夜の街は

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ひどくしてほしい

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夜の街はひどく明るい。

新宿の歓楽街から少し歩いた場所にあるホテルで、いつもの大好きな人とまぐわう時、少なくともこの街の熱に浮かされている気がする。

「…んっん…ふぁっ」

長い長いキス。ふわりと優しく口元をなぞられれば、どうしようもなく甘い疼きが身体中に広がるのである。

「ほら、こぼさないで」

そういって彼はまた唾液を流し込む。自分のペースで。そして、私が耐えきれなくなると、丁寧に調整してくれるのだ。

(…優しすぎる)

自分には勿体無いくらい。自分を優しく包み込むこの腕も、愛おしそうに見つめる目も、嬉しい。嬉しいが同時に困惑も伴った。


「…ねぇ、もっとひどくしてよ」

甘いだけの感覚に後ろめたさを感じて、遠慮がちに彼を見つめる。

「…ひどく?」

「うん…」

意図が伝わったのか、彼は少し考えた。

「ホントに…?」

私は懇願するように、静かに彼を見つめた。彼はまた少し考え、そして、すぐに顔を私に近づた。

「…優しくしすぎちゃったかな?」

悪戯っぽい笑みを浮かべた後、そう囁いて耳をガブッと噛み始めたのだった。


「…っつ!」

突然の刺激に胸が高鳴る。急に頬が熱くなってきたのが分かった。ジンジンと痛む耳の感覚に喜びを感じながら。

「……好き。」

思わず本音が漏れる。自分の中のスイッチが入ってしまったのかもしれない。

「……ね、もっと…何でもする」

彼を見つめた。何でもしたい。本当に。自分の想いはそういう形でしか表わせないのだと思う。彼は静かに笑うと、要求をした。

「なら…」

私はコクリと頷いた。



ブブブブブブッ

「…はぁっ…あっ…ぁん」

後ろに入ったローターに焦らされつつ、前も大分良くなってきた。彼が見やすいように仰向けで足を立て、股を大きく広げている。自分の気持ちいい触り方。肉棒を扱きながら、快感の波を漂った。

「…ぁっ…もう、…イキそ…ぁっ」

何度となく漂ったフワフワした感覚。そして、そろそろ大きな波が近づいてくる。

「…勝手にイッたら駄目だよ」

ベッドの側の椅子に座り、彼がそう言う。そして、その言い付けが嬉しくて、余計にまた昂ぶってしまう。

「んっ…、はい……、んっ…ぁあっ」

イカないようにしながら、それでも後ろはどんどん良いところを刺激し、前を扱く手も止める事はできない。

「ぁあ……んっ、はぁ……んっ…」

快感が続いていく。彼は徐に椅子から立ち上がった。

「全然足りなそうだね」

そう言ってローターのスイッチを握ると、振動をより一層強くした。二つ入っているローターがぶつかり合う。

「んっ…あっ…んっっ!…あんっ…!」

自分でも限界がきているのがわかった。

「お願いっ……あっ…、もっ…、イク……!!」

堪らない。この感覚が大好きだ。

「ぁっ…!…あっ、あっ…んっ!!」

イク…。そう思って身を委ねようとした時、

「……っ」

後孔の振動は止まり、扱く手も止められる。さっきまでの波が、スーッと去っていくのがわかった。

「…イキたかった?」

彼が近づいてくる。その面持ちからは感情が読み取れない。

(この人は、こんな表情をする人だったっけ…)

彼の態度に少し困惑した。また、散々昂ぶった後にイケなかったことも。

「…イキ…たかった」

私はおずおずと答えた。彼は猫を撫でるように私の顎下を触る。そして静かに

「もう少し我慢して」

とだけ言った。

お預けにされたことは、少なからず私の気持ちを高揚させる。彼に従う。それが、私の愛情表現であり、そうしている自分に興奮した。彼がベッドに腰掛ける。そして自身の股に私の手を手繰り寄せた。私は頷く。彼のそこのボタンを外し、ジッパーを下げ、下着をそっと下げる。そこから現れる慣れ親しんだものは、顔を寄せると僅かにピクリと動いた。

「ほら」

彼に促され、咥え始める。

「んっ…ふぁ…、ぁ。」

「……」

彼の反応は無い。上手く…出来ていないのだろうか。

「…ジュッ…ジュルッッ」

少し大きめに吸ってみる。

「チュッ……」

「……」

静かな時間。自分の行為が何よりも無駄なことのように思えた。彼の目を見つめてみる。そこにはただ何も読み取れない瞳がある。

「……」

また沈黙の時間。虚しく響くしゃぶる音だけが、耳にこびりつく。

「……」

彼が静かに私を見つめる。冷たい、今までに見たことの無い表情。





「…君って本当につまらない」






「……」

突然の言葉に私は目を見開いた。彼は構わず、さも退屈そうに髪をかく。

「何でもかんでも言った通り、それしか出来ないんだ?」

「……」

胸が、抉られた。

「君って下手だね、僕にどう思われるか、それしか考えてない」

「……」

時が重い…。嫌な感情がのしかかる。

「……」

「…どうしたらいいか教えてあげようか?」

彼が口を開いた。私は彼を見上げる。込み上げる感情を、声に出す事ができない。彼は私の頭を掴み、グッと自分のそれを私の喉まで押し付けると

「もっと自分で考えて?」

そう言って、ぐちゃぐちゃと私の口内の奥を圧迫し、それだけ呟いて浴槽へ行った。しばらくすると、シャワーの音がし始める。

(自分で考える…)

それが一番苦手だ。大抵のことは受け入れられる。いや、むしろ普通以上のことも。ただ、自ら何かを行うのが苦手なのだ。誰かに自身を委ねたい。

(つまらない)

自分は飽きられてしまった。現状を理解すると、悲しくて涙が出てきた。ポタリ、ポタリと、シーツに丸いシミが滲む。好きだった人、何でもしたいと思えた人。その人に自分の愛は、ただただ退屈だと思われたのだ。

ガラガラッ

浴槽から出てくる音がした。これから来る彼に、どんな顔をしたらいいのか分からない。彼は部屋に入ってきた。そして、私の方を見て、

「少しいい顔になったね」

と、言った。

「……」

「でもまだまだかな」

そう呟くと、どこから持ち出したのか、彼は手錠を手にしていた。困惑する私を他所に、体をうつ伏せにして、後ろで手を組ます。ガチャリ。動かすことは難しい。そこから、折りたたむようにして私の手を背中にあげると、また仰向けに体を戻させた。

「何…するの」

恐る恐る尋ねてみる。返事は無い。

「うっ…あっ」

彼が肉棒に手を伸ばした。

「あっ…、あっ…んっ…あぁっ…!」

激しく手を動かす。

「んっ……、あっ、…あっ…やめっ!」

ビュッ、ビュッ。勢いよく白濁液が出た。ビクンッ、と身体も大きく揺れる。彼は何も反応しなかった。ただ私が出した後も、黙って手の動きを続けた。

「あっ…、ああっ…んっ、…ぁああっ!」

また身体が大きく揺れる。ビクッ、ビクッ。先程はあんなに欲しかった快感が、今は辛い。無理やり、そして勢いよく与えられているせいかもしれない。彼はまだ手を止めない。ジュポジュポと扱かれる刺激に、頭が狂いそうだ。

「ぁああ…、あんっ……ぁはっ…」

ジュポジュポジュポジュポッ

「んっ…、あっ、んっ…いや…」

耐えきれず、身体をうねらす。

「…っぁああ!」

また液を出した。

「っはぁ…はぁ……」

彼の手が止まる。これでもう終わりにしてくれるのだろうか。しかし、彼は手を私の吐き出した精液に伸ばすと、

「っ…」

それらを指に絡め、私の蕾に塗り込み始めた。冷たい感触に震える。ネチョネチョとした感覚がより一層不安を煽った。彼は一度ベッドから離れる。そして、すぐ傍に置かれた鞄から歪なバイブを取り出した。見たことの無い形。こんなものを、彼が持っていたのか。彼を知っているつもりで、全く知らなかった。そんな自分が嫌になった。

「あっ…」

イボイボとしたそれが、いきなり後孔に入ってくる。

「あっ…んぁっ……、あんっ…」

耐えきれず声を漏らす。中でよくかき混ぜられた後、それはブィーーン、と強い振動を始めた。

「あっ、ぁあっ……ああんっ…!」

息が荒くなっていくのを感じる。そして、同時に肉棒はまた強く扱かれた。

「ぁあああっ…!んっ…駄目駄目…!あっ…、んっ…やぁあああっ…!!」

後ろは深い所を責めてきて、一番の快感のところ。そこを刺激された瞬間、ビクンッ、ビクンッと、果ててしまった。体の震えが止まらない。それでも肉棒は扱かれる。

「ぁっ、い…ぁ……っ」

バイブは快感の場所から動かされなかった。もう、何も考えられない…。

いや……、考えなければ。委ねるだけの快感に流されてはいけないような気がした。

「んっ、はっ…、あんっ…」

身体が動かないなりにも、彼の手を拒絶する。辛すぎる快感に、ただただ逆らおうとした。

「へぇ…」

彼が初めて呟く。その反応に動揺する。

「…………」

「それで…?」

彼はそう嘲った。今まで見たことも無い、心底嬉しそうな笑みで。

「あっ…ぁあああああんっ!!」

バイブはさらに振動を増した。肉棒は、今度は強く握られる。

「こんなにされて、散々喘いで、今更嫌がるの?可笑しいね。」

「やっ…あっ、あっ…、ぁああんっ!」

後ろが疼く。堪らない。手加減の無い刺激が辛かった。ガクガクッ。腰は限界にきている。

「ほら、もっと嫌がってごらんよ」

「ぁっあっあっああああ!!」

相変わらず肉棒は、容赦なく握りしめられる。刺激はさらに強くなる。そして、

「はっ…あっあっあっやっっあああああああんっ!!!!!」

ガクガクガクッ。全身を震わせて私はイッた。

「……ぁっ…ぁ…………ぁっ…ぁ…」

「……」

意識もすぐに遠くなる。

「……ぁっ…ぁ…………」

ピクリ、ピクリ。小さく震える。

「……あぁ、気絶しちゃった…」

彼が静かに笑った。そして、だからと言って止めるそぶりを見せず、首から胸にかけて噛みつき始めた。

「……ぁ………ぁ……」

「…大好きなんだよ、本気で苦しませるの」

途切れそうになる意識の中、遠くで彼が呟いたのが聞こえた。

「んっ……ぁ」

乳首を噛み付かれると、自然に声が漏れる。そして、それを聞いてもっと喘がせるように、彼がまた強く噛む。

(もっと、もっと、辛そうにしてよ)

遠い意識の中、殆ど聞き取れないような声で、そう彼が言った気がした。カプリ。…クチュ、クチュ。静かな音が部屋に響いた。






あれからどれくらい時間が経ったろう。

「んっ…あぁ……」

目覚めると、自分はベッドの上にいた。身体が酷く痛い。ズキンッ、ズキンッ。噛まれたような痕が、全身にある。上半身を起こそうとすると、余計に身体が痛んだ。

「おはよう」

そこには、いつもの彼がいる。彼に何かひどくされたような気がするが、よく思い出せなかった。

「……」

上手く言葉が出ない。

「昨日のこと覚えてる?」

彼が近づいてきた。そして私の股にあるものを掴み、ギュッと力強く握った。

「っ…!」

その刺激で思い出した。昨日、彼に散々虐められたのだ。そして、つまらないと言われた。目から涙が溢れてくる。痛いとか外側の問題じゃなく、内側からどうしようもない感情がこみ上げてくるのだ。ポタリ、ポタリ。涙は頬を伝って、布団に落ちる。すると、

チュッ…。

彼は、優しくキスをした。流れる涙を舌でぬぐい、髪を優しく撫でてくれる。

「え……」

彼のことがよくわからなかった。昨日はあんなに自分を罵って、私を疎んでいたはずなのに。

「どうしてって顔をしてるね」

悪戯ぽく彼が笑う。

「……ひどくしてって君が言うから」

「……」

彼の言葉は意外だった。確かに私はひどくしてほしいと言った。

「やり過ぎたとは思うけど…」

ボソボソと彼は呟いた。私はまだ微妙に不信感を抱えながら、彼に尋ねた。

「本当に嫌いになったんじゃないの…?」

確認するように聞いてみる。彼を上目で見つめてみると、昨日みたいに冷たい表情は見られなかった。

「苦しんだ顔の方が好きなんだ」

彼は申し訳なさそうに、顔を歪めた。そしてまた、静かにキスをしてくれる。

「……好きなんだ。堪らなく」

彼はそう呟いた。

「……」

「昨日はつい箍が外れた…」

こんなに喋る彼も、初めて見たかもしれない。彼は再び、詫びるような顔をした。少し恥ずかしそうに頬を紅くしている。

「……」

「僕のこと、嫌いになった…?」

彼が尋ねる。先程まで自分が嫌われていたと思ったのに、この状況がなんだが可笑しい。何て返そうか少し迷った。このまま、素直に喜ぶ返事をするのも癪だった。そこで、良いことを思いつき、グッと彼の顔に近づく。

「……自分で考えてよ?」

そう、得意げに言ってやり、困惑する瞳を無視して暖かなキスをした。


End.
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