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おまけのSS
オメガ達の食事会 2
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並んだメニューは、具だくさんのミネストローネに、ジャガイモとしらすのガレット。野菜のみのキッシュに、彩り豊富のサラダ。そこに、トマトとパプリカ、ブロッコリーが飾られたパエリア。それだけで、テーブルがいっぱいになっている。
「朔夜さん。食えるだけで良いから。楓さんさぁ、作っているうちに楽しくなっちゃったでしょ? まったく」
てきぱきと要領よく取り分けながら古城が呆れたように尋ねると、楓はにこにこと笑って応える。
この光景、よく見るなぁと思いながら、入江は椅子に座る。……確かに、先日までならとても食べられないものばかりだ。しかし、今日なら。
「いただきます」
一言告げて、入江はミネストローネを口に運ぶ。
「どう、ですか?」
「……わ。おい、しい」
「よかった! たくさんありますから是非食べてくださいね! おなかの赤ちゃんのためにも。あ! 蒼さんもですよ。水無瀬さんも食にあまり興味がないって言うから、お二人だとあまり食べてないんでしょ? 今日は、そうもいきませんからね。私たちが食べきれない分、頑張って!」
入江の反応がうれしかったのか、楓は一気に二人に伝える。古城は「マジっ!?」と言う顔を見せたが、どうしても楓には逆らえないようだ。
この関係性がほほえましくて、入江の頬は緩む。
水無瀬と番になる前は、このような態度をほぼ見せなかった古城。アルファを嫌い、醜態を晒すという形で反抗をし、一人で生きていくと牙をむいていた彼が、このようなやんわりとした空気をまとい、ウザそうにしながらも従っている。
そして。なんだかんだ言っても水無瀬のために動いている姿こそ、彼の素なのだろう。垣間見える人間性が、柔らかくて、暖かい。
料理は、すべてが薄味で作られていて。
悪阻であまり食べることができなかった入江も、結構な量を胃に収めた。それでも、さすがにすべてを食べきるということはできずに、残ったものは古城が皿に分けて、冷蔵庫に入れている。
「朔夜さん、さすがにスープ温めるくらいはできるよね?」
「わ! ひどいなぁ……。それくらい、さすがにできるよっ!!」
「そう。ならよかった。スープは一食ずつ小分けにして冷凍庫の方に入れてるから、食欲ないときに解凍して食べたら。それだけでも、少しは栄養になるでしょ?」
言われて、一瞬むっとしたが。そこまで考えていたとなると、感謝をするしかない。
「第一楓さんの作る量がハンパないんだよ」とブツブツ文句を言っているが、手際はとてもいい。何故だろうと思っていると、「水無瀬さんが食べたり食べなかったりするから、慣れたんですって」と、楓から。
「……蒼さんなら、大丈夫そうですね」
「えっ? 何が??」
「ほらっ、楓さんも休む休むっ!」と言われ、隣で休憩と言わんばかりに座っている楓が、小さく笑うので尋ねてみれば。
「お母さん」
それだけを返す。
入江は一瞬何のことだろう? と考えたが、しばらくして合点が行った。『まともな育てられかたしてねーから、子育てなんてできるはずがない』。かつて、古城はそう語っている。……が。
彼の言動や行動を見ていると、その心配は全くないように思えた。
「朔夜さん。食えるだけで良いから。楓さんさぁ、作っているうちに楽しくなっちゃったでしょ? まったく」
てきぱきと要領よく取り分けながら古城が呆れたように尋ねると、楓はにこにこと笑って応える。
この光景、よく見るなぁと思いながら、入江は椅子に座る。……確かに、先日までならとても食べられないものばかりだ。しかし、今日なら。
「いただきます」
一言告げて、入江はミネストローネを口に運ぶ。
「どう、ですか?」
「……わ。おい、しい」
「よかった! たくさんありますから是非食べてくださいね! おなかの赤ちゃんのためにも。あ! 蒼さんもですよ。水無瀬さんも食にあまり興味がないって言うから、お二人だとあまり食べてないんでしょ? 今日は、そうもいきませんからね。私たちが食べきれない分、頑張って!」
入江の反応がうれしかったのか、楓は一気に二人に伝える。古城は「マジっ!?」と言う顔を見せたが、どうしても楓には逆らえないようだ。
この関係性がほほえましくて、入江の頬は緩む。
水無瀬と番になる前は、このような態度をほぼ見せなかった古城。アルファを嫌い、醜態を晒すという形で反抗をし、一人で生きていくと牙をむいていた彼が、このようなやんわりとした空気をまとい、ウザそうにしながらも従っている。
そして。なんだかんだ言っても水無瀬のために動いている姿こそ、彼の素なのだろう。垣間見える人間性が、柔らかくて、暖かい。
料理は、すべてが薄味で作られていて。
悪阻であまり食べることができなかった入江も、結構な量を胃に収めた。それでも、さすがにすべてを食べきるということはできずに、残ったものは古城が皿に分けて、冷蔵庫に入れている。
「朔夜さん、さすがにスープ温めるくらいはできるよね?」
「わ! ひどいなぁ……。それくらい、さすがにできるよっ!!」
「そう。ならよかった。スープは一食ずつ小分けにして冷凍庫の方に入れてるから、食欲ないときに解凍して食べたら。それだけでも、少しは栄養になるでしょ?」
言われて、一瞬むっとしたが。そこまで考えていたとなると、感謝をするしかない。
「第一楓さんの作る量がハンパないんだよ」とブツブツ文句を言っているが、手際はとてもいい。何故だろうと思っていると、「水無瀬さんが食べたり食べなかったりするから、慣れたんですって」と、楓から。
「……蒼さんなら、大丈夫そうですね」
「えっ? 何が??」
「ほらっ、楓さんも休む休むっ!」と言われ、隣で休憩と言わんばかりに座っている楓が、小さく笑うので尋ねてみれば。
「お母さん」
それだけを返す。
入江は一瞬何のことだろう? と考えたが、しばらくして合点が行った。『まともな育てられかたしてねーから、子育てなんてできるはずがない』。かつて、古城はそう語っている。……が。
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