74 / 76
74
しおりを挟む
「一真様たちをこちらにお送りした後、わたくしは市内のホテルに待機しようとし向かっておりました。その時に旦那様からご連絡いただいたのです。わたくしが一真様と行動を共にしていることは旦那様たちはもちろんご存じです。そのため、状況を説明して欲しいと」
佐伯はコンビニの駐車場に車を停め、状況を大まかに説明した。その時は、朔夜がヒートを起こしていたことは隠したという。
何故? と言う一真の問いには。
「わたくしの願いは、一真様と同じでございます」
にこやかに彼は告げた。そしてまた、説明に戻る。
一部を除きすべてを伝えた佐伯は指示を待った。それがもし、一真たちを不利な状況に導くものであれば断るつもりで。しかし、予想外のことが彼の耳に届いた。
「旦那様は、一真様と朔夜さんを認めたい、守りたいと仰りました。そして、この状況で不安に押しつぶされそうになっているだろうから、すぐにでも会って謝りたいとも。そのために、きて欲しいと、その際に詳しいことを教えて欲しいとのことでしたので、一真様たちを残すことは心配でございましたが、わたくしはこの地を一度離れたのです」
佐伯はホテルに泊まらずにこの別荘に一旦戻り、しっかりと施錠されていること、消灯されたことを確認してから車を飛ばし、鷲尾家にたどり着いた。両親は一睡もせずに待機していて、すぐさま話をすることになった。朔夜のヒートのことを話したのはその時。両親は驚いたが番になったのならそれは喜ばしいこと。そして、すぐにでも息子たちを守らなければならない。そう思い、ほぼ寝ていないにも関わらず別荘に向かうことを決めた。そして、朔夜を安心させるために、迷惑を承知の上で早朝、まだ陽も昇らぬうちに多英にも連絡し、すぐに来て欲しい旨を伝えた。多英は即座に了承し、朔夜の気にいっているものをバッグに詰め込み、マンションを飛び出したという。
「そう、だったんだ……」
一真がつぶやく。そうして、ポロポロと涙を流し始めた朔夜に、小さく微笑んだ。
「あらあら、坊ちゃん。はい、こちらをお使いください」
多英が差しだしたタオルに顔を埋め、朔夜は肩を震わす。先ほどまでの恐怖や不安のせいではない、安堵の涙だ。
「ごめ、な、さ……」
「ふふっ、いいのよ。むしろ被害者なんだから謝らなくていいの。朔夜くんはそうやって何でも自分のせいにするクセを直した方が良いわね。自己犠牲の精神は素晴らしいと思うけれど、自分をちゃんと愛してあげないとダメよ」
クスクスと笑いながら一真の母は言い、同調するように父が頷く。一真は朔夜をもう一度しっかり抱き寄せて、父と母の目を見つめる。その表情は真剣だ。
「ありがとうございます。お父さん、お母さん」
強い意思を込めたまなざしを受けた両親は、力強く頷いた。
「二人のことは認める。そして、私達の持てる力の限りで守ろう。ただ、それにはいくつか約束して欲しいことがある」
朔夜の涙が落ち着いた頃、父は告げる。
「まずは、一真だ。勝手な行動の数々には驚かされてばかりだ。だが、私もそうだった。父に逆らい起業し、今に至る。血は争えぬものだな。だが、一真。私達はやはりお前に『鷲尾』を継いで欲しい、そして、ますます大きな会社にして欲しい、そう思っている。だから、いずれは今の立場を誰か信頼できる人物に譲り、お前は」
「わかってる」
話を遮るのは失礼だと思ったが、それでも一真は告げた。
「いつになるかわからないけれど、俺は『鷲尾』を継ぐよ」
それを聞き、父は笑顔を見せた。
「朔夜くんには、私からいいかしら?」
「あ、はい……っ」
にこ、と微笑まれ、朔夜はどう対応していいか迷ったが、とりあえず話を聞く体制を作った。
「朔夜くんは、お医者さんになりたいのよね?」
「はい。でも……っ。親とはあんな状態になってしまったし、それに、医者になったとしたら、なんて言われるかわからないし……っ」
「あははっ、もうっ! 朔夜くん、あなたはもう、鷲尾の人間よ。そんなこと、全く気にしなくて良いの」
「……えっ?」
彼女の言うことがよくわからない。
「あ! もちろん結婚はできないわよ。一真がまだ子供だから。でも、あちらさんがなにかやらかしてくるのなら、私達は全力であなたを守るわ。気にせずに学校に通って大学も受けなさい。学費ももちろん払うわ。ただ、そのための条件がある。大学でもトップをキープして。そして、すごい先生になって、あの人達をギャフンと言わせて欲しいの。あなたなら、余裕でできるでしょ?」
