Chaka

宮成 亜枇

文字の大きさ
上 下
42 / 46
Chapter7

2

しおりを挟む

「綾瀬くんが来てるのを知ったのは、たまたまだよ。秘書課がなんかざわついてるから、どうしたのか聞いたら、社長に面会希望の人がいて、案内したら、なんだか様子が変だった。どこかの社長って言うような感じでもないし、何だろうって言うからさ。受付に確認した」
 そこから始まった笹本の話は、当然と言えば当然で。
 綾瀬のような身なりの者がいきなり社のトップに会いたいとやって来て、叶うとなれば、秘書が訝しがるのが普通。
 その時に、笹本は嫌な予感がしたらしい。
 もし、何かあった場合、その場を一人で何とかできる自信はない。
 信頼できる相手と、できるだけ内密に事を終わらせたい。
 そう思った彼は、沢井にアポを取った。そこで。
「その時に、宏之から間宮さんがとんでもない会見やってた! って、聞かされたんだよ」
 ふっ、と笑みを浮かべて。笹本は告げる。
 間宮は、困ったようにそれを受け止めた。
『とんでもない』。確かにそうなのかもしれないが。考え、悩み、それで出した結果がそれだっただけ。
 端からの評価に、苦笑を浮かべるしかなかった。
「それで、俺も慌ててスマホで確認してみたら、ああ、そう言うことか。だから、綾瀬くんは乗り込んできたんだって。宏之から、間宮さんと綾瀬くんのことは聞かされてたからさ。そして、この会見を樹くんが見ていたら、ただじゃ済まないってますます思って、それで、宏之に手が空き次第来てもらうようにお願いしたんだ」
「俺も、仕事の合間にテレビで見たから、詳しいことわからなくて。でも、航汰さんがそう言うんだったら、あ、ホントにヤバいって思って、めちゃくちゃ巻きで仕事終わらせて、超ダッシュで航汰さんの所に行ったの! それで、航汰さんと一緒に社長室まで行ったら、濱田さんの大声が聞こえたから、もう……っ。その後は無我夢中。ホント……、間に合ってよかったぁ……」
 テンポよく話す二人に。
 間宮は「またかよ……っ」と、半ば呆れたように、残りは苦悩したように呻く。
 どうやら。
 自分の好きになった相手は相当なに破天荒らしい。自ら危険なところに突っ込んでいく、または、呼び込む。
 綾瀬も同様に思ったようで、それについては「ゴメン」としか言いようがなかった。
 
「ほんっと。さすがはアタシの娘。ナオちゃんって、とことん姫気質ね。でも、おてんば姫。ただ待ってるだけじゃ気が済まない。降りかかった火の粉は自分で払う? ……陸ちゃーん。大変よぉ? この子の王子様努めるの。大丈夫ぅ??」
 話を聞いて、呆れたように確認する真澄に、
「あー。平気平気。俺、ジムで鍛えてるし。女々しかったり、女を武器にしてくるヤツよりはよっぽどいいや」
 間宮は返す
「あのさぁ……。俺はママの娘でもねーし、ましてや姫でもないんだけどぉ」
  の、綾瀬の抗議は、
「いーえっ! ナオちゃんはアタシの娘で姫っ! もう、これは決定事項で何があっても変わらない、変えられないものなのよっ♪」
 と、意味不明な持論で片づけられた。

「ちょっと! ママぁ……」
「くははっ! もう、諦めるんだなっ!」
 嘆く綾瀬に、豪快に笑う間宮。
 突然始まったやりとりに、笹本達は呆気にとられ、「あははっ!」と二人で笑い出す。
 綾瀬には「ちょっと! 笑ってないで止めてよっ!!」と言われたが、そんな気はサラサラない。
「コホンっ! ……で? 俺があそこからいなくなった後、何があったわけ? どうしたら、沢井さんのその頬に繋がるの??」
 
 照れくさそうに耳まで真っ赤にしながら。
 咳払いをして綾瀬は、話を切り替える。
 
 それにも、「尚哉くん、かっわいいー」と沢井は突っついたが、本人に睨みつけられたことにより、それ以上は自粛した。
 
「それ、なんだけどね。樹くんに、ちょっとキツいこと、言ったかもしれない……」
「でもっ、航汰さんの言ったことは間違ってないよ? ずっと言いたかったことなんでしょ」
「そう、なんだけどね。でもさぁ……」
 急に言葉に詰まった笹本に、沢井は宥めるように語る。
 間宮と綾瀬は、彼らのやりとりを唖然として見つめる以外なかった。
 
しおりを挟む

処理中です...