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「お父様! 私は決めましたわ! 今日から領地へ行って、大地のエネルギーをこの身に宿してきますわ!」
朝食の席で、アマリは山盛りのサラダを咀嚼しながら宣言した。
エヴァレット公爵は、優雅にコーヒーを啜りながら、娘の突飛な発言にも動じない。
「領地か。まあ、王都にいてもライオネル殿下が騒がしいからな。一理ある。だが、お前が行って何をするつもりだ?」
「もちろん、領民との触れ合い(という名の野外トレーニング)ですわ! それに、最近我が領地の特産品である『剛力ジャガイモ』の出荷量が減っていると聞きました。その原因を突き止めてきますわ!」
「……あれはただのジャガイモだがな。まあいい、許可しよう。監視役のギルバート殿も一緒なら、安心だ」
「えっ、ギルバートも? 彼は王都の警備で忙しいのではありませんの?」
アマリが隣を見ると、いつの間にかギルバートが「当然だ」と言わんばかりの顔で立っていた。
彼は銀色の甲冑をピカピカに磨き上げ、旅の準備も万端な様子だ。
「……陛下から直々に命じられた。『アマリが王都を離れるなら、そのまま国境を越えないように監視しろ』とな」
「失礼ね! 私は亡命なんて致しませんわよ! せいぜい隣国の美味しいスイーツを買い付けに行くくらいですわ!」
「それを亡命紛いと言うんだ。……ほら、さっさと食え。馬車の用意はできている」
こうして、アマリとギルバート、そして荷物持ちの兵士数名を連れた一行は、エヴァレット公爵領へと向かった。
馬車に揺られること数時間。
アマリは馬車の中でじっとしていられず、ついに窓から身を乗り出した。
「ああ、見てくださいギルバート! あの豊かな緑! あの険しい山々! あそこを駆け回れば、ふくらはぎの筋肉が喜びの悲鳴を上げそうですわ!」
「……お前、景色を見てトレーニングのことしか考えられないのか?」
「何を言っていますの。景色とは、己を鍛えるためのシチュエーションですわよ?」
やがて一行は、領地の中継地点である小さな村に到着した。
しかし、村の雰囲気はどこか暗い。
活気があるはずの市場には閑古鳥が鳴き、村人たちは怯えたようにこちらを伺っている。
「……おかしいですわね。エヴァレット家の領民は、もっと血気盛んでパワフルだったはずですわ。セバスから聞いていた話と違いますわよ」
アマリは馬車を降りると、近くで力なく座り込んでいた老人に声をかけた。
「これ、そこのおじい様。どうしてそんなに元気がないのですか? タンパク質が足りていないのかしら?」
「……ひっ! こ、公爵家の方ですか? どうか、これ以上の増税は勘弁してください……。もう、種芋すら残っていないのです……」
老人の言葉に、アマリの眉がピクリと跳ねた。
「増税? お父様はそんな指示、出していないはずですわよ。ギルバート、これは『悪役』の出番ですわね」
「……ああ。どうやら、お前の父親の目が届かないところで、ネズミが太っているようだな」
アマリは村の役場へと突き進んだ。
そこでは、恰幅の良すぎる男――代官のバロンが、高価な酒を片手に部下たちと笑い合っていた。
「がっはっは! 公爵様は王都で婚約破棄の騒動で忙しい。今のうちに稼げるだけ稼いでおくのだ。領民など、絞ればいくらでも金が出てくる雑巾よ!」
「……ほう。誰が雑巾ですって?」
地響きのような低い声が、部屋に響いた。
バロンが振り返ると、そこには仁王立ちで血管をピキピキさせているアマリと、冷徹な殺気を放つギルバートがいた。
「な、なんだ貴様らは! ここを誰の場所だと思っている!」
「エヴァレット公爵家次女、アマリ・エヴァレットですわ。あなたのその、無駄に肥えた脂肪を物理的に削ぎ落としに来ましたの」
「公爵令嬢……!? げ、元婚約破棄の……! 構わん、捕らえろ! 暴漢だ!」
バロンの合図で、数人の屈強な(と言ってもアマリから見ればモヤシのような)私兵たちが飛び出してきた。
ギルバートが剣を抜こうとしたが、アマリがそれを手で制した。
