婚約破棄?悪役令嬢は、貢がれすぎて幸せを掴む

黒猫かの

文字の大きさ
21 / 28

21

「リーナ! 君は誇り高き公爵令嬢だろう! そんな、男の財力に釣られてヘラヘラ笑うなんて……君の自尊心はどこへ行ったんだ!」


荒れ狂う(と言っても、この船にとってはさざ波程度の)海の上で、エリオット殿下がボートを激しく揺らしながら叫び続けています。


私はジュースのグラスを置き、ゆっくりと甲板の手すりに歩み寄りました。


「殿下。……先ほどから『釣られた』『釣られた』と五月蝿いですわね」


私は扇をバサリと広げ、殿下を見下ろして優雅に微笑みました。


「ええ、認めますわ。私は今、ヴィクトール様という最高級の漁師が投げ入れた、ダイヤモンドとミスリル製の釣り針に見事にかかっておりますの。……ですが殿下。釣られて何が悪くて?」


「な……っ!? 悪いに決まっているだろう! それは愛ではなく、ただの買収だ!」


「あら。世界で最も価値のある人間の一人である私が、これほど豪華な船と、山のような財宝で釣られているのですわよ? これほど名誉なことが他にありますかしら?」


私はあえて、殿下の安っぽい自尊心を逆撫でするように声を弾ませました。


「考えてもみてくださいませ。誰でも釣れるような安物のパン切れで釣られるのなら、それは確かに恥かもしれませんわ。でも、私はヴィクトール様に『国家予算』という名の特注の餌を投げ込ませたのです。これこそ、私の市場価値が世界一であるという証明ではありませんこと?」


「……っ! き、君は、何を言っているんだ……」


エリオット殿下は、理解不能な生物を見るような目で私を仰ぎ見ました。


「殿下。あなたが投げた餌は、なんだったかしら? ……一輪のしおれた花と、『真実の愛』という、どこの銀行でも換金できない不確かな言葉だけ。そんなもので私が釣れるとお思いでしたの? 私を、その辺の池にいるフナか何かと勘違いしていらっしゃらなくて?」


「愛は換金するものではない! 心で感じるものだ!」


「あら。心で感じた結果、私は今、ミスリルの床の上で最高級のドレスに身を包んでおりますわ。殿下の愛を感じた結果、私は板張りの隙間風が吹く部屋でジャガイモの皮を齧らされそうになりましたけれど?」


私はクスクスと、鈴を転がすような声で笑いました。


「愛だの心だのという言葉は、持たざる者が自分を正当化するための言い訳に過ぎませんのよ。本物の愛があるなら、相手が望むものを全て用意して見せなさいな。ヴィクトール様は、それを実行していらっしゃいますわ」


ヴィクトール様が、私の腰にそっと手を回しました。


「素晴らしいな、リーナ。君のその、物欲に対する一切の曇りがない哲学……。これこそが、私が投資した価値のある『唯一無二の至宝』だよ」


ヴィクトール様は殿下を見下ろし、冷ややかに告げました。


「エリオット殿下。君が彼女を『物で釣れる女』だと思っているなら、それは君の目が節穴だということだ。彼女は、自分を最高値で売る方法を知っており、かつ、それに見合う価値を相手に提供できる。……君には、彼女という『高額資産』を維持するだけの器がなかった。それだけのことだよ」


「資産だと……!? リーナは私の婚約者だったんだぞ!」


「『だった』。過去形ですわね。現在の私は、ヴィクトール様の輝かしい『勝利の女神』ですの。……さて、殿下。そろそろティータイムが終わりますわ。私たちはノイシュタットの港で、私を歓迎するために用意された『百隻の祝賀船』と『金の紙吹雪』が待っておりますの」


私は最後に、ボートに向かってひらひらと手を振りました。


「あ。殿下、そのボート。浸水していませんこと? ……まあ、愛があれば、海の上を歩いて帰れるかもしれませんわね。頑張ってくださいませ!」


「ま、待て! リーナ! 置いていくな! あ、水が……靴の中に水がぁぁぁ!」


エリオット殿下の悲鳴が遠ざかっていきます。


私は一度も振り返ることなく、ヴィクトール様にエスコートされて船室へと戻りました。


「リーナ。君のあの反論、商会の新人教育の教材に使わせてもらってもいいかな?」


「あら、ヴィクトール様。それなら著作権料として、また新しい宝石を要求させていただきますわよ?」


「ハハッ、喜んで。君が欲しがるものなら、海を干上がらせてでも探し出してこよう」


私たちは豪華な絨毯の上を、一歩ごとに「富の音」を響かせながら歩きました。


愛とは形。愛とは価値。


私の「物欲令嬢」としての信念は、この青い海の上で、ダイヤモンドよりも硬く、そして美しく昇華されたのでした。
感想 0

あなたにおすすめの小説

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。 オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。 それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが… ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。 自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。 正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。 そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが… ※カクヨム、なろうでも投稿しています。 よろしくお願いします。

【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン
恋愛
王太子から理不尽な婚約破棄を突きつけられた伯爵令嬢ルティア。聖女であるライバルの策略で「悪女」の烙印を押され、すべてを奪われた彼女が追放された先は荒れ果てた「廃墟の街」。人生のどん底――かと思いきや、ルティアは不敵に微笑んだ。 「問題が山積み? つまり、改善の余地(チャンス)しかありませんわ!」 彼女には前世で凄腕【経営コンサルタント】だった知識が眠っていた。 瓦礫を資材に変えてインフラ整備、ゴロツキたちを警備隊として雇用、嫌われ者のキノコや雑草(?)を名物料理「キノコスープ」や「うどん」に変えて大ヒット! 彼女の手腕によって、死んだ街は瞬く間に大陸随一の活気あふれる自由交易都市へと変貌を遂げる! その姿に、当初彼女を蔑んでいた冷酷伯爵シオンの心も次第に溶かされていき…。 一方、ルティアを追放した王国は経済が破綻し、崩壊寸前。焦った元婚約者の王太子がやってくるが、幸せな市民と最愛の伯爵に守られた彼女にもう死角なんてない――――。 知恵と才覚で運命を切り拓く、痛快逆転サクセス&シンデレラストーリー、ここに開幕!

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

2度目の結婚は貴方と

朧霧
恋愛
 前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか? 魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。 重複投稿作品です。(小説家になろう)

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

【完結】婚約者を妹に奪われたのでヤケ酒していたら、なぜか黒薔薇公爵に求婚されました

音芽 心
恋愛
伯爵令嬢アイリスは、幼い頃から妹のメアリーと比較され、家族の愛を知らずに生きてきた。唯一幸せだった時間は、婚約者のカルヴィンと過ごしている間だけ。 だがある日、カルヴィンから唐突に婚約破棄を言い渡される。どうやらカルヴィンは、アイリスの知らない間にメアリーと恋仲になっていたらしい。 何もかもが嫌になり、家を抜け出して酒屋でヤケ酒をしていた時、ある男に声を掛けられる。酔っ払っていたアイリスは、その男が誰かもわからぬまま酒を飲み交わしたのだった。 その翌日、目を覚ましたアイリスは見知らぬベッドにいた。おそるおそる隣を見ると、そこにはなんと「黒薔薇公爵」と呼ばれ恐れられている男が寝ていて……!? *** 皆さんの♡や📣、そしてお気に入り登録、大変励みになっております! 楽しく執筆活動ができているのは皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます。

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。