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「……ふう。これでようやく、お門違いな訴状も片付いたね」
ヴィクトール様が、机の上に山積みにされていた書類を最後の一枚まで片付け、優雅にペンを置きました。
「まあ、ヴィクトール様。エリオット殿下が送りつけてきた『公爵令嬢による公物略奪に関する抗議文』、あれを全て無効にしてくださったのですか?」
私はソファーで新作のダイヤモンド・チョコレートを頬張りながら、感心したように声をあげました。
「ああ。彼らの言い分は法的に穴だらけだったからね。それどころか、逆にこちらから『リーナ嬢の精神的苦痛に対する賠償』として、彼らが密かに所有していた南方の未開発路の利権を差し押さえておいたよ」
「……あら。あそこ、将来的に金鉱が見つかる可能性があると噂の場所ではありませんこと?」
「よく知っているね。その通りだ。これで君の資産がまた一つ増えたことになる」
私はチョコレートを飲み込み、そっと胸に手を当てました。
「素晴らしいわ……! ヴィクトール様、あなたという方は、本当に実務能力の塊ですのね。エリオット殿下なら、書類の表紙に自分の顔を刺繍させるだけで三日は費やしていたはずですわ」
「ハハッ、それはまた随分と効率の悪い王子だ。……さて、リーナ。これで君の悩みは一つ解決したわけだが……」
ヴィクトール様が椅子から立ち上がり、私にゆっくりと歩み寄ってきました。
「私も商人だ。ただで動くほど、お人好しではない。……何か、『お礼』をいただいてもいいかな?」
彼の整った顔が、至近距離まで近づきます。
普通の令嬢なら、ここで頬を赤らめて「私にできることなら何でも……」と囁く場面なのでしょう。
ですが、私はリーナ・ド・メルヴェイユです。
「……お礼、ですわね? 分かっておりますわ。私、借りを作るのは趣味ではありませんの」
私は真っ直ぐに彼の瞳を見つめ返し、扇でトントンと自分の顎を叩きました。
「ならば、私からヴィクトール様へ、『最高のお礼を受け取る権利』をプレゼントいたしますわ!」
「……お礼を『する』のではなく、お礼を『受け取る権利』を贈るのかい?」
ヴィクトール様が、呆れたように、けれどどこか嬉しそうに眉を上げました。
「ええ。私が納得するお礼をあなたが用意することで、私の機嫌が良くなる。それは、あなたの隣に立つアドバイザーの品質が向上するということですわ。……これ以上の贈り物がありますこと?」
「ククク……。相変わらず、とんでもない理屈だ。……いいだろう、受けて立とう。君が望む『お礼』とは何かな?」
私は待ってましたとばかりに、用意していたメモを差し出しました。
「……ヴィクトール様。あなたの『肖像画』をくださいませ」
「私の肖像画? ……意外だね。君はもっと、物理的な宝石や金を欲しがると思っていたが」
「ただの肖像画ではありませんわ。……背景は全て純金の金箔張り。額縁は、あなたの瞳の色に合わせた最高級のエメラルドを隙間なく埋め込んでくださいませ。そして、描かれるあなた自身の服には、本物の真珠の粉を練り込んだ絵具を使っていただきたいのです」
私は熱を込めて語りました。
「要するに、それ自体が『換金可能な美術品』としての価値を持つ、ヴィクトール様! あなたの美貌を資産価値に変換した至高の一品が欲しいのです!」
ヴィクトール様は一瞬絶句し、やがてお腹を抱えて笑い始めました。
「……ハハハ! 自分の肖像画を『換金可能な資産』として要求されるとは! 君は本当に、私の顔まで金貨の束に見えているんだね」
「失礼な。金貨よりもずっと美しいですわよ? ……ただ、美しいだけでは食べていけませんもの。美しさに『重さ(金)』が加わってこそ、真の芸術ですわ!」
「いいだろう。世界最高の画家を呼び寄せ、君が言った通りの『動く資産』としての私を描かせよう。……だがリーナ、その肖像画、どこに飾るつもりだい?」
ヴィクトール様がいたずらっぽく微笑みます。
「寝室の正面ですわ。朝起きてすぐに、あなたの美貌と、そこに注ぎ込まれた製作費の総額を思い出して、一日のモチベーションにするのです」
「それは光栄だね。……私も負けていられないな。その肖像画に、君が満足するまで宝石を付け足させよう」
「まあ! 話が分かる方は大好きですわ!」
私はヴィクトール様の腕に抱きつき、幸せな気分に浸りました。
愛を言葉で囁くよりも、こうして「物」を通じて互いの価値を認め合う方が、ずっと私たちらしい。
(ふふふ、金箔張りのヴィクトール様……。どれだけの輝きを放つのかしら。今から楽しみで夜も眠れませんわ!)
私のコレクションに、また一つ、規格外の「お宝」が加わろうとしていたのでした。
ヴィクトール様が、机の上に山積みにされていた書類を最後の一枚まで片付け、優雅にペンを置きました。
「まあ、ヴィクトール様。エリオット殿下が送りつけてきた『公爵令嬢による公物略奪に関する抗議文』、あれを全て無効にしてくださったのですか?」
私はソファーで新作のダイヤモンド・チョコレートを頬張りながら、感心したように声をあげました。
「ああ。彼らの言い分は法的に穴だらけだったからね。それどころか、逆にこちらから『リーナ嬢の精神的苦痛に対する賠償』として、彼らが密かに所有していた南方の未開発路の利権を差し押さえておいたよ」
「……あら。あそこ、将来的に金鉱が見つかる可能性があると噂の場所ではありませんこと?」
「よく知っているね。その通りだ。これで君の資産がまた一つ増えたことになる」
私はチョコレートを飲み込み、そっと胸に手を当てました。
「素晴らしいわ……! ヴィクトール様、あなたという方は、本当に実務能力の塊ですのね。エリオット殿下なら、書類の表紙に自分の顔を刺繍させるだけで三日は費やしていたはずですわ」
「ハハッ、それはまた随分と効率の悪い王子だ。……さて、リーナ。これで君の悩みは一つ解決したわけだが……」
ヴィクトール様が椅子から立ち上がり、私にゆっくりと歩み寄ってきました。
「私も商人だ。ただで動くほど、お人好しではない。……何か、『お礼』をいただいてもいいかな?」
彼の整った顔が、至近距離まで近づきます。
普通の令嬢なら、ここで頬を赤らめて「私にできることなら何でも……」と囁く場面なのでしょう。
ですが、私はリーナ・ド・メルヴェイユです。
「……お礼、ですわね? 分かっておりますわ。私、借りを作るのは趣味ではありませんの」
私は真っ直ぐに彼の瞳を見つめ返し、扇でトントンと自分の顎を叩きました。
「ならば、私からヴィクトール様へ、『最高のお礼を受け取る権利』をプレゼントいたしますわ!」
「……お礼を『する』のではなく、お礼を『受け取る権利』を贈るのかい?」
ヴィクトール様が、呆れたように、けれどどこか嬉しそうに眉を上げました。
「ええ。私が納得するお礼をあなたが用意することで、私の機嫌が良くなる。それは、あなたの隣に立つアドバイザーの品質が向上するということですわ。……これ以上の贈り物がありますこと?」
「ククク……。相変わらず、とんでもない理屈だ。……いいだろう、受けて立とう。君が望む『お礼』とは何かな?」
私は待ってましたとばかりに、用意していたメモを差し出しました。
「……ヴィクトール様。あなたの『肖像画』をくださいませ」
「私の肖像画? ……意外だね。君はもっと、物理的な宝石や金を欲しがると思っていたが」
「ただの肖像画ではありませんわ。……背景は全て純金の金箔張り。額縁は、あなたの瞳の色に合わせた最高級のエメラルドを隙間なく埋め込んでくださいませ。そして、描かれるあなた自身の服には、本物の真珠の粉を練り込んだ絵具を使っていただきたいのです」
私は熱を込めて語りました。
「要するに、それ自体が『換金可能な美術品』としての価値を持つ、ヴィクトール様! あなたの美貌を資産価値に変換した至高の一品が欲しいのです!」
ヴィクトール様は一瞬絶句し、やがてお腹を抱えて笑い始めました。
「……ハハハ! 自分の肖像画を『換金可能な資産』として要求されるとは! 君は本当に、私の顔まで金貨の束に見えているんだね」
「失礼な。金貨よりもずっと美しいですわよ? ……ただ、美しいだけでは食べていけませんもの。美しさに『重さ(金)』が加わってこそ、真の芸術ですわ!」
「いいだろう。世界最高の画家を呼び寄せ、君が言った通りの『動く資産』としての私を描かせよう。……だがリーナ、その肖像画、どこに飾るつもりだい?」
ヴィクトール様がいたずらっぽく微笑みます。
「寝室の正面ですわ。朝起きてすぐに、あなたの美貌と、そこに注ぎ込まれた製作費の総額を思い出して、一日のモチベーションにするのです」
「それは光栄だね。……私も負けていられないな。その肖像画に、君が満足するまで宝石を付け足させよう」
「まあ! 話が分かる方は大好きですわ!」
私はヴィクトール様の腕に抱きつき、幸せな気分に浸りました。
愛を言葉で囁くよりも、こうして「物」を通じて互いの価値を認め合う方が、ずっと私たちらしい。
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