「ギルバート、下がっていらして。これは我が家の恥。私が掃除致しますわ!」
アマリは襲いかかってきた私兵の腕を掴むと、そのまま一本背負いで床に叩きつけた。
さらに、飛んできた棍棒を片手でキャッチし、それを飴細工のようにグニャリと曲げて見せる。
「……ひ、ひいいいっ!? 怪力だ! 化け物だ!」
「失礼ですわね! これは日々のスクワットとプロテインの賜物、乙女の結晶ですわ!」
アマリは最後の一人を窓の外へ放り投げると、ガタガタと震えるバロンの襟首を掴み、片手で高く持ち上げた。
「さて、代官さん。あなたが領民から奪ったお金の隠し場所、白状してくださるかしら? それとも、私と一緒に『垂直落下式・地獄突き』の特訓に付き合ってくださる?」
「は、吐きます! 全部吐きます! 地下倉庫の裏に隠してあります! 助けてくれええ!」
「話が早くて助かりますわ!」
アマリはバロンをゴミ袋のように床へ転がした。
ギルバートは、あまりの圧倒的な光景に、鞘に納めたままの剣を軽く叩いた。
「……アマリ。お前、本当に俺の護衛が必要か?」
「何を言っていますの、ギルバート。あなたが後ろで見守ってくれているから、私は安心して全力を出せるんですのよ?」
アマリが振り返ってニカッと笑う。
その笑顔に、ギルバートは一瞬だけ言葉を失い、不器用に視線を逸らした。
「……勝手にしろ。だが、その代官を投げ飛ばすのは、ほどほどにしておけよ。死んだら取り調べができない」
「分かっていますわ! 私は平和主義者ですもの!」
その後、アマリは隠されていた金をすべて村人に返却し、バロンを荷台に縛り付けて王都へ送還した。
村には再び活気が戻り、村人たちは「アマリ様万歳!」「筋肉万歳!」と、妙なスローガンを叫びながら彼女を見送った。
「……ねえギルバート。領地って、本当に素晴らしいところですわね」
「ああ。お前が来ると、いろんな意味で『風通し』が良くなるようだな」
夕陽を浴びながら、二人は次の村へと向かった。
アマリの悪役令嬢としての名声は、こうして「物理的な英雄」へと少しずつ書き換えられていくのであった。
朝食の席で、アマリは山盛りのサラダを咀嚼しながら宣言した。
エヴァレット公爵は、優雅にコーヒーを啜りながら、娘の突飛な発言にも動じない。
「領地か。まあ、王都にいてもライオネル殿下が騒がしいからな。一理ある。だが、お前が行って何をするつもりだ?」
「もちろん、領民との触れ合い(という名の野外トレーニング)ですわ! それに、最近我が領地の特産品である『剛力ジャガイモ』の出荷量が減っていると聞きました。その原因を突き止めてきますわ!」
「……あれはただのジャガイモだがな。まあいい、許可しよう。監視役のギルバート殿も一緒なら、安心だ」
「えっ、ギルバートも? 彼は王都の警備で忙しいのではありませんの?」
アマリが隣を見ると、いつの間にかギルバートが「当然だ」と言わんばかりの顔で立っていた。
彼は銀色の甲冑をピカピカに磨き上げ、旅の準備も万端な様子だ。
「……陛下から直々に命じられた。『アマリが王都を離れるなら、そのまま国境を越えないように監視しろ』とな」
「失礼ね! 私は亡命なんて致しませんわよ! せいぜい隣国の美味しいスイーツを買い付けに行くくらいですわ!」
「それを亡命紛いと言うんだ。……ほら、さっさと食え。馬車の用意はできている」
こうして、アマリとギルバート、そして荷物持ちの兵士数名を連れた一行は、エヴァレット公爵領へと向かった。
馬車に揺られること数時間。
アマリは馬車の中でじっとしていられず、ついに窓から身を乗り出した。
「ああ、見てくださいギルバート! あの豊かな緑! あの険しい山々! あそこを駆け回れば、ふくらはぎの筋肉が喜びの悲鳴を上げそうですわ!」
「……お前、景色を見てトレーニングのことしか考えられないのか?」
「何を言っていますの。景色とは、己を鍛えるためのシチュエーションですわよ?」
やがて一行は、領地の中継地点である小さな村に到着した。
しかし、村の雰囲気はどこか暗い。
