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浸水し始めたボートの上で、エリオット殿下は必死にバケツで水を掻き出していました。
その無様な姿を、ミスリル製の巨大な船首から見下ろしながら、ヴィクトール様は静かに口を開きました。
「エリオット殿下。最後に一つ、あなたに『商売』の基本を教えてあげよう」
ヴィクトール様の声は、海風に乗って冷ややかに響きました。
「……な、なんだと……!? 私に説教するつもりか!」
「いいえ。これは慈悲だよ。……君は彼女を『欲張りな女』と呼び、その価値を否定した。だが、市場において『需要のない商品』など存在しない。ただ『価格設定を間違えた無能な商人』がいるだけだ」
ヴィクトール様は懐から、金糸で編まれた小さな袋を取り出しました。
「君にとってリーナ嬢は高価すぎて維持できない『不良在庫』だったのだろう。だが私にとっては、全財産を投じても手に入れたい『唯一無二の至宝』だ。……その差を、今ここで思い知らせてあげよう」
ヴィクトール様が袋を軽く投げると、それはエリオット殿下のボートの真ん中に、ドサリと重い音を立てて落ちました。
「……っ! これは、金貨……!? こんなにたくさん……!」
「それは君への『手切金』ではない。君がこれまで彼女に費やしたという、その安っぽい『真心』とやらを、私がすべて買い取ってあげる代金だ。これで君と彼女の間には、思い出の一つも、貸し借りの一円も残っていない。……分かったかな?」
エリオット殿下は金貨の袋を抱きしめ、屈辱と驚愕で顔を歪ませました。
「き、貴様……! 愛まで金で買うというのか!」
「愛? いいえ、私は『不純物』を取り除いただけだよ。彼女の輝きに、君のような中途半端な未練は必要ない」
ヴィクトール様は船員に合図を送りました。
「全速力で進め。……ああ、殿下。その金貨の重みで、ボートが沈まないように気をつけるんだね」
「待て! 待ってくれぇぇぇ! 重い! 金貨が重すぎてボートが沈むぅぅぅ!」
エリオット殿下の情けない叫びを置き去りにして、ミスリルの船体は白波を立てて加速しました。
それから数時間後。水平線の向こうに、黄金色に輝くノイシュタットの港が見えてきました。
「リーナ、見てごらん。君を歓迎するための準備が整ったようだ」
ヴィクトール様に促され、私が甲板の先端に立つと……そこには、目を疑うような光景が広がっていました。
「……まあ! ヴィクトール様、あちらの船団は……!?」
港の入り口を埋め尽くしていたのは、百隻を超える祝賀船でした。
すべての船が極彩色の旗を掲げ、甲板からは金銀の紙吹雪が、空を覆い尽くさんばかりに舞い上がっています。
ドォォォン! ドォォォン!
「……大砲の音? いいえ、これ……魔石を使った音響魔法ですわね!」
「二十一発の礼砲だよ、リーナ。……君がこの国に足を踏み入れる瞬間、この街のすべての宝石店は君のために扉を開け、街中の噴水からは最高級のワインが流れるようにしてある」
港に近づくにつれ、岸壁に集まった数万人の民衆の声が聞こえてきました。
『リーナ様! 美しきコレクター様、万歳!』
『私たちの宝物庫を、その目でお救いください!』
「まあ……! なんて素晴らしい歓迎かしら! ヴィクトール様、あの金の紙吹雪……よく見ると、本物の金箔じゃありませんこと?」
「ああ。後で民衆が拾えるようにね。君が来るだけで、この街の経済は活性化する。……まさに、君は動く幸運の女神だ」
船が接岸しようとすると、岸壁には最高級の赤い絨毯が、どこまでも続くように敷き詰められていました。
そしてその絨毯の上には、私の到着を待っていたかのように、宝石箱を抱えた侍従たちがずらりと並んでいます。
「リーナ、ノイシュタット王国へようこそ。……さあ、ここから先は、君がこれまで夢に見てきた以上の『欲望の現実』が待っているよ」
ヴィクトール様が恭しく手を差し出しました。
私はその手を取り、最高の笑顔で第一歩を踏み出しました。
「おーほっほっほ! 素晴らしいわ! この絨毯の踏み心地、そして空気中に漂う高価な香料の匂い……! エリオット殿下に見せて差し上げたいですわね、これが『本物の王妃』が受けるべき待遇だということを!」
私の声は、歓迎の歓声にかき消されながらも、力強く響き渡りました。
婚約破棄をされたあの日、私は小さな離宮を追い出されました。
けれど今、私は一国の富を背景に、世界の主役としてこの地に降り立ったのです。
(さあ、お宝たち! このリーナ・ド・メルヴェイユが、あなたたちの真の価値を世界に証明して差し上げますわ!)
私の物欲という名の冒険は、今、伝説的なクライマックスへと向かって走り出したのでした。
その無様な姿を、ミスリル製の巨大な船首から見下ろしながら、ヴィクトール様は静かに口を開きました。
「エリオット殿下。最後に一つ、あなたに『商売』の基本を教えてあげよう」
ヴィクトール様の声は、海風に乗って冷ややかに響きました。
「……な、なんだと……!? 私に説教するつもりか!」
「いいえ。これは慈悲だよ。……君は彼女を『欲張りな女』と呼び、その価値を否定した。だが、市場において『需要のない商品』など存在しない。ただ『価格設定を間違えた無能な商人』がいるだけだ」
ヴィクトール様は懐から、金糸で編まれた小さな袋を取り出しました。
「君にとってリーナ嬢は高価すぎて維持できない『不良在庫』だったのだろう。だが私にとっては、全財産を投じても手に入れたい『唯一無二の至宝』だ。……その差を、今ここで思い知らせてあげよう」
ヴィクトール様が袋を軽く投げると、それはエリオット殿下のボートの真ん中に、ドサリと重い音を立てて落ちました。
「……っ! これは、金貨……!? こんなにたくさん……!」
「それは君への『手切金』ではない。君がこれまで彼女に費やしたという、その安っぽい『真心』とやらを、私がすべて買い取ってあげる代金だ。これで君と彼女の間には、思い出の一つも、貸し借りの一円も残っていない。……分かったかな?」
エリオット殿下は金貨の袋を抱きしめ、屈辱と驚愕で顔を歪ませました。
「き、貴様……! 愛まで金で買うというのか!」
「愛? いいえ、私は『不純物』を取り除いただけだよ。彼女の輝きに、君のような中途半端な未練は必要ない」
ヴィクトール様は船員に合図を送りました。
「全速力で進め。……ああ、殿下。その金貨の重みで、ボートが沈まないように気をつけるんだね」
「待て! 待ってくれぇぇぇ! 重い! 金貨が重すぎてボートが沈むぅぅぅ!」
エリオット殿下の情けない叫びを置き去りにして、ミスリルの船体は白波を立てて加速しました。
それから数時間後。水平線の向こうに、黄金色に輝くノイシュタットの港が見えてきました。
「リーナ、見てごらん。君を歓迎するための準備が整ったようだ」
ヴィクトール様に促され、私が甲板の先端に立つと……そこには、目を疑うような光景が広がっていました。
「……まあ! ヴィクトール様、あちらの船団は……!?」
港の入り口を埋め尽くしていたのは、百隻を超える祝賀船でした。
すべての船が極彩色の旗を掲げ、甲板からは金銀の紙吹雪が、空を覆い尽くさんばかりに舞い上がっています。
ドォォォン! ドォォォン!
「……大砲の音? いいえ、これ……魔石を使った音響魔法ですわね!」
「二十一発の礼砲だよ、リーナ。……君がこの国に足を踏み入れる瞬間、この街のすべての宝石店は君のために扉を開け、街中の噴水からは最高級のワインが流れるようにしてある」
港に近づくにつれ、岸壁に集まった数万人の民衆の声が聞こえてきました。
『リーナ様! 美しきコレクター様、万歳!』
『私たちの宝物庫を、その目でお救いください!』
「まあ……! なんて素晴らしい歓迎かしら! ヴィクトール様、あの金の紙吹雪……よく見ると、本物の金箔じゃありませんこと?」
「ああ。後で民衆が拾えるようにね。君が来るだけで、この街の経済は活性化する。……まさに、君は動く幸運の女神だ」
船が接岸しようとすると、岸壁には最高級の赤い絨毯が、どこまでも続くように敷き詰められていました。
そしてその絨毯の上には、私の到着を待っていたかのように、宝石箱を抱えた侍従たちがずらりと並んでいます。
「リーナ、ノイシュタット王国へようこそ。……さあ、ここから先は、君がこれまで夢に見てきた以上の『欲望の現実』が待っているよ」
ヴィクトール様が恭しく手を差し出しました。
私はその手を取り、最高の笑顔で第一歩を踏み出しました。
「おーほっほっほ! 素晴らしいわ! この絨毯の踏み心地、そして空気中に漂う高価な香料の匂い……! エリオット殿下に見せて差し上げたいですわね、これが『本物の王妃』が受けるべき待遇だということを!」
私の声は、歓迎の歓声にかき消されながらも、力強く響き渡りました。
婚約破棄をされたあの日、私は小さな離宮を追い出されました。
けれど今、私は一国の富を背景に、世界の主役としてこの地に降り立ったのです。
(さあ、お宝たち! このリーナ・ド・メルヴェイユが、あなたたちの真の価値を世界に証明して差し上げますわ!)
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