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第三十七話 引き金
自分用の執務用のデスクに置かれた、グランデ人形館に関する資料。
正直言って、ページを捲るのが怖い。
湧き上がる抵抗感を抑え込み、私は最初に隣国騎士団の治安管理部に残っていたという文献の束を手に取った。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
『イルソワール国グラシャス領主グランデ侯爵家における殺人事件 第一号~第十七号について』
グラシャス領にて頻発した女性の行方不明事件の犯人として
主犯 第八代グランデ侯爵、エルビス・グランデ
及び その長男、ブライト・グランデ
及び 平民且つ長男の愛人、アンジェラ
以上三名を殺人罪、殺人教唆罪、監禁罪、暴行罪、誘拐罪、恐喝罪により斬首刑に処す。
上記三名に協力した使用人四名はイルソワール北部重犯罪刑務所に投獄。終身刑とする。
被害女性は平民が十二名、子爵令嬢一名。男爵令嬢二名。外国人一名。
長男ブライトの正妻、リンダも被害者とみられているが、遺体は発見されず。
捕縛時、主犯格の三人は正気を喪失していたが、手口の非情さと被害者数の多さに情状酌量ならず、処刑執行。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
読んでいるうちに、私はだんだん気分が悪くなり、一旦ページを閉じた。
背もたれに倒れ込んで、大きく息をつく。
これは、過去を思い出したのではなく、単に事件そのものが陰惨だったからだ。
ただ、この後の記述は被害者それぞれの個人情報に関するものが主で、具体的な殺人の方法や遺体の隠し場所などはほとんど書かれていなかった。
あっても主犯のエルビスが有名な人形コレクターだったことくらいだ。
なにしろ三百年以上前の事件、文献がこれだけでも残っていたのが奇跡だ。
それだけ当時でも異常な事件だったのだろう。
しかし、こうして当主の長男の妻リンダや、その他の被害者の名前を見ても、何がしかの記憶が蘇ることはなかった。前世の自分の名前を見たら、もしかしたら当時の記憶が蘇るのではないかと思ったけれど、甘かったようだ。
だけどハッキリ分かるのは、あの時グランデ人形館で私達に襲い掛かってきたのは、この事件の主犯格の三人で間違いないということ。
男二人に女一人。そして人間性を完全に失っていた、あの様子。
霊格の高さ低さに関係なく、背負うカルマ、罪の重さ……
無意識に全身がブルッと震えた。
私は気を取り直すと、次の資料のページを開いた。
二十一年前に起こった、『グランデ人形館放火事件』の当時の新聞記事の写しだ。
こちらは比較的新しい事件のせいか、記事がある程度たくさん残っているようだ。
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『グランデ人形館、焼失』
○○○○年七月二十二日未明、グラシャス領にある『グランデ人形館』が放火により全焼した。
現在、管理責任者に事情を聞いている。この館は幽霊屋敷として有名な建物で、肝試しと称して侵入する者が後を立たず、今回も侵入した何者かが火を放ったと見られている。
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『グランデ人形館放火事件、犯人未だ見つからず』
○○○○年九月二十日、イルソワール騎士団治安部により、グランデ人形館跡の周囲に鉄柵で囲い、一般人の侵入を禁止することが決定した。事件後も現地に入り込む者が後を絶たず、苦渋の判断と見られている。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
特に感情が波打つこともなく、淡々と記事に目を通していたが……
しばらく読み進めるうちに、ひとつ驚くべき記事に行き当たった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
『グランデ人形館大特集』
血塗られた侯爵家の悪行と怨念。
蝋人形の中身は人間だった!?
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小見出しに書かれた『蝋人形』の文字。
三百年前に自分が何者だったかなんて、何一つ分からない。
何も思い出せない。
なのに、私の体中のあちこちに次々と突き立てられた針の痛み。
全身をくまなく包み込むワックスの高熱。
奪われた肺の呼吸、皮膚呼吸。
あの時、人形館の焼け跡で襲い掛かってきた症状全てが、一気に蘇ってきたのだ。
正直言って、ページを捲るのが怖い。
湧き上がる抵抗感を抑え込み、私は最初に隣国騎士団の治安管理部に残っていたという文献の束を手に取った。
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『イルソワール国グラシャス領主グランデ侯爵家における殺人事件 第一号~第十七号について』
グラシャス領にて頻発した女性の行方不明事件の犯人として
主犯 第八代グランデ侯爵、エルビス・グランデ
及び その長男、ブライト・グランデ
及び 平民且つ長男の愛人、アンジェラ
以上三名を殺人罪、殺人教唆罪、監禁罪、暴行罪、誘拐罪、恐喝罪により斬首刑に処す。
上記三名に協力した使用人四名はイルソワール北部重犯罪刑務所に投獄。終身刑とする。
被害女性は平民が十二名、子爵令嬢一名。男爵令嬢二名。外国人一名。
長男ブライトの正妻、リンダも被害者とみられているが、遺体は発見されず。
捕縛時、主犯格の三人は正気を喪失していたが、手口の非情さと被害者数の多さに情状酌量ならず、処刑執行。
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読んでいるうちに、私はだんだん気分が悪くなり、一旦ページを閉じた。
背もたれに倒れ込んで、大きく息をつく。
これは、過去を思い出したのではなく、単に事件そのものが陰惨だったからだ。
ただ、この後の記述は被害者それぞれの個人情報に関するものが主で、具体的な殺人の方法や遺体の隠し場所などはほとんど書かれていなかった。
あっても主犯のエルビスが有名な人形コレクターだったことくらいだ。
なにしろ三百年以上前の事件、文献がこれだけでも残っていたのが奇跡だ。
それだけ当時でも異常な事件だったのだろう。
しかし、こうして当主の長男の妻リンダや、その他の被害者の名前を見ても、何がしかの記憶が蘇ることはなかった。前世の自分の名前を見たら、もしかしたら当時の記憶が蘇るのではないかと思ったけれど、甘かったようだ。
だけどハッキリ分かるのは、あの時グランデ人形館で私達に襲い掛かってきたのは、この事件の主犯格の三人で間違いないということ。
男二人に女一人。そして人間性を完全に失っていた、あの様子。
霊格の高さ低さに関係なく、背負うカルマ、罪の重さ……
無意識に全身がブルッと震えた。
私は気を取り直すと、次の資料のページを開いた。
二十一年前に起こった、『グランデ人形館放火事件』の当時の新聞記事の写しだ。
こちらは比較的新しい事件のせいか、記事がある程度たくさん残っているようだ。
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『グランデ人形館、焼失』
○○○○年七月二十二日未明、グラシャス領にある『グランデ人形館』が放火により全焼した。
現在、管理責任者に事情を聞いている。この館は幽霊屋敷として有名な建物で、肝試しと称して侵入する者が後を立たず、今回も侵入した何者かが火を放ったと見られている。
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『グランデ人形館放火事件、犯人未だ見つからず』
○○○○年九月二十日、イルソワール騎士団治安部により、グランデ人形館跡の周囲に鉄柵で囲い、一般人の侵入を禁止することが決定した。事件後も現地に入り込む者が後を絶たず、苦渋の判断と見られている。
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特に感情が波打つこともなく、淡々と記事に目を通していたが……
しばらく読み進めるうちに、ひとつ驚くべき記事に行き当たった。
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『グランデ人形館大特集』
血塗られた侯爵家の悪行と怨念。
蝋人形の中身は人間だった!?
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小見出しに書かれた『蝋人形』の文字。
三百年前に自分が何者だったかなんて、何一つ分からない。
何も思い出せない。
なのに、私の体中のあちこちに次々と突き立てられた針の痛み。
全身をくまなく包み込むワックスの高熱。
奪われた肺の呼吸、皮膚呼吸。
あの時、人形館の焼け跡で襲い掛かってきた症状全てが、一気に蘇ってきたのだ。
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