婚約破棄?悪役令嬢は、貢がれすぎて幸せを掴む

黒猫かの

文字の大きさ
24 / 28

24

ノイシュタット王宮の最上階。夜景を一望できるテラスで、私はヴィクトール様から贈られたばかりの「星空を閉じ込めたカクテル」を楽しんでいました。


「……ふう。ヴィクトール様。ここ数日で、私のコレクションは三倍に増えましたわ。もう、自分でも何を所有しているのか把握しきれなくなってきましたの」


私は幸せな溜息をつきました。


これこそが私の夢見た生活。朝起きてから寝るまで、価値あるものだけに囲まれ、その輝きに魂を浸す日々。


「それは困ったね、リーナ。管理しきれない資産は、ただの重荷になってしまう。……ならば、その全ての資産を統括し、君の代わりに磨き上げ、さらに増量させ続ける『管理装置』が必要じゃないかな?」


ヴィクトール様が、影を纏ったような妖艶な微笑みを浮かべて隣に立ちました。


「管理装置? まあ、新しい魔導具かしら。それとも、最高級の計算機?」


「いいえ。もっと確実で、もっと情熱的な『生きている契約』だよ」


ヴィクトール様が懐から取り出したのは、一枚の羊皮紙でした。


ですが、それはただの紙ではありません。縁には魔導金属の糸で複雑な文様が刺繍され、開いた瞬間に、神聖な契約の光が辺りを照らしました。


「……っ! この魔力の重圧、ただの書類ではありませんわね? ヴィクトール様、これはいったい……?」


「私の『命の契約書』だ。リーナ、君にこれを贈りたい」


私はその書類をひったくるように受け取り、ルーペで内容を精査しました。……職業病ですわね。


「……第一条、ヴィクトール・フォン・ノイシュタットの所有する全資産の管理権を、リーナ・ド・メルヴェイユに譲渡する。……第二条、彼の二十四時間の自由意志のうち、二十時間はリーナの物欲を満たすためにのみ使用される。……第三条、彼が死に際しても、その魂の所有権は……ええ!? これ、冥界の法律にまで干渉していましてよ!?」


私は絶句しました。


そこには、ヴィクトール様という「世界最強の資産家」が、自分の肉体、精神、そして将来生み出す全ての利益を、無償で私に捧げるという、あまりにも一方的で略奪的な条項が並んでいたのです。


「……ヴィクトール様。これ、あなたにとっては何のメリットもございませんわよ? あなたはただの『私の所有物』に成り下がるだけですわ」


「メリットならあるよ。君という、世界で最も審美眼の鋭い女性に『一生愛でられる』という特権だ」


ヴィクトール様は私の前に跪き、その冷たいはずの指先で、私の頬を優しく撫でました。


「宝石は語らない。鉱山は私を抱きしめない。だが、私は君のために、新しい宝石を掘り起こし、君のために世界中の富を奪い、君の隣で常に輝き続けることができる」


彼は私の手を取り、契約書の上に私の指を置きました。


「エリオットは君に『心を贈る』と言った。だが、心などという不確かなものは、契約書には書けない。……だから私は、私の『人生そのもの』を法的に、そして魔術的に君の資産として登録してほしいんだ」


私は震える手で、その書類を見つめ直しました。


(……ヴィクトール様。あなたという人は、本当に……。私を、最高の『所有欲』で満たしてくださるのね!)


エリオット殿下の愛は、一方的な「押し付け」でした。


けれど、ヴィクトール様の愛は、私の「物欲」という本質を理解した上での、究極の「現物支給」なのです。


「……分かりましたわ、ヴィクトール様。この『世界で最も高価な契約』、私のコレクションの頂点として、謹んで受理させていただきますわ!」


私が契約書に魔力でサインを記した瞬間、まばゆい光が二人を包み込みました。


「これで、君は私の主(あるじ)だ。……さて、主様。最初の命令を。今夜は、どの宝石を寝室に敷き詰めましょうか?」


「あら、そうね。……まずは、その契約書を額装するための最高級のプラチナプレートを用意してくださる? それから、あなたの隣で私が一番輝けるように、今この瞬間から私の美貌を磨くための『永遠の投資』を誓いなさい!」


「御意のままに。私の女神」


私たちは、煌めく星空の下で、愛の言葉ではなく「資産の融合」を祝う誓いのキスを交わしました。


愛は形。愛は契約。そして愛は、最高の利回り。


私は、世界一の資産家を「私の所有物」に加えたという、かつてない征服感に酔いしれるのでした。


(おーほっほっほ! エリオット殿下、ご覧になって? これが、私の辿り着いた『究極のプレゼント』ですわよ!)


