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「……何だ、その『お見合い』という名の軍事侵攻は。お父様はついに、私の胃袋を物理的に封鎖するつもりかしら?」
北の離宮の門前に現れた一団を見下ろしながら、アルカは心底面倒くさそうに呟いた。
公爵家の紋章を掲げた馬車から降りてきたのは、まばゆい銀色の鎧を纏った一人の大男だった。
その肩幅は通常の男の二倍はあり、首の太さはアルカの大腿部ほどもある。一歩歩くたびに、凍った地面がミシミシと悲鳴を上げていた。
「お嬢様。旦那様からの手紙によりますと、あの方は王宮騎士団の副団長、ガラン・ド・マッスル卿でございます」
カインが感情の消えた声で、添えられた推薦状を読み上げた。
「旦那様曰く、『お前がいつまでも北で野蛮な生活をしているのは、頼りがいのある夫がいないからだ。ガラン卿は王国一の力持ちだ。彼ならお前の暴走を止められるだろう』……とのことです」
「暴走を止める? 失礼ね、私は常に最短ルートで美食を追求しているだけだわ。……でも、カイン。あのガラン卿とやら、いい筋肉をしているわね」
アルカの瞳が、鑑定士のような鋭さを帯びた。
「……お嬢様。あの方はあくまで、お見合いの相手として来られたのです。食材を見るような目で見るのはお控えください」
そこへ、重厚な足音と共にガラン卿が歩み寄ってきた。彼はヘルメットを脱ぎ、短く刈り込まれた金髪を露わにすると、野太い声で吠えた。
「アルカ・フォン・ベルム殿! 私は貴女を王都へ連れ戻し、立派な淑女として更生させるために参った! この私の剛腕があれば、貴女が獲物を求めて森を徘徊することなど、二度とさせない!」
「……あの、ガラン卿。更生とか更年期とかはどうでもいいのですけれど、一つ伺ってもよろしいかしら?」
アルカはガランの目の前に立ち、その太い上腕二頭筋を指先でツンと突いた。
「な、何だ!? 私の筋肉に、何か不服でもあるのか!」
「不服どころか、感激しているわ。その筋肉、一分間に何回転くらいのトルクを出せるのかしら?」
「……とるく? 何を言っているのかわからんが、私はこの腕一本で、巨大な岩をも粉砕してみせる!」
「岩を粉砕! 素晴らしいわ! カイン、聞いた!? 彼なら、あの『乾燥しすぎて石のように硬くなった幻のトウモロコシ』を、一瞬で粉にできるわよ!」
アルカの顔が、今日一番の輝きを放った。
「ガラン卿! お見合いの件、前向きに検討させていただきますわ! まずは私の『お試し期間』として、あちらの厨房にある特大のすり鉢を持ってきてくださる?」
「お、お試し期間か! よかろう! 私の力を見れば、貴女も私という男に惚れ込まざるを得ないだろう!」
ガランは鼻息荒く厨房へと踏み込んだ。
そこでは、レオンハルトがスパイスの整理をし、リディアがパンを捏ねていた。
「……アルカ様、また何か『新しい調理器具』を拾ってきたのですか?」
リディアが、ガランの異常な体格を見て呆れ顔で尋ねる。
「ええ。お父様が送ってくれたのよ。世界最高峰の『人力万能粉砕機』をね。さあ、ガラン卿! その腕っぷしで、この硬いスパイスと穀物を、粉雪のように細かく挽いてちょうだい!」
「任せておけ! うおおおおおっ! マッスル・ミル!!」
ガランが咆哮と共に巨大なすりこぎを振るうと、厨房が地震のように揺れた。
しかし、数分後。
「……はぁ、はぁ。……こ、このスパイス、硬すぎないか? 私の腕が、乳酸でパンパンなのだが……」
「何言っているの、ガラン卿! まだたったの五キロ分よ! これじゃあ今夜のタコスパーティーに間に合わないわ。もっと腰を入れて、一突きごとに愛を込めなさい!」
「あ、愛……!? ……そうか、これが愛の試練か! うおおおおおっ!!」
ガランは、自分が「お見合い相手」ではなく「高性能なミキサー」として扱われていることに、全く気づいていなかった。
「……お嬢様。旦那様はあの方を『暴走を止めるブレーキ』として送ったはずですが」
カインが、粉まみれになって必死にすり鉢を回すガランを見つめて呟いた。
「残念ながら、完全な『加速装置』になってしまいましたね」
「いいのよ、カイン。彼のおかげで、私の料理にさらなる『力強さ』が加わるわ。……あ、ガラン卿! 次はあの硬いヤシの実を、拳で割ってちょうだい!」
「承知した! 我が愛のために!!」
ドゴォォォォン!!
