婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの

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「……はい、判定入りますわよ! お父様、その書類のハンコの角度! 右に二度傾いていますわ。私の新生活への祝福の気持ちが、その程度の歪みで表現されては困りますわね。やり直し点、マイナス五点ですわ!」


数年後のオルブライト公爵家、当主執務室。


かつて私を放り出したこの屋敷は今、私の「実況」と「改革」によって、王国一ホワイトな職場へと生まれ変わっていました。


お父様はといえば、高血圧対策の野菜ジュースを片手に、当主の座を私に(実質的に)譲り渡し、今は私の「ツッコミ指導」を受けながら大人しく事務作業に励んでいます。


「……わ、分かったよ、エリー。まったく、お前が当主代理になってからというもの、この屋敷に『適当』という言葉が入り込む隙間もないな」


「当然ですわ。適当な仕事は、適当な人生を招きますもの。……あ、セバスチャン! 今の紅茶の温度、ベストより一度高いですわよ。私の舌が火傷したら、午後の実況スケジュールに支障が出ますわ!」


「申し訳ございません、お嬢様。……いえ、エリー閣下。すぐに調整いたします」


古参の執事セバスチャンも、今や私のミリ単位の指摘を「最高のエンターテインメント」として楽しんでいる節がありますわ。


そこへ、ガチャン! と派手な金属音が廊下に響きました。


「師匠ー! 大変ですわ! 隣の領地の使者様が、お土産の果物を台車ごとひっくり返して、現在『イチゴの海』の中で溺れていらっしゃいますわ!」


ピンクの髪を振り乱して飛び込んできたのは、私の筆頭弟子となったマリア様です。


「マリア様。……判定、入りますわよ。その報告の仕方! 慌てすぎて語尾が裏返っていますわ。実況者たるもの、どんな惨状を前にしても、美しく、かつ冷徹に事実を伝えなさいな。……で、その『イチゴの海』の彩りはどうでしたの?」


「はい! 真っ赤な背景に、使者様の青ざめた顔が映えて、色彩対比は百点満点でしたわ!」


「合格ですわ。では、一緒に行ってその使者様の『転び方の美学』を徹底的に分析して差し上げましょうか」


私が立ち上がろうとしたその時、背後から大きな手が私の肩を優しく抱きとめました。


「……エリー。あまりマリアを甘やかすな。彼女、最近では近衛騎士団の訓練にまでガヤを入れに来て、新人たちが泣いているぞ」


現れたのは、私の最愛の夫であり、現在は近衛騎士団長に昇進したカイン・ノリス様です。
その凛々しい制服姿、判定。
「一生添い遂げたい男ランキング」不動の一位、加点ポイントは無限大ですわ。


「あら、カイン様。お仕事はよろしいの? 騎士団の規律を乱しているのは、私のツッコミではなく、新人たちの『豆腐のような精神力』ではありませんこと?」


「……それもそうだな。貴殿に鍛えられたおかげで、私の忍耐力だけは神の領域に達した気がする」


カイン様がふっと、私だけに向けられる甘い微笑みを浮かべました。
私は彼の胸元に寄り添いながら、窓の外に広がる平和な王都を眺めました。


辺境の塔で今も「主語と述語の練習」に励んでいるというウィルフレッド元王子の噂も、たまにレオン殿下から届く「隣国の汚職が減りすぎて退屈だから、君を拉致しに行くぞ」という物騒な手紙も、今の私にとってはただの楽しいネタの一つ。


「……エリー。幸せか?」


カイン様が私の耳元で囁きました。


「カイン様。判定、入りますわよ。……今の質問。答えが分かっているのにあえて聞く、その『あざとい確認作業』。……プラス、一億点ですわ」


私はカイン様を見上げ、最高に不敵で、最高に幸せな笑みを浮かべました。


「私は自由で、愛されていて、そして何より……ツッコミを入れるべき『残念な出来事』が、この世界にはまだ溢れていますもの。……これ以上のハッピーエンドが、どこにありますの?」


窓の外では、今日も誰かが転び、誰かが失言し、誰かが空回りしている。
その全ての瞬間に、私の愛ある毒舌が、爽快な風を吹き込んでいくのです。


「さあ、皆様! 今日も私の実況についてきてくださるかしら?」


私は手に持った扇子を、パチン! と小気味よい音を立てて閉じました。


エリー・ノリス(旧姓オルブライト)。
元・悪役令嬢、現・ガヤの達人。


私の人生という名の「最高の舞台」は、これからもツッコミの嵐と共に、永遠に続いていくのですわ!


(判定。……この物語の終わり方。……私らしくて、満点ですわ!)
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