婚約破棄?悪役令嬢は、貢がれすぎて幸せを掴む

黒猫かの

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その頃、リーナが「略奪」……もとい、正当な回収を行って廃墟と化した王宮の離宮では、ある「悲鳴」が響き渡っていました。


「……冷たい! このスープ、どうしてこんなに冷たいのよ! それにこのパン、石鹸でも噛んでいるみたいに硬いじゃない!」


叫んだのは、かつて「一輪の花があれば幸せ」と微笑んでいたはずの男爵令嬢、セシル様でした。


彼女の前にあるのは、銀食器ではなく、安物の木皿に盛られた質素な食事。


「も、申し訳ございません、セシル様。調理場の魔導コンロの魔石が、リーナ様に『私費で買ったものだから』と没収されてしまいまして……現在は薪で火を熾しているのですが、予算不足で乾燥した薪が買えず……」


侍女が震えながら答えます。


「魔石一つ買えないの!? ここは王宮でしょう!? エリオット様は何をしているのよ!」


「殿下は……リーナ様に贈ったプレゼントの分割払いの督促状を処理するのに追われておりまして……」


セシル様は、怒りでその整った顔を般若のように歪ませました。


そこに、これまた憔悴しきったエリオット殿下がフラフラと現れました。


「……セシル、あまり侍女を責めないであげてくれ。今は皆、苦しいんだ。……だが、愛があれば、この冷たいスープも温かく感じられるはず……」


「愛、愛、愛! もう聞き飽きたわよ、その無能な呪文は!」


セシル様が立ち上がり、木皿を床に叩きつけました。


「ちょっとエリオット! 話が違うじゃない! リーナを追い出せば、あの公爵家の莫大な資産が私のものになるんじゃなかったの!? どうして私は、板張りの隙間風が吹く部屋で、ジャガイモの皮みたいな食事をさせられているわけ!?」


「セ、セシル……? 君、言葉遣いが……」


エリオット殿下が目を見開いて後ずさりします。


「言葉遣いなんてどうでもいいわよ! 金よ! 宝石よ! あのアバズレ令嬢がつけていた、あの百カラットのダイヤはどこへ行ったのよ!」


「あ、アバズレ……。リーナのことか? だが君は『豪華な装飾品は、心を曇らせるだけだ』と言って……」


「あんなの、あんたを釣るための餌に決まってるでしょうが! このおめでたいカボチャ頭!」


セシル様は自分の首に手をかけ、例の「ガラス玉の首飾り」を引きちぎってエリオット殿下に投げつけました。


「見てよこれ! リーナに言われるまでもなく、ただのガラスじゃない! これを質屋に持っていったら、『処分費用に銅貨三枚いただく』って言われたのよ! 恥をかかせないでよ!」


「……質屋へ行ったのか? 私の贈り物を……?」


「当たり前でしょ! 実家の借金を返すために、あんたの財産をあてにしてたんだから! なのに蓋を開けてみれば、王宮は借金まみれ、部屋は空っぽ、あるのはあんたの暑苦しい愛の言葉だけ! そんなのでお腹が膨れるわけないじゃない!」


セシル様の豹変ぶりに、エリオット殿下は膝から崩れ落ちました。


「……信じられない。君は、清らかな、天使のような……」


「天使も霞を食っては生きていけないのよ! ああ、もういいわ! こうなったら、リーナがまだ持ち出していない『王家の秘宝』を売るしかないわね!」


セシル様は目を血走らせ、王宮の奥にあるはずの宝物庫の鍵を探して、部屋中の壁を叩き始めました。


「やめろセシル! あそこにあるのは国宝だぞ!」


「国宝だろうがなんだろうが、金に換われば一緒よ! ……あ、あったわ! この隠し扉の奥ね!」


セシル様が無理やり扉をこじ開けると……そこには、一枚の紙切れが落ちているだけでした。


『エリオット殿下へ。宝物庫の管理用魔導具一式、私のメンテナンス費用で相殺させていただきましたわ。中身は……殿下が「心」を大切になさるよう、空っぽにしておきました。 リーナより』


「……ぎゃあああああああ! あの強欲女ァ!!」


セシル様の絶叫が王宮に響き渡りました。


もはやそこには、可憐な男爵令嬢の姿はありません。


髪を振り乱し、床を叩いて悔しがる、欲望に狂った一人の女の姿があるだけでした。


一方、その様子をノイシュタットの豪華な魔法鏡(ヴィクトール様が「面白い映像が撮れた」と見せてくれたもの)で鑑賞していた私は、優雅にシャンパンを啜っていました。


「……まあ。セシル様、意外と肺活量がおありですのね。あんなに叫んだら、お腹が空いてますます冷たいスープが不味くなりますわよ?」


「ハハッ、リーナ。君は本当に性格が悪いね。……だが、その徹底した仕事ぶり、嫌いじゃないよ」


ヴィクトール様が私の腰に手を回し、楽しそうに微笑みました。


「あら、性格が悪いなんて心外ですわ。私はただ、彼女に『本物の欲望』を教えて差し上げただけですもの。……偽物の宝石で満足していた彼女が、ようやく本物の金に執着し始めた。これこそ、真の教育というものではありませんこと?」


私は鏡の中の「地獄絵図」を指さして、おーほっほっと高笑いしました。


愛だの心だのという言葉で自分を欺いていた彼女が、ようやく自分の「空腹」に気づいたのです。


それは、宝石の輝きを知ることよりも、ある意味で残酷な目覚め。


「さて、ヴィクトール様。次はあの方が、私の元へ『命乞い』にくるか、あるいは『強盗』にくるか……賭けをしませんこと?」


「いいね。私は、彼女がエリオット王子を質に入れる方に全財産を賭けるよ」


私たちは、崩壊していく王宮の喜劇を眺めながら、新しい宝石の輝きを求めて、夜の帳の中へと消えていくのでした。
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