「余裕、かどうかはわからないけれど……」
困りながら朔夜が言うと、母は「またまた!」と言い、「あなたなら大丈夫よ。頑張ってね」と加える。
あっけらかんとした様子に、朔夜はようやく小さく笑い。
「ありがとうございます。おばさん」
と、礼を言ったが。
「んー? おばさぁん??」
単語を拾われ、ツッコまれる。
「『おばさん』じゃなくて『お義母さん』よ」
「えっ? ええっ??」
「だって、朔夜くんもう、うちのお嫁さんだもん」
「よ……、よめっ!?」
「そうよ。本当に、こんなに理想的な人を今まで拒否してたなんて、一真はバカ息子だけど、私も相当なバカだわ。ほら、言って。……ね?」
「お……、お義母、さん……っ」
「んー。まあ、今のところは合格かしら? よろしくね。可愛いお嫁さんっ」
「は、はい……っ」
このやりとりを、残された面々は楽しそうに、一真と父にいたっては笑い声まであげて見届けた。
朔夜は、恥ずかしさに顔を真っ赤に染めたが。
ようやく、満面の笑みを浮かべた。
佐伯はコンビニの駐車場に車を停め、状況を大まかに説明した。その時は、朔夜がヒートを起こしていたことは隠したという。
何故? と言う一真の問いには。
「わたくしの願いは、一真様と同じでございます」
にこやかに彼は告げた。そしてまた、説明に戻る。
一部を除きすべてを伝えた佐伯は指示を待った。それがもし、一真たちを不利な状況に導くものであれば断るつもりで。しかし、予想外のことが彼の耳に届いた。
「旦那様は、一真様と朔夜さんを認めたい、守りたいと仰りました。そして、この状況で不安に押しつぶされそうになっているだろうから、すぐにでも会って謝りたいとも。そのために、きて欲しいと、その際に詳しいことを教えて欲しいとのことでしたので、一真様たちを残すことは心配でございましたが、わたくしはこの地を一度離れたのです」
佐伯はホテルに泊まらずにこの別荘に一旦戻り、しっかりと施錠されていること、消灯されたことを確認してから車を飛ばし、鷲尾家にたどり着いた。両親は一睡もせずに待機していて、すぐさま話をすることになった。朔夜のヒートのことを話したのはその時。両親は驚いたが番になったのならそれは喜ばしいこと。そして、すぐにでも息子たちを守らなければならない。そう思い、ほぼ寝ていないにも関わらず別荘に向かうことを決めた。そして、朔夜を安心させるために、迷惑を承知の上で早朝、まだ陽も昇らぬうちに多英にも連絡し、すぐに来て欲しい旨を伝えた。多英は即座に了承し、朔夜の気にいっているものをバッグに詰め込み、マンションを飛び出したという。
「そう、だったんだ……」
一真がつぶやく。そうして、ポロポロと涙を流し始めた朔夜に、小さく微笑んだ。
「あらあら、坊ちゃん。はい、こちらをお使いください」
多英が差しだしたタオルに顔を埋め、朔夜は肩を震わす。先ほどまでの恐怖や不安のせいではない、安堵の涙だ。
「ごめ、な、さ……」
「ふふっ、いいのよ。むしろ被害者なんだから謝らなくていいの。朔夜くんはそうやって何でも自分のせいにするクセを直した方が良いわね。自己犠牲の精神は素晴らしいと思うけれど、自分をちゃんと愛してあげないとダメよ」
クスクスと笑いながら一真の母は言い、同調するように父が頷く。一真は朔夜をもう一度しっかり抱き寄せて、父と母の目を見つめる。その表情は真剣だ。
「ありがとうございます。お父さん、お母さん」
強い意思を込めたまなざしを受けた両親は、力強く頷いた。
「二人のことは認める。そして、私達の持てる力の限りで守ろう。ただ、それにはいくつか約束して欲しいことがある」
朔夜の涙が落ち着いた頃、父は告げる。
「まずは、一真だ。勝手な行動の数々には驚かされてばかりだ。だが、私もそうだった。父に逆らい起業し、今に至る。血は争えぬものだな。だが、一真。私達はやはりお前に『鷲尾』を継いで欲しい、そして、ますます大きな会社にして欲しい、そう思っている。だから、いずれは今の立場を誰か信頼できる人物に譲り、お前は」
「わかってる」
話を遮るのは失礼だと思ったが、それでも一真は告げた。
「いつになるかわからないけれど、俺は『鷲尾』を継ぐよ」
