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「リーナ! 君は誇り高き公爵令嬢だろう! そんな、男の財力に釣られてヘラヘラ笑うなんて……君の自尊心はどこへ行ったんだ!」
荒れ狂う(と言っても、この船にとってはさざ波程度の)海の上で、エリオット殿下がボートを激しく揺らしながら叫び続けています。
私はジュースのグラスを置き、ゆっくりと甲板の手すりに歩み寄りました。
「殿下。……先ほどから『釣られた』『釣られた』と五月蝿いですわね」
私は扇をバサリと広げ、殿下を見下ろして優雅に微笑みました。
「ええ、認めますわ。私は今、ヴィクトール様という最高級の漁師が投げ入れた、ダイヤモンドとミスリル製の釣り針に見事にかかっておりますの。……ですが殿下。釣られて何が悪くて?」
「な……っ!? 悪いに決まっているだろう! それは愛ではなく、ただの買収だ!」
「あら。世界で最も価値のある人間の一人である私が、これほど豪華な船と、山のような財宝で釣られているのですわよ? これほど名誉なことが他にありますかしら?」
私はあえて、殿下の安っぽい自尊心を逆撫でするように声を弾ませました。
「考えてもみてくださいませ。誰でも釣れるような安物のパン切れで釣られるのなら、それは確かに恥かもしれませんわ。でも、私はヴィクトール様に『国家予算』という名の特注の餌を投げ込ませたのです。これこそ、私の市場価値が世界一であるという証明ではありませんこと?」
「……っ! き、君は、何を言っているんだ……」
エリオット殿下は、理解不能な生物を見るような目で私を仰ぎ見ました。
「殿下。あなたが投げた餌は、なんだったかしら? ……一輪のしおれた花と、『真実の愛』という、どこの銀行でも換金できない不確かな言葉だけ。そんなもので私が釣れるとお思いでしたの? 私を、その辺の池にいるフナか何かと勘違いしていらっしゃらなくて?」
「愛は換金するものではない! 心で感じるものだ!」
「あら。心で感じた結果、私は今、ミスリルの床の上で最高級のドレスに身を包んでおりますわ。殿下の愛を感じた結果、私は板張りの隙間風が吹く部屋でジャガイモの皮を齧らされそうになりましたけれど?」
私はクスクスと、鈴を転がすような声で笑いました。
「愛だの心だのという言葉は、持たざる者が自分を正当化するための言い訳に過ぎませんのよ。本物の愛があるなら、相手が望むものを全て用意して見せなさいな。ヴィクトール様は、それを実行していらっしゃいますわ」
ヴィクトール様が、私の腰にそっと手を回しました。
「素晴らしいな、リーナ。君のその、物欲に対する一切の曇りがない哲学……。これこそが、私が投資した価値のある『唯一無二の至宝』だよ」
ヴィクトール様は殿下を見下ろし、冷ややかに告げました。
「エリオット殿下。君が彼女を『物で釣れる女』だと思っているなら、それは君の目が節穴だということだ。彼女は、自分を最高値で売る方法を知っており、かつ、それに見合う価値を相手に提供できる。……君には、彼女という『高額資産』を維持するだけの器がなかった。それだけのことだよ」
「資産だと……!? リーナは私の婚約者だったんだぞ!」
「『だった』。過去形ですわね。現在の私は、ヴィクトール様の輝かしい『勝利の女神』ですの。……さて、殿下。そろそろティータイムが終わりますわ。私たちはノイシュタットの港で、私を歓迎するために用意された『百隻の祝賀船』と『金の紙吹雪』が待っておりますの」
私は最後に、ボートに向かってひらひらと手を振りました。
「あ。殿下、そのボート。浸水していませんこと? ……まあ、愛があれば、海の上を歩いて帰れるかもしれませんわね。頑張ってくださいませ!」
「ま、待て! リーナ! 置いていくな! あ、水が……靴の中に水がぁぁぁ!」
エリオット殿下の悲鳴が遠ざかっていきます。
私は一度も振り返ることなく、ヴィクトール様にエスコートされて船室へと戻りました。
「リーナ。君のあの反論、商会の新人教育の教材に使わせてもらってもいいかな?」
「あら、ヴィクトール様。それなら著作権料として、また新しい宝石を要求させていただきますわよ?」
「ハハッ、喜んで。君が欲しがるものなら、海を干上がらせてでも探し出してこよう」
私たちは豪華な絨毯の上を、一歩ごとに「富の音」を響かせながら歩きました。
愛とは形。愛とは価値。
私の「物欲令嬢」としての信念は、この青い海の上で、ダイヤモンドよりも硬く、そして美しく昇華されたのでした。
荒れ狂う(と言っても、この船にとってはさざ波程度の)海の上で、エリオット殿下がボートを激しく揺らしながら叫び続けています。
私はジュースのグラスを置き、ゆっくりと甲板の手すりに歩み寄りました。
「殿下。……先ほどから『釣られた』『釣られた』と五月蝿いですわね」
私は扇をバサリと広げ、殿下を見下ろして優雅に微笑みました。
「ええ、認めますわ。私は今、ヴィクトール様という最高級の漁師が投げ入れた、ダイヤモンドとミスリル製の釣り針に見事にかかっておりますの。……ですが殿下。釣られて何が悪くて?」
「な……っ!? 悪いに決まっているだろう! それは愛ではなく、ただの買収だ!」
「あら。世界で最も価値のある人間の一人である私が、これほど豪華な船と、山のような財宝で釣られているのですわよ? これほど名誉なことが他にありますかしら?」
私はあえて、殿下の安っぽい自尊心を逆撫でするように声を弾ませました。
「考えてもみてくださいませ。誰でも釣れるような安物のパン切れで釣られるのなら、それは確かに恥かもしれませんわ。でも、私はヴィクトール様に『国家予算』という名の特注の餌を投げ込ませたのです。これこそ、私の市場価値が世界一であるという証明ではありませんこと?」
「……っ! き、君は、何を言っているんだ……」
エリオット殿下は、理解不能な生物を見るような目で私を仰ぎ見ました。
「殿下。あなたが投げた餌は、なんだったかしら? ……一輪のしおれた花と、『真実の愛』という、どこの銀行でも換金できない不確かな言葉だけ。そんなもので私が釣れるとお思いでしたの? 私を、その辺の池にいるフナか何かと勘違いしていらっしゃらなくて?」
「愛は換金するものではない! 心で感じるものだ!」
「あら。心で感じた結果、私は今、ミスリルの床の上で最高級のドレスに身を包んでおりますわ。殿下の愛を感じた結果、私は板張りの隙間風が吹く部屋でジャガイモの皮を齧らされそうになりましたけれど?」
私はクスクスと、鈴を転がすような声で笑いました。
「愛だの心だのという言葉は、持たざる者が自分を正当化するための言い訳に過ぎませんのよ。本物の愛があるなら、相手が望むものを全て用意して見せなさいな。ヴィクトール様は、それを実行していらっしゃいますわ」
ヴィクトール様が、私の腰にそっと手を回しました。
「素晴らしいな、リーナ。君のその、物欲に対する一切の曇りがない哲学……。これこそが、私が投資した価値のある『唯一無二の至宝』だよ」
ヴィクトール様は殿下を見下ろし、冷ややかに告げました。
「エリオット殿下。君が彼女を『物で釣れる女』だと思っているなら、それは君の目が節穴だということだ。彼女は、自分を最高値で売る方法を知っており、かつ、それに見合う価値を相手に提供できる。……君には、彼女という『高額資産』を維持するだけの器がなかった。それだけのことだよ」
「資産だと……!? リーナは私の婚約者だったんだぞ!」
「『だった』。過去形ですわね。現在の私は、ヴィクトール様の輝かしい『勝利の女神』ですの。……さて、殿下。そろそろティータイムが終わりますわ。私たちはノイシュタットの港で、私を歓迎するために用意された『百隻の祝賀船』と『金の紙吹雪』が待っておりますの」
私は最後に、ボートに向かってひらひらと手を振りました。
「あ。殿下、そのボート。浸水していませんこと? ……まあ、愛があれば、海の上を歩いて帰れるかもしれませんわね。頑張ってくださいませ!」
「ま、待て! リーナ! 置いていくな! あ、水が……靴の中に水がぁぁぁ!」
エリオット殿下の悲鳴が遠ざかっていきます。
私は一度も振り返ることなく、ヴィクトール様にエスコートされて船室へと戻りました。
「リーナ。君のあの反論、商会の新人教育の教材に使わせてもらってもいいかな?」
「あら、ヴィクトール様。それなら著作権料として、また新しい宝石を要求させていただきますわよ?」
「ハハッ、喜んで。君が欲しがるものなら、海を干上がらせてでも探し出してこよう」
私たちは豪華な絨毯の上を、一歩ごとに「富の音」を響かせながら歩きました。
愛とは形。愛とは価値。
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