北の離宮に、新たな「労働力」が加わった瞬間であった。
愛と筋肉が交差する調理場。アルカの美食の野望は、もはや誰にも止められない領域へと突入していた。
北の離宮の門前に現れた一団を見下ろしながら、アルカは心底面倒くさそうに呟いた。
公爵家の紋章を掲げた馬車から降りてきたのは、まばゆい銀色の鎧を纏った一人の大男だった。
その肩幅は通常の男の二倍はあり、首の太さはアルカの大腿部ほどもある。一歩歩くたびに、凍った地面がミシミシと悲鳴を上げていた。
「お嬢様。旦那様からの手紙によりますと、あの方は王宮騎士団の副団長、ガラン・ド・マッスル卿でございます」
カインが感情の消えた声で、添えられた推薦状を読み上げた。
「旦那様曰く、『お前がいつまでも北で野蛮な生活をしているのは、頼りがいのある夫がいないからだ。ガラン卿は王国一の力持ちだ。彼ならお前の暴走を止められるだろう』……とのことです」
「暴走を止める? 失礼ね、私は常に最短ルートで美食を追求しているだけだわ。……でも、カイン。あのガラン卿とやら、いい筋肉をしているわね」
アルカの瞳が、鑑定士のような鋭さを帯びた。
「……お嬢様。あの方はあくまで、お見合いの相手として来られたのです。食材を見るような目で見るのはお控えください」
そこへ、重厚な足音と共にガラン卿が歩み寄ってきた。彼はヘルメットを脱ぎ、短く刈り込まれた金髪を露わにすると、野太い声で吠えた。
「アルカ・フォン・ベルム殿! 私は貴女を王都へ連れ戻し、立派な淑女として更生させるために参った! この私の剛腕があれば、貴女が獲物を求めて森を徘徊することなど、二度とさせない!」
「……あの、ガラン卿。更生とか更年期とかはどうでもいいのですけれど、一つ伺ってもよろしいかしら?」
アルカはガランの目の前に立ち、その太い上腕二頭筋を指先でツンと突いた。
「な、何だ!? 私の筋肉に、何か不服でもあるのか!」
「不服どころか、感激しているわ。その筋肉、一分間に何回転くらいのトルクを出せるのかしら?」
「……とるく? 何を言っているのかわからんが、私はこの腕一本で、巨大な岩をも粉砕してみせる!」
「岩を粉砕! 素晴らしいわ! カイン、聞いた!? 彼なら、あの『乾燥しすぎて石のように硬くなった幻のトウモロコシ』を、一瞬で粉にできるわよ!」
アルカの顔が、今日一番の輝きを放った。
「ガラン卿! お見合いの件、前向きに検討させていただきますわ! まずは私の『お試し期間』として、あちらの厨房にある特大のすり鉢を持ってきてくださる?」
「お、お試し期間か! よかろう! 私の力を見れば、貴女も私という男に惚れ込まざるを得ないだろう!」
ガランは鼻息荒く厨房へと踏み込んだ。
そこでは、レオンハルトがスパイスの整理をし、リディアがパンを捏ねていた。
「……アルカ様、また何か『新しい調理器具』を拾ってきたのですか?」
リディアが、ガランの異常な体格を見て呆れ顔で尋ねる。
「ええ。お父様が送ってくれたのよ。世界最高峰の『人力万能粉砕機』をね。さあ、ガラン卿! その腕っぷしで、この硬いスパイスと穀物を、粉雪のように細かく挽いてちょうだい!」
「任せておけ! うおおおおおっ! マッスル・ミル!!」
ガランが咆哮と共に巨大なすりこぎを振るうと、厨房が地震のように揺れた。
しかし、数分後。
「……はぁ、はぁ。……こ、このスパイス、硬すぎないか? 私の腕が、乳酸でパンパンなのだが……」
「何言っているの、ガラン卿! まだたったの五キロ分よ! これじゃあ今夜のタコスパーティーに間に合わないわ。もっと腰を入れて、一突きごとに愛を込めなさい!」
「あ、愛……!? ……そうか、これが愛の試練か! うおおおおおっ!!」
ガランは、自分が「お見合い相手」ではなく「高性能なミキサー」として扱われていることに、全く気づいていなかった。
「……お嬢様。旦那様はあの方を『暴走を止めるブレーキ』として送ったはずですが」
カインが、粉まみれになって必死にすり鉢を回すガランを見つめて呟いた。
「残念ながら、完全な『加速装置』になってしまいましたね」
「いいのよ、カイン。彼のおかげで、私の料理にさらなる『力強さ』が加わるわ。……あ、ガラン卿! 次はあの硬いヤシの実を、拳で割ってちょうだい!」
「承知した! 我が愛のために!!」
ドゴォォォォン!!
北の離宮に、新たな「労働力」が加わった瞬間であった。
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