それを聞き、父は笑顔を見せた。
「朔夜くんには、私からいいかしら?」
「あ、はい……っ」
にこ、と微笑まれ、朔夜はどう対応していいか迷ったが、とりあえず話を聞く体制を作った。
「朔夜くんは、お医者さんになりたいのよね?」
「はい。でも……っ。親とはあんな状態になってしまったし、それに、医者になったとしたら、なんて言われるかわからないし……っ」
「あははっ、もうっ! 朔夜くん、あなたはもう、鷲尾の人間よ。そんなこと、全く気にしなくて良いの」
「……えっ?」
彼女の言うことがよくわからない。
「あ! もちろん結婚はできないわよ。一真がまだ子供だから。でも、あちらさんがなにかやらかしてくるのなら、私達は全力であなたを守るわ。気にせずに学校に通って大学も受けなさい。学費ももちろん払うわ。ただ、そのための条件がある。大学でもトップをキープして。そして、すごい先生になって、あの人達をギャフンと言わせて欲しいの。あなたなら、余裕でできるでしょ?」
「余裕、かどうかはわからないけれど……」
困りながら朔夜が言うと、母は「またまた!」と言い、「あなたなら大丈夫よ。頑張ってね」と加える。
あっけらかんとした様子に、朔夜はようやく小さく笑い。
「ありがとうございます。おばさん」
と、礼を言ったが。
「んー? おばさぁん??」
単語を拾われ、ツッコまれる。
「『おばさん』じゃなくて『お義母さん』よ」
「えっ? ええっ??」
「だって、朔夜くんもう、うちのお嫁さんだもん」
「よ……、よめっ!?」
「そうよ。本当に、こんなに理想的な人を今まで拒否してたなんて、一真はバカ息子だけど、私も相当なバカだわ。ほら、言って。……ね?」
「お……、お義母、さん……っ」
「んー。まあ、今のところは合格かしら? よろしくね。可愛いお嫁さんっ」
「は、はい……っ」
このやりとりを、残された面々は楽しそうに、一真と父にいたっては笑い声まであげて見届けた。
朔夜は、恥ずかしさに顔を真っ赤に染めたが。
ようやく、満面の笑みを浮かべた。
1
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
【完結】番になれなくても
加賀ユカリ
BL
アルファに溺愛されるベータの話。
新木貴斗と天橋和樹は中学時代からの友人である。高校生となりアルファである貴斗とベータである和樹は、それぞれ別のクラスになったが、交流は続いていた。
和樹はこれまで貴斗から何度も告白されてきたが、その度に「自分はふさわしくない」と断ってきた。それでも貴斗からのアプローチは止まらなかった。
和樹が自分の気持ちに向き合おうとした時、二人の前に貴斗の運命の番が現れた──
新木貴斗(あらき たかと):アルファ。高校2年
天橋和樹(あまはし かずき):ベータ。高校2年
・オメガバースの独自設定があります
・ビッチング(ベータ→オメガ)はありません
・最終話まで執筆済みです(全12話)
・19時更新
※なろう、カクヨムにも掲載しています。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞に応募しましたので、見て頂けると嬉しいです!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
36.8℃
月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。
ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。
近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。
制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。
転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。
36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。
香りと距離、運命、そして選択の物語。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる