女王蜂

宮成 亜枇

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『食ってやる』
 そう言い放った水無瀬に、一同言葉を失う。……が。
「くははっ! ……おっもしれぇ!!」
 少し経って、堪えきれないといった風に鷲尾が笑い出した。
「『食ってやる』って、なんでそうなるんだよっ!」
「だってさぁ……。先に言ったの俺じゃねぇし」
「えっ?」
 水無瀬から言われ、鷲尾だけでなく入江も、その視線の先を追う。そこには。
「……確かに、先に言ったのオレだけど。そう言う意味で言ったんじゃねぇよ」
 呆れたように見つめる、古城の姿が。

 水無瀬に告げたのは、ほぼ初対面の時だ。嫌になるほどアルファを観察し続けてきたから、直感でわかる。だから、アルファ全体に対しての思いをそこに示したまで。それを、都合のいいように変換されても困る。
「アンタもオレが今まで何をしてきたのか、聞いたんでしょ? ならさ。フツーイヤにならない? 実態世間に晒してあざ笑って、金にしてんだから。だからさ、関わんない方が良いいよ。アンタの醜態だって、オレ晒すしね。それに、番とかそう言うの、面倒なのよ。そんなもんに縛られるくらいなら、死んだ方がマシ。わかる? ……オレはずっと、そうやって生きてきた。運命の番だかなんだか知らねぇけれど、あなた達はそう言うものだから一緒になりなさい、なんて言われても無理。ホント……、勘弁してよ」
 ははっ、と軽く笑い。古城はそこまでを一気に言い切る。
 やれやれ、と言った様子は。これが本心なのだと、彼をよく知らないものなら思うだろう。しかし。
「古城くん。……それ以上言ったら怒るよ」
 いつの間にか。古城の細腕を掴み、荻原が強いまなざしを向け、言い放つ。
「ふふっ。……もう怒ってんじゃん」
 たいして古城はクスッと笑い、応戦する。
「荻原さんや楓さんの言いたいこと、わかるよ。でも、受け入れられないものは受け入れられない。それだけ」
 笑みを浮かべたままの彼に、荻原は何も言わない。ただ、その瞳をじっと見つめている。見たことがないほど強く、真剣に。
「……いいですよ。荻原さん」
 様子を見守っていた、入江が告げる。
「古城くんの言う事も、わからないことはないんです。……楓さんも、そうでしょう?」
「ええ……」
 二人のオメガの言葉に、場にいるアルファは首をかしげる。
「番の関係は、どうしても立場的に強いのはアルファです。オメガから番を解除することはできませんが、アルファは一方的にできます。荻原さんも一真もそんなことは微塵も思っていないだろうけれど、どうしても、俺達は心のどこかでその恐怖心、と言うか。そんなものは常に持ってるんです。彼が言う『縛られる』というのもあながち間違ってはない。でも……」
 入江は言葉を切り、全体を見渡し、
「俺は今、十分に幸せだと思っています」
 最後は、古城に向かって告げた。
 イヤそうな目を入江に向けたが、彼は涼しい顔。

「一真」
「ん? 何」
 突然声をかけられ。鷲尾はやや驚いたように返事をする。
「……ここに、呼んでいい? 実を言うとさ、すぐ近くまで来てもらってる」
「へっ? ……あ。そう言うことかっ! いや、俺はいいけど……、いいの?」
「うん、許可は事前にとってある」
 ……いったい、どこまで先を見ているのか。
入江の言葉に驚き、感心しつつ鷲尾は告げる。彼自身、こうやって会い、話すところを見るのは初めてだが、相当な曲者。言葉で通じないのなら、行動で。または、違った角度からのアプローチを。

 水無瀬と古城。
 このままでは平行線。何も進まない。このまま退院したとしても、同じ結果が待っているだけだ。本能が求めてしまう、それを伝え、経験しているにも関わらず拒絶する彼を。
(……あの人だったら、何か変えてくれるかもしれないな) 
 くくっ、と笑いを含みながら鷲尾は思った。
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