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Chapter5
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今日も、この店に似合わない客が来ている。しかも、ブレーンと呼ばれる男とその恋人も一緒だ。
「ねぇ、航汰さん。あれ……」
「うん。言いたいことはわかるよ。でもさ……」
笹本と沢井。
二人ともこの奇妙な空気に当てられ、どう対応すればいいのかわからず、戸惑っている。
受け取った酒をほぼ一気にあおり。
「もう一杯。俺の好きなやつ、作れよ。作れんだろ?」
と、ほぼ命令口調で告げる濱田と、無言で対応する綾瀬。
「……お前さ。何か返す言葉はないわけ? バーテンって、客との会話も仕事の一つだろ?」
刃向かうことを期待して突っかかる彼を。
「特に何も」
綾瀬は、一言で返す。
この光景を初めて見た沢井は、唖然とした。綾瀬と言えば、笹本に対しても沢井に対しても、容赦なく軽口を叩く。かなりキツいことも言うが、その中に隠されている本心も見え隠れしているため、彼らはさほど傷を負うことなく、言葉を受け止めることができるというのに。
いったい、何が目の前で起こっているのか。
濱田にしても、おかしい。
そもそも、社長の割には無口すぎて、笹本がその分説明に追われ、苦労しているというのが常。それでもこのポジションがつとまるのは、仕事はそつなくこなし、無関心のように見えて周りを気遣い、さりげなく手をさしのべる。そんな視野の広さと、社員に対する気配りが、社員に感謝の心を芽生えさせ、信頼を厚くする。
その成果が、グループの功績にも繋がっているのだ。
つまりは。
彼のこんな様子を見るのは、ほかにはない、ということ。
「航汰さん。濱田さんってさぁ……」
見ていられない、という様子で沢井は告げる。
一大グループの社長を軽々しく呼ぶ彼もどうかと思うが、濱田が良しとしたのだ。そして、沢井のコーディネートと人柄に惚れ、仕事を発注するのも濱田自身。また、笹本が沢井との関係を告げたときは、驚きはしたが素直に認めたのも記憶に新しい。
そんな彼が思うのは。
「ね?尚哉くんのこと好きなのかな?濱田さんって」
それに対し、笹本は。
「はぁ? ……いや、それはないと思う。だって樹くん、言い寄ってくる女子社員たちも「興味ないから」って冷たくあしらったくらいだよ。男なんて、そんな……っ。考えられないよ」
「でもっ! ……俺たちのことは、認めてくれたよ?」
あっさりと否定しても尚、食らいつく沢井に。
ため息を一つつき、彼は告げる。
「ん。……それはたぶん、『俺と宏之だから』だよ。樹くん、よく言ってるもん。男同士なんてあり得ない、気持ちが悪い、反吐がでる……、って。だから、俺たちのことを言うのも怖かったんだけどさ……。認めてくれたとき、俺が膝の力抜けて床に座り込んだの、宏之だって覚えてるだろ?」
そう言われ、ああ……、と思い出す。
沢井にまではっきり伝わる震えと荒い呼吸。そのときは、そこまで緊張する理由がわからなかったが、その前提があったのなら、と納得する。
「じゃあ、さ。なんで……、ああなの?」
「それは、俺が聞きたいくらいだよ……」
ストレートに聞いてくる沢井に、笹本は頭を抱えた。
「ねぇ、航汰さん。あれ……」
「うん。言いたいことはわかるよ。でもさ……」
笹本と沢井。
二人ともこの奇妙な空気に当てられ、どう対応すればいいのかわからず、戸惑っている。
受け取った酒をほぼ一気にあおり。
「もう一杯。俺の好きなやつ、作れよ。作れんだろ?」
と、ほぼ命令口調で告げる濱田と、無言で対応する綾瀬。
「……お前さ。何か返す言葉はないわけ? バーテンって、客との会話も仕事の一つだろ?」
刃向かうことを期待して突っかかる彼を。
「特に何も」
綾瀬は、一言で返す。
この光景を初めて見た沢井は、唖然とした。綾瀬と言えば、笹本に対しても沢井に対しても、容赦なく軽口を叩く。かなりキツいことも言うが、その中に隠されている本心も見え隠れしているため、彼らはさほど傷を負うことなく、言葉を受け止めることができるというのに。
いったい、何が目の前で起こっているのか。
濱田にしても、おかしい。
そもそも、社長の割には無口すぎて、笹本がその分説明に追われ、苦労しているというのが常。それでもこのポジションがつとまるのは、仕事はそつなくこなし、無関心のように見えて周りを気遣い、さりげなく手をさしのべる。そんな視野の広さと、社員に対する気配りが、社員に感謝の心を芽生えさせ、信頼を厚くする。
その成果が、グループの功績にも繋がっているのだ。
つまりは。
彼のこんな様子を見るのは、ほかにはない、ということ。
「航汰さん。濱田さんってさぁ……」
見ていられない、という様子で沢井は告げる。
一大グループの社長を軽々しく呼ぶ彼もどうかと思うが、濱田が良しとしたのだ。そして、沢井のコーディネートと人柄に惚れ、仕事を発注するのも濱田自身。また、笹本が沢井との関係を告げたときは、驚きはしたが素直に認めたのも記憶に新しい。
そんな彼が思うのは。
「ね?尚哉くんのこと好きなのかな?濱田さんって」
それに対し、笹本は。
「はぁ? ……いや、それはないと思う。だって樹くん、言い寄ってくる女子社員たちも「興味ないから」って冷たくあしらったくらいだよ。男なんて、そんな……っ。考えられないよ」
「でもっ! ……俺たちのことは、認めてくれたよ?」
あっさりと否定しても尚、食らいつく沢井に。
ため息を一つつき、彼は告げる。
「ん。……それはたぶん、『俺と宏之だから』だよ。樹くん、よく言ってるもん。男同士なんてあり得ない、気持ちが悪い、反吐がでる……、って。だから、俺たちのことを言うのも怖かったんだけどさ……。認めてくれたとき、俺が膝の力抜けて床に座り込んだの、宏之だって覚えてるだろ?」
そう言われ、ああ……、と思い出す。
沢井にまではっきり伝わる震えと荒い呼吸。そのときは、そこまで緊張する理由がわからなかったが、その前提があったのなら、と納得する。
「じゃあ、さ。なんで……、ああなの?」
「それは、俺が聞きたいくらいだよ……」
ストレートに聞いてくる沢井に、笹本は頭を抱えた。
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