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ひどくしてほしい
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夜の街はひどく明るい。
新宿の歓楽街から少し歩いた場所にあるホテルで、いつもの大好きな人とまぐわう時、少なくともこの街の熱に浮かされている気がする。
「…んっん…ふぁっ」
長い長いキス。ふわりと優しく口元をなぞられれば、どうしようもなく甘い疼きが身体中に広がるのである。
「ほら、こぼさないで」
そういって彼はまた唾液を流し込む。自分のペースで。そして、私が耐えきれなくなると、丁寧に調整してくれるのだ。
(…優しすぎる)
自分には勿体無いくらい。自分を優しく包み込むこの腕も、愛おしそうに見つめる目も、嬉しい。嬉しいが同時に困惑も伴った。
「…ねぇ、もっとひどくしてよ」
甘いだけの感覚に後ろめたさを感じて、遠慮がちに彼を見つめる。
「…ひどく?」
「うん…」
意図が伝わったのか、彼は少し考えた。
「ホントに…?」
私は懇願するように、静かに彼を見つめた。彼はまた少し考え、そして、すぐに顔を私に近づた。
「…優しくしすぎちゃったかな?」
悪戯っぽい笑みを浮かべた後、そう囁いて耳をガブッと噛み始めたのだった。
「…っつ!」
突然の刺激に胸が高鳴る。急に頬が熱くなってきたのが分かった。ジンジンと痛む耳の感覚に喜びを感じながら。
「……好き。」
思わず本音が漏れる。自分の中のスイッチが入ってしまったのかもしれない。
「……ね、もっと…何でもする」
彼を見つめた。何でもしたい。本当に。自分の想いはそういう形でしか表わせないのだと思う。彼は静かに笑うと、要求をした。
「なら…」
私はコクリと頷いた。
ブブブブブブッ
「…はぁっ…あっ…ぁん」
後ろに入ったローターに焦らされつつ、前も大分良くなってきた。彼が見やすいように仰向けで足を立て、股を大きく広げている。自分の気持ちいい触り方。肉棒を扱きながら、快感の波を漂った。
「…ぁっ…もう、…イキそ…ぁっ」
何度となく漂ったフワフワした感覚。そして、そろそろ大きな波が近づいてくる。
「…勝手にイッたら駄目だよ」
ベッドの側の椅子に座り、彼がそう言う。そして、その言い付けが嬉しくて、余計にまた昂ぶってしまう。
「んっ…、はい……、んっ…ぁあっ」
イカないようにしながら、それでも後ろはどんどん良いところを刺激し、前を扱く手も止める事はできない。
「ぁあ……んっ、はぁ……んっ…」
快感が続いていく。彼は徐に椅子から立ち上がった。
「全然足りなそうだね」
そう言ってローターのスイッチを握ると、振動をより一層強くした。二つ入っているローターがぶつかり合う。
「んっ…あっ…んっっ!…あんっ…!」
自分でも限界がきているのがわかった。
「お願いっ……あっ…、もっ…、イク……!!」
堪らない。この感覚が大好きだ。
「ぁっ…!…あっ、あっ…んっ!!」
イク…。そう思って身を委ねようとした時、
「……っ」
後孔の振動は止まり、扱く手も止められる。さっきまでの波が、スーッと去っていくのがわかった。
「…イキたかった?」
彼が近づいてくる。その面持ちからは感情が読み取れない。
(この人は、こんな表情をする人だったっけ…)
彼の態度に少し困惑した。また、散々昂ぶった後にイケなかったことも。
「…イキ…たかった」
私はおずおずと答えた。彼は猫を撫でるように私の顎下を触る。そして静かに
「もう少し我慢して」
とだけ言った。
お預けにされたことは、少なからず私の気持ちを高揚させる。彼に従う。それが、私の愛情表現であり、そうしている自分に興奮した。彼がベッドに腰掛ける。そして自身の股に私の手を手繰り寄せた。私は頷く。彼のそこのボタンを外し、ジッパーを下げ、下着をそっと下げる。そこから現れる慣れ親しんだものは、顔を寄せると僅かにピクリと動いた。
「ほら」
彼に促され、咥え始める。
「んっ…ふぁ…、ぁ。」
「……」
彼の反応は無い。上手く…出来ていないのだろうか。
「…ジュッ…ジュルッッ」
少し大きめに吸ってみる。
「チュッ……」
「……」
静かな時間。自分の行為が何よりも無駄なことのように思えた。彼の目を見つめてみる。そこにはただ何も読み取れない瞳がある。
「……」
また沈黙の時間。虚しく響くしゃぶる音だけが、耳にこびりつく。
「……」
彼が静かに私を見つめる。冷たい、今までに見たことの無い表情。
「…君って本当につまらない」
「……」
突然の言葉に私は目を見開いた。彼は構わず、さも退屈そうに髪をかく。
「何でもかんでも言った通り、それしか出来ないんだ?」
「……」
胸が、抉られた。
「君って下手だね、僕にどう思われるか、それしか考えてない」
「……」
時が重い…。嫌な感情がのしかかる。
「……」
「…どうしたらいいか教えてあげようか?」
彼が口を開いた。私は彼を見上げる。込み上げる感情を、声に出す事ができない。彼は私の頭を掴み、グッと自分のそれを私の喉まで押し付けると
「もっと自分で考えて?」
そう言って、ぐちゃぐちゃと私の口内の奥を圧迫し、それだけ呟いて浴槽へ行った。しばらくすると、シャワーの音がし始める。
(自分で考える…)
それが一番苦手だ。大抵のことは受け入れられる。いや、むしろ普通以上のことも。ただ、自ら何かを行うのが苦手なのだ。誰かに自身を委ねたい。
(つまらない)
自分は飽きられてしまった。現状を理解すると、悲しくて涙が出てきた。ポタリ、ポタリと、シーツに丸いシミが滲む。好きだった人、何でもしたいと思えた人。その人に自分の愛は、ただただ退屈だと思われたのだ。
ガラガラッ
浴槽から出てくる音がした。これから来る彼に、どんな顔をしたらいいのか分からない。彼は部屋に入ってきた。そして、私の方を見て、
「少しいい顔になったね」
と、言った。
「……」
「でもまだまだかな」
そう呟くと、どこから持ち出したのか、彼は手錠を手にしていた。困惑する私を他所に、体をうつ伏せにして、後ろで手を組ます。ガチャリ。動かすことは難しい。そこから、折りたたむようにして私の手を背中にあげると、また仰向けに体を戻させた。
「何…するの」
恐る恐る尋ねてみる。返事は無い。
「うっ…あっ」
彼が肉棒に手を伸ばした。
「あっ…、あっ…んっ…あぁっ…!」
激しく手を動かす。
「んっ……、あっ、…あっ…やめっ!」
ビュッ、ビュッ。勢いよく白濁液が出た。ビクンッ、と身体も大きく揺れる。彼は何も反応しなかった。ただ私が出した後も、黙って手の動きを続けた。
「あっ…、ああっ…んっ、…ぁああっ!」
また身体が大きく揺れる。ビクッ、ビクッ。先程はあんなに欲しかった快感が、今は辛い。無理やり、そして勢いよく与えられているせいかもしれない。彼はまだ手を止めない。ジュポジュポと扱かれる刺激に、頭が狂いそうだ。
「ぁああ…、あんっ……ぁはっ…」
ジュポジュポジュポジュポッ
「んっ…、あっ、んっ…いや…」
耐えきれず、身体をうねらす。
「…っぁああ!」
また液を出した。
「っはぁ…はぁ……」
彼の手が止まる。これでもう終わりにしてくれるのだろうか。しかし、彼は手を私の吐き出した精液に伸ばすと、
「っ…」
それらを指に絡め、私の蕾に塗り込み始めた。冷たい感触に震える。ネチョネチョとした感覚がより一層不安を煽った。彼は一度ベッドから離れる。そして、すぐ傍に置かれた鞄から歪なバイブを取り出した。見たことの無い形。こんなものを、彼が持っていたのか。彼を知っているつもりで、全く知らなかった。そんな自分が嫌になった。
「あっ…」
イボイボとしたそれが、いきなり後孔に入ってくる。
「あっ…んぁっ……、あんっ…」
耐えきれず声を漏らす。中でよくかき混ぜられた後、それはブィーーン、と強い振動を始めた。
「あっ、ぁあっ……ああんっ…!」
息が荒くなっていくのを感じる。そして、同時に肉棒はまた強く扱かれた。
「ぁあああっ…!んっ…駄目駄目…!あっ…、んっ…やぁあああっ…!!」
後ろは深い所を責めてきて、一番の快感のところ。そこを刺激された瞬間、ビクンッ、ビクンッと、果ててしまった。体の震えが止まらない。それでも肉棒は扱かれる。
「ぁっ、い…ぁ……っ」
バイブは快感の場所から動かされなかった。もう、何も考えられない…。
いや……、考えなければ。委ねるだけの快感に流されてはいけないような気がした。
「んっ、はっ…、あんっ…」
身体が動かないなりにも、彼の手を拒絶する。辛すぎる快感に、ただただ逆らおうとした。
「へぇ…」
彼が初めて呟く。その反応に動揺する。
「…………」
「それで…?」
彼はそう嘲った。今まで見たことも無い、心底嬉しそうな笑みで。
「あっ…ぁあああああんっ!!」
バイブはさらに振動を増した。肉棒は、今度は強く握られる。
「こんなにされて、散々喘いで、今更嫌がるの?可笑しいね。」
「やっ…あっ、あっ…、ぁああんっ!」
後ろが疼く。堪らない。手加減の無い刺激が辛かった。ガクガクッ。腰は限界にきている。
「ほら、もっと嫌がってごらんよ」
「ぁっあっあっああああ!!」
相変わらず肉棒は、容赦なく握りしめられる。刺激はさらに強くなる。そして、
「はっ…あっあっあっやっっあああああああんっ!!!!!」
ガクガクガクッ。全身を震わせて私はイッた。
「……ぁっ…ぁ…………ぁっ…ぁ…」
「……」
意識もすぐに遠くなる。
「……ぁっ…ぁ…………」
ピクリ、ピクリ。小さく震える。
「……あぁ、気絶しちゃった…」
彼が静かに笑った。そして、だからと言って止めるそぶりを見せず、首から胸にかけて噛みつき始めた。
「……ぁ………ぁ……」
「…大好きなんだよ、本気で苦しませるの」
途切れそうになる意識の中、遠くで彼が呟いたのが聞こえた。
「んっ……ぁ」
乳首を噛み付かれると、自然に声が漏れる。そして、それを聞いてもっと喘がせるように、彼がまた強く噛む。
(もっと、もっと、辛そうにしてよ)
遠い意識の中、殆ど聞き取れないような声で、そう彼が言った気がした。カプリ。…クチュ、クチュ。静かな音が部屋に響いた。
あれからどれくらい時間が経ったろう。
「んっ…あぁ……」
目覚めると、自分はベッドの上にいた。身体が酷く痛い。ズキンッ、ズキンッ。噛まれたような痕が、全身にある。上半身を起こそうとすると、余計に身体が痛んだ。
「おはよう」
そこには、いつもの彼がいる。彼に何かひどくされたような気がするが、よく思い出せなかった。
「……」
上手く言葉が出ない。
「昨日のこと覚えてる?」
彼が近づいてきた。そして私の股にあるものを掴み、ギュッと力強く握った。
「っ…!」
その刺激で思い出した。昨日、彼に散々虐められたのだ。そして、つまらないと言われた。目から涙が溢れてくる。痛いとか外側の問題じゃなく、内側からどうしようもない感情がこみ上げてくるのだ。ポタリ、ポタリ。涙は頬を伝って、布団に落ちる。すると、
チュッ…。
彼は、優しくキスをした。流れる涙を舌でぬぐい、髪を優しく撫でてくれる。
「え……」
彼のことがよくわからなかった。昨日はあんなに自分を罵って、私を疎んでいたはずなのに。
「どうしてって顔をしてるね」
悪戯ぽく彼が笑う。
「……ひどくしてって君が言うから」
「……」
彼の言葉は意外だった。確かに私はひどくしてほしいと言った。
「やり過ぎたとは思うけど…」
ボソボソと彼は呟いた。私はまだ微妙に不信感を抱えながら、彼に尋ねた。
「本当に嫌いになったんじゃないの…?」
確認するように聞いてみる。彼を上目で見つめてみると、昨日みたいに冷たい表情は見られなかった。
「苦しんだ顔の方が好きなんだ」
彼は申し訳なさそうに、顔を歪めた。そしてまた、静かにキスをしてくれる。
「……好きなんだ。堪らなく」
彼はそう呟いた。
「……」
「昨日はつい箍が外れた…」
こんなに喋る彼も、初めて見たかもしれない。彼は再び、詫びるような顔をした。少し恥ずかしそうに頬を紅くしている。
「……」
「僕のこと、嫌いになった…?」
彼が尋ねる。先程まで自分が嫌われていたと思ったのに、この状況がなんだが可笑しい。何て返そうか少し迷った。このまま、素直に喜ぶ返事をするのも癪だった。そこで、良いことを思いつき、グッと彼の顔に近づく。
「……自分で考えてよ?」
そう、得意げに言ってやり、困惑する瞳を無視して暖かなキスをした。
End.
新宿の歓楽街から少し歩いた場所にあるホテルで、いつもの大好きな人とまぐわう時、少なくともこの街の熱に浮かされている気がする。
「…んっん…ふぁっ」
長い長いキス。ふわりと優しく口元をなぞられれば、どうしようもなく甘い疼きが身体中に広がるのである。
「ほら、こぼさないで」
そういって彼はまた唾液を流し込む。自分のペースで。そして、私が耐えきれなくなると、丁寧に調整してくれるのだ。
(…優しすぎる)
自分には勿体無いくらい。自分を優しく包み込むこの腕も、愛おしそうに見つめる目も、嬉しい。嬉しいが同時に困惑も伴った。
「…ねぇ、もっとひどくしてよ」
甘いだけの感覚に後ろめたさを感じて、遠慮がちに彼を見つめる。
「…ひどく?」
「うん…」
意図が伝わったのか、彼は少し考えた。
「ホントに…?」
私は懇願するように、静かに彼を見つめた。彼はまた少し考え、そして、すぐに顔を私に近づた。
「…優しくしすぎちゃったかな?」
悪戯っぽい笑みを浮かべた後、そう囁いて耳をガブッと噛み始めたのだった。
「…っつ!」
突然の刺激に胸が高鳴る。急に頬が熱くなってきたのが分かった。ジンジンと痛む耳の感覚に喜びを感じながら。
「……好き。」
思わず本音が漏れる。自分の中のスイッチが入ってしまったのかもしれない。
「……ね、もっと…何でもする」
彼を見つめた。何でもしたい。本当に。自分の想いはそういう形でしか表わせないのだと思う。彼は静かに笑うと、要求をした。
「なら…」
私はコクリと頷いた。
ブブブブブブッ
「…はぁっ…あっ…ぁん」
後ろに入ったローターに焦らされつつ、前も大分良くなってきた。彼が見やすいように仰向けで足を立て、股を大きく広げている。自分の気持ちいい触り方。肉棒を扱きながら、快感の波を漂った。
「…ぁっ…もう、…イキそ…ぁっ」
何度となく漂ったフワフワした感覚。そして、そろそろ大きな波が近づいてくる。
「…勝手にイッたら駄目だよ」
ベッドの側の椅子に座り、彼がそう言う。そして、その言い付けが嬉しくて、余計にまた昂ぶってしまう。
「んっ…、はい……、んっ…ぁあっ」
イカないようにしながら、それでも後ろはどんどん良いところを刺激し、前を扱く手も止める事はできない。
「ぁあ……んっ、はぁ……んっ…」
快感が続いていく。彼は徐に椅子から立ち上がった。
「全然足りなそうだね」
そう言ってローターのスイッチを握ると、振動をより一層強くした。二つ入っているローターがぶつかり合う。
「んっ…あっ…んっっ!…あんっ…!」
自分でも限界がきているのがわかった。
「お願いっ……あっ…、もっ…、イク……!!」
堪らない。この感覚が大好きだ。
「ぁっ…!…あっ、あっ…んっ!!」
イク…。そう思って身を委ねようとした時、
「……っ」
後孔の振動は止まり、扱く手も止められる。さっきまでの波が、スーッと去っていくのがわかった。
「…イキたかった?」
彼が近づいてくる。その面持ちからは感情が読み取れない。
(この人は、こんな表情をする人だったっけ…)
彼の態度に少し困惑した。また、散々昂ぶった後にイケなかったことも。
「…イキ…たかった」
私はおずおずと答えた。彼は猫を撫でるように私の顎下を触る。そして静かに
「もう少し我慢して」
とだけ言った。
お預けにされたことは、少なからず私の気持ちを高揚させる。彼に従う。それが、私の愛情表現であり、そうしている自分に興奮した。彼がベッドに腰掛ける。そして自身の股に私の手を手繰り寄せた。私は頷く。彼のそこのボタンを外し、ジッパーを下げ、下着をそっと下げる。そこから現れる慣れ親しんだものは、顔を寄せると僅かにピクリと動いた。
「ほら」
彼に促され、咥え始める。
「んっ…ふぁ…、ぁ。」
「……」
彼の反応は無い。上手く…出来ていないのだろうか。
「…ジュッ…ジュルッッ」
少し大きめに吸ってみる。
「チュッ……」
「……」
静かな時間。自分の行為が何よりも無駄なことのように思えた。彼の目を見つめてみる。そこにはただ何も読み取れない瞳がある。
「……」
また沈黙の時間。虚しく響くしゃぶる音だけが、耳にこびりつく。
「……」
彼が静かに私を見つめる。冷たい、今までに見たことの無い表情。
「…君って本当につまらない」
「……」
突然の言葉に私は目を見開いた。彼は構わず、さも退屈そうに髪をかく。
「何でもかんでも言った通り、それしか出来ないんだ?」
「……」
胸が、抉られた。
「君って下手だね、僕にどう思われるか、それしか考えてない」
「……」
時が重い…。嫌な感情がのしかかる。
「……」
「…どうしたらいいか教えてあげようか?」
彼が口を開いた。私は彼を見上げる。込み上げる感情を、声に出す事ができない。彼は私の頭を掴み、グッと自分のそれを私の喉まで押し付けると
「もっと自分で考えて?」
そう言って、ぐちゃぐちゃと私の口内の奥を圧迫し、それだけ呟いて浴槽へ行った。しばらくすると、シャワーの音がし始める。
(自分で考える…)
それが一番苦手だ。大抵のことは受け入れられる。いや、むしろ普通以上のことも。ただ、自ら何かを行うのが苦手なのだ。誰かに自身を委ねたい。
(つまらない)
自分は飽きられてしまった。現状を理解すると、悲しくて涙が出てきた。ポタリ、ポタリと、シーツに丸いシミが滲む。好きだった人、何でもしたいと思えた人。その人に自分の愛は、ただただ退屈だと思われたのだ。
ガラガラッ
浴槽から出てくる音がした。これから来る彼に、どんな顔をしたらいいのか分からない。彼は部屋に入ってきた。そして、私の方を見て、
「少しいい顔になったね」
と、言った。
「……」
「でもまだまだかな」
そう呟くと、どこから持ち出したのか、彼は手錠を手にしていた。困惑する私を他所に、体をうつ伏せにして、後ろで手を組ます。ガチャリ。動かすことは難しい。そこから、折りたたむようにして私の手を背中にあげると、また仰向けに体を戻させた。
「何…するの」
恐る恐る尋ねてみる。返事は無い。
「うっ…あっ」
彼が肉棒に手を伸ばした。
「あっ…、あっ…んっ…あぁっ…!」
激しく手を動かす。
「んっ……、あっ、…あっ…やめっ!」
ビュッ、ビュッ。勢いよく白濁液が出た。ビクンッ、と身体も大きく揺れる。彼は何も反応しなかった。ただ私が出した後も、黙って手の動きを続けた。
「あっ…、ああっ…んっ、…ぁああっ!」
また身体が大きく揺れる。ビクッ、ビクッ。先程はあんなに欲しかった快感が、今は辛い。無理やり、そして勢いよく与えられているせいかもしれない。彼はまだ手を止めない。ジュポジュポと扱かれる刺激に、頭が狂いそうだ。
「ぁああ…、あんっ……ぁはっ…」
ジュポジュポジュポジュポッ
「んっ…、あっ、んっ…いや…」
耐えきれず、身体をうねらす。
「…っぁああ!」
また液を出した。
「っはぁ…はぁ……」
彼の手が止まる。これでもう終わりにしてくれるのだろうか。しかし、彼は手を私の吐き出した精液に伸ばすと、
「っ…」
それらを指に絡め、私の蕾に塗り込み始めた。冷たい感触に震える。ネチョネチョとした感覚がより一層不安を煽った。彼は一度ベッドから離れる。そして、すぐ傍に置かれた鞄から歪なバイブを取り出した。見たことの無い形。こんなものを、彼が持っていたのか。彼を知っているつもりで、全く知らなかった。そんな自分が嫌になった。
「あっ…」
イボイボとしたそれが、いきなり後孔に入ってくる。
「あっ…んぁっ……、あんっ…」
耐えきれず声を漏らす。中でよくかき混ぜられた後、それはブィーーン、と強い振動を始めた。
「あっ、ぁあっ……ああんっ…!」
息が荒くなっていくのを感じる。そして、同時に肉棒はまた強く扱かれた。
「ぁあああっ…!んっ…駄目駄目…!あっ…、んっ…やぁあああっ…!!」
後ろは深い所を責めてきて、一番の快感のところ。そこを刺激された瞬間、ビクンッ、ビクンッと、果ててしまった。体の震えが止まらない。それでも肉棒は扱かれる。
「ぁっ、い…ぁ……っ」
バイブは快感の場所から動かされなかった。もう、何も考えられない…。
いや……、考えなければ。委ねるだけの快感に流されてはいけないような気がした。
「んっ、はっ…、あんっ…」
身体が動かないなりにも、彼の手を拒絶する。辛すぎる快感に、ただただ逆らおうとした。
「へぇ…」
彼が初めて呟く。その反応に動揺する。
「…………」
「それで…?」
彼はそう嘲った。今まで見たことも無い、心底嬉しそうな笑みで。
「あっ…ぁあああああんっ!!」
バイブはさらに振動を増した。肉棒は、今度は強く握られる。
「こんなにされて、散々喘いで、今更嫌がるの?可笑しいね。」
「やっ…あっ、あっ…、ぁああんっ!」
後ろが疼く。堪らない。手加減の無い刺激が辛かった。ガクガクッ。腰は限界にきている。
「ほら、もっと嫌がってごらんよ」
「ぁっあっあっああああ!!」
相変わらず肉棒は、容赦なく握りしめられる。刺激はさらに強くなる。そして、
「はっ…あっあっあっやっっあああああああんっ!!!!!」
ガクガクガクッ。全身を震わせて私はイッた。
「……ぁっ…ぁ…………ぁっ…ぁ…」
「……」
意識もすぐに遠くなる。
「……ぁっ…ぁ…………」
ピクリ、ピクリ。小さく震える。
「……あぁ、気絶しちゃった…」
彼が静かに笑った。そして、だからと言って止めるそぶりを見せず、首から胸にかけて噛みつき始めた。
「……ぁ………ぁ……」
「…大好きなんだよ、本気で苦しませるの」
途切れそうになる意識の中、遠くで彼が呟いたのが聞こえた。
「んっ……ぁ」
乳首を噛み付かれると、自然に声が漏れる。そして、それを聞いてもっと喘がせるように、彼がまた強く噛む。
(もっと、もっと、辛そうにしてよ)
遠い意識の中、殆ど聞き取れないような声で、そう彼が言った気がした。カプリ。…クチュ、クチュ。静かな音が部屋に響いた。
あれからどれくらい時間が経ったろう。
「んっ…あぁ……」
目覚めると、自分はベッドの上にいた。身体が酷く痛い。ズキンッ、ズキンッ。噛まれたような痕が、全身にある。上半身を起こそうとすると、余計に身体が痛んだ。
「おはよう」
そこには、いつもの彼がいる。彼に何かひどくされたような気がするが、よく思い出せなかった。
「……」
上手く言葉が出ない。
「昨日のこと覚えてる?」
彼が近づいてきた。そして私の股にあるものを掴み、ギュッと力強く握った。
「っ…!」
その刺激で思い出した。昨日、彼に散々虐められたのだ。そして、つまらないと言われた。目から涙が溢れてくる。痛いとか外側の問題じゃなく、内側からどうしようもない感情がこみ上げてくるのだ。ポタリ、ポタリ。涙は頬を伝って、布団に落ちる。すると、
チュッ…。
彼は、優しくキスをした。流れる涙を舌でぬぐい、髪を優しく撫でてくれる。
「え……」
彼のことがよくわからなかった。昨日はあんなに自分を罵って、私を疎んでいたはずなのに。
「どうしてって顔をしてるね」
悪戯ぽく彼が笑う。
「……ひどくしてって君が言うから」
「……」
彼の言葉は意外だった。確かに私はひどくしてほしいと言った。
「やり過ぎたとは思うけど…」
ボソボソと彼は呟いた。私はまだ微妙に不信感を抱えながら、彼に尋ねた。
「本当に嫌いになったんじゃないの…?」
確認するように聞いてみる。彼を上目で見つめてみると、昨日みたいに冷たい表情は見られなかった。
「苦しんだ顔の方が好きなんだ」
彼は申し訳なさそうに、顔を歪めた。そしてまた、静かにキスをしてくれる。
「……好きなんだ。堪らなく」
彼はそう呟いた。
「……」
「昨日はつい箍が外れた…」
こんなに喋る彼も、初めて見たかもしれない。彼は再び、詫びるような顔をした。少し恥ずかしそうに頬を紅くしている。
「……」
「僕のこと、嫌いになった…?」
彼が尋ねる。先程まで自分が嫌われていたと思ったのに、この状況がなんだが可笑しい。何て返そうか少し迷った。このまま、素直に喜ぶ返事をするのも癪だった。そこで、良いことを思いつき、グッと彼の顔に近づく。
「……自分で考えてよ?」
そう、得意げに言ってやり、困惑する瞳を無視して暖かなキスをした。
End.
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