女王蜂

宮成 亜枇

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 片方の手は、胸の尖り。もう片方は、熱を帯びる、己の欲望へ。
「んんっ、あっ。……やぁ……んっ」
 くぐもった、甘い声は。部屋に虚しく響き、消える。
 この声が、外に漏れることはない。
 いくら同居しているからとはいえ、家族でも親戚でもないものに、マグマのように沸き上がるものに抗う様子は知られたくないはず。事情をよく知る楓が荻原に頼み、部屋そのものに防音を施したからだ。

「ひゃっ、あんっ!」
 より、強い刺激が欲しくて。先端を指で引っ掻く。そのたびに訪れる、痺れ。
 虐められた尖りは、赤く腫れ。
 そのままになっている片方は、刺激を求めてひくつく。

 天を扇ぐほどにそり上がった欲を、扱き、引っ掻き。そのスピードは、ますます上がる。
「んあっ、ああっ!!」
 声と共に。手を汚すのは……、白濁。と、同時に。跳ねた腰は、ベッドに沈み込む。
 しかし。熱は、納まることを知らない。放ったはずの熱棒は、萎えることなく次を求め。
 ポタポタ、と。涙をこぼす。

「んんっ、うん……っ!!」
 古城は、身体を反転させ。
 両胸の飾りを強く押しつけ、片手で熱を包み、もう片方は……、蕾へ。

「んあっ!」
 プツリ、と侵入させた指は、あっさりと飲み込んで。
「あっ、ああんっ」
 より、深くを求めて、先へ進んでいく。……が。

 届かない。
 一番虐めて欲しい場所には。
 どうしても届かないその場所が、疼いて、仕方がない。

 刺激を求める古城が、喘ぎながら手にしたのは。男性器をかたどった、玩具。これを使用すること自体、屈辱的ではあるが、この疼きを、熱を、少しでも開放したくて、震えながら、蕾に送る。
「あっ、いた……っ」
 そんなものを、大してならしもせずに入れれば痛みは当然走る。……それでも。彼は構わず、自らの内部へ押し込んでいく。
「い……っ、た。……やあっ!」
 電子的な振動。しかし、それでも。欲しいところに届いた刺激は、快感となって襲いかかる。
「ああっ、あっ……。あぅ……んっ」
 ビクビクと、欲望は何度も飛沫を飛ばすが、それでも満たされない。快楽の波は何度も襲いかかるのに、その海へ、どうしても攫ってくれない。
 身体を駆け巡る熱は、ここまで身体を虐めても、まだ、沸き上がってきて。
「ああっ、ああ……っ」
 うわごとの様に。言葉にならない声を。溢れてくる涙と、涎と共に発する。

 苦しい。 
 辛い。
 もう、やめて欲しい。

 なのに、この手は止まってくれない。前も後ろも、ジンジンと熱を持ち、晴れあがっているのがわかる。胸の尖りに至っては、血が滲んでいるのだろう、シーツに、垢がこびりついた。

 心臓は、バクバクと早鐘を打つ。
 涎と涙は、どうしても止まってくれそうにない。

 薬を飲んだはずなのに。もう、効いていていいはずなのに。
 愚かにも、以前薬を飲まずに耐えようとしたその時よりも、酷い症状が、古城の思考も体力も奪う。
 このまま、死ぬのではないか。
 そんなことさえ、脳裏をよぎった時。

『アンタさ、いくらならオレ、抱ける?』
 脳裏にこびりつく、自分の声。そして……、あの男が目の前に現れる。

「……い、て……」
 途切れ途切れの言葉の中、古城は紡ぐ。

『幻覚』。
 頭のどこかで、わかっていた。しかし今は、縋ってでもこの苦しみから逃れたかった。

「……をっ、だ……てっ」
 うわごとの様に言葉にならない声を。涙と涎と共に発する。

(その手で、オレのを)
(アンタので、オレを……っ!!)

 混濁する意識の中。思ったのはただ……、ひとつ。






『……イケよ』

「はぁっ、あっ……。ああぁぁぁぁっ!!」


 脳内にイメージされた、幻の声。それに、古城は逆らうことなく……、爆ぜる。
 ビクビクッ!と全身を硬直させたかと思えばすぐ……、弛緩する。欲はすべて、シーツが受け止めた。

「んぁ、……や、ん……っ」
 玩具の振動は、まだ続いている。

 精も根も尽き果てた古城は。身を任せたまま、静かに瞳を閉じた。
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