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「ふぅーん。……どっちもガキじゃん」
開口一番。亨と呼ばれた長身の男性は告げる。態度の大きさに一真はムッとなったが、朔夜に腕を掴まれた事により、なんとか声に出すのを堪えた。
「で、ラット起こしたのがそっちの顔の濃いガキの方ね。……まあ、調べなくてもアルファだってわかるけどさ。検査しないと先に進めねぇから、それはわかって貰える? あと、そっちの綺麗な方は薫に任せて良いんだよな?」
「うん、朔夜くんは僕が診るよ。一真くんの方をお願い。あとね。あまりガキ言わない方が良いよ。彼ら、入江医師の息子に、あの『鷲尾』の御曹司だから。怒られたら僕達なんて、ねぇ?」
「げ! マジかよっ。薫、お前それを先に言えっ!!」
目の前で繰り広げられる会話に、二人は呆気にとられる。口が悪い亨をあっさりと薫は制している。子供であるしおりは慣れているようで、ニコニコと様子を伺っている。
「あ、あのぉ……」
会話に割り込んでいい物かどうか、迷ったが朔夜は声を上げた。
「すみません、これからどうしたらいいのか、俺達はどうなるのか。わかりやすく教えてもらってもいいですか?」
申し訳なさそうに、しかしきちんと順を追って質問した朔夜を、亨は好感的に思った。このような事態に陥れば、大人でさえパニックを起こしかねないというのにしっかりとしている。そこに、昔の薫を見たような気がしたのだ。
対する一真を吟味するように眺めると、こちらはこちらで腹をくくったようにも見える。『ラット』を起こしたわりには平然としている。何人か、同様の事例を診てきてはいるが、彼のようなタイプは初めてかもしれない。
(……なるほどね)
アルファの勘と言うべきか、亨はそれだけで一真の抱えている想いに気づいた。それならば、大事であるにも関わらず落ち着いているのも納得がいく。オメガの彼の方は、それに気づいた時どのような反応を示すのか。想像しただけで面白くなり、思わずニヤける。
「あ! とーる悪いことこと考えてるっ!」
「えっ? そ、そんなことねぇよ」
「ほらやっぱり! とーる悪いことするとき顔がこーんなになるんだもんっ、私わかるよっ!!」
父親の表情を真似しているのか、思いっきり口を横に引っ張って笑みを作ったしおりに、薫はクスクスと笑う。その様子がおかしくて、朔夜達もつられるように。
「あ、ようやく笑ってくれたね。良かった。朔夜くんずっと思い詰めたような顔してたから心配だったんだ。じゃあ、説明するね。まず一真くん。君の場合はセンターの方で検査を受けて、カウンセリングをして貰う形になるんだけど、それを、裏からやろうと思う」
「えっ? そんなことできるの??」
「だからぁ、そのために俺が来てるんだろうが。確かに薫が紹介状を書いて、俺の所に持ってくれば診察はできる。だが、それは表を通すことになるから大っぴらにわかっちまうんだ。そうなると事が大きくなる。それって、お前の立場上、よくねぇだろ?」
言われて納得する。あの報道も名前は公表されていないが、ネットで憶測が飛び、誰なのか名前はもちろん、住所や通っている小学校まであからさまになったらしい。らしい、と言うのは実際にこの目で見たわけではないのではっきり言えないだけ。そのような噂が飛んだだけで、『鷲尾』としては大ダメージだ。朔夜が二人で診察を受けるという事から、一真のことまでざっくりとではあるがメールに書いていたからこそ、先手が打てた。
「あと、朔夜くんなんだけど、さっきも言ったけれどしばらくは毎週ここに来て。様子も見たいし、後、カウンセリングもしたいな」
「えっ? 俺、も??」
「そう。君の場合はもっと周りに頼れるようにね。まあ、カウンセリングと言うより僕と雑談をするって感じかな? だから、気楽に来てもらって構わない。大丈夫」
朔夜は、納得がいかないようだったが頷く。
「あ」
その時、一真が声を上げた。
「あのっ、朔夜がメールに書いてるかどうかわからないんだけど、聞いて貰いたいことがあって……」
思い出したように、一真は学校での騒ぎをここでも伝えた。
