが、この私が心を込めて摘んできた花に宿る真心は、永遠に君の心を癒やすだろう。さあ、リーナ。この愛を受け取ってくれ!」


……。


会場に、マカロンを咀嚼する音だけが虚しく響きました。


私は無言で立ち上がると、殿下の差し出した野ばらをじっと見つめました。


「……リーナ? やはり、君も感動して……」


「殿下。一つ、よろしいかしら?」


私は冷徹な鑑定士の目で、その花を分析し始めました。


「この花、学名『ロサ・ムルティフローラ』。いわゆるノイバラの変種ですわね。ノイシュタットの街道沿いにいくらでも自生している、極めて繁殖力の強い雑草に近い品種ですわ」


「な……っ、雑草とは何だ! これは私が君を想って、棘で指を刺しながら……」


「さらに。花弁の端が茶色く変色していますわ。摘んでから三時間は経過していますわね。水の吸わせ方も下手くそで、あと一時間もすれば完全に萎れますわ」


私は扇で鼻を覆いました。


「そんな、市場価値ゼロ、どころか処分費用がかかるだけのゴミを私に渡して、何を『お返し』に期待していらっしゃるのかしら? まさか、私のこれまでの全財産と、ヴィクトール様という最強の資産を捨てて、その萎れた雑草と交換しろと?」


「ひ、酷い……! 愛だ! これは愛なのだぞ!」


「愛があるなら、なぜ私に『ダイヤの鉱山』を贈ろうと思わなかったのかしら?」


私が首を傾げると、殿下は口をパクパクさせて固まりました。


「……鉱山?」


「ええ。ちょうど、あちらのヴィクトール様が……。ヴィクトール様、先ほどのあれ、見せて差し上げて?」


ヴィクトール様が、待ってましたと言わんばかりに一枚の「地図」をテーブルに広げました。


「ああ、リーナ。君が『最近、原石が足りないわ』と言っていたからね。南方の未開拓地にある、世界最大規模の『ブルーダイヤモンド鉱山』を丸ごと買い取っておいたよ。……これ、今日の君へのティータイムのプレゼントだ」


地図には、ヴィクトール様の私印と共に、私の名前が「所有者」として刻まれていました。


「な……っ、鉱山を、お茶菓子のように……!?」


エリオット殿下の顔が、絶望で真っ青になります。


「殿下、これが『本物の愛』というものですわ。私が輝き続けるために、採掘権から流通経路まで全て整えてくださる。……それに比べて、あなたの一輪の花。摘む時に棘で刺したというその指の傷も、私からすれば『無能の証明』でしかありませんわ」


私は一歩前に出ると、わざとらしく足元の野ばらを見ました。


「あら、失礼。……あまりに存在感が薄くて、踏んでしまいそうになりましたわ」


私は野ばらのすぐ横を、高級な革靴で悠然と通り過ぎました。


「リーナ! 待ってくれ! 愛とは、そういうことじゃないはずだ!」


「いいえ、殿下。愛とは、相手が望むものを、望む以上の形にして与えること。……私が望むのは、永遠に目減りしない資産と、それを共に楽しめる知性ですの。……どうぞ、その花はセシル様にでも差し上げてくださいませ。彼女なら、その萎れたゴミを見て、また『清らかな心』とやらで涙を流してくださるでしょうから」


「ぐ、うう……っ!」


エリオット殿下は、地面に落ちた野ばらを見つめたまま、がっくりと項垂れました。


「さて、ヴィクトール様。鉱山の視察はいつにいたしましょう? 新しい採掘機、最新型の金メッキを施したものを取り寄せなくては!」


「いいね。君が望むなら、採掘員たちの制服も全てシルクで作らせよう」


私たちは、エリオット殿下のすすり泣く声をBGMに、優雅に庭園を後にしました。


一輪の花の真心より、一座の鉱山の輝き。


私の「プレゼント・マニア」としての格言に、また新たな一ページが刻まれたのでした。
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