女王蜂

宮成 亜枇

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「じゃあ……、なんで、アンタは……」
 嘘ではないことはわかったが、疑問が浮かぶ。
「『アンタ』って言われたくないなぁ。朔夜でいいよ。んーっと。どうして俺がセンターで働いているか、どうして今、ここにいるか。だよね。聞きたいのは」
 それには、素直に頷く。
「まあ……、いろいろあるんだけど。俺には番がいる。あ、予想はつくと思うけどアルファで男だよ。まずは、彼と同じような立場にいたかったこと。それと、オメガって言うだけでバカにしたような目で見るヤツらを見返してやりたかったこと。もう一つは……」 
 そこで、声が止まる。見てみると、言うのを迷っているような、そんな素振りが。ただ単純に続きが聞きたくて、じっ……、と彼を見つめると。入江は、
「俺がここにいれば、俺自身のデータを元に研究や薬の開発ができるでしょ?」
 困ったように告げた。
「これは、一真……、あ、俺の番だけど。彼にも言ってない。自分を犠牲にするなって、絶対に怒られるからさ。でも、サンプルがなくちゃ研究も開発も次に進めない。その数は多い方が良いに決まってる。だからだよ」
 あっさりと伝える入江に、古城はやや睨みつけるように彼を見る。
 ……嫌悪。明らかに、その色が乗っている。
「ん……。言いたいことはわかるよ。でも自分で選んだんだ。後悔はしていない。俺には子供がいる。俺の子だもん。オメガかもしれない。それは、十五歳になれば強制的に検査されるからイヤでも判明がつく。その時までに、アルファもベータもオメガも、そんなものに差別されないようにしたいんだ。
 知ってる? 今、オメガの今の地位を改善しようとあちこちで活動が広まってきてるの。まだまだ、小さなものだけどさ。俺の番はね、そのトップにいる。だから、負けたくない」

 一気に話す入江に、古城は小さく驚きを見せた。いったいこの男には、どれだけの未来が見えているのだろうか? そんなこと、考えたこともなかった。アルファに蔑まれて来たのは同じ。なのに、そこからの考え方が全く違う。
 育ての親のように。アルファのあらを探し、晒し、あざ笑うような真似をしてきた自分と。
 すべてを受け入れ、番となり、子を持って。……その未来のために闘っている彼と。
「アンタ……、じゃ、ない。朔夜、さん、は、さ」
 尋ねたいことは頭にあるが、纏まらず。その思いのまま言葉を吐き出したため、切れ切れに。
「な……んで、オレに、こんなこと話したわけ? 会ったばかりなのにさ」
「ああ、それ? ……そのうちわかるよ」

 柔らかい笑みの中に、何か大きなものを隠している。それは理解できたが、追求できずに。
「じゃあ、また後で来るよ」
 古城は。そう言って病室を出て行く彼をただ、見つめていた。

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