私の欲望は、ついに「人」という名の、最も美しく、最も管理の難しい至宝を手に入れたのでした。
感想 0

あなたにおすすめの小説

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

私だってあなたなんて願い下げです!これからの人生は好きに生きます

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のジャンヌは、4年もの間ずっと婚約者で侯爵令息のシャーロンに冷遇されてきた。 オレンジ色の髪に吊り上がった真っ赤な瞳のせいで、一見怖そうに見えるジャンヌに対し、この国で3本の指に入るほどの美青年、シャーロン。美しいシャーロンを、令嬢たちが放っておく訳もなく、常に令嬢に囲まれて楽しそうに過ごしているシャーロンを、ただ見つめる事しか出来ないジャンヌ。 それでも4年前、助けてもらった恩を感じていたジャンヌは、シャーロンを想い続けていたのだが… ある日いつもの様に辛辣な言葉が並ぶ手紙が届いたのだが、その中にはシャーロンが令嬢たちと口づけをしたり抱き合っている写真が入っていたのだ。それもどの写真も、別の令嬢だ。 自分の事を嫌っている事は気が付いていた。他の令嬢たちと仲が良いのも知っていた。でも、まさかこんな不貞を働いているだなんて、気持ち悪い。 正気を取り戻したジャンヌは、この写真を証拠にシャーロンと婚約破棄をする事を決意。婚約破棄出来た暁には、大好きだった騎士団に戻ろう、そう決めたのだった。 そして両親からも婚約破棄に同意してもらい、シャーロンの家へと向かったのだが… ※カクヨム、なろうでも投稿しています。 よろしくお願いします。

【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン
恋愛
王太子から理不尽な婚約破棄を突きつけられた伯爵令嬢ルティア。聖女であるライバルの策略で「悪女」の烙印を押され、すべてを奪われた彼女が追放された先は荒れ果てた「廃墟の街」。人生のどん底――かと思いきや、ルティアは不敵に微笑んだ。 「問題が山積み? つまり、改善の余地(チャンス)しかありませんわ!」 彼女には前世で凄腕【経営コンサルタント】だった知識が眠っていた。 瓦礫を資材に変えてインフラ整備、ゴロツキたちを警備隊として雇用、嫌われ者のキノコや雑草(?)を名物料理「キノコスープ」や「うどん」に変えて大ヒット! 彼女の手腕によって、死んだ街は瞬く間に大陸随一の活気あふれる自由交易都市へと変貌を遂げる! その姿に、当初彼女を蔑んでいた冷酷伯爵シオンの心も次第に溶かされていき…。 一方、ルティアを追放した王国は経済が破綻し、崩壊寸前。焦った元婚約者の王太子がやってくるが、幸せな市民と最愛の伯爵に守られた彼女にもう死角なんてない――――。 知恵と才覚で運命を切り拓く、痛快逆転サクセス&シンデレラストーリー、ここに開幕!

赤貧令嬢の借金返済契約

夏菜しの
恋愛
 大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。  いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。  クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。  王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。  彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。  それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。  赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。

2度目の結婚は貴方と

朧霧
恋愛
 前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか? 魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。 重複投稿作品です。(小説家になろう)

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

【完結】婚約者を妹に奪われたのでヤケ酒していたら、なぜか黒薔薇公爵に求婚されました

音芽 心
恋愛
伯爵令嬢アイリスは、幼い頃から妹のメアリーと比較され、家族の愛を知らずに生きてきた。唯一幸せだった時間は、婚約者のカルヴィンと過ごしている間だけ。 だがある日、カルヴィンから唐突に婚約破棄を言い渡される。どうやらカルヴィンは、アイリスの知らない間にメアリーと恋仲になっていたらしい。 何もかもが嫌になり、家を抜け出して酒屋でヤケ酒をしていた時、ある男に声を掛けられる。酔っ払っていたアイリスは、その男が誰かもわからぬまま酒を飲み交わしたのだった。 その翌日、目を覚ましたアイリスは見知らぬベッドにいた。おそるおそる隣を見ると、そこにはなんと「黒薔薇公爵」と呼ばれ恐れられている男が寝ていて……!? *** 皆さんの♡や📣、そしてお気に入り登録、大変励みになっております! 楽しく執筆活動ができているのは皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます。

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。