女王蜂

宮成 亜枇

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 辛辣、といえるほどの言葉をあびて。トボトボと車に戻る。
「……どうした?」
 乗り込むと、様子がおかしいことに気づいた鷲尾がすぐに声をかけたが、水無瀬は黙り込んだまま。先ほどまでの高揚感はどこへやら。憔悴しきって、シートに沈み込んでいる。
「……古城くんに、キツく言われた?」
「えっ?」
「あ、さっきの。荻原さんの知り合いなんだって」
「……。そう……」
 車から飛び出す前だったら、この情報に食いついてきたはずなのに、今の水無瀬は空返事をしたまま、現実逃避するように窓の外に視線を送る。
「……ビックリした? 古城くんね、アルファを相当毛嫌いしてるから。かなり酷いこと、言ったんじゃない?」
「っ。な、んで……?」
「ん?何となくね」
 運転をしているから、視線は合わないが。荻原は友人に話すような口調で、語りかける。
「えっ? あの……。アイツ、ひょっとして」
「さすがだね。そう、彼はオメガだよ」
 一瞬だけ、ミラーを挟んで鷲尾を見た荻原は、驚く様子を全く介さず続ける。
「二人とも、こう言う仕事やってるからよくわかると思うけれど。オメガって言うだけで、社会からの偏見や差別はかなりある。古城くんもね、そう言う目でずっと見られ続けてきた。でも彼自身は、それに対抗する術を知ってるし、実践してる。だからね。オメガだからって甘く見ると、痛い目に遭うよ。僕はそう言う人を何人も見てきたから」
「俺、そんな風に思ってないのに……」
 荻原の話は、水無瀬の耳にも届いている。
 そもそも、オメガだと言うことも知らなかった。ただ、会いたい、話がしたい。どういう人物なのか知りたい、そう思っただけだ。……なのに。
「うん。でも仕方ないんだ。彼はそうやって牙をむかないと、自分を保てないところがあるから……」
 水無瀬のつぶやきをやんわり受け止めた荻原は、苦笑と共に説明する。
「それって。どういうことですか?」
「鷲尾くんには、オメガの番がいるよね? しかもアルファに混ざってあのセンターで働いてる」
「……ええ」
「それができるってことは相当な才能があることだけど。やっぱりどこか、無理してるんじゃない?」
「あ……っ」
 そこまで言われて、思い当たる節があった。入江はもう、アルファを惑わすものを放つことはないが、それでも、抗うために飲む薬の副作用、そして。口にはしないが肌では感じているのだろう、アルファの蔑む視線。ごくたまにではあるが、家に帰った途端に倒れ込むことがあると、佐々木から聞かされていた。
「ね?……荻原さん。それじゃあ、どうなんの?」
「ん?」
「あの。……さっき会った」
「それなんだけどね」
 待っていた、とでも言いたげに、荻原は彼らに告げた。
「このままじゃ、たぶん古城くんはダメになる。もし、良かったらなんだけど。一度、彼と話をして欲しいんだ。場所は、僕がセッティングする。時間はそちらに合わせることができると思う。……どうだろう?」
 このタイミングを逃してしまえばきっと、古城の思考を変えるチャンスはない。二人が多忙なのは理解しているが。これは荻原の切なる想い。

 彼らにも、それはしっかりと伝わった。
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