婚約破棄?悪役令嬢は、貢がれすぎて幸せを掴む

黒猫かの

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ノイシュタット王国への本格的な帰還のため、私たちは港町へとやってきました。


「……ヴィクトール様。あそこに停泊している、まるで浮いている城のような巨大な物体は、一体何かしら?」


私は埠頭に立ち、目の前の光景に目を細めました。


そこには、通常の帆船の三倍はあろうかという巨体を誇り、船体全体が眩いばかりの白銀に塗装された、異様なほど豪華な船が鎮座していたのです。


「ああ、今回の旅のために新造させた、アウレウム商会の旗艦『ゴールデン・ヴィーナス号』だよ」


ヴィクトール様がさらりと答えましたが、私の目はごまかせません。


「……ヴィクトール様。あの船体の白銀、ただのペンキではありませんわね? 光の反射率が異常ですわ。……もしや、ミスリル(魔銀)を薄く引き伸ばしてコーティングしていらっしゃいませんこと?」


「ハハッ、バレたかい。海の魔物から船体を守るためにね。少し贅沢をして、ミスリルを三トンほど使ってみたんだ」


「三トン……! 今の市場価格で言えば、小国の国家予算が数年分吹き飛ぶ量ですわ!」


私は興奮のあまり、タラップを駆け上がり、船体の側面をペタペタと触り始めました。


「素晴らしい……! この滑らかな手触り、そして魔力を帯びたひんやりとした質感! ヴィクトール様、これをお借りして旅ができるなんて、私、一生陸に上がりたくありませんわ!」


「お貸しする? ……リーナ、君は時々、控えめなことを言うね」


ヴィクトール様が私の背後に立ち、耳元で甘く囁きました。


「この船のオーナー権は、すでに君の名義に変更してある。これは、君が私の宝物庫を半分以上片付けてくれたことへの、ほんの『チップ』だよ」


私は一瞬、思考が停止しました。


「……なんですって? このミスリル塗りの豪華客船が、私の『私物』に?」


「ああ。君が飽きたら、溶かしてインゴットにしてもいいし、世界中の海を巡る別荘にしてもいい。好きに使いなさい」


「……ヴィクトール様! あなた、本当に……本当に、最高にセンスのある方ですわ!」


私は思わず、彼の首に飛びつきました。


恋心による抱擁? いいえ、これは「動く巨大資産」を手に入れたことによる、理性を超越した歓喜の舞です。


「見てくださいませ、この甲板! チーク材ではなく、全て香木で作られていますわ! 歩くたびに富の香りが鼻をくすぐります!」


「気に入ってくれて良かった。……中には君専用のジュエリーショップを併設したサロンも作らせてあるよ」


「まあ! 船の中でショッピングができるなんて! ……支払いも、ヴィクトール様につけておいてよろしくて?」


「もちろんだ。君が何かを買えば、その金は私の商会に回り、巡り巡ってまた君へのプレゼント代になる。実に効率的だろう?」


私たちは笑い合いながら、白銀の甲板を歩き始めました。


かつてエリオット殿下との小旅行で乗せられた船は、波が来るたびに浸水しそうなボロ船で、私は「愛があれば船酔いも楽しい思い出だね」という彼の呪文に、吐き気で応えたものでした。


(……ああ、あの時の自分に教えてあげたいわ。愛とは、ミスリルの壁に守られた、揺れない豪華客船のことですわよって!)


「リーナ、出港の合図を。君がこの船の主(あるじ)なんだから」


ヴィクトール様に促され、私は船首に立ちました。


「全速前進ですわ! ノイシュタットの港に着くまでに、私のトランクを全てお宝で満たしてみせますわよ! おーほっほっほ!」


私の高笑いが、カモメの鳴き声をかき消して青い海に響き渡りました。


波を切り裂き、ミスリルの船体が光を跳ね返して進みます。


行き先は、さらなる黄金が待つノイシュタット。


私の「物欲の航海」は、今、最高に追い風を受けていたのでした。
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