活気があるはずの市場には閑古鳥が鳴き、村人たちは怯えたようにこちらを伺っている。
「……おかしいですわね。エヴァレット家の領民は、もっと血気盛んでパワフルだったはずですわ。セバスから聞いていた話と違いますわよ」
アマリは馬車を降りると、近くで力なく座り込んでいた老人に声をかけた。
「これ、そこのおじい様。どうしてそんなに元気がないのですか? タンパク質が足りていないのかしら?」
「……ひっ! こ、公爵家の方ですか? どうか、これ以上の増税は勘弁してください……。もう、種芋すら残っていないのです……」
老人の言葉に、アマリの眉がピクリと跳ねた。
「増税? お父様はそんな指示、出していないはずですわよ。ギルバート、これは『悪役』の出番ですわね」
「……ああ。どうやら、お前の父親の目が届かないところで、ネズミが太っているようだな」
アマリは村の役場へと突き進んだ。
そこでは、恰幅の良すぎる男――代官のバロンが、高価な酒を片手に部下たちと笑い合っていた。
「がっはっは! 公爵様は王都で婚約破棄の騒動で忙しい。今のうちに稼げるだけ稼いでおくのだ。領民など、絞ればいくらでも金が出てくる雑巾よ!」
「……ほう。誰が雑巾ですって?」
地響きのような低い声が、部屋に響いた。
バロンが振り返ると、そこには仁王立ちで血管をピキピキさせているアマリと、冷徹な殺気を放つギルバートがいた。
「な、なんだ貴様らは! ここを誰の場所だと思っている!」
「エヴァレット公爵家次女、アマリ・エヴァレットですわ。あなたのその、無駄に肥えた脂肪を物理的に削ぎ落としに来ましたの」
「公爵令嬢……!? げ、元婚約破棄の……! 構わん、捕らえろ! 暴漢だ!」
バロンの合図で、数人の屈強な(と言ってもアマリから見ればモヤシのような)私兵たちが飛び出してきた。
ギルバートが剣を抜こうとしたが、アマリがそれを手で制した。
「ギルバート、下がっていらして。これは我が家の恥。私が掃除致しますわ!」
アマリは襲いかかってきた私兵の腕を掴むと、そのまま一本背負いで床に叩きつけた。
さらに、飛んできた棍棒を片手でキャッチし、それを飴細工のようにグニャリと曲げて見せる。
「……ひ、ひいいいっ!? 怪力だ! 化け物だ!」
「失礼ですわね! これは日々のスクワットとプロテインの賜物、乙女の結晶ですわ!」
アマリは最後の一人を窓の外へ放り投げると、ガタガタと震えるバロンの襟首を掴み、片手で高く持ち上げた。
「さて、代官さん。あなたが領民から奪ったお金の隠し場所、白状してくださるかしら? それとも、私と一緒に『垂直落下式・地獄突き』の特訓に付き合ってくださる?」
「は、吐きます! 全部吐きます! 地下倉庫の裏に隠してあります! 助けてくれええ!」
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アマリはバロンをゴミ袋のように床へ転がした。
ギルバートは、あまりの圧倒的な光景に、鞘に納めたままの剣を軽く叩いた。
「……アマリ。お前、本当に俺の護衛が必要か?」
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アマリが振り返ってニカッと笑う。
その笑顔に、ギルバートは一瞬だけ言葉を失い、不器用に視線を逸らした。
「……勝手にしろ。だが、その代官を投げ飛ばすのは、ほどほどにしておけよ。死んだら取り調べができない」
「分かっていますわ! 私は平和主義者ですもの!」
その後、アマリは隠されていた金をすべて村人に返却し、バロンを荷台に縛り付けて王都へ送還した。
村には再び活気が戻り、村人たちは「アマリ様万歳!」「筋肉万歳!」と、妙なスローガンを叫びながら彼女を見送った。
「……ねえギルバート。領地って、本当に素晴らしいところですわね」
「ああ。お前が来ると、いろんな意味で『風通し』が良くなるようだな」
夕陽を浴びながら、二人は次の村へと向かった。
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