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第六話 ひみつ天国へようこそ

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「考えるのは、ひみつ天国がどんなところか、知ってからでもおかしくないぞ?」

神様がパチンと指を鳴らすと、私達の目の前に、光る三角形の扉が現れた。
その三角の中央を神様が指先でチョンとつつくと、扉が三つの角に吸い込まれるように消える。

「さあ、見学しておいで」

と背中を押されて、私たちは淡い光がともる世界へ、一歩足を踏み入れた。



「うわあ、カワイイ……!」

思わず顔がほころぶ。

そこには童話の中に出てくるような、パステルカラーの可愛い建物がたくさん並ぶ街があった。
お店もあれば、何かの施設もあるみたい。

「ねえねえ、あたし、天使の仕事してもいいかもぉ!」

レミナが即座にそんなことを言いだした。
私も神様の頼みを引き受ける方に心が傾き始めたけど……

「ダメよ!そんな簡単に決めちゃ!だって危険だし、私、習い事だってたくさんしてて忙しいんだもの」

なんて、渋い顔をする栗原さん。

すると、上の方から神様の声が聞こえてきた。

「大丈夫じゃ。封印が終わったら、そなた達が望んだ場所に送ってやろう」

「だけど私、遅くても夕方六時には帰るように言われてたのに、間に合わないわ!」

「問題ない、午後五時五十九分の自宅玄関に送ればいいのじゃな?たとえ時間が過ぎても、過去に戻って帰してやれるぞ?」

「……そんなことができるの?」

栗原さんは声のトーンが落ち、うつむいて何か考え事を始めた様子だ。



しばらく三人で歩いていると、右の方から

「こんにちは」

と声を掛けられた。

「こんにちは…?」

返事を返そうと右側を見ると、誰もいない。

が、少し目線を落とすと、そこにいたのは、猫だった。
見た目は完全に普通の猫。大きさも普通だ。白黒で、髪の毛を真ん中分けにしたみたいな、ハチ割れ模様をしている。

でも、人間みたいに二本足でちょこんと立っている。首には赤い蝶ネクタイ。青いベストを着ている。正直すごくカワイイ。

周囲を見渡すと他にも動物がたくさん歩いてる。
犬、猫、ウサギ、ハムスター、ハリネズミ、その他もろもろの動物がいっぱい。
皆、それぞれに服を着て、二足歩行だ。
しばらく動物たちを見ていると…見覚えのある姿があって、途中まで吸い込んだ息が止まった。


「……マル!」


そこには郵便屋さんの格好をして、大きなカバンを斜め掛けにしている柴犬の姿があった。
ずっと家族のように暮らしてきたけど、去年亡くなってしまったペットのマルだ。
マルはこちらを振り返り、驚いたような顔で返事をした。

「マユちゃん……どうしてここに?」

やっぱり、マルだ。もう二度と会えないと思っていたのに……知らず知らず涙がこぼれてきた。
神様の声が優しく響く。

「ここは虹の橋を渡った動物達が集まる天国なんじゃよ」

私はマルを抱きしめた。熱くなったまぶたから、あふれる涙が止まらない。

「マル……マル……本当にごめんね……」

驚いたマルが私の頭に前足を添えて、そっとなで始める。

「マユちゃん、どうしたの?泣かないで……大丈夫、大丈夫。
ごめん、今は仕事中だから、また今度ゆっくり話そうね」

マルはすまなそうにしながら、去っていった。
カバンから手紙を取り出して住所を確認しつつも、ちょこちょこ私を振り返っている。

涙が収まってきた頃、私は神様に問いかけた。

「……ここに来たら、いつでもマルに会えるの!?」

「もちろん!」

神様の手は人差し指と親指の先を付けて、OKマークを作った。

もう迷うことはない。

「神様!私、フルフルを封印します!」

ハッキリ宣言した。

「あっ!あたしもやるよぉ!マユちん、頑張ろうね!」

さっきから心配そうにこちらを見ていたレミナは、そう言いながら私の腕に抱きついてきた。
右手で左腕の上の方を握っている栗原さんは、周りの動物達を横目でチラチラ見ながら答える。

「私も……ちゃんと時間通りに家に帰してくれるなら……」

「よし!それではそなた達三人を悪魔封印専門家の『封天使ふうてんし』に任命する。
今度フルフルの居場所が分かったら伝えるから、協力するように」

神様が言い終わると同時に、空から赤、青、緑の三個のカギがゆっくり降りてきた。

目の前まで来たカギが落ちそうになって慌てて受け止める。
栗原さんは青、レミナは緑のカギを受け取ったようだ。

「では、またな」

神様の手がそう言って、ポンと地面を叩くと、私は学校の渡り廊下に一人で立っていた。
腕には学級日誌を抱えている。下を向くと、朝着てきた、ごく普通の服が見えた。

……え?
……えーーーーーーー?

今のは、本当にあったことなの?
それとも夢?

ハッと左手を見ると、そこには赤いカギが握られていた。

「夢じゃなかったんだ……」

もう一度カギを見つめ直すと、脳裏にマルの顔が浮かんでくる。

「……頑張らなくちゃ!」

そうつぶやくと、私は職員室に向かって駆け出した。
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