開口一番。亨と呼ばれた長身の男性は告げる。態度の大きさに一真はムッとなったが、朔夜に腕を掴まれた事により、なんとか声に出すのを堪えた。
「で、ラット起こしたのがそっちの顔の濃いガキの方ね。……まあ、調べなくてもアルファだってわかるけどさ。検査しないと先に進めねぇから、それはわかって貰える? あと、そっちの綺麗な方は薫に任せて良いんだよな?」
「うん、朔夜くんは僕が診るよ。一真くんの方をお願い。あとね。あまりガキ言わない方が良いよ。彼ら、入江医師の息子に、あの『鷲尾』の御曹司だから。怒られたら僕達なんて、ねぇ?」
「げ! マジかよっ。薫、お前それを先に言えっ!!」
目の前で繰り広げられる会話に、二人は呆気にとられる。口が悪い亨をあっさりと薫は制している。子供であるしおりは慣れているようで、ニコニコと様子を伺っている。
「あ、あのぉ……」
会話に割り込んでいい物かどうか、迷ったが朔夜は声を上げた。
「すみません、これからどうしたらいいのか、俺達はどうなるのか。わかりやすく教えてもらってもいいですか?」
申し訳なさそうに、しかしきちんと順を追って質問した朔夜を、亨は好感的に思った。このような事態に陥れば、大人でさえパニックを起こしかねないというのにしっかりとしている。そこに、昔の薫を見たような気がしたのだ。
対する一真を吟味するように眺めると、こちらはこちらで腹をくくったようにも見える。『ラット』を起こしたわりには平然としている。何人か、同様の事例を診てきてはいるが、彼のようなタイプは初めてかもしれない。
(……なるほどね)
アルファの勘と言うべきか、亨はそれだけで一真の抱えている想いに気づいた。それならば、大事であるにも関わらず落ち着いているのも納得がいく。オメガの彼の方は、それに気づいた時どのような反応を示すのか。想像しただけで面白くなり、思わずニヤける。
「あ! とーる悪いことこと考えてるっ!」
「えっ? そ、そんなことねぇよ」
「ほらやっぱり! とーる悪いことするとき顔がこーんなになるんだもんっ、私わかるよっ!!」
父親の表情を真似しているのか、思いっきり口を横に引っ張って笑みを作ったしおりに、薫はクスクスと笑う。その様子がおかしくて、朔夜達もつられるように。
「あ、ようやく笑ってくれたね。良かった。朔夜くんずっと思い詰めたような顔してたから心配だったんだ。じゃあ、説明するね。まず一真くん。君の場合はセンターの方で検査を受けて、カウンセリングをして貰う形になるんだけど、それを、裏からやろうと思う」
「えっ? そんなことできるの??」
「だからぁ、そのために俺が来てるんだろうが。確かに薫が紹介状を書いて、俺の所に持ってくれば診察はできる。だが、それは表を通すことになるから大っぴらにわかっちまうんだ。そうなると事が大きくなる。それって、お前の立場上、よくねぇだろ?」
言われて納得する。あの報道も名前は公表されていないが、ネットで憶測が飛び、誰なのか名前はもちろん、住所や通っている小学校まであからさまになったらしい。らしい、と言うのは実際にこの目で見たわけではないのではっきり言えないだけ。そのような噂が飛んだだけで、『鷲尾』としては大ダメージだ。朔夜が二人で診察を受けるという事から、一真のことまでざっくりとではあるがメールに書いていたからこそ、先手が打てた。
「あと、朔夜くんなんだけど、さっきも言ったけれどしばらくは毎週ここに来て。様子も見たいし、後、カウンセリングもしたいな」
「えっ? 俺、も??」
「そう。君の場合はもっと周りに頼れるようにね。まあ、カウンセリングと言うより僕と雑談をするって感じかな? だから、気楽に来てもらって構わない。大丈夫」
朔夜は、納得がいかないようだったが頷く。
「あ」
その時、一真が声を上げた。
「あのっ、朔夜がメールに書いてるかどうかわからないんだけど、聞いて貰いたいことがあって……」
思い出したように、一真は学校での騒ぎをここでも伝えた。
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