61 / 214
事件簿006 『江戸の夢』その11
しおりを挟む
三人が江戸の町に入ったのは、涼やかな風と虫の音が心地よい初秋の夕刻だった。
籐七は、武兵衛と宿の湯に浸かり、あそこに行こう、あれを食べよう、と笑顔で語りかけた。
「こいつは本当は笑顔が似合う男なんだな」
「え?なんですって?」
「いや、なんでもない。明日が楽しみだな!」
次の日から籐七の案内で三人は江戸見物を始めた。
年寄りの足で一日で歩ける距離はたかがしれている。
何日かかってもいいから、ゆっくり見て回ることにしていた。
江戸に着いて4日目の夜、籐七と武兵衛は宿の近くの居酒屋で杯を交わしていた。
「明日はどこに行くのかね?」
「そうですねー。そろそろ宿の辺りは道も覚えたでしょう。明日はご夫婦水入らずで浅草寺の仲見世でも散策してきてはどうですか?」
「ふむ。そろそろ孫たちの土産も探さんといかんしな。そうしよう。」
「浅草に行かれるなら一つお願いがあるのですが。」
籐七は荷物から小さな紙包みを取り出すと、武兵衛に手渡した。
「これは私が今年育てた茶葉です。雷門の近くに奈良屋という店があります。そこのご主人に、この茶の出来を鑑定してもらって欲しいんです。」
次の日、武兵衛夫婦を見送った籐七に、役人の集団が駆け寄ってきた。
「御用改めである!おぬしが5年前に人を殺して逃げた男だと言う密告があった!神妙にお縄につきませぃ!!」
籐七は、武兵衛と宿の湯に浸かり、あそこに行こう、あれを食べよう、と笑顔で語りかけた。
「こいつは本当は笑顔が似合う男なんだな」
「え?なんですって?」
「いや、なんでもない。明日が楽しみだな!」
次の日から籐七の案内で三人は江戸見物を始めた。
年寄りの足で一日で歩ける距離はたかがしれている。
何日かかってもいいから、ゆっくり見て回ることにしていた。
江戸に着いて4日目の夜、籐七と武兵衛は宿の近くの居酒屋で杯を交わしていた。
「明日はどこに行くのかね?」
「そうですねー。そろそろ宿の辺りは道も覚えたでしょう。明日はご夫婦水入らずで浅草寺の仲見世でも散策してきてはどうですか?」
「ふむ。そろそろ孫たちの土産も探さんといかんしな。そうしよう。」
「浅草に行かれるなら一つお願いがあるのですが。」
籐七は荷物から小さな紙包みを取り出すと、武兵衛に手渡した。
「これは私が今年育てた茶葉です。雷門の近くに奈良屋という店があります。そこのご主人に、この茶の出来を鑑定してもらって欲しいんです。」
次の日、武兵衛夫婦を見送った籐七に、役人の集団が駆け寄ってきた。
「御用改めである!おぬしが5年前に人を殺して逃げた男だと言う密告があった!神妙にお縄につきませぃ!!」
0
あなたにおすすめの小説
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
あやかし警察おとり捜査課
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
妹のために愛の無い結婚をすることになりました
バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」
愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。
婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。
私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。
